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最初
辞表。

目の前に提出された紙の文字に頭が痛くなるのを感じる。
「これは由々しき自体ですよ。フォート学園長。」
目の前で同じく頭を抱える、妙に耳障りな男が声を上げる。
ここは魔法使い養成として名高いパールディー魔法学園、学園長室だ。
六英雄の一人パールディーが後の魔王の復活を危ぶんで作った魔法戦士の養成学校というのが前身であったが、六英雄大戦から五百年。
かの大賢者が危惧したような状況は訪れることはなく、平和な世界が続き、この学園ももはや戦争に出すような魔法戦士の育成と言うより、魔法研究機関および各王国の王族や貴族の御用達の通う学院としての顔のほうが強い。
光沢のある落ち着いた色のどっしりとしたデスクに座るのは現在の学園長のアル=フォート。着任して十年の学園の古株でもある。年のせいで大分…いや、かなり後退した生え際から生える髪を一本に結んでいる。長年の教員生活の中で経験と共に刻まれた深い眉間のしわをさらに深くしながら、デスクを挟んでキーキーとわめいている小柄な男に目を向けた。
「君に言われんでもわかっているよ。ルーベラ教頭。」
まだ、フォートより十歳は若いはずだが、頭は両側と後ろ髪を少し残して禿げ上がり、サイドの髪をわざと伸ばすことによりそのはげた部分にかぶせると言う、いわゆるバーコード禿のおっさんである。小柄だが目鼻立ちのつくりは大きくどこかガーゴイルを思わせる顔立ちである。
余談だがこの二人は生徒の間では「ピッカリーズ」という名前で呼ばれることがあるが、本人達は知らない。
フォートはもう一度視線をディスクに置かれた封筒に戻した。
出来れば消えてほしいその封筒は現実として目の前にしっかりとある。
実際指摘されなくても頭の痛い問題だ。
「…一体今回で何人目だね。」
「今年度に入って、二ヶ月目ですが、十一人目です。特に今回は職に就かれて三日目での辞表です。」
「また、最短記録更新かね。」
皮肉げに答えるが、相手はそれを嗜める様子は無い。もはや慣れの域である。
「皮肉を言いたいのもわかりますが、そんなことを言っている場合ではないです。あのクラスの担任をこのまま放置しておくわけにはいかないのですから。」
「わかっているよ。まったく。」
学園には11歳から18歳までの学生が席を置いている。その中では特に優秀な生徒も何人かいてそれらの子達と一般の生徒と一緒に学ばせているのは逆に優秀な子達の足を引っ張りかねないため特にAクラスというクラスを作って、特進クラスとして纏め上げている一方、学校と言う性質上どうしても一般生徒と比べても学力の劣る、いわゆる落ちこぼれというものが存在してしまう。こちらも一般生徒と一緒にしていては害が及ぶとして一クラスにまとめられていた。それがZクラス。そのZクラスのうち現在五年生に当たるZクラスの担任が次々とやめてしまい大問題になっているのだ。
「いっそ、Zクラスの生徒など学園から追い出せたらよいのですが。」
「…それを言うな。それが出来たら苦労はしない。特に五年Zクラスは。」
問題児揃いのZクラスの中でもとりわけ問題児がそろっているのがこのクラスだった。しかも悪いことに特にその中心となっているのが。
「メントス=O=オルフェシア、カルザイル=M=ミルトレート、サシャ=A=アントリン、マーブル=R=リンディアラ、アポロ=R=リンディアラ。五王家の血筋が全てそろっておられますからなあ。」
乾いた笑いが学園長室に響く。
古の六英雄との契約によりパールディ学園は五王家の子女が必ず通うように義務付けられた学園でもある。それは学園の機能が単なる学校としての機能しか持たなくなった今も健在で、王家に連なる人間はたとえ分家の身でも通学を免れるものではない。
「それぞれリンディアラの双子を除いて、王位継承者ではないですが、あの五人を見ているとこの大陸の未来も暗いとしか…。」
「教頭。流石にそれは不敬だぞ。気持ちはわかるが…」
「はっ。申し訳ありません。」
居住まいを正した教頭をたしなめたが、問題が解決したわけではない。
「…ともかく、代わりの担任が来るまで他のクラスの先生に日替わりでローテーションをお願いするしかないだろう。」
「あの。そのことなのですが。」
恐る恐るといった感じで言ってくる教頭に何か不吉なものを感じないわけでは聞かないわけにはいかない。
「…なにかな?」
「それが他のクラスの先生なのですが、もし今後五年のZクラスの担当を一日でもやらされるくらいなら教員を辞めると一致団結して通告を受けまして…。」
「な、なんと…、」
流石にそれでは無理を通せない。
「だが、担当教師がいなければ授業が出来ないではないか。」
パールディが確立した魔法学院の授業内容だが、各学年で習得単位が完全に決められそれを合格しなければ、上へ上がることは出来ない。今まではどんなに出来の悪い生徒でも授業にさえ出ていれば単位の修得が認められ、全生徒そろって進学、卒業させることが出来ていた。
しかし、授業そのものが出来ないのであれば、流石に単位を認めるわけにはいかない。
「最悪の場合、私達の代で初めて。
しかも王族の留年を出すことに。」
「……そんな。」
教師を職と選び、四十年。
学園長までようやく上り詰め、それなりに工作をしながらも地位も名誉も築いてきたというのに。
よりによってこんな汚名を受けようとは。
「いや、まだだ。
まだ留年と決まったわけではない。
早急に教師の採用を決めて…。」
「やめられた先生は求人して三ヶ月待ってやっと決まった先生ですよ!
それにもう教員の間では五年Zクラスは伝説と化しています。
もはや今から求人をかけて誰か着てもらえる確立は…。」
悲痛な面持ちの教頭にとうとうフォートはがっくりとうなだれる。
もはや自分の学園長としてのキャリアもこれまで、と絶望したときだった。
ドアをノックする音が聞こえた。
一体この忙しいときに誰だろうか。
少しイラついたが、来客をむやみに追い返すわけにはいかない。
「…はい。どうぞ。」
返事をすると同時に扉が開く。
なぜか開く扉の間から風が吹いた。
フォートは目を見開く。
それは自身のキャリアを守る救世主に他ならなかった。
特設頁

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