人の話はちゃんと聞いておくべきだと思います。
塾の門で馬車を降りると中から案内の女性が出てきて、塾長室にすぐに通された。
話はかなりスムーズに伝わっているらしくなかなかすばやい対応だ。
塾の中は古めかしい概観とは違い、改装してあるのかそんなに古さを感じさせることのない落ち着いた雰囲気だ。
調度品も華美なものはないが、すべて趣味のよい同じブランドのもので統一されており、意外な居心地のよさに驚く。全体的に赤を基調とした雰囲気で、どちらかというと女性の好みか。
さすがは人気のある塾。内装にも手抜かりがない
メントスガ変なところで感心していると案内の女性がひとつの扉で立ち止まる。
塾長室と表示のあるドアに案内の女性がノックをすると中から渋い男の声が聞こえた。
「…どうぞ。」
「…失礼します。」
声と共に女性が扉を開いて中へと促す。
入るといよいよそこには塾長らしき男性が立っていた。
意外に若い。おそらく三十代後半か四十代くらい。
黒に近い茶色の髪を後ろになでつけ、髭がないためかやや幼い顔立ちはやや鋭く、スーツを着ているが、どこか獣を思わせるしなやかな体躯とあいまって、塾のトップというより傭兵か戦士といった職業といわれたほうがしっくりきそうな雰囲気を持っていた。
だが、塾長らしき男性は教育者らしい鷹揚とした態度でこちらに微笑みかけた。
「ようこそ。『七番目の英雄』へ。英雄の末裔殿。お会いできて光栄だ。私はデゼール=ドール。この塾の塾長です。」
その言葉にマーブルが進み出る。
「こちらこそ、お会いできて光栄です。私は聖女と狂戦士、双雄の血を引きしリンディアナ国第一皇女マーブル=R=リンディアラ。このたびは体験入塾を許してくださりありがとうございます。」
いつもの舌足らずな言葉遣いはどこへやら、しっかりした口調で礼を述べ、いつもの制服のスカートの裾を持ち上げ、正式な女性用の礼をする。
一応紹介主がマーブルの両親ということなので、その娘であるマーブルが先立ち自己紹介したのだ。
その後、マーブルが順にメントスたちを紹介する。
普段あまり格式ばった場が苦手なメントスはそれだけでげんなりしてしまったが、一応王族として最低限の礼は取って見せた。
「いや、五王家、六英雄の現存する全ての末裔とこうして一堂に出会えるなど、なんと言う幸運だろう。よく来てくださった。『七番目の英雄』などと不敬な名を名乗っている手前あまり王家の方々にはよく思われていないだろうと思っていたのだ。」
だったら名乗るなよと言いたかったが、マーブルに泥を塗るわけにもいかないので黙っている。
だがそれとは別に気になることがあった。
(…六英雄の現存する全ての末裔?)
明確に言えば現在六英雄の血は全て未だに続いている。
大賢者がまだ生きているからだ。
確かに末裔という点では、子孫のいない大賢者には現存すべき末裔はいないだろうが。
大賢者はこちらに来ていると聞いていたのに、この物言いはなんだろうか。
どうもこの塾長は大賢者の存在自体を知らないように思う。
もしかしてカールの読み違いか。そんな不安が首をもたげる。
大賢者がいないのならこんな塾にいる意味はまったくない。
メントスたちはここへの体験入塾のために一週間の休学届けを出してきた。
無断で休むのは大賢者が戻ってきたときに何を言われるかわからなかったし、なにより今までのボイコットや学級で暴れて授業をストップさせていたことから出席日数がかなりぎりぎりになっていた。
ここでさらに無断で一週間も休んでしまうと、本気で留年しかねない。
それでも休学していることには変わりないので、今までの行動を見ると一週間の休学が留年しない限界ぎりぎりだった。
それでも塾に行くという名目があるため学園の事務局がかなり譲歩してもぎ取った休学だった。
そんな貴重な休学時間を目的の果たせない場所にいたって何の意味もなかった。
そんなことを考えている間も塾長はいかに自分が英雄を尊敬しているのかを高らかにマーブルに語っている。
そんな塾長の言葉を右から左へと受け流し、メントスはそっと隣にいるカールに話しかけた。
「カール。やっぱりここには大賢者は…。」
いないんじゃないかと言いかけたが、カールの言葉にさえぎられる。
「いや、いるよ。」
小声だが自身に満ちた声にメントスは怪訝な視線を向けた。
「なんでそう言えるんだ?」
「メントス。窓の外見て。」
そっと指差された窓の外を見る。
するとそこには。
「っ!」
危うく声を上げそうになってあわてて飲み込む。
周りを目だけで伺うが、塾長は相変わらずしゃべり続けていて気づいていない。
ほっと胸をなでおろし、もう一度窓の外を見た。
窓の外は運動場に面しているらしく校舎に囲まれた中庭のような場所で体育が行われていた。
先ほどの予定表にも載っていたが、この塾では勉強だけでは健康に悪いとして体育も行っているらしい。
適度な運動は勉強にも効果があると事前に見たパンフレットにも大きく載っていた塾の特長だ。
そしてそこには見知った少女がなぜかブルマの体操着姿でへろへろと走っていた。
グラナダ。
数週間前にオームの森で出会った大賢者の使い魔たる少女だ。
使い魔なので魔物であるはずだが、本性がなんであるか知らず、またとても魔物とは思えないほど明るくちょっと抜けた感じの少女だった。
その少女がなんの因果かこんな塾の運動場をへろへろと走って、いやほとんど歩いている。
使い魔がいる以上、大賢者がいる可能性はほぼ百パーセントに近くなった。
目線だけでさらに運動場にいる人間を観察してみる。
どうやら女子の体育の時間らしく、十数人のブルマ姿の女子生徒たちが校庭をぐるぐるとまわていた。
トラックの中心に教師らしき男性が立っていたが、明らかに大賢者ではなくがっかりする。
すぐに見つけてさっさと帰れればそれに越したことはなかったからだ。
そっと見つからないようにため息をついてもう一度校庭の女子生徒に目を向けたときだった。
「ああ!」
「っ!」
思わず声が出てしまい、瞬間部屋の全ての視線がメントスに集中する。
だが、かまってなどいられなかった。
メントスは一目散に窓にへばりつき校庭のとある人物に釘付けになった。
その人物は一人の少女だった。
他の女子生徒と同じのブルマ姿で校庭を颯爽と走っていた。
年はおそらくメントスたちより少し上。
走るたびに長い腰までの黒髪が軽やかに舞う。
走っているせいか、色の白い肌がほんのりピンク色に上気している。
伸びやかな手足は美しく若い躍動感にあふれている。
アーモンド形の薄いグリーンの瞳が宝石のきらめきのように生き生きとした光を宿しまっすぐ走る先を見ていた。
他の女子生徒とは明らかに違うフォームでぶっちぎりで走る少女。
髪の色も長さも違う、目の色も肌の色も違う。
でもメントスにはわかった。
(あの子だ!)
夜の森の泉で出会い、溺れかけたメントスを助けてくれただろう少女がそこにいた。
メントスは胸ポケットをぎゅっと握り締めた。
そこには彼女の真珠色の髪が挟まったハンカチがしまわれている。
あの夜から目覚めて一時は夢の中の住人かと思った少女。
胸に残されていた長い髪だけが彼女の実在を示してくれていたが、それでも不安だった。
不思議な動悸と共にまた、会いたいと何度思ったか。
それでも何一つ彼女との接点が思いつかず、もう二度と会えないのではと諦めかけていた。
最近でははじめから彼女の存在などやはり夢であの真珠色の髪は実は森のどこかで引っかかった糸くずだったのではないかとも思い始めていた。
だが、彼女は今メントスの目の前にいる。
ちゃんと実在している。
「…あの、メントス君?」
突然後ろから聞きなれない男の声で呼びかけられ、驚いて振り向くと室内の視線がこちらに集中しているのに気づいて思わず、冷や汗が流れる。
「あ、やあ。その。」
さすがに気まずくなって冷や汗をだらだらと流す。
何を思ってか塾長がメントスのいる窓に近づき外を見下ろす。
そしてそこに見えるものを確認するや否やぽんとメントスの肩を叩いた。
「メントス君。私も男だ。君の気持ちもわからんでもないよ。」
「…は?」
一体何を言われているのかわからず、思わず聞き返す。
だが、塾長はわかっている、わかっている、と首を縦に振るだけだ。
「君くらいの年頃の男の子にはブルマ姿だとて声を上げてしまうくらい魅力的だろう。」
「はあ!?そんなんじゃ…!」
いや、まあ。確かにあの子の太ももは柔らかそうで魅力的でなかったとは言わないが…って。
塾長の言葉に室内にいた女子に白い視線を向けられ慌てて弁解しようとするが、塾長はまったく話を聞かずにメントスの声をさえぎる。
「だがね!ここは神聖な学び舎なのだよ!君くらいの年は押さえることがなかなか難しいからいろいろと興味を持ってしまうかもしれないが、ここはぐっと抑えて。」
拳を握って力強く諭す塾長にさすがに怒鳴る。
「な、何を言ってんだ!そりゃ!勘違いするな!俺はあそこに知り合いがいたから…。」
「む、ちがうのか?」
「当たり前だ!」
ブルマ姿に心奪われていなかったとは完全に否定はできないが、うそではない。
「ふむ。まあ、ここにはパールディー魔法学園の生徒たちも多数在籍しているからね。知り合いがいてもおかしくはないだろう。」
そうかそうかと頷く塾長にメントスたちは早々に彼に対する評価を修正した。
最近ブルマを体操着に使っている学校って少なくなりましたね。
短パンとかハーフパンツとか。
田舎に行けばブルマ率が上がる気がします。
つぬく
特設頁

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