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花咲く森の道ぃ〜。
キラートスとデスマッチ(一方的)を繰り広げていた泣き虫の少女は、グラナダと名乗った。

「グラナダ…。変わった名前だね。」
「そうですか?結構気に入ってるんだけどなぁ〜。」

カールの感想に、手に持った棒つきキャンディを嬉しそうに舐めながらグラナダが答えた。
森の中を歩きながらの会話である。
今メントスたちはグラナダの住むナダ村に向かっている途中だった。
グラナダはやはりオームの森の西に位置する小さな村の村娘で、お世話になっている家のために、オームの森で山菜取りに来て、キラートスに襲われたらしい。

「でも、よくキラートスが出るような森に一人出来たね。普通近づかないよ?」
「え〜と、それは普段あのあたりはキラートスが出るような場所ではない、んですよ。えとえと、それなのに、今日に限って出くわしちゃって。」

たどたどしく答えながらもグラナダは手に持つキャンディーを口から話さない。
そんなグラナダを恨めしそうに見る瞳がある。

「うきゅ〜。私のキャンディ〜。」

マーブルである。

「もう!意地汚いですわね。あれくらいあげてもよいではありませんか。」
「でも、あれは最後の一っこでぇ〜。」
「ってか、なんであんなの持っているんだよ。」

話を聞くために、なだめすかすが、グラナダがなかなか泣き止まなかった。
すると、アポロがどこからともなくあのキャンディーを取り出してきたのだ。
そして、その出所がマーブルの制服からだった。

「しかし、謎のポケットだね。どう見ても、あんな大物が入っていたとは思えないんだけど。」

カールが首を傾げつつ、マーブルの制服についてるポケットに目を走らせた;
小柄なマーブルだけあって、制服も小さく上着の腰の位置に両側についたポケットもそれにあわせて小さい。見た目、小さな飴玉が五つも入れば、膨らんでしまうくらいだ。
だが、グラナダが持つ棒つきのキャンディはキャンディ部分だけでも大人の拳ほど、柄の長さはその倍という巨大サイズの飴だ。
おそらく入ると言うより入れるほうが難しい代物を一体どこに隠し持っていたのか。

「マーブル。今度でいいからちょっと上着貸してよ。」
「ええ?カールにぃ?何でぇ?」

そう言ってカールの顔を見上げるマーブルは、幼くとてもカールと同い年の少女とは思えない。
その様子にカールは少し可笑しくなる。
ともすれあの見た目お子様な大賢者と外見年齢では一緒と言っても誰も疑わないくらいだ。

「ん。単なる知的好奇心。…ってなに?アポロ。」

何かもの言いたげな視線を感じ振り向くとアポロがこちらを指差しながらぼそりと一言。

「…幼女趣味?」
「んな!」

それから、姉を自分に引き寄せながら、

「変態。ねえさん、渡さない。」
「おいこら!」

勝手に変態呼ばわりされたカールが本気で青筋立てる。

「まあ!カール!ホモだけでなく、ロリコンだなんて!そこまで変態だなんて!」
「サシャまで!?」

汚いものでも見るみたいな軽蔑の眼差しのサシャの横でマーブルがアポロに抱きつく。

「きゃあ!アポロぉ〜。変態がぁ〜!」
「マーブルも!?何で?」
「カールさんって…そうなんですか?」
「グラナダ。君まで?」

少しこちらを見る目が変わったグラナダは、今まさに泣きそうなカールに慌てて首を振った。

「い、いえ!人の趣味はそれぞれですし、大人の世界だなあっと…。」
「…それって慰められてるのかな?僕は。ってか微妙になにか違う気がするんだけどね。」

フォローになっていないコメントをもらい、カールが肩を落としたときだった。

「お前らいい加減にしろよ!黙ってあるけねぇのかよ!」

突然今まで静かだったメントスが怒鳴った。

「…メントス。」

先ほどと違い、大剣を背負って歩くことに少しは慣れたのか、ふらつくことなく歩いている。
珍しく静かに先頭を行くグラナダの横に並ぶように歩いていたため、先ほどのじゃれあいで少し遅れてしまったグラナダを抜いており、皆より数歩分前にいた。

「さっきからぎゃあぎゃあ、子供じゃあるまいし…。」
「む。なんですの?その言い方は。」

その言い方にカチンときたサシャが腰に手を当てさらに何か言おうとしたが、カールが手で制す。

「まあまあ、サシャ落ち着いて。メントスもなにぴりぴりしているの?」
「お前らが緊張感なさ過ぎなんだよ。一応まだオームの森の中なんだ。そんな馬鹿話している暇あるのかよ。」
「まあ、それもそうだけどね。」

カールが仕方ないと肩を竦める姿がなぜか妙に気に障る。
メントスは自分の中の苛立ちを押さえることが出来ないでいた。
理由はわかっている。
子供染みたことだとはわかっているが、先ほど、夢にまで見た英雄の登場シーンが本当の夢で終わったからだ。
森の中で襲われている人間を助け、颯爽と駆けつけて魔物を倒す。
何度も見た御伽噺の英雄譚。
堕落した学園生活の中で徐々に色あせていった思いが、一気に蘇りまざまざと突きつけられた気がした。
思い出したくもない家族との記憶、皆が蔑んだ過去。
退屈で物足りないが、苦痛ではない自堕落な生活の中で忘れたと思っていた気持ちが蘇り、苦痛で仕方のない現実が目の前にあることを結局再度認識させられるに至ってしまった。
そしてそれは苛立ちとなり、メントスの中にずっと燻り続けている。
そんな苛立ちはメントスを必要以上に雄弁にした。

「大体お前ら、いつも気を抜きすぎなんだよ。」

『なぜいつも貴方はそんなに馬鹿なの?!』

かつては自分を誰より褒めてくれた母親の声が頭に響く。

「そんなんだから、Zクラスは勉強は出来ないけど人間の屑クラスだといわれるんだ。」

『お前はZクラスがどういったクラスであるか知らんのか?そこにいることを恥だと知れ。』

剣術の試合に勝つと必ず自分のことのように喜んでくれた父親の声が聞こえた。

「少しは自覚あるのかよ。」

『少しは自覚を持ってば?Zクラスの馬鹿は端を歩けよ。』

Aクラスのかつてはメントスに負けていた兄弟達の嘲笑が耳に残る。
言いすぎだとはわかっていたが止められなかった。

「…なんですって?」

サシャの顔色が変わる。屈辱に平静を保てず、顔に朱が走る。

「メントス。それ、言いすぎ。」

珍しく眉間に皺を寄せ、不快な表情をかすかに出したアポロに自分の言っていることのひどさを自覚しながら、それでもメントスは止まることが出来なかった。

「何でだよ。本当のことだろ?本当にどうしようも…。」
「メントス。」

カールの静かな声がメントスの言葉をさえぎる。
それはとても、静かな声だったが、同時にひどく冷たい声だった。

「何をイラついているか知らないけど、いい加減にしなね。君にそんなことを言う資格はないよ。」
「…なんだと…?」
「気付いてないの?本当にキラートスの脳みそだね。」

カールの嘲笑で、頬に朱が走る。
だが、そんなメントスの表情など構うことなくカールはメントスに指を突きつけて言った。

「君は僕らをずっと危険にさらし続けている。」
「!」
「最初の大賢者の選択肢もそう。さっきのグラナダの件もそう。君が勝手に突っ走って勝手に僕らを巻き込んでる。それでも、君は僕らに何か言えるとでも思ってるのか?」

そんなことはわかっている。とは言えなかった。
確かにカールに指摘されるまで、自分がここにいるクラスメイトを危険に巻き込んだ自覚はなかった。
短絡的で勝手な判断。最低だ。
周りが馬鹿だというのも決して反論できない。
だが、それを認めてしまえるほどメントスは利口ではない。

「カール。てめぇ…。」
「…………。」

険悪な空気が流れる。
一発触発。そんな空気が流れたが。

「あ!み、皆さん!見てください!森を抜けましたよ!」

気まずさを吹き飛ばすような明るくはしゃぐ声が場を壊す。
声の示すほうを見ると視界が開けた。

不気味な形に折れ曲がった黒っぽい木々が突然途切れたかと思うと、対照的な一面真っ白な花があたりを覆いつくしていた。
一陣の風が吹き、風にあおられた花びらが舞う。
その風景はいっそ幻想的でこの世のものとは思われず、一向はただ見惚れた。

「綺麗〜!」
「本当。素敵ですわね。」

マーブルとサシャが花畑に近付く。
白い花は四つの花弁と中央に緑のおしべとめしべを供えた細い茎が特徴の少し背が高めの植物だ。

「この花はメビウスっていってねぇ。ナダ村の特産なんだよ〜。」

クラナダが得意げに説明する。
そこにあまりの光景にメントスと一時休戦したカールが合流する。

「メビウス?聞いたことないな。それにナダ村の特産だって?」

カールがメビウスに手を伸ばそうとすると、慌ててグラナダが止めた。

「あ〜。でもあんまりお花に触んないでね。あんまり触るとおじさんたちにあたし怒られちゃうから。」
「あ、ごめん。」
「ん、大丈夫。でもおかしいな?この時間帯ならおじさんたち、メビウスの世話をしているはずなんだけど……。」
「…なあ、あれ。」

そこまで黙っていたメントスが声を上げ、ある方向を指差した。
そこにあったのは。

「…煙?」
「え?!なんで?あれ、村の方向!やだ!みんな!!」

グラナダが叫び、突然煙の方向に走り出す。

「グラナダ!待て!」

静止の声が聞こえていないのか、グラナダは止まらない。

「ちょっ!追いかけますわよ!」
「仕方ないねぇ〜。」
「………。」

皆がそれぞれ、クラナダを追う。
その中でメントスは動けずにいた。
先ほどカールに言われたことが、耳につく。
軽率な行動が皆を危険にさらす。
あの煙を見て、それがどのようなことなのかをはじめて感じた瞬間だった。
あの煙は、おそらくクラナダが慌てたのを見ると日常のものではないのだろう。
もうもうと上がる不気味な黒煙。
一体その下では何が起こっているのか。
伝説や寓話などではない。本当の戦いが起こっているのだと改めて実感したからだ。
それは家を焼き、人が死ぬことだ。
そして、それに突っ込むことはある種死を覚悟しなければならないことでもある。
そのことが今更ながらひどく恐ろしいことに感じた。

「メントス。なにやってんの!」

突然背中を叩かれ、驚いて振り向くとカールが立っていた。

「…あ。」

言葉にならない。先ほどいい気になってみんなを罵っておきながらこの様だ。
恥ずかしいことない。
まともにカールが見れないでいると、少し茶化した声が聞こえた。

「…なに?びびってる?」
「…………。」
「メントス。考えるなよ。らしくない。」
「…なんだよそれは。」

憮然として答える。
考えずに行動するなといっていたのではなかったか。
だが、そんなメントスの考えを、カールは真っ向からひっくり返す発言をした。

「メントスは猪突猛進だけが取り柄だろう?こんなとこで一番最後尾で震えてるなんてまったく似合わないよ。」
「…だけって。でも、考えずに突っ走ったらみんなに危険が…。」
「なに?さっきの気にしてるの?」
「…お前が言ったんだろう?」

憮然と返すと、カールは苦笑した。

「言ったけど、聞いてくれるとは思わなかったよ。でも無理だろ?」
「無理なのかよ!?」
「別に、突っ走るなとは言っていないよ。責任なんてかぶせたつもりもないしね。僕らはあくまでクラスメイトであって、上下関係にない。君に命令されようがどうだろうが、それに付き合う義務はないんだ。だがら、全ての行動は僕ら自身が決めている。それをお前に責任を押し付ける気はないよ。」
「だったら、どうして。」

責めるようなことを言うのか。
恨みがましく見ると、カールは笑いながら答えた。

「君が僕らを通して他の誰かを見てたから。」

虚を突かれた。
確かにカールたちを罵りながら、両親や兄達の声が重なって聞こえていた。

「その人たちへの鬱憤を引き受けられるほど寛大じゃないんだよ。」
「………。」

にやりと笑う彼の表情に唖然とする。
言葉もない。

「さぁて、それじゃ、行くよ。そろそろ追いつけなくなる。遅く着いたほうが次の学食おごりな!」

ぽんと背中を押される。
さほど強い力でもなかったのに、足が前に動く。
先ほどまで、恐怖で動かなかった足が。
不思議と心は軽くなっていた。

メントスは慌てて前を走り出したクラスメイトに声を掛けた。

「カール、お前。」
「ん?なに?」
「俺のこと好きなんだろう?」
「んな!!!!」

突然の言葉に驚いて思わず立ち止まったカールを抜き去る。

「でも、俺、男に興味ないし。ごめんな。」
「僕だってごめんだわ〜〜!!って、はっ!もしかして作戦?メントスの癖して!」

怒りくるって立ち止まっていたカールが気付いたときにはすでに大分離れた位置にメントスの姿がうつった。
相変わらずの俊足である。
メントスが本調子のときの速度だ。
その速度を少しだけ見て、カールも全速力で後を追った。
なんだか微妙な青春小説っぽい感じになってしまった。
笑いが足りない。
そしてまだ賢者も出てこない。
お笑い前回のシナリオを書きたいですが、まだもう少しシリアス部分多めで行きます。

次回は多分あの人出てきます。
では次回。
特設頁

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