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学校っぽいこともしてみたりして。その1
「と、言うわけで抜き打ちテストやるぞ。」
「は?」

何の前触れもなく、教室に入ってきて教壇に立った大賢者の最初の一言だった。

五年Zクラスの教室は漸く最初の大賢者の破壊から修復され、元通り使えるようになっていた。
だが、以前とは違う点もある。
天井や柱に細かに着いた傷と教壇の後ろに積み上げられた木製のみかん箱だ。
傷は大賢者が教室内で魔法をぶっ放した際に出来たもので予算の都合上、教室使用に問題のない傷については放置された結果だった。
そしてみかん箱については今教壇に立つ大賢者の踏み台として用意されたものだ。
大賢者の外見はともすれ、11歳から18歳までの生徒が通うこのパールディー魔法学園の最低学年の生徒と同じにしても見分けがつきにくい。
身長もそれ相応に小さいので大人用に作られた教卓では大賢者の顔すら見えなくなってしまうのだ。
なので急遽、大賢者によって持ってこられたそれを踏み台にして教卓の前に立ち、大賢者は授業をしているのである。

今日も今日とてみかん箱の上に乗り、教室を睥睨する子供の言葉にZクラスの生徒達は一応に呆気に取られた。
Zクラスの生徒達は一応本鈴がなれば、席に着くようになっていた。
大賢者の力を目の当たりすることになったあのオームの森への転送事件以来、Zクラスも表立って授業中に騒ぎ立てることはなくなっていた。
下手になにかすれば、この大賢者にどんな目に合わされるかわかったものではないからだ。
呆然とする空気の流れるやや怯えの混じった教室中の視線に、大賢者は気にした様子もなく説明しだす。

「試験内容は簡単だ。初級の回復魔法をかけて発動すれば合格、やり方は…。」
「ちょ、ちょっと待ってください!」

慌てて黒髪の少年が立ち上がり、大賢者の声をさえぎる。
いつもは同い年の少年達よりも知性を感じさせる落ち着いた瞳があせったような色合いを発している。
カールだ。
言葉を遮られて、むっとした表情で大賢者が睨んでくる。

「なんだ。」
「試験なんて聞いてませんよ!」
「抜き打ちなんだから当たり前だろう。」

平然と踏ん反り返る大賢者に今度はダークブラウンの髪の少女が立ち上がった。
クラスの中でも大人びた容姿を誇る少女、サシャだった。
どこか妖艶な香りさえ放つ顔立ちに不愉快そうな色をあらわにして大賢者を睨んでいる。

「そうではなく、何が『と、言うわけで』なんですの?なにか理由があるのなら言ってくださいませんこと?」
「気にするな。ノリだ。」
「ノリって…。」

呆気にとられるサシャを尻目に大賢者は、もう質問はないか、とさっさと話を続けた。

「私がお前らに教え始めてそろそろ一月だ。」

…まあ、最初の一週間はお前らがもののわからん豚根性でボイコットなんぞしやがって、貴重な時間を無駄にしたがな、と暗い表情でにたりと笑う大賢者に教室の温度が一気に氷点下まで下がった気がした。

「授業でも魔導学の基礎をもう一度おさらいしたし、精神学も一応基礎は確認したはずだ。それらの知識があれば初級の回復魔法など簡単だろう。」
「でも、一度も実技はやってないですよ。」

カールがもう一度反論すると、パールディーは聞き分けのよろしくない子供に言い聞かせるような態度で口を開いた。

「いいか?魔法は基礎理論と魔力構成で成り立つ学問だ。個人の持つ魔力と言う糸を呪文と言う機織機にかけて、魔法と言う効果の織物を紡ぐ。それだけだ。応用を試されるほどの難しいものを求めているわけじゃない。前にも言ったが白魔法である回復呪文は人間であれば誰でも使えるものだ。」

あれだけ勉強して出来ないほうがおかしい、と大賢者は言う。

「理論はわかりますが・・・。」

カールは渋面を作った。
回復魔法は、魔法を一年生からみっちり勉強して、四年生の終わりに漸く習うような魔法だ。
それが出来ないから今、ここにいる人間ばかりのクラスにたかだか三週間の授業で出来るとも思えない。

「つべこべ言うな!少なくとも、回復魔法はお前らの学年じゃ、全員が使えていないと本来ならおかしな魔法だぞ。それを今更テストしてやろうって言うんだ。ありがたいと思え。」

テストすること事態まったくありがたくない事態なのだが、そんなことを大賢者に言ってもまったく取り合ってもらえそうになかった。

「難しく考える必要はない。唯、自分の中に魔力の流れがあることだけを意識することに集中して、あとは準呪文、発動呪文を順に唱えればいいだけだ。」
「でも、パディせんせ〜。」

ぴょこんと小さな手が挙がる。

「なんだ?マーブル。」

名指しで立つように促すと、ふわふわのプラチナブロンドの幼い少女が立ち上がる。
周りの少年少女より一回り小さな彼女はのんびりした声で大賢者に質問した。

「回復魔法のテストをするのはいいとしてぇ〜。」

テストはまったくどうでもよい問題ではないのだが、と誰かが思った。
見かけによらずマーブルはZクラス一番の白魔法の使い手だ。
初級回復魔法くらいは簡単に使いこなすからの余裕なのだろう。

「練習台はどうするの?誰かに怪我しろっていうのぉ?」

その言葉に、Zクラスの生徒達の顔がさっと青ざめる。
回復魔法は怪我の部位があって始めて発動、効果が見られる魔法で、健康なものにかけてもなんの効力も見られない。
だから、通常回復魔法の練習をするときは学外に出て、けが人の多い治療院や兵士の訓練所などで実技を行うようにしているのだ。
だが、抜き打ちと銘打っているのなら、一体どんな用意がされているのかわからない。
そして、生徒を平然と実験台にしない保障がないのがこの大賢者だった。

「ふっ、安心しろ。私とて回復魔法をかけるためにいちいち怪我をしろとは言わん。…傷つけるのも面倒だしな。」

面倒くさくなかったら一体どうなっていたのか。
とりあえず危機は回避されたが、まったく救われた気分にならない。
だが、そんな生徒の顔色など無視して大賢者は袖口をあさっている。

「その辺はちゃんと考えてある、…これだ。」

大賢者が袖口からなにか細長いものを取り出したとき、

パラッパッパパパーン!

突然どこからともなくラッパの音が聞こえ、皆がぎょっとするのも無視して、間延びした声で大賢者がその名前を言う。

「き〜ずき〜ずく〜〜ん(部位:手)!」

生徒達の目が点になり、そして大賢者が掲げるものを見たとき一気に血の気が引いた。
大賢者が掲げているものは人の腕のようなものだった。
肘から手のひらにかけての人体模型だと思いたい。
なかなかリアルな白い腕で、腕の中央にはぱっくりと傷が開いていた。
血は出ていないが赤黒い肉と白っぽい何かが覗いている。
傷のない部分の白い肌の部分にはリアルに蒼い血管が浮かび、かすかに開かれた指はぴくぴく動いているように思えるのだが気のせいだろうか。
お化け屋敷に置いたら、おそらく見ただけで気の弱いものなど卒倒しかねない。
はっきり言って気持ち悪いことこの上ない代物である。
だが、青ざめた顔の生徒達を無視して、大賢者は嬉しそうにそのアイテムについて語りだす。

「これはなぁ〜、お前ら、聞いて驚けよ?私が昔、回復魔法の練習用に作った魔道具だ。こうこいつに手のひらを翳して、<治癒(ヒール)>と唱えるだけであ〜ら不思議。魔法が働いて傷がふさがると言う寸法だ。」

どこか怪しい通信販売のセールスマンのごとき説明の仕方で賢者はその腕もどき、いや、きずきずくん(部位:手)に手を当て、相変わらず準呪文もなく魔法をかけるとあっという間にぱっくり開いた傷が塞がった。
自慢げにきずきずくん(部位:手)を突き出す大賢者に、誰も相槌はない。
だがあくまで気にした様子のない大賢者はさらにセールストークを続ける。

「そしてな、完全に塞ぎ終わってしまったら、次にお湯につけると…。」

一体いつの間にか教卓の上にお湯らしきものが入ったボールが置かれていて、その中に賢者が、きずきずくん(部位:手)をつけると。

「ほーら、あっという間に元通り。」

大賢者がお湯から腕を取り出すと、先ほどと同じようにぱっくりと赤黒い傷が開いていた。
お湯につけられててらてらした肉モドキがさらに不気味な色を醸し出しており、教室の中の誰かが吐きそうになって口を押さえる音がした。

「どうだ、画期的だろう!これさえあれば、何度でも誰も痛い思いをせずに、回復魔法の練習が出来る。なのになぜか、こいつは理事長の保管庫にしまわれていてな…。」

まったく、道具を粗末にするなと憤慨する大賢者だったが、生徒達は一様にこの道具を倉庫にしまった人間の気持ちが心からわかった。

「と言うわけで、準備は出来ている。とっとと試験するぞ!ちなみに不合格は出来るまで今日の放課後、追試だからな!出席番号一番からだ!」

高らかに試験開始を宣言する大賢者に、最早誰も、反論する気力なく項垂れたのだった。


大賢者のアイテム紹介シーンはド●えもん調で(笑
相変わらず美的感覚は薄い大賢者。
はたして生徒達はついていけるか!?
てか試験は合格できるのか?
もずく。
特設頁

大賢者の教室入り口





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