変態が増えましたが、なにか。
「きゃあ、きゃあああ、きゃあああああああ!」
サシャの悲鳴が部屋中に響くが、目の前で繰り広げられる光景にメントスたちは驚きすぎて身動きができない。
悲鳴を上げているサシャのすぐ後ろ。
はたしてそこには白灰色の髪の少女がいた。
紺色の短いマントに白いドレスシャツ、紺色のベストにキュロット。黒いハイソックスをはいている。
全体的に服装はモノトーンの印象だが、薄い褐色の肌に石榴色の瞳が彼女の色彩に色を添えている。
年のころはメントスたちと同じくらいか少し下くらい。
身長は平均的で、体格も平均的な女子と同じくらい。
薄ら笑いを貼り付けたような顔は幼さが残るが割りと可愛い部類に入る。
だが胸はない。まっ平ら。
ある種の男性には受けがよさそうなほどまっ平らだ。
おかげで一瞬男かと思いもしたが、全体的に丸みを帯びたフォルムの体に彼女が女であることがかろうじてわかる。
だが、そんなことはどうでもいい。
なぜなら彼女の行動のほうが何よりぶっ飛んでいるからだ。
「ほうほう、これは。大きいねえ。両手で持っても有り余りそうな大きさ。やわらかさ。十台半ばのこの年で、かの瓜科の果実のような大きさすらあるとは。すばらしい。すばらしいな。一体なにを食べたらこんなになるのだろうか?いや、興味深い。」
「きゃああ!きゃあ!」
少女は背後からサシャの胸を鷲づかみにして揉んでいた。
手足をばたつかせ、胸を揉まれるサシャの姿を直視できず男性陣は顔を背ける。
「きゃあ!…こんの!ど変態が!」
いい加減に頭にきたサシャが肘鉄を背後に向かって突き出す。
だが、攻撃は読まれていたのか、それが届く前に少女がサシャの背後から後ろにとんでよけた。
「っ!きゃあ!」
後ろから少女が消えたことでバランスを崩したサシャがしりもちをつく。
そんな彼女を尻目に軽い調子で地面に降り立った少女が、手をサシャの胸の大きさに開いたままわきわきと空中で揉む仕草をする。
「おや、つれないねえ。被検体としては最高なのに、ちょっと凶暴とは残念だ。乙女ポイントとしてはマイナスだぞ。」
「なに、訳のわからないことを言っていやがりますの!ど変態!それから、その手はやめなさい!」
毛を逆立てるように睨むサシャに、少女は貼り付けたような薄ら笑いを浮かべる。
その白灰色の髪の少女にカールの驚いた声をあげた。
「……マンナ=ウェファー。」
「おや。その声はカルザイルかね?」
驚いているカールとは対照的にマンナと呼ばれた少女はまったく驚いた様子もなく石榴色の瞳をカールに向けた。
「知り合いなのか。」
不思議に思ってメントスが聞くとカールが難しい顔をした。
「知り合いというか…。」
「人に言えない深〜い関係。」
にい、と笑うマンナにカールが顔をしかめた。
「なんの話だなんの!不快な関係の間違いだろう!」
「おや、つれないねぇ。あんなに仲睦まじかったのに。」
薄ら笑いでマンナが言うと、珍しくカールが本気で不快そうな表情をした。
「誤解を招くような言い方はよせ。ただの元クラスメイトだろう!」
「ま、そうとも言うかな。」
「クラスメイト?」
メントスは首をかしげた。
Zクラスにこんな人間がいた記憶はない。
「ふふふ、噂に違わず馬鹿だねぇ。いや、大賢者的には豚、かな?メントス=O=オルフェシア。」
「!?なんで俺の名前を?それになんで大賢者のことも知ってんだ?!」
「ふふ、私に知らないことなんて何もない…といいたいところだけどね。君たち有名人だから知らないほうが珍しいだろう。」
「なんの話ですの?」
「話は簡単だろう?君たちを有名人と言えるのは誰?さらにカルザイルと元クラスメイトといえば。」
「マンナはパールディー学園のAクラスの主席だよ。」
「ええ!?」
疲れたようにカールがマンナをおざなりに説明すると、メントスたちが目をむいた。
「この変態がですの?!」
「この失礼なやつが!?」
それぞれにマンナに対する結構ひどい評価を口にするメントスたちに相変わらずマンナは涼しい顔だ。
「…失礼だね。まあ、間違いではないから許すよ。」
間違いじゃないんかい。
そこはぜひ否定してほしいところだったのだが、とカールは皮肉が通じなさに眉をしかめた。
「っていうか、カールって元Aクラスだったのぉ〜?!」
マーブルが他と別のところで驚く。
「まあ、ね。でも本当に初期のころの話なんだけど、とりあえず今はその話は置いておいて。」
肩をすくめるカールに「じゃあ、そのうちはなしてよ?」と約束させるマーブルにカールは「まあ、そのうちね」と片目を瞑って見せたあと、マンナに向き直った。
「…それよりなんでお前がこんなところにいるわけ?」
マーブルにしたような明るい表情はなくどこか冷たい視線を投げかけるカールにマンナが再び薄笑った。
「塾にいてしていることと言えばひとつだろう?勉強以外にないじゃないか。」
「お前がわざわざ勉強?」
カールは珍しく皮肉めいた表情を作る。
「学校の授業も『つまらない』の一言で放棄してくせに。」
マンナはすでに入学当初から最高学年に匹敵する知識を備えており、学校に行く必要すらない天才児として有名だった。
だが、その天才ぶりから在籍するだけでいいから、と特別待遇でパールディー学園に迎えられ、Aクラスに在籍しながらほとんど授業に出ないので幻の生徒として名高い。
「そう褒めるな。照れるぞ。」
「褒めてない!…それより。」
「ふむ。私が勉強すると言うのはそんなにおかしなことなのか?」
不意に真面目な顔でマンナが首をかしげた。
その様子に言葉を奪われたカールの代わりにか、メントスが答えた。
「本当にここで勉強する気があるなら自室で他の生徒と同じように静かにしているんじゃないか?そもそも、なんでこんなところで明かりもつけずにいるんだ?」
「簡単なことだよ。」
なぜか得意げにマンナが答えた。
「ここの主が私だからだ。」
「…ここは共同スペースですが。」
さすがに聞きとがめたのかモントン夫人が割ってはいる。
だが、気にした様子もなくマンナは肩をすくめて見せる。
「誰も使っていないんだ。私が主になってもおかしくはないだろう?」
「…まあ、そうですかね。」
「っていうかそもそも何で主って言葉で突込みが入らないの!」
「それより、むしろこちらのほうが驚いたのだがな。Zクラス諸君?君たちこそ、なぜ塾という場所にいるのだね?」
薄ら笑いの少女はどこか虚空を見つめる瞳でメントスたちに問いかけてきた。
「む、そんなことどうでもいいだろう?ほっとけよ。」
「まあ、別にどうでもいいことだがね。」
聞いておいてあっさり意見を翻すマンナに調子を狂わされる。
「まあ、君たちがどこでどのような行動を起こそうと私には関係ないがね、親切心で言っておくよ。」
にいと笑って一拍置いたかと思うとこんなことを言った。
「とっととこの塾から去ることだね。」
「………。」
あまりに唐突な言葉に、一瞬言われたことがわからず、一同が無言になる。
やがて、その言葉の意味を理解したメントスが憮然とした表情を作った。
「…なんだよ、それ。」
「意味がわからないかい?それは難儀だね。これ以上簡単に説明する自身はないのだが。」
「そうじゃない!なんで俺たちが塾か出て行かなきゃならないんだってことだ!」
「いても仕方がないところにいても仕方がないからじゃないか。別に勉強が目的ではないのだろう?」
確かにそうなのだが、ずばり言われてしまうと反論したくなるのが人間の性だ。
「そんなのわかんないだろう?俺たちだって塾に勉強くらい…。」
「そんな言葉は初等教育学習帳を卒業してから言ってくれ。」
ぎくりとする。
初等教育学習帳。
それはメントスたちが現在授業で使用している教科書だ。
初等教育。つまり高等教育機関であるパールディー学園以前にかようことが決められている初等学校で使われる教科書だ。
それをどこからか大賢者が持ってきて、現在それに沿って授業を行っている。
あまりの見くびられ方に最初は腹は立ったが、学習帳を開いてみてZクラスのほとんどがそれですら満足に理解することができなかった。
さすがに愕然としてその辺を大賢者に反抗しなかった。
だが、それはZクラスの恥だったし、Zクラスの人間は全員一致団結でそれを口外しないことを誓い合った。
Aクラスであり、ほとんど学校に出てきていないといわれるマンナが知っているわけはない。
「な、なぜそれを…。」
「なあに、一応これでもパールディー魔法学園の生徒だからね。一応学園の内部情報くらいは入れているよ。そして。」
マンナが少し意地の悪い顔をした。
「君たちが何でここに来たのかも知っているよ。我がクラスの担任のせいなのだろう?」
「!………。」
見事に言い当てられ言葉を失う。
だが、マンナはさらに驚愕の事実を口にした。
「まあ、優秀な男だが、Zクラスには合わないだろうな。だが、大賢者はここにはいない。」
「っ!なんでそんなことがわかるんだ?」
全てを見通すような預言者の口調で話すマンナにメントスが食って掛かる。
「私も一応ここの履修生だぞ。だが、ここ数日の間に講師が入ってきたことはない。」
「!っ………。」
「転校生はいたが、ね。使い魔がいるからと言って主人がいつもいるとは限らないよ。」
全てを読まれている。
伊達に天才ではないというところか。
確かに、先日使い魔に初めて会ったときには、大賢者とは別行動をしていた。
使い魔がいるだけで大賢者が確実にいると思ってしまっていた短絡的な思考にカールが歯噛みした。
「さあ、これでお前たちの用事は済んだだろう?」
ぐうの音も出ないほど説得力ある同年代の少女の話に一瞬あきらめに似た空気が五人の中に漂う。
穏やかだが、明らかに見下した顔の同年代の少女はさらに続けた。
「おとなしくここから去って…。」
「なんでお前にそんなことを言われなきゃなんないんだよ!」
メントスが、まっすぐ少女を睨みつける。
その顔に少女は初めて少しだけ不快そうな顔をした。
「忠告には素直に従ったほうがいい。命が惜しければな。」
「だからなんなんだよ!俺らがどこに居ようとお前には関係ないだろうが。」
まったく話を聞こうとしないメントスの様子に、思わずマンナが黙る。
そしてもう一度口を開いた言葉はなんとなく愚痴に近かった。
「一応親切心からなんだがな。それにお前ら出席日数的にここに長く居るのつらいのではないか?」
「うるさい!例えそうでもお前に心配される謂れはない!」
取り付く島もないとはこのことのようだ。
すこしあきれた様子でマンナがため息を吐いた。
「ふう、これでは大賢者が大変だというのも理解できるな。」
「お前にだけは言われたくないよ。」
「君もかい?カルザイル。」
愚かな選択だよ?
つまらなそうに視線を送ってくるマンナにせいぜいいやみに見える顔でカールが笑ってみせる。
「お前からしたらばかなことなのかも知れないけどね。僕の今居る場所ってのはそういう流儀なんだよ。」
「…まあ。いいさ。」
後悔しても知らないがなと目を瞑り、再び目を開く。
「でも。一応言っては置くよ。」
「まだ、言うか!?」
「まあ、待ちたまえよ。情報というのはどんなものでありあって邪魔になるものではないよ。」
それでどう判断するかは君たちがすればいい。
そう言われて聞かないのはいくらなんでも大人気なさすぎなのでようやくメントスが黙る。
「…じゃ、聞くけど、なんで命の心配なんてしなくちゃならんわけ?」
カールが先を促すと少し真剣な顔をしてマンナは答えた。
「それはな…。」
ちょっとだけカールの過去話。
そして、変・態・光臨!!!きらきら。
一体どれだけ登場人物多いんだって話ですが、誰一人としてまともな人間がいないのはどういう了見でしょう!?
にょがーー!
そろそろ眠いので寝ます。おやすみなさい。
話は相変わらず続きます。つぬく。
特設頁

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