メビウス
「…どういう意味だ?小僧。」
まだ年端も行かない子供の威圧感に押されながらも、村長は探るようにパールディーを睨みつけた。
だが、パールディーはまったく答えた様子も無く泰然としている。
「口の利き方に気をつけることだな。村長。」
「…なんだと?!っ、それは!」
いつの間にかパールディーの右手にはメントスたちが村の入り口で見た花が握られていた。
「あ、…メビウス。」
「…無限回廊か。今ではそう呼ばれているか。…まあ、言いえて妙だな。」
「…その花がどうしたと言うのだ!それは村の特産物だ。それがどうしたと…」
「しらばっくれるのか。それとも意味が通じないほど馬鹿なのか。」
「こ、このガキ…!」
「解放の星の原料と言えばいいかな。」
「!貴様!なぜそれを!」
村長が驚いて目を見開いた。
「解放の星…?」
珍しく知識外のことだったのかカールが首を傾げる。
そこにグラナダが説明した。
「解放の星は一種のドラッグですよ。このメビウスを干して乾燥させたものを粉末にして使うのです。」
「あ、こら!グラナダやめろ!」
慌てて村長が怒鳴るが、グラナダはなぜ怒鳴られるのかわからず首を傾げて見せた。
「なんで怒るんですか?村長が教えてくれたのに。
魔法の媒介に使ったり、吸うと一時的に体中の痛覚が麻痺して、怪我を負っても痛みを感じなくなったりするから麻酔薬なんかに用いられるんだよって。」
「ぐぬぬぬぬ・・・」
村長が苦虫を噛み潰したような唸る。
だが、それを無視してパールディーはグラナダの後を引き継いだ。
「…まあ、過剰摂取すると幻覚を見たり奇行が目立つようになる。その上、依存性が高くて、それこそ無限回廊のように何度も終わりの無い幻覚を見続けることになり、最後には大体廃人になるか自殺するかのどちらかだな。
魔力の保存性に優れるから、高位の魔法使いが何らかの儀式のときに触媒として使用したり、昔は魔族との戦いなんかで負傷者によく使われていたんだがな。今ではこんな触媒を使うような魔法は使われることはないし、危険性から大陸全土で持つことはもちろん、原料の花を栽培することも禁じられているご禁制の花だな。」
パールディーは村長のだんだん蒼くなり始めた顔色を見ずに、片手で花を弄びながら人の悪い笑みを浮かべた。
「それを栽培していたんだ。よくて村全体の財産没収。最悪村人全員消されることにもなりかねない重罪だぞ。」
「…そんな!話が違う!」
突然別の場所から声が上がった。
声のしたほうを見ると一人の村人がこちらに向かって走ってきたなり、村長に噛み付いた。
ダークブラウンの癖のある髪と濃い口ひげを生やした三十台後半くらいの男だ。
「あんたはあの花を観賞用の花だって言ったよな!貴族が好きなすごい高級な花だから栽培すれば村が潤うって…。」
「…誰だ。あれは。」
グラナダに目線だけ走らせてパールディーが聞くと、グラナダは少し考えるような顔をした。
「…たしか、セルバさん?確か村長さんのはす向かいに住んでた。よく覚えてないけど、役どころは村人その一ってところかな?」
その会話を聞いていたカールはそんな説明の仕方はないと思うが、取り押さえられている状態なので突っ込めない。
「わかった。…おい、そこの村人その一!」
名前を聞いておいて、呼びかけがそっちかい!っと思うが、
「なんだ!こっちは取り込み中なんだ!」
村人その一、ではなくセルバは村長から目を離すことなく怒鳴った。
「あ、返事しちゃったぁ〜。」
「…自覚あるんですわね。」
ひそひそとマーブルとサシャの声が聞こえる。
カールは頭が痛くなった。
だが、そんな外野を無視してさらにセルバと村長の怒鳴りあいは続く。
「ふん、言いがかりはよしてもらおうか。だいたいこの話に一番乗り気だったのは貴様のはずではなかったか!それを俺一人が悪いように…」
「なんだと!俺達も悪いというの…。」
「電雷撃。」
「「ぎゃああああ!」」
大賢者の人差し指をくりっとあげて呪文を唱えるとセルバに小さな雷が落ちた。
そしてセルバにつかみかかられた村長ともども電撃が貫く。
「たかが小悪党村長と村人その一が、大賢者様を無視するんじゃねぇよ。」
ぷすぷすと煙を上げて痙攣する二人をパールディーは氷点下の視線を送る。
相変わらず鬼である。
「別に私がこのことを大陸連合に報告したらの話をしただけだろうが。」
大陸連合とは大陸にある全ての国の加入が義務付けられている大陸機構であり、大陸全土にわたる国際協調と話し合いによる和平交渉等を主な業務とする。
大陸における栽培禁止作物の取締りはこの機構によって行われている。
「へ?」
「それって…。」
パールディーの言葉に髪の毛まで焦げてちりちりになっている村長とセルバは呆気にとられおかしな声を上げた。
「いいか、よく聞けよ?」
パールディーがいかにも悪党面で笑う。
少し長い犬歯がむき出しになり、非常に邪悪な笑みだ。
「今ここにある解放の星の三分の一を私によこせ。それから、残りの解放の星とメビウスの花畑を私の前で焼き払って、もう二度と作らないと念書を書いてもらおうか。そうすれば通報までは待ってやる。」
「ちょ、ちょっと待っ!つっ!」
「メントス!」
口を挟もうとしたメントスが顔を上げようとすると、取り押さえていた男が慌てて彼の頭を地面に押さえつけた。
勢いあまってメントスは頭を地面にぶつけて、激痛が走る。
「…そこで馬鹿を押さえつけてる、大馬鹿ども。」
底冷えするような声が聞こえてきた。
思わず言われている対象でない人間も背筋が寒くなるような声だ。
「そろそろ自分の立場に気付けよ。お前らが尻の下に敷いている馬鹿は一応私の庇護物だぞ。」
その声にメントスは自分を押さえつける男がひるんだのを感じた。
だが、どうしていいのかわからないようで村長に目を向ける。
「お前達!何をしている!早く離してさしあげろ!」
慌てて村長が命令すると、男達は慌ててメントスたちを一斉に解放した。
「…『離してさしあげろ』…ね。随分態度が違いますこと。」
漸く解放されて汚れた服を叩きながら、サシャが皮肉を言う。
だが、そんな言葉も気にならない様子でメントスは解放されると同時に起き上がってパールディーに食って掛かった。
「おい!こら!くそ賢者!」
「…助けてやったのに礼も無いのか。躾がなってないな。」
「そんなことはどうでもいいんだよ!お前、それは裏取引って言うんじゃないのか!」
「ほう、裏取引と言う単語は知っていたのか。見直したぞ。」
「…てめぇ、馬鹿にしているのか!」
「まさか。」
大賢者たる少年はやれやれと困った子供のわがままを聞いた大人のように首を横に振って方を竦めた。
自分より年下のような少年にされると非常に神経を逆撫でされる光景である。
「言っただろう?豚を馬鹿といったら馬や鹿に失礼だと。純粋に褒めているんだ。喜べよ。」
「喜べるかぁ!」
賢者の子供らしくも大人らしくも無い皮肉に、メントスは怒髪天の勢いだ。
「メントス!論点がずれていますわよ?」
サシャの突っ込みに漸くメントスは当初の怒りを思い出す。
「そうだ!裏取引だよ!…あやうくうやむやにされる所だった。大人は汚い。」
「・・・この場合、お前が勝手にうやむやにしようとしてたと思うよ。」
呆れ顔のカールの言葉にメントスは顔を赤くして怒鳴った。
「うるさい!それより、汚いじゃないか!こんな取引!大賢者がするとは思えない!」
「……」
メントスの怒鳴り声に、だがパールディーは何も言わなかった。
ただじっとメントスの顔を見ている。
「あんな人を廃人にするなんてドラッグを作っていた村を通報しないなんて!それにどういう理由であのドラッグを奪うつもりだよ!」
「………。」
さらに畳み掛けるが、パールディーはまったく反応しない。
それに苛立ちメントスは言ってはいけないことを言った。
「お前、まさかあの解放の星とかいう薬使って金稼ぐ気…」
「メントス!」
突然カールに肩をつかまれる。
「なんだよ、カー…。」
そこまで言って言葉に詰まる。
級友のかつて無い厳しい顔に驚く。
「言いすぎ。お前、あの人たちの顔見てもそのこと言える?」
厳しい顔のまま指差された方向に首を巡らし、ぎくりとなる。
いつの間にか村の人間がここに集まっていた。
その顔にははっきり不安が張り付き、中には泣き出す人間もいた。
男も女も子供も老人も怯えながら、こちらの様子を伺っている。
まるでこちらが怯えさせているような感覚になって胸が悪くなる。
「さっきの話聞いていなかったのか?この村を通報することはあの人たちに全員死ねって言っているようなものだぞ。」
「っ!」
ナダ村は貧しい村だ。それは村人が着ている服でもわかる。
飾り気は無く、質素な木綿製のその服は大人のものも子供のものも違いはあるが、皆接ぎが当てられ、何年も手直しして切られているのがわかる。
見るからに皆、痩せており、この中で太っていると言えるのは村長くらいだ。
メントスは確かに親から疎まれ、兄弟からは軽蔑されている。
だが着る物に困ったことも飢えたことも無い。
今来ている制服だって、彼らの着ている十着分より高い生地が使われているだろう。
ただでさえキラートスの襲撃に彼らの暗い表情だったが、今では皆今にも死人より暗い相貌をメントスに注いでいる。
メントスにはその相貌の真に意味することなどわからない。
だが、一つだけわかることはある。
おそらくメビウス作りはこの村の生死をかけたくらいの事業だったに違いない。
それが奪われ、そしてそのことが原因で村が滅びかけようとしている。
メントスの一言で。
彼らは恨み、疎んじているのだ、メントスの存在を。
メントスは歯軋りした。
「…俺は間違ってない。」
メントスの恨みがましい視線をウケながらカールはそれでもまっすぐ見つめ返しながら言った。
「確かに、間違ってない。でも正しいわけじゃない。」
「だが、あいつは解放の星を…!」
いきり立つメントスに押さえるように肩を叩きながら、そっと声を落として説明する。
「真意はわからないけど、おそらく通報しないけど、お咎めなしとは行かないさ。一度は知らなかったとしても法に触れることをやっていたんだからね。だが、メビウスを破棄させ、そしてこの村でかつてメビウスを作ったと言う証拠を持つことで村人に対する戒めにはなる。」
「っ!………。」
「今後、あの人たちはずっと怯え続けることにはなるんだよ。そしてもう二度とこういったことをしないだろう。」
ま、ただ単に解放の星を欲しかったっていう線もあの人なら考えられなくも無いだろうけど、とカールは最後には笑ってみせる。
だが、メントスはカールの顔が見れなかった。
悔しくて目頭が熱くなる。
メントスは俯いた。
カールが話した大賢者の真意は大人すぎて、メントスの言い分は子供が自分で決めたルールを我侭に押し付けているようにしか聞こえず、悔しかった。
カールが何を思ったのか、メントスの頭をポンと軽く叩く。
それは、まるで大人が子供にするみたいな仕草で、同年代の男にやられても惨めなだけだが、言える立場ではない気がして何も言わなかった。
「おい、そこのカップル!そろそろ話を進めていいか?」
「ああ、お騒がせしました。どうぞ続けてください。…って、なんですか!カップルって!」
「そう恥ずかしがることはない。世界は広いんだ。いろんな性癖の人間がいてもおかしくない。私は別に理解が無いわけじゃないぞ。」
「僕はノーマルです!」
「だから、恥ずかしがる必要はないと…。まあ、いい。話を進めるか。」
本当にわかっているのかな?、と泣く勢いで肩を落とすカールを尻目に、パールディーが村長たちに向き直った。
「…さて、かなり話はそれたが、考える時間はあっただろう。条件を飲むか?飲まないか?」
一応村の代表たる村長に向かって言ったが、答えたのはセルバだった。
「…その条件でお受けします。村が助かるならそれくらい安いくらいだ。」
「こら!お前。村長の私を差し置いて、勝手に…!」
勝手に答えてしまったセルバに村長は顔を真っ赤にして怒ったが、セルバはひるまなかった。
「うるさい!なにが村長だ!村が大事なときになにもしなかったくせに!この後、すぐに村民会議を開いてお前なんか解任してやる!」
「なっ…。そんなこと、村長会議に行っていたから仕方ないではないか!」
「ふん!そんなこと言って、どうせどこぞに町で遊んできただけだろう!知っているんだぞ。お前が、会議と偽って村の金で遊んでいたことくらい。」
「っ…!貴様、何様のつもりだ!この村がこんなに潤ったのは誰のおかげだと思っている!」
「ああ、だから黙っていたのさ。お前が村の皆が困窮していたときに遊んでいたのを知っていながらな。だが、もう関係ない!今まで使い込んだ金も皆労働で返してもらうから覚悟しろよ!」
「っ…!!!」
そこまで言われて村長は漸く気がついた。
村人全員が彼に注いでいる視線は軽蔑し、罪人を見るそれである。
気がつけば、彼が護衛として雇っていた傭兵崩れのゴロツキ達はいなくなり、彼の味方と言えるものは何もなくなっていた。
今度こそ、村長は青ざめ、反論が出来ず黙ってしまった。
そのことを確認して、セルバが息をつく。
それから、村の男に村長を捕まえて置くようにと命令する。
男達は二人、村長を囲うようにして腕を捕まえる。
村長の顔はさらに青ざめ紙のように白くなった。
「…お見苦しいところをお見せしました。賢者殿。改めて、キラートスから我がナダ村を助けていただいてありがとうございます。」
先ほどの村長への激昂が嘘のように穏やかな顔つきでセルバがまっすぐパールディーに向かって深々と頭を下げる。
村人もその礼に倣って頭を下げた。
おそらく、セルバはどこかでキラートスを倒していたのはこの少年であることを見ていたのだろう。
そうでなければ、この中で誰よりも押さない分類に入る大賢者に向かってこれほど丁寧な対応をする人間はいない。
「ふんっ!漸く話のわかる奴が出てきたか。」
ふんぞり返った子供姿の大賢者に気を悪くする風もなく、セルバが続ける。
「改めまして、私の名前はセルバ=オンライト、このナダ村の代表を長く勤めさせていただいております。」
「…何が、村人その一だ。」
「あれぇ?おっかしいな。」
てへっとグラナダが頭をかわいらしく小突く真似をする。
パールディーはそれを睨むにとどめた。
村の代表とは村長に匹敵するほどの重要人物だ。
村の交易など対外的な役割をするのが村長、内務の統括を図るのが代表となっている。
基本的に代表と村長の違いはあまりなく、同じ人間が兼任していることが多い。
「そしてメビウスの件は温情賜りありがとうございます。我ら一同賢者様の慈悲には感謝しても足りません。」
「お…おう。く、苦しゅうないぞ…。」
なぜかセルバの丁寧な口上に見る間に、賢者の態度がおかしくなる。
どこか照れくさそうな、座りが悪い椅子に座ったようにもそもそしている。
「…もしかして、感謝されなれていないのかしら?」
「その可能性もあり?あの言動だしねぇ〜。」
ひそひそと女同士で囁きあうが、それが聞こえたのか、大賢者が珍しくあせった様子で一度咳をした。
「こ、こほん。そ、それより、村人その、じゃなかった。セルバ代表。」
「セルバとおよびください。
「ふむ、ではセルバ。一つ聞きたいことがあるんだが。」
「私で答えられるなら、何なりと。」
あくまで丁寧なセルバに、だが今度は顔を引き締めて聞いた。
「このメビウスだが、一体どこで手に入れた?もう大連(大陸連合の略称)では絶滅種として登録されている種類の花だぞ。」
「それは、先ほど聞いていたかもしれませんが、村長…いえ、もうロデルと申し上げましょうか。ロデルがどこぞから、手に入れてきたものです。おそらく本人に聞いたほうが、わかるかと思いますので、直接お聞きください。おい、ロデルをここ…。」
そのときだった。
「っ!き…ひっ…!」
怯えたような村の女の声が聞こえた。
何事かと思うと、突然大きな影が音もなく村長の後ろに現れた。
皆が驚いた。なんの気配もなくまた音もない。
それは、メントスたちが倒したはずのキラートスだった。
だが、その顔に生気は無く、目は虚のようにどこにも焦点が合っていない。
体からはメントスが切り割いた腹から臓物まで見えている。
そう、完全に死んでいるはずだった。
そして、キラートスは声も無く、鋭い爪を振り下ろした。
「へ?」
それがロデル村長の最後の言葉となった。
鋭い肉をえぐる音が聞こえたと思うと、村長の頭部と体が完全に離れていた。
それから軽く投げ出された頭部が地面に落ちる。
その表情は何が起こったのかわからず呆けた形で固まり、もう二度と他の表情を見せることは無い。
生きたまま、切り離された首は血の噴水を作り、キラートスを赤く染め上げる。
だが、そのキラートスはすでに全身を己の血で染めており、赤いキラートスは禍々しく虚ろにただ立ち呆けている。
誰も声を出せない。ただ村長の体から出る噴水の音だけが当たりに響く。
あまりに現実離れした光景に誰も動けなかった。
「業火炎極柱!」
大賢者の呪文が静寂に響き、キラートスを火柱に包んだ。
だが、火柱に包まれても、キラートスは吼えず、ただ沈黙したまま、業火に焼かれている。
それは異様な光景だった。
先ほど実際に戦っていたメントスたちはより違和感を感じずにはいられなかった。
キラートスは獰猛で単純。体が大きく隠密行動にはあまり向かない。咆哮を発して相手を威嚇するのでいつも吼えている印象しかない。その魔獣が声も無くただ焼かれているのである。
そうして完全に燃え尽きたのか、ただの炭の柱と化したキラートスの体が地に倒れ、乾いた音を立てた。
それが合図だった。
「っ!き、きゃああああああああああ!」
村の女の叫び声が村に木霊した。
「キラートスだ!まだ生き残っていたんだ!に、逃げろ!」
「どこへ!?せっかく生き残ったのに、まだ死にたくないぃぃぃぃぃぃ!!!」
ヒステリックな叫び声が、村に充満する。
半恐慌状態に陥った村人が方々に逃げ出そうとする。
「喝っ!」
鋭い声と共に地を突く音がその場に響く。
それほど大きな音ではないが、水の波紋が広がるように何かが走り、皆その音で動きを止めていた。
声の主、大賢者が目が落ち着いているが、かつて無いほど硬い声で言った。
「慌てなくても、キラートスはもういない。」
「本当ですか?」
流石に怯えた様子のセルバが聞き返すが、落ち着いた声音で返した。
「本当だ。…明確に言えば、もう随分前から。なんだがな。」
「…?それはどういう?」
「死体操縦術。」
ネクロマティズムは黒魔法の一種ですでに命の無い有機体の体を使って、操る傀儡の術だ。
「誰かが、あのキラートスの体を使って村長の口を塞いだんだ。」
「そんな、まさか!まだ他のキラートスが動き出す可能性があるんですか?!」
「あるいは。だが、死体の一部でも火にくべれば死体は浄化されるから、死体を焼けば操られることは無い。」
「それじゃあ、のんびりしていられない!村中のキラートスの死体に火をかけなければ。すみません。賢者殿!話は後でもよろしいですか!?」
「ああ、それじゃあ、明日にしよう。」
「ありがとうございます。では!」
そう言い置いて、セルバは村人達を集めて指示を始めた。
それを見ていたメントスはクラスメイトたちに聞いた。
「あれは、手は足りるのかな?」
「足りないことは無いと思うけど、人では多いに越したことは無いよね。」
手伝うでしょ?と当然のようにカールが言う。
「そうですわね。」
「まあ、安心できないからねぇ〜。」
「同意。」
「だな。」
そう言って方々に手伝いに走る途中メントスはこの場から去ろうとする二人組を見つけた。
「さて…。」
「どこに行くんだよ。」
歩き去ろうとしたパールディーとその使い魔をメントスが呼び止めた。
「あ、メントスさん!」
「どこって、あそこ。」
にこやかなグラナダと対照的に面白くもなさそうに指差した。
その先には寂れた村には不釣合いなくらい立派な屋敷があった。
おそらく先ほど殺された村長のものだろう。
「そんなところに行って何を?みんなキラートスの死体の始末に行っているのに。」
「話は明日になったし、疲れたからとっとと休むんだよ。もうすぐ夜だしな。」
そう言って空を指差す。
もうそろそろ空は赤金色も落ち着き、群青色が空を覆いだしている。
もう日没まではいくばくも無い。
お前らはセルバに言ってどっかに泊めてもらえばいいからなと気の無いことを言う。
「何を勝手な。皆休みなんかとってないのに!」
「私の勝手だ。手伝うも手伝わないも強制される覚えは無いね。」
「あんだと!?」
メントスはパールディーの胸倉をつかむ。
珍しく成すがままになり、身長差から少し宙吊りのような形になる。
「あんたって、いつもそうだな。皆が頑張ってるのに神経を逆撫でることしか言わない。」
「…なんだ、また我侭を言うのか?」
「っ!」
「皆が頑張っているのに?自分も頑張っているのにの間違いじゃないのか?」
「…なっ!」
「自分が頑張っているのに、何で他人ばかりがいい目をみるのか。何で自分は認められないのか。どうしてどうしてどうして。自分の思い通りにならないことは皆他人のせいか?はっ、子供の面倒は見切れないとはこのことだな。」
「なんだと!この!」
メントスは激昂してパールディーに拳を振り下ろそうとする。
だが、なぜかパールディーは反撃しない。
そのまま、殴る腕を振り下ろそうとした。
が、できなかった。
「…メントスさん。ご主人様を傷つけないでください。」
いつの間にかメントスの腕をグラナダがつかんでいた。
グラナダの手は軽くメントスの手をつかんでいるように見えるが、メントスは一寸たりとも動かすことが適わなかった。
「ご主人様を離して下さい。」
決して怒鳴っているわけではないが、それでもどうしようもない力の差を誇示されてメントスはしぶしぶ大賢者を離した。
「…グラナダ。もういい。」
「は〜い。」
地に下りた大賢者が言うと、グラナダがぱっと手を離す。
とたん自由になった腕を見るとグラナダの手の形に赤くなっていた。
「メントス。」
「っ!」
初めて名前を呼ばれて思わず、賢者を見ると小さな背中だけが見えた。
「お前はお前であり、お前でしかない。お前以上のお前以下でもないんだ。」
謎掛けのような言葉を発して賢者は背中だけを見せて歩き出す。
その後を使い魔の少女が追いかける。
わからない言葉の意味を問いかける。
「…どういう意味だよ?それは。」
「…少しは自分で考えろ。ってことだよ。豚が。」
「……。」
村長宅のドアに手を掛け、少しだけ振り返った賢者の顔はいつもの意地の悪い笑顔があった。
だが、その中になぜか悲しみのようなものが混じったと思ったのは気のせいか。
そんなことを考えていたらなにも言い返すことが出来ずに、扉が閉まる。
その閉じられた扉をしばらく見ながら、言われたことを反芻する。
『お前はお前であり、お前でしかない。お前以上のお前以下でもないんだ。』
「…さっぱりわかんねえよ。」
考え始めて数秒でメントスはさじを投げた。
もともとなぞなぞのような奇怪な問題は大の不得意であり、体の反射だけで生きていると言われるメントスの所以である。
なぜ、賢者はこんなことを言ったのか。
その理由さえわからなかったのに、この意味などわかるはずも無い。
「メントスさん!」
「うわ!」
悩んでいるすぐそばで突然名前を呼ばれ、横に飛びずさる。
見ると賢者についていったはずのグラナダがそこにいた。
「なんだグラナダかよ。」
「はい、グラナダですよ。ご主人様からの伝言をお伝えしに来ました。」
「伝言?」
メントスは先ほどの謎のヒントでもくれるのかと少し期待した。
「はい。『私の睡眠中に寝首を掻こうとする輩は昼のキラートスの千倍いやな目にあわせるからその心積もりで掛かって来い』だそうです。」
「………。」
すさまじい伝言の内容に思わずフリーズするメントス。
だが、そんな彼を気にする様子も無く、グラナダは他の人にも伝えるように言い置いて屋敷に去っていく。
しばらく見ていたが誰も出てこない。
やはりキラートスの後始末を手伝う気はないらしい。
先ほどの謎の言葉も頭に回る。
だが。
「いま、考えても仕方ないってこと…か。」
忙しそうに走り回る村人やクラスメイトの姿に、そう結論付けてメントスは彼らを手伝うべく走り出した。
なんだか前の話といい今回といい血なまぐさいことこの上ないですね。はは。
なんだかシリアスぶっているし、きな臭くなってます。
さてこの後どうなるのか。
一番作者が知りたいです。(笑
では次回。
特設頁

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