さらに出てくるけど、エキストラ。
「…この塾には兵霊がでる。」
「へいりょう…?なんだそれ?」
マンナの言葉に皆が首をかしげる。
だが。
がしゃっ!
突然硬いものが床に落ちる音がしてふりむく。
モントン夫人が持っていた金時計が床の上に落ちていた。
「あ、落ちましたよぉ〜。」
とっさにマーブルが時計を拾い、モントン夫人に差し出す。
だがモントン夫人はそれをとろうとしない。
不思議に思って彼女を見るとそこには青ざめた顔があった。
よく見ればかすかに震えているようでもあり、ただならぬ様子に驚く。
「モントン夫人。あなたもご存知なんですね。」
突然マンナが夫人に声をかける。
その言葉に夫人の体がさらに震え上がったが、あくまで夫人は沈黙を貫いた。
「………すみません。ありがとうございます。」
そっとマーブルの手から時計を受け取る夫人の手はまだ震えたままだ。
その姿にマンナが鼻から息を吐きながら口を緩めた。
「ま。この塾に居て知らないもののほうが少ないよな。」
「…一体、兵霊ってなんなんだよ?」
冷静そうなモントン夫人がこれほど怖がるのだ。
一体何なのか、メントスは先をマンナに促す。
「…この建物がかつて戦場だったってのは知っているな?」
「ああ。パンフレットに載っていたな。」
カールが答える。
そんなものを律儀に隅々まで読んでいるのなんてカールしかいない。
「だから、出るんだよ。」
「なにが。」
「兵霊がだよ。」
禅問答のように要領を得ない会話に少しイラつきながら、それでもメントスは奇跡的な忍耐強さを発揮し先を促す。
「だからなにそれ。」
「幽霊さ。」
「幽霊ぃ〜?」
予想外の言葉に思わず疑いの声が上がる。
「おや、信じないか?」
「そりゃ信じられるかよ。」
憮然と答えるメントスにマンナが少しだけ眉根を寄せた。
「意外に頭が固いな。魂不信論者か。」
ふむっとあごに手を当てて何事か考えるような仕草をするマンナにカールが間に入る。
「そういう意味じゃない。これほど思わせぶりな態度を取るからなんだと思ったら幽霊なんて。ふざけてんじゃないか、って言いたいんだよ。」
「ふざけているわけではないのだがね。じゃあ、その幽霊が夜な夜な塾生を殺していっているといったら?」
「へ?」
当然の血生臭い話に思わずおかしな声がでる。
こちらが驚く顔に気を良くしたのか、マンナがせいぜい怖い顔をして語りだした。
「ここは五百年前の魔物との争いでは最前線だった場所だ。もちろん、魔物による襲撃は激闘の連続で多数の兵士の死者を出している。それらの兵士の中には僕らと同じ年くらいの若者も多く居て、もちろん恋人なんかも居たはずだ。
そんな霊が寂しさのあまり夜な夜な学園を這い回り、塾生に自分の友人や恋人の面影を重ねて黄泉路に連れ込んでしまうらしい。」
「…ただの怪談じゃねえか。」
半眼で突っ込むメントスに、マンナは軽く指を降って見せた。
「だが、実際に兵霊を見た塾生は多いし、ここ最近生徒の失踪事件が多いのも事実だぞ。」
それもここ最近塾に入ってきた塾生ばかりらしい。
そう言われると、もっとも最近塾に入ったばかりの身としてはかすかに背筋が寒くなる気がする。
「…勉強がいやで出て行ったんじゃないのか?」
「それはないな。」
「なんでそんな風に言い切れる?」
「それはな…。」
そうマンナが続けようとしたときだった。
「その辺でお話を切り上げないと午後の授業に遅れるよ?」
突然若い男の声が話をさえぎる。
「おや、アッセ=フィンシア。」
「…マンナ君。君の頭の良さは認めるけど、一応僕の担任としての顔を立てて先生と呼んでくれないかな?」
人のよさそうな顔を困ったように変化させ、アッセは苦笑した。
中肉中背、のんびりとした気の弱そうな外観の男だ。
柔らかそうな猫っ毛の明るい麦色の髪に、たれ目気味のとび色の瞳をしている。
黒いふちのあるメガネをかけていて、少しよれの見受けられるシャツと伸び気味の毛糸のベスト、ネクタイをつけているがとりあえずといった感じで緩くまるでネックレスのようにぶら下がっている。
全体的に影の薄い雰囲気に『通りすがりの一般人』といった印象を受ける。
「教えを請うて居るわけでない相手に先生と呼ぶ習慣は私にはないよ。」
しれっとそんなことをのたまうマンナに、慣れているのかそれ以上は言わず男はため息を吐いた。
「はあ、まったく。おや、そこに居るのは見ない顔だけど、転入生かい?」
話の途中にこちらに気づいた様子でこちらに人懐っこい笑みを浮かべる。
アッセと呼ばれた男に変人そろいだった塾の関係者に少しでもまともな人間の姿を見てほっとする。
「体験入塾生です。フィンシア教諭。」
「ああ、モントン夫人。あなたがいらしたのか。ではこちらがあの言ってた?」
「はい。そうです。」
事前に何か聞いていたようで、ほうほうっとこちらを眺めてくる。
少しだけ好奇心に満ちた視線がむずがゆい。
「へえ、君たちが英雄の子孫。いや、王族に失礼だったね。英雄フェチの塾長がすごい勢いで失礼のないように話していたから少し会うのが楽しみだったんだ。」
少しずれたメガネを直しながらへらりと笑う。
少しのんびりとしていてずれてはいるが、割と好意的な視線だ。
普段馬鹿にされるか、嫌悪感のあらわな視線にしか遭遇しないメントスたちにとってはかなり意外な視線だったが不快ではなかった。
だが、そんな視線に一人不快をあらわにした人間が居た。
「…アッセ=フィンシア?」
サシャがなぜか不機嫌そうに目の前の男の名前を呼ぶ。
それに思わずたじろぎながらそれでも好意的な態度は崩さず、アッセは答えた。
「え?あ、そう。僕はアッセ=フィンシア。この塾の一応講師をさせてもらっているよ。」
ひらりと笑いながら握手を求めるように手を前に出すと、サシャがさらに燃え上がるようなきつい視線で彼を睨んだ。
「…っ、お前は…!どこまで私を愚弄すれば気が済むのです!?」
あまりの剣幕にメントスたちも唖然とする。
こんなに怒りに燃えるサシャにあったことがない。
普段のサシャはどちらかというと常に冷静に突っ込むタイプだ。
それが、目の前でたじろぐ気の弱そうな男に対し炎でも吐きそうなくらい怒り狂っている。
だが、それがわかっていないのか、不思議そうな顔で男は首を傾げた。
「?…あれ?もしかして、どこかで会ったかな?」
「会ったか?ですって……?」
どこかで何かが切れる音がする。
「この恥知らず!この私の目の前に再び現れるなんて…っ!」
「え?いや、僕は…。」
「偽名まで使って!馬鹿にするのもいい加減になさい!」
「ええ?そんな…。」
「っ問答無用!」
突然サシャは近くにあった椅子を担ぎ上げた。
その椅子は他の部屋にあるような簡易で軽い物ではなく、リラクゼーションルームにしつらえられた仕立ての良いものでその分重量もある。
サシャはあまり力のあるほうでなかったので、かなり重いので思わずふらつくが、かまわず力任せに男に投げつけた。
「うりゃああ!」
「うわぁぁぁ!」
情けない声を出し、顔を覆うアッセの前に誰かが飛び出した。
「…っ!風の守り!」
力ある言葉とともにふわりとした風がアポロを中心に開く。
風の防御壁に飛んできた椅子が当たりスピードを殺す。
だが、椅子の重量から完全に殺しきれなかった勢いがそのまま前に立つアポロに直撃した。
「っ!」
「っ!アポロ?!」
椅子もろとも床に投げ出され、したたかに頭を打ち付ける。
それからピクリとも動かないアポロに皆が呆然と立ち呆けた。
「なっ!」
「アポロ!」
最初に行動を復活させたのはマーブルでいち早く倒れたアポロに駆けつける。
「アポロ、アポロ!しっかりしてぇ〜!」
半狂乱で弟に取りすがるマーブル。
「マーブル!頭打ってる。揺らしちゃだめだよ。」
取りすがって弟の体をゆする姉を慌ててカールが抑える。
だが、それでも手足をばたつかせてまたゆすろうとする。
「泣いてないで回復魔法しろよ。」
「それがぁ〜、だめなのよ〜。」
「なんでだよ!?」
マーブルが言うには双子というのは、互いに魔法をかけても打ち消しあってしまって効果が出ないらしい。
そのため、唯一回復魔法が使えるマーブルだが、アポロにだけは魔法が使えないのだという。
「…なんてこった。」
呆然とするメントスにカールは怪訝そうに眉をひそめる。
「…聞いたことないけどな。そんなの。」
「そんなことはどうでもいい。早くアポロを休ませてやれる場所へ。」
「私は…」
呆然とつぶやく声に三人が振り向くとサシャが焦点の合わない目でこちらを見下ろしている。
その姿に逆上してマーブルがサシャに噛み付いた。
「サシャちゃん!ひどいひどい!なんでアポロを!」
激しくなじるマーブルに呆然とするサシャ。
「私はただ…。」
初めてされる級友からの弾劾の声にサシャの勢いがしぼむ。
だが、その耳に男の情けない声が聞こえた。
「ひっ、うわあ。なんてこと…。ぼ、僕のせいじゃない。僕のせいじゃないぞ!」
あまりの身勝手な言葉に再び理性が飛び、怒りが再燃する。
「なんでお前が無傷で…!」
怒りに燃えるサシャの視線に気づいて再び情けない声を上げる。
「ひいいいぃぃ!」
「いい加減にしろ。」
ばしっ。
突然メントスに頬を張られてサシャは一瞬、思考が飛ぶ。
それから視線だけ動かして、怒った顔のメントスを呆然と見つめた。
「アポロに怪我までさせておいて、他にお前がするべきことは何だ!」
「……うっ…うう。」
張られた頬が痛かった。
感情が堰を切ったようにあふれて、涙腺が決壊する。
後悔と怒りと恥ずかしさとない交ぜになった感情はぐちゃぐちゃでもはやサシャには何がなんだかわからずぐちゃぐちゃのまま泣いた。
「…はあ、なんだんだよ。これは。」
マンナがあきれたような声を出す。
その声に、カールは彼女の存在を思い出す。
「そうだ!マンナ回復魔法!」
「やだよ。」
カールの声に即座にマンナは返す。
「なんでだよ!」
怒りの形相で詰め寄るメントスに、心底面倒そうにため息を吐いた。
「ちゃんと話を聞こうよ。脳震盪ごときで回復魔法を使っても意味はないだろう?」
放っておいてもいずれ目を覚ますとなんでもないことのように話す。
「脳震盪…?」
「じゃあ、アポロは大丈夫なの?」
恐る恐るといった感じで聞いてくるマーブルに信じられないと半眼で答えた。
「当たり前だろう?ちゃんと魔法で防御張ってたし、女が投げた椅子くらいでいちいち死なないよ、普通。」
それで死んだらどれだけひ弱なの、そいつは。とあきれた顔だ。
「ま、でも一応保健室には運んでおいたほうがいいかな?」
そういい置いてマンナが倒れたままのアポロに近づく。
そのそばにしゃがんだかと思うと口の中で何事かつぶやくとアポロの体に触れる。
「っ!」
「消えた?!」
唐突にその場から消えたアポロの体にマンナ以外が色めき立つ。
その反応を気にした様子もなく、マンナはなんでもない事のように言う。
「保健室に送っただけだよ。それから…。」
泣いて呆然とするサシャに視線を送り、また何事かつぶやく。
彼女の手がサシャの肩に触れると、その姿もまた消える。
「ま、一応看病する人必要だろう?一応あの子のせいでもあるからね。」
「…マンナって転移魔法使えるんだねぇ…。」
ようやく混乱から脱出したのか、驚きの眼でマーブルが見ると、まんざらでもなさそうに鼻を鳴らす。
「まあ、ねえ。大賢者には遠く及ばないけどね。」
「あの人と一緒にしちゃ、だめでしょ?」
ようやく安心したようにカールも軽口を叩く。
転移魔法は魔法の中でも最上位に位置する魔法だ。
それをこの年齢で単体ずつとはいえ、使えるマンナは間違いなく天才の呼び名にふさわしい少女だった。
「…皆様。」
それまで黙っていたモントン夫人が静かに口を開く。
「あと十三分三十四秒で午後の授業が始まります。もはや寮のお部屋までご案内できませんでしたが、予定は狂わせるわけには参りません。直接教室に行ってください。」
「だ、そうだ。じゃあ、私はそろそろ失礼しよう。」
「マンナは一緒に行かないのぉ〜?」
マーブルが少しだけ高い位置にあるマンナの顔を見上げる。
「私はどこでも基本授業には出ないようにしているのだよ。」
「…それを僕の前で言うのかい?」
後ろでか細い男の声が聞こえた。
ようやく立ち直ったアッセが、こちらに気の弱い笑みを浮かべているが、もはや誰も彼に好感など抱けなかった。
先ほどの彼の失言はまだまだ正義を信じる若者の心には許せる隙間はなかった。
それではな、とマンナが一瞬で消える。
転移魔法は便利だなぁ〜とマーブルは思った。
「さて、当初の予定では確かに授業を受けるってことだったよな。」
いやそうに、だが仕方なさそうにメントスが頭をかいた。
その言葉にカールが苦笑する。
「それじゃ、アポロのことはサシャに任せよう。」
「…アポロ、サシャちゃん大丈夫かな…。」
いまさらながらサシャをなじってしまったことに後悔してマーブルが気落ちする。
混乱していたとはいえ、サシャはアポロを狙っていたわけではなかったし、あれはアポロが勝手に飛び出した、いわば事故だった。
落ち込むマーブルにカールがポンと頭を軽く叩く。
視線を上げて、カールを見上げた。
時々カールはこんな風にマーブルの頭を叩く。
背の低い彼女はよくこういう風に頭に触られる機会が普通の人間より多かった。
人に頭を撫でられることは子供扱いされているようでマーブルは好きではない。
親はいつまでも彼女のことを子ども扱いだったからいつも頭を撫でたがった。
でも親に嫌われたくない彼女はそれをはねつけたりはしなかった。
しかしそれがいやであるという感情は変わらなかった。
だが、不思議と彼のは嫌いではなかった。
「大丈夫だよ。誰も悪気があってのことではなかったし。謝れば済む。」
頭に置かれた手がクシャリとマーブルのふわふわの髪をかき混ぜる。
「そうかな?」
「そうだよ。明日にはみんなけろりとしているんだ。」
それがZクラスってもんだろ?ってカールが微笑して片目をつぶる。
その言葉にすっと心が軽くなる。
マーブルも笑い返した。
「そだね。Zクラスだもんね。」
笑いあったときモントン夫人の抑揚のない声が聞こえた。
「皆様、お急ぎください。あと十二分二十一秒です。」
「おーい。お前ら行くぞ。」
数歩分前を行くメントスの姿に再び見合って笑うと二人はその後を追ってかけだした。
す、進まない。
お話が進まないよ!おい!
ってな感じて、ようやくシナリオが動き始めた感じ?
序盤?しょっぱな?起承転結のようやく承のはじめくらい?
うおおおおお!
はあ、大賢者が出てこないとシナリオがなかなかすすまず。
書きやすい方なんであの方。
くたびれつつ、すすぬ。
特設頁

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