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不純な志望動機です。
その場所はパールディー学園の西、宗教国家と名高いリンディアラの南に位置にあった。
かつて町があった場所とされているが、魔物との激しい戦闘があり廃墟となったため人間はその場所を捨てた。
それから五百年以上をかけてその場所は木々が生い茂る森と化していた。
一番近い町から馬車で一時間以上。
深い木々に囲まれたそこに突如として現れるのが、高い尖塔を持つ古びた要塞のような建物だった。
実際にパンフレットにも五百年以上前の対魔物用に立てられた要塞の建物を再利用した建物らしく、外壁は古めかしく重厚と言えば聞こえはいいが、今にも崩れてしまいそうな雰囲気の建物だった。
その中で比較的新しいものが入り口らしき門の前にかかった看板だ。
それにはこう書かれている。

『七番目の英雄』塾

その看板のある門を今、一台の馬車がくぐりぬけ塾に入っていく。
黒塗りのかなり大きな馬車だ。
四頭立てのあまり目立つ様式ではないが見るものが見ればそれはかなり高貴な人間が乗っている馬車だとわかっただろう。
馬車の黒い側面には目立たないが小さく翼の生えた女神をあしらった紋章が刻まれている。
神に愛されたとされる聖女を祖に持つリンディアラの王家の紋章だ。
その中でサシャは窓にかけられたカーテンの隙間から建物を見上げていた。

「本当にこんなところに大賢者がいるんですの?」

疑わしそうに正面に座る騎士の末裔に声をかける。

「学園長と教頭の話を総合してもここしか考えられないよ。」

英雄なんて名前を王家以外で堂々と使うところ自体珍しいからね、とカールは請け負う。
リオドール大陸において英雄という言葉は特別だ。
この大陸において人間が今日暮らせているのはかの六英雄のおかげといっても過言ではなかった。
だから人々は英雄という言葉に畏敬の念を抱き、どれだけ武勇に優れた人間がいても英雄などと呼ぶことはなかったし、英雄の子孫たる王家以外でその言葉を使う者は通常いない。
だが、別に禁止されているわけではないので使ってもよいのだが、この塾のように堂々と英雄の言葉を看板にするのは大変珍しいのだ。

「でも、よく俺たちがこの塾にもぐりこめる手はずが整ったな?」

カールの横で馬車内に用意されていたお菓子をぽりぽり食べながらメントスが感心する。

「へっへ〜ん。これがマーブルちゃんの手腕だよ!おそれいったか〜?」

サシャの横に座ってチョコをほお張っていたマーブルが得意げになる。
あのクラッツの追試があった翌日。
昨日、学園長たちの密談を横にした直後、マーブルが両親に連絡を入れてこの塾に入れるように手回ししたのだ。
一週間の期限付きでの体験入塾。
入塾候補生というのが彼らの肩書きだ。
通常、体験入塾という制度はない。
本来塾は成績優秀者のみを受け入れ、特別な教育を施す機関のため、入塾テストはかなり難しく、メントスたちでは逆立ちしたって入れるはずもなかった。
なので、マーブルが親に頼み込んで、無理を言ってそのような制度をつくり入れてもらったのだ。
言ってみれば期限付きの裏口入学である。
マーブルの両親はもちろんリンディアラの国王夫妻で大変娘に甘かった。
塾がリンディアラ国内にあるため無理も利きやすかったのも原因だろうが、かなりすんなりと体験入塾が許可された。

「てか、親の手腕じゃん。」

半眼で突っ込むが、横でカールが首を振った。

「いや、マーブルの手腕で間違いないんじゃないかな。僕らの中で親に無理を利いてもらえるのなんてマーブルくらいだし。」

メントスは憮然としたが、反論はしなかった。
メントス自身はもちろん親に疎まれているため頼みごとをするなど考えられもしないし、たとえしたところで聞いてもらえるとは思えない。
カールは両親がすでに他界して、叔父の家の居候の身分なのでもちろんわがままなど言えはしない。
サシャもあまり詳しくはわからないが、あまり親との仲がよくないらしく、メントスと同じく、親に頼み込むことはできないらしいし、何より親の身分が国内ではあまり高くない。
その点マーブルは両親共に国のトップにいるし、彼女の愛らしい外見は両親が溺愛する理由もよくわかるものだ。
ちょっと頭はよくないけれど、素直で可愛い。理想の娘像だ。
そう考えた上でメントスはカールをはさんで反対側に座るアポロに目を向ける。
アポロはこの森の悪路を走る馬車の中で本を読んでいた。
酔わないのだろうか、涼しい顔で微動だにせず、目だけを動かしている。
プラチナブロンドの癖のある髪にちょっと表情に乏しいけれど、綺麗な顔。
それは双子の姉と同じものだ。
だが、なぜかアポロはあまり両親によく思われていないらしかった。
姉と違って無口で無表情だからなのか、以前わざわざ学園まで娘に会いにきた両親が結局息子には会わずに帰ったと聞いたことがある。
なぜなのかはわからないが、ともかくそういう意味で今回のような無理ができる適任者はマーブルしかいなかった。

「そんなことはいいとして、塾に着いた後に日程はどうなってますの?」
「え〜とねえ。」

マーブルが机の上に置かれた封筒のなかから紙を取り出し読み上げる。

「この後すぐに、塾長と会って、特別に体験入塾を許してくれた御礼を言って。その後、担任と面談。で教室に行ってぇ、早速授業が…。」
「ちょっと待て。それじゃあ、大賢者を探す時間はいつ取れるんだよ。」

目的はそちらが最優先。塾で授業など受ける気はないし、受けたところで理解できるとも思えない。
ともかく勉強というものに若干アレルギーを持つメントスは学校以外の勉強するところという時点で塾に苦手意識を持っていた。
できるなら来たくなんてなかったし、できれば早々に大賢者を見つけて帰りたいのだ。

「そんなこと言ったってぇ〜。お母様たちに無理にお願いしちゃった手前、あんまり無茶な行動は取れないよ。」

マーブルが口を尖らせる。
大体今回の塾体験計画だとてかなり無理やりだ。
その上塾内で特別扱いさせろなどとは我侭が過ぎる。
カールがマーブルに、見せて、といって予定表を受け取る。

「まあ、仕方ないよ。授業がすべて終了してから探すし…。」

予定表に目を通していたカールが硬直する。

「?どうしたんだ、カール。」

深刻そうな顔で冷や汗をたらしているカールにいやな予感がして、彼の手元を覗き込む。
で、目を剥いた。

「何じゃ、コリャ!授業終了が就寝時間イコールじゃねえか!」

体験入塾といっても他の塾生たちと授業内容が変わるわけではなく、むしろ体験なので塾生と同じカリキュラムが予定表に組まれている。
塾は基本的に静かな勉強環境を整えるために郊外にあることが多く、基本的に寮制度を採っている。
ただ、パールディー魔法学園のような公的な学校に通っている生徒もいるため、その生徒たちは通いが許されているが、基本は寮に入って朝から晩まで勉学に勤しむようである。
公的学校は基本的に貴族や王族のための学校であり、庶民は初等教育学校を卒業後は就職するか、どうしても勉強したいものが塾に通うことになっている。
なので塾には本当に勉強したいものしか来ないため、それ以外の時間が極端に少なくなっているのだが。

「ほえええ〜、そうだっけぇ?」

ずっと予定表を持っていたはずのマーブルが首をかしげながら予定表を覗き込む。
その横でさらに覗き込んでいたサシャが眉をひそめた。

「いくらなんでもこれはやりすぎなんじゃありませんの?私たちはここに勉強をしに来たわけじゃありませんのよ。」

これでは、大賢者を探しに来た意味がなくなる。
マーブルもさすがにしどろもどろになった。

「で、でも、一応それらしい行動はとっておかないとお母様たちに迷惑かかっちゃうし。」

半泣きで話すマーブル。両親に愛されている彼女は両親に嫌われるようなことをするのがいやなのだろう。
メントスにはわからない感情だったが、それは仕方がない。
だが、だからと言ってマーブルの両親に義理立てするのも限界がある。

「もともと本来の目的は大賢者探しなんだから。塾の規定をまともに守っても意味ないじゃん。」
「で、でもぉ。」

ぱたん。

突然それまで静かに本を読んでいたアポロが本を閉じた。

「…とりあえず。」

相変わらず途切れ途切れの言葉に皆の視線が集まる。
アポロは視線の集中など気にせず平坦な声で言った。

「初日、予定表どおり。明日以降、授業、サボる。」

とりあえず、初日はおとなしくしていれば、義理立てはそれなりに果たせる。
どうせ、そう長くいるつもりはないのだ。
もともとこんな塾に入れるほどの学力があるわけじゃない。
ぼろが出る前に早々に去らねば、返って入塾に手を貸してくれたリンディアナ国王夫妻に迷惑がかかる。
と。言いたかったのか。
簡潔すぎる提案の真意は読みかねるが、とりあえず、入塾の恩人の息子が言うのだからと、全員がその案に賛成した。
ただ、マーブルだけがしぶしぶといった感じだが。

「もう〜。お母様たちになんて言おうぅ〜。」
「ま、できるだけ早めに出るから。」

カールが膨れ面のマーブルに苦笑した。
もともと一週間もいる気はない。

「文句ならあの大賢者に言えよ。大体こんなところにくることになったのもあいつが原因なんだから。」
「む〜〜〜。でも〜。」
「でももひったくれもない!とっととあの馬鹿賢者捕まえて帰るぞ。こんなところ長くいたくないからな。」

メントスの意見は全員の思いだったので皆が深々とうなづいた。
そんな話をする間に馬車は塾に到着した。
違法入学。
いくらお金を持っていても、よい子はまねしちゃだめだぞ☆
などといいつつ、さて塾で何が出るのか、
鬼か希望か、大賢者か!?
つずく〜〜〜。
特設頁

大賢者の教室入り口





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