でもさっきのなんとなく最初じゃないよねぇ
五年Z組教室。
「ふわああああぁぁぁ。」
席に着くなり早々大あくびをかます。
「…かったりぃ〜。帰るかなぁ。」
「まだ来たばかりだろう?それは流石にないんじゃない?」
眠そうに突っ伏すメントスに、さわやかに前の席に座るカールが絡む。
「うるせえ。勝手だろう?絡むなよ。」
「やだよ。だって、メントスと絡むと女子受けがいいんだ。」
そう言ってどこかに向かって微笑むカール。
その視線の先を追えば、なんだかちょっと根暗そうな女子生徒が幾人か集まって騒いでいる。
どこかで見たその雰囲気に去年文化祭で見た衝撃の冊子の表紙が思い浮かぶ。
サブタイトルに『メ○トス×カ○ル 禁断の愛』とか何とか印刷されたその冊子の内容は衝撃が強すぎて記憶に残したく無かったため努力して忘れようとしたためもう覚えていないが、この世が天変地異を起こしそうなくらいの内容だったような気がする。
それを知らないこの目の前の男はこうしてのんきに彼女達に手を振っているが、きっとあの内容を見たら卒倒するのだろうと、なんとなく思った。
「それより、聞いた?」
「何が?」
聞き返しながら、取り立ててカールの話に興味など無い風に言う。
もったいぶった言い方をするこの同級生は、こちらが効きたそうな雰囲気を見せると逆にもったいぶると言う天邪鬼的な性格なので、決してこちらが聞きたそうにしてはいけないということをそれなりに長くなった付き合いの中で学んでいた。
「何だよ。もう少し、聞きたそうにしたら?」
案の定、万年張り付いた微笑みのまますねたような口調。
男にそんな口調されたところで可愛くないどころか気色が悪い。
「言う気がないなら構うな。うっとうしい。」
「つれないなあ。まあ、いいや。」
それでね、と続ける。
邪険にしても結局話し出すのだ、この男は。
「今日、新しい担任がくるらしいよ。」
「…新しい担任?」
そう言えば一週間前、前担任として紹介されてきた教師が三日で出て行ったことを思い出す。
はじめから相手にしなかったため、もはや名前どころか顔すら思い出せない教師だったが、あの教師ですら決まるまでの大分、紆余曲折あったらしいと聞いていたのだが。
「もう、か?早くすぎないか?」
「うん。何でも前の教師が辞めていった日にモーリス理事長が連れてきたって話。」
「叔父上が?」
モーリス=フェストナーはオルフェシアの国王の弟で、メントスの叔父に当たる人物だ。
学園の運営はそれぞれ五王家が共同出資という形をとっているため、パールディー学園には五王家それぞれに一人、五人の理事が存在する。
モーリスは元々魔力の潜在能力が高く、学園での成績も優秀だったので学園に常勤の教授として長く勤めていたのだが、継承権は低いが王族と言うことでオルフェシアの代表理事としてパールディー学園の理事をしていた。
特に長く学園にいるため、学園の専門知識もあり、理事の中でも学園の運営に積極的に行える筆頭理事としての役職にもついていた。
理事長とは特にモーリスを指すのである。
「珍しいこともあるものだな。あの、研究室肌の叔父上が。」
メントスが驚くのも無理は無かった。
モーリスは研究者肌の人間で、これまで学園の教育部門にはあまり口を出さなかったことで有名だったからだ。
「だろ?あの理事長が連れてきた教師。
しかも、我らが五年Z組の担任を自ら買うような人物。
興味そそられるだろう?」
「…だからなんだ。」
「なんか理事長から情報聞いてない?」
なんでそうなる。
「今聞いたその情報を何で俺がもっと詳しく握ってると思うんだよ。」
「だって。理事長、身内だろ?」
にっこり騎士殿はさもありなんと言った顔でこちらに微笑んでくる。
だから男に微笑まれても気色悪いだけだっちゅうの。
「残念ながら俺らの家系はあんまり身内意識無いんだよ。」
これは特にメントスと身内といったほうがいい表現かもしれない。
昔からあまりメントスは家族と馴染まなかった。
王族としての意識が馴染まなかったと言ってもよかったかもしれない。
どこか周りから浮いたような感覚が幼いころから続いていて、それは年齢を重ねるごとに強くなっていった。
そしてそれは学園に入ったころには決定的になっていて、学園に入って以来家族と連絡を取ったことが無い。
それは特別寂しいと思うところは無かった。
それどころか生まれ育ったはずの王宮は自分の居場所でない感覚が常にあったため、むしろあそこから遠ざかったことはメントスにとって喜ばしいことだった。
だが別の問題も発生したが。
「なんだ、残念。」
情報が無いことに口で言うほど残念がらないカール。
「まあ、あてにはしてなかったからいいけど。」
だったら最初から聞くなと言いたい。
「なんだ。その担任の情報ないのか?」
「うん。なんだか結構情報規制厳重っぽくてさあ。俺のネットワークですら『来る』ってことしか引っかからなかったんだよね。」
カールは情報屋を自称するほどの情報通で独自のネットワークを持っている。
ほとんど女子関連に使われるそのネットワークだが、意外に信用度が高く、時折こちらにも気まぐれに情報を流してくる。
「どこ出身とか、どの年齢とか。男か女かすらわかんないんだよね。」
「お前がわかんないのって結構珍しくない?」
たまにはね、とカールが肩をすくめる。
「まあ、待っていればその内来るし。その時確認すればいい話だしね。」そう言って話を終わろうとしたときだった。
がたんっ
突然教室の前扉が音を立てた。
意外に大きな音に一斉に教室中の注目がいく。
がたっがたんっ
皆が注目する中でもさらに扉は大きな音を鳴らし、上下左右へ震えた。
「な…なに?」
不気味な扉の振動に怯えた女子生徒がなぜかこちらを見てくる。
それを皮切りになぜか全員が俺に注目する。
「……。」
「っち。わかったよ。」
メントスはその無言の視線を受け、立ち上がる。
剣聖オーリードの血を引くメントスは普通の人間より頑丈に出来ている。
それもあってか、危険っぽい場所の探索の先頭には必ず選ばれてしまう。
別に断ってもよい事柄なのだが妙なところで面倒見のいいメントスは大体その役目を買って出てしまう。
一応警戒して扉に近づく。
先ほどまでがたがたと揺れていた扉の振動が少し前からやんでいたが油断は出来ない。
「…おい、そこにだれかいるのか?」
一応声を掛けてみる。
だが返事は無い。
だが、人の気配を感じてメントスは警戒をさらに強めた。
メントスはそっと扉の取っ手に手をかけた。
「おい。一体そこで何を…」
一気に開こうとしたときだった。
「旋風熱風波」
ごおっ!!
突然膨れ上がった魔力の風が扉を吹き飛ばしメントスを襲う。
構える間もない。
細かな扉の残骸と共にメントスは吹き飛ばされた。
なぜかどこか懐かしいその風にメントスは一気に意識を奪われた。
特設頁

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