ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
白魔法
『目を閉じて集中しろ。』

大賢者の声がする。

『自分の中にある流れを感じろ。魔力の対流、血の流れだ。』

何度も授業を受けてそのたび言われた言葉だ。
サシャは自身の中に流れる血を思う。
どくりと心音がする。
動くたびに流れを作る音にサシャは息を整えながら集中する。

『血の流れを感じたらそれを治療したい相手に贈るようなイメージをするんだ。』

体を、手を足を顔をめぐる血潮を感じる。
本来コントロールなんて出来ないその流れを操るように添えた手から伝わる体温に伝えるような流れを思い浮かべた。

『それから準呪文。だ。復唱しろよ?わが血、わが身に流れる命の息吹よ。』
「…わが血、わが身に流れる命の息吹よ。」
『我をつくりし遠い血の流れよ。』
「我をつくりし遠い血の流れよ。」
『今こそ我が祈りを聞き届け』
「彼の者の傷を癒したまえ。」
「『治療(ヒール)』」

目を開いて確認する。が、何も起こらない。
大賢者が行ったように手のひらが温かくなることも、かすかに発光することもない。
もちろん傷は残ったままだ。
サシャはがっくりと床に膝を着き、頭を垂れて、ベットの端にぽふっと乗せた。
それから深々と溜息を吐いた。
やはりそう簡単には使えるようにはならないようだ。
こういうときご都合主義の小説とかなら使えるようになるのに、と思うが現実は甘くない。
そっと目を閉じる。

『お前の場合、魔力が押し付けがましいんだ。』

渋い顔の大賢者が現れる。

『建前ばかりを気にして、自分を作っている。それは反面自分を信じ切れてないからだ。』

自分を信じていないから、血を信じていないから。
だから魔法が発動しない。
少し前、同じように回復魔法を同じように失敗させたサシャに大賢者が、投げかけた言葉だ。
それに対してサシャはなんと答えたか自分で覚えていなかった。
ただ自分を否定されたような気がして怒ったような気がする。
激怒してわめくサシャを魔法で問答無用で黙らせた大賢者は皮肉めいた口調で笑いながら言った。

『準呪文を考えろ。血の流れの意味を思え。何の意味もないわけじゃない。』

準呪文を口の中だけで復唱してみる。

〜わが血、わが身に流れる命の息吹よ
我をつくりし遠い血の流れよ。
今こそ我が祈りを聞き届け
彼の者の傷を癒したまえ〜

全文を思い描くが、さっぱりわからない。
ならば、とひとつひとつ検証していくことにする。
最初はきっと自分自身のことを指すのだろう。
自分の中にある生命力。
そして我をつくりし遠い血の流れ。これは何をさすのか。
自身を作る遠い血なら両親?先祖のことだろうか。
サシャはそう考え、すぐに頭の中だけで首を振った。
そうではない。大賢者は、魔法は自分自身の力で発動させるものだと言っていた。
ならば遠い血の流れとは自分自身の過去をさす言葉だ。
準呪文は力を借り受ける場所や人を最初に指定して、それに対して力を貸すように命令もしくは懇願する流れを作るものだと聞いた。
ならば、この場合力を借り受ける相手を指すのだろう。

(…つまり、私の命や過去の記憶に向かって、アポロを助けてという?)

ますますわけがわからない。
命に対して同じ命をつかさどるものを助けろというのはまだわかる。
だがなぜ自分の過去なのだろう?
なんの価値もないものだ。
捨て去ってしまいたいものに対してどうして祈らねばならないのか。
(大体祈るとはどういうことなのでしょう?)
目の前の傷を負った人間を救いたいという祈り、願い。
だが、それを自分自身に願ってどうする?
なんの力も無いのに。おかしな話だ。
「……それに、過去という主語に続くのは祈るのではなく話すと言うのが普通つくべき述語でしょうに。」
ポツリとつぶやいた瞬間、と思いつく。
それなら祈るというのは語ることなのだろうか。
自分自身を語ること。それが白魔法なのだろうか。
そう思った瞬間、サシャは白魔法を猛烈に使いたくなくなった。
(回復をしたい人にいちいち過去を語れということですの!?)
そんなものであるならば一生使えなくてよいと思った。
サシャにとって過去は汚点でしかない。
だが。
「…アポロ…?」
そっと、寝台に眠る親友の弟の名を呼ぶ。
だが反応はなく横たわった体は反応せず、生きている証として胸をわずかに上下させるだけだ。
それを確認して、どきどきした。
相手は眠っている。
目が覚めたときに、今サシャが語ったことなど覚えていないに違いない。
(…試してみるだけ。)
サシャは自分を変えたかった。
あの男の前で逆上してしまった過去と変わっていなかった自分を変えるため。
その一歩として白魔法が使えるようになりたい。
人に頼ることなく一人で立てる自分を確立するために。
だから、そっと眠るアポロに話してみる。
自分の過去の話を。
過去を語って魔法が使えるようになるというのなら。
どうせ目が覚めれば覚えていないのだ。大丈夫。
「……アポロ。…私はね…。」
サシャは静かに語りだす。自分の十数年の過去を。
特設頁

大賢者の教室入り口





☆小説冊子化します。 イベント配布予定。 詳細はこちら。


ネット小説の人気投票です。投票していただけると励みになります。(月1回)
ネット小説ランキング>異世界FTコミカル部門>「大賢者の教室」に投票



アルファポリスにはコンテンツ登録しています。
よろしければ下のタグをぽちっと投票お願いします。。


site_access.php?citi_id=780070685&size=135