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熊さんにぃ〜であぁった〜(再び)
村に着くとそこかしこに火の手が上がっていた。
人々の悲鳴と何かが壊れる音が溢れている。

「一体何が?」

あまりの光景に言葉を失っていると、突然斜め前方の建物の扉から年配の女性が走り出してきてメントスに体当たりした。

「うわっ!」
「ぎゃ!」

メントスのほうが体格がよかったのでぶつかったほうである女性のほうが転んでしまう。

「たたっ。」
「大丈夫ですか?ご婦人。」

女性には満遍なく優しいカールがすかさず女性に近づき手を差し出す。
それに、一瞬呆けたような顔で女性が固まった。
カールは顔だけはこんな田舎ではめったにお目にかかれないほど綺麗な顔の少年だった。
それに微笑まれたのだ。
こんな田舎に住む女性に免疫などあるはずも無く、女性は年甲斐もなく、頬を染め言葉に詰まってしまう。

「あ、あの。その…。」

しどろもどろになる女性にイラついたメントスは少し強い口調で聞いた。

「一体何があったんだ!?」
「!」
「…メントス。お前ね。」

メントスの声に一瞬怯えはしたものの、正気に戻った女性はカールに寄りかかるように話し出した。

「そうだ!た、助けて!…き、キラートスが!」

女性の言葉にカールが目を見開く。

「キラートス…?!なんで?!」

キラートスは怒ると凶暴な魔物だが、森の中で生活する間はおとなしく、近づきさえしなければ襲ってこない。
もちろん人里に寄り付くことなどないはずである。
昔からキラートスに殺されるのは、森に謝って迷い込んだ狩人だけだと言われていた。
それがあまつさえ町を襲い、人を襲っている。
一体何が起こっているというのか。
だがその答えを求めようとする前にそれは来た。

「ぐあああぁぁぁおおおおお!」
「!!」

どっこぉぉぉぉ!

突然先ほどまで女性がいた家屋の壁が吹き飛んだ。
瞬間目を向けると、土煙の中からそいつは現れた。

「…キラートス。」
「…でかいな。おい。」

通常のキラートスの成体は大体大人の身長の二倍半だと言われている。
だが、現れたキラートスは優に大人の三倍以上はありそうだった。
そいつが壁を壊しながらこちらにゆっくり近づいてこようとしていた。
その目は殺気立っている。

「メントス。…ともかく目をそらすなよ?」
「ちっ!わかってる。」

キラートスはあまり視力や聴力はよくない。
そのため、餌となる小動物が逃げるときに出す音を聞いたり、逃げ出す背中を察知して襲ってくる習性を持っている。
だから、キラートスに出会った場合、目を合わせたまま、ゆっくりと静かに後退し、逃げる機会を伺うというのが対処方法になる。
それは、キラートスが割りとポピュラーな魔物であることでよく知られていることだった。
しかし。

「ひっ!ひいぃぃぃぃぃぃぃ!」

女性が悲鳴を上げながら逃げ出す。
恐怖に見境がなくなり、そんな初歩的なことも忘れてしまっているらしい。
そして案の定、それを目ざとく見つけたキラートスが逃げる女性に向かって突進し、爪を振り下ろすとする。

「がああああぁぁぁ!」
「ひ!」
「こ、のっ!馬鹿っ!」

キラートスの爪が女性を切り裂こうとした瞬間、メントス刃自然に動いていた。
別に何かの考えがあったわけではなかった。
正義感とか何とかはなく、ただ気付くと、目の前に殺されそうになっている見ず知らずの女性の体に体当たりをしていた。
間一髪、女性の頭を狙っていたキラートスの爪が宙を凪ぐ。
だが。

「ぐっ!」

メントスは肩に鋭い痛みが走るのを感じた。
完全によけるにはタイミングが少し遅かったらしい。
無事な女性と一緒に地面に転がる。怪我をしたらしい肩をしたたかに打ちつけ一瞬目の前に火花が散った。

「ぐう!」
「メントス!」

すぐ立たなければ。
キラートスはその巨体からは想像も出来ないほど俊敏さを秘めている。
ついであまり目がよくないために、一度見つけた獲物は間をおかず、攻撃してしとめてくる。
だから、すぐに女性を連れて、逃げなければならなかった。
だが、肩の激痛がそれを許してはくれなかった。
メントスはせめて目を開いて、上を見上げた。
キラートスの腕が上がるのがやけにスローモーションのように見えた。
英雄になるどころか、こんな低級な魔物に殺される。
元々英雄になるなど大それた夢だったのだろうか。
これが最後光景か、と思ったときだった。

「メントス!」

聞きなれた声がして何かが風を切る音がした。
それから。

「ぐおぉぉぉぉぉぉ!」

突然雄たけびを上げて、キラートスの巨体がモンドリを打って倒れた。
一体何が起こったのかと見ると、キラートスが顔を抑えて仰向け倒れたまま左右に転がり、暴れていた。
その手の隙間からは一本の矢が生えていた。

「サシャか!」

数歩先に妖艶な美少女が弓を打った姿のまま立っていた。

「大丈夫ですの?これは一体?」

驚きを隠さず、駆け寄るサシャに答えようと体を動かす。

「それは、…っっぐぅ!」

肩の激痛を思い出し、うずくまりかけると隣で再び聞きなれた声がした。

〜生きとし生けるものを慈しみ
あらゆるものに慈悲の心を与える者よ。
古より大地に広がる聖女の祈りよ。
我が呼び声に答え、彼の者に
癒しの恩恵を。〜

癒しの祈り(ヒーリング・プレイス)

暖かな光がメントスの体を包み込む。
光の発生源を見ると、マーブルが目を閉じたまま膝を付き、一心に腕を組み、祈っていた。
淡い光がマーブルの顔をやんわり照らし、柔らかな風がその銀髪を波打たせる。
普段のあの幼さの残る言動とは結びつかないほど、美しい光景だった。
やがて、光が収まるとメントスの傷はあの激痛が嘘だったように、赤い筋だけ残して消えていた。
動かしてみてもまったく痛くない。

「どぉ〜う?メントス!マーブルちゃんの実力は。」

にっこりと先ほどの神秘的な様子とは同じ人物とは思えないマーブルの子供っぽい笑顔が向けられる。
メントスはその笑顔をまじまと見た。
それからこちらに来ていたサシャの顔を振り仰ぎ言った。

「お前達…怒ってないのか?」
「うきゅ?」
「何がですの?」

心底不思議そうな顔をされる。
そういわれるとなんとも聞きにくいのだが、メントスとしてははっきりさせておきたかった。

「………。その、さっき、ひどいこと言った。」

メントスとしては必死で恥ずかしいのを押し殺しての質問だったのだが、二人の返答はあっさりとしたものだった。

「なんだ。そんなことですの。」
「気にするわけないよねぇ〜。メントスだモン。」

あまりのドライ加減に、メントスはあっけにとられて聞き返した。

「それはどういう意味だよ?!」

サシャが艶やかな笑顔でふふっと笑った。

「子供相手に本気で怒るなんて大人のすることではありませんわ。」
「だよねぇ。いちいち怒っていたら身なんかもたないもん!」
「…お前ら。」

あまりの言葉にどす黒い感情が沸く。
二人に言い返そうとしたときだった。

「危ない。」
「ぐおぉぉぉぉぉ!」

静かな声と風が脇をすり抜ける。
咆哮と共に金属がかみ合う音が響いた。
驚いて、振り返ると今にも腕を振り下ろそうとしているキラートスとその爪に剣を絡ませ、必死に押さえているアポロの姿があった。

「あ!アポロ!」
「くっ!」

振り下ろそうとするキラートスの腕とアポロの剣の力が一進一退で均衡する。
アポロの顔はいつもどおり無表情だが、それでもどこか苦しそうな雰囲気をかもし出していた。
もともとキラートスと人間、力の差は歴然としている。
そして、先に力負けしたのはアポロは、さらに力で押しつぶそうとするキラートスの力を剣で左に逸らし、キラートスの体制を崩した。

「ぐるぅお!」
「ちっ!」

その隙にアポロは後退し、剣を構えた。

「アポロ!大丈夫ですの?」
「……三人とも、気、抜きすぎ。」

さらに後ろから詠唱が聞こえてくる。

〜古より神々に与えられし者
永劫果敢なる熱き魂よ。
いと気高きその御身において
我が前に立ちふさがりし悪しきものを
焼き払え〜

炎業球(ファイア・ボール)!」

ごお!

発現呪文の掛け声と共に火球がキラートスを襲う。
だが。

「ぐぎゃおぉ!」

ぼん!

キラートスは飛んできた火球を腕を振って叩き落して見せた。

「やっぱり、火系の最低呪文じゃ効かないか。」

声に反応して見上げると、左手に槍を構えた形でカールが厳しい顔をしていた。

「くっ!」

サシャが連続で矢を射る。
だが、不意打ちだった最初の一発以外はことごとくキラートスは腕の振りで叩きおとし、運よく体に達しても、体を覆う剛毛によってはじき返された。
キラートスは全身を鋼のように硬い毛で覆われており、それが低級の魔法や武器では傷すらつけられない防御力の源になっていた。
サシャの最初の一打は隙を付く形で目を射抜いたため、ダメージが大きかっただけだった。

「はっ!」

アポロがキラートスに突進する。
それを迎え撃つキラートスの殺人アタックが振り下ろされる。
それをアポロは飛んで避け、その跳躍を利用して、剣を上段から振り下ろした。
しかし、キラートスはそれを腕一本で受け止め、そのまま高速で振り払う。

「っ!」
「アポロ!」

マーブルの悲鳴が響く。
だが、高く空中に放りだされた彼の体は何度か不安定にぶれたが、そのまま体をひねって速度を落とし、危なげなく着地した。

「アポロ!大丈夫?!」

慌てて駆け寄る姉を安心させるように、アポロは手を振って答える。

「…大丈夫。でも、」

もう一度キラートスを睨みつけながらつぶやく。

「…さすがに、強い。」

剣の刃を見ると、すでに刃毀れしていた。
一度も傷らしい傷を与えていないのにである。

「なあ、メントス。そろそろ立てる?」

カールが声で、我に返る。
アポロの動きに真剣に見入りすぎていたらしい。
すでに傷は回復しており、もともと一行の中では体力は一番あるほうなので戦うことはまったく問題はない。

「…ああ。大丈夫。立てる。」
「じゃあ、無茶を頼んで悪いけど、俺達があいつらひきつけるから、あいつ隙を見て倒してほしんだ。」
「は?!」

こんなときに何の冗談かとカールの顔を見れば、いつになく真剣な顔がそこにあった。

「この中であいつを傷つけられる武器ってお前の大剣くらいなんだよね。僕のも、他の皆の武器は扱いやすいけど攻撃力が弱くて、キラートスの毛皮を貫けない。だから。」
「ちょっと、待てよ!俺だってきちんと扱えない代物だぞ?それでどうやって。」
「だから僕達が切り込んで活路を開く。いくら効かない武器だって、気を逸らすことくらいは出来るから。そんなには長く持たないから、チャンスは少ないけど。」
「っちょっ!…それって。」
「任せたよ。」

そう言ってカールはキラートスに向かって走っていく。

水流圧拳(ウォーター・プレス)!」

マーブルの声で魔法が炸裂する。

「くっ!」

サシャの矢が五月雨のように襲う。

「…っ!」

アポロの剣が振り下ろされる。

「うおぉぉぉ!」

最後にカールが槍を構えて突っ込んでいく。

だが誰の攻撃もキラートスの皮膚にはじかれ、ダメージなど追わせられない。
メントスは頭の後ろが冷たくなるのを感じた。
カールはZクラスだけでなく、学園でも有数の槍の使い手だ。
サシャは少し十五にしては婀娜っぽいが、弓の腕前だけは最上と言わしめた使い手。
普段はおとなしいアポロは精霊で大気を制御し、軽業師のようなスピードが自慢の戦士。
その姉のマーブルは、言動こそ幼いものの、学校でも有数の魔力の持ち主。
勉強が出来なかったり、学校側に言わせる素行不良のせいで、Zクラスに甘んじている四人だが、戦いのスキルだけならおそらく学園で最高クラスの人間だ。
一体、彼らにして、傷を負わせることが出来ないでいる化け物にメントスが大剣があるとはいえ、倒せるとは思えなかった。
そんなことを考えている間も、四人の戦いは激しさを増している。
早くしなければ、四人の努力を無駄にしかねない。
だが、メントスは動くことが出来なかった。
考えがまとまらない。何をすればいい?
動き方を忘れたでくの坊みたいに立ったままになった。

それから。
声が聞こえた。

『だから、身の程をしれといったんだ。この馬鹿者が。』

それはひどく頼もしく、ひどく腹の立つ声だった。
出てくるといいながら、最後の最後。
いや、すみません。
次回更新もできるだけ頑張ります。
ではでは。次回。
特設頁

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