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熊さんにぃ〜であぁた〜♪
憧れだった伝説の剣聖。
誇りだった彼と同じ血統が。
自分にも彼と同じようなヒーローの血が流れている。
格好良く悪を屠る伝説の英雄の血が。
だが、そんなメントスの純粋な喜びとは異なり、現実は遥かに残酷だった。
メントスは幼いころ兄弟の仲で最強だった。
元気がよく、力も強い。人見知りしない性格で、体は丈夫で明るい子供だった。
両親もそんな子供らしい子供のメントスを愛した。

「僕!大きくなったら、剣聖オーリードみたいに優しくって強い剣士になるんだ!」

子供用のおもちゃの木刀を振りかざし勇ましく掲げてみせるメントスに、両親が微笑む。

「ははは、メントス。すごい夢だな。」
「ほほほ、そうね。でもきっとメントスならなれるわ。賢く強い剣聖に。剣術の先生も褒めていたわ。あの子には才能があるって。」
「ああ。天才だな。メントスは。きっと、皇太子の補佐をやって国を守り立ててくれる。」

優しい王と王妃。
王家の家族にだけ開放された庭は広く十人以上いるメントスの兄弟といつも一緒に遊んでいた。王と王妃は普段は忙しくなかなか構ってはくれなかったが、たまに時間が取れるとメントスをよく可愛がってくれた。暖かな記憶。
そして少年はだんだん大人になる。
子供のころの純粋な憧れは、年齢を重ねるごとに否定され、周囲はどんどんメントスを置いていった。
モンスターのいないこの平和な国では伝説の中では正義と強さの象徴であった剣の力などある一定以上習得すればさほど必要のないものとされ、どんなに修練しても褒められることはなくなった。
変わりに、政治学や帝王学など人を統治するための学問が求められた。

「メントス?この成績はなに?」
「剣術などできてもなんの足しにもならん。一体お前は何をやっているのだ?」

「王、聞きましたか?メントスがまた、授業をサボったのですって。」
「まったく、他の兄弟は優秀なのになぜあの子は…。」

他の兄弟は学校に上がると同時にめきめきと学力を上げ、全てがAクラスにいった。
それなのにメントスは学園に入るなり授業についていけず、あっという間に劣等生になった。
王族なのにZクラス。
皆は彼をあざけった。
だが、彼には剣術があった。そして、その力で周りの声を黙らせた。
だが、そのことが、返って彼の評判を落とし、両親さえ、彼を持て余すようになった。
皆が勉強で認められるように、ただ剣術で認められただけだったのに。
そして、メントスにはかつてあれほど幸せな場所だった実家が、最も忌み嫌う場所になった。
両親がわずらわしくて仕方がなかった。
もう何年も国には帰っていない。

メントスは走った。
走る。走る。
不気味に伸びる木々は空を覆いつくし、すでに日暮れも間近な時間。
あたりは薄暗い。
森の中は木の根がむき出しになり、人の入らない場所だけあって獣道のようにまともに歩くことさえ困難だ。
だが、メントスは躊躇なく走った。
突き出た小枝が、容赦なくむき出しの肌に当たって、そのたび細かな傷が付くがそんなことは気にならなかった。
まっすぐ走った。ただ悲鳴らしき声の聞こえたその場所へ。
モンスターがでると言われる薄暗い森、謎の悲鳴。

(これ以上にないくらい英雄の登場シーン!!)

まるで物語に出てくるようなシチュエーション。
メントスは周りが見えないくらい舞い上がった。
背中に背負った重量級の大剣も、重さを感じないくらい夢中になった。
走って、走って。
そして視界が開けた。

「ぐがああああああぁぁぁぁ!」
「きゃあああああ〜〜〜!いやああああ〜〜!!」
「…………。」

メントスは唖然とした。
そこには逃げるキラートスの子供に泣きながら高速の鉄拳を振り下ろすメントスたちと同い年くらいの少女の姿があった。
見たことの無い少女で一般のよくある農村にいる村娘のように見えた。
長い黒髪のなかなかの美人だ。
が、子供とはいえキラートスに振り下ろす鉄拳の威力はとても普通の村娘とは思えない。
対するキラートスはまだ成長途中といった感じで、まだあどけなさを残していた。
キラートスは全身を黒い剛毛に覆われた熊に似た魔物だ。
知力はないが、非常に凶暴で力があり、その腕の振り下ろし一発で人を死に至らしめるほどの威力を誇っている。
手足に白いラインが二本ずつ入っているのが特徴である。
五百年前の戦争の中でも生き残った魔獣で、その毛皮の利用価値があり、人間にとって害獣とはさほど言えない事から、駆逐されることなく、割と現在でもポピュラーな魔物として生息が確認されている。
だがいくらポピュラーとは言え、魔物である。
キラートスは特に熊よりはるかに大きく凶暴ことで有名であり、その子供と言えど、身の丈はメントスの倍はある。
その子供のキラートスをメントスと同じくらいの少女が素手でいじめて…いや、立ち向かっい、勝っているのだ。

「いやあぁぁぁ〜!こわい〜〜!」

少女は叫びながら拳を突き出す。
少女のコブシがキラートスの腹にストレートで決まる。

「ぐごごごぉぉぉ!」

キラートスが雄たけびを上げる。
まるで稽古でやるような綺麗な正拳突きだ。
だが、キラートスも伊達に魔獣ではない。
少女の正拳突きになんとか耐え、拳を突き出したままの少女の頭にめがけて必殺の腕の一撃を振り下ろそうとする。

「あ!」

少女の二倍はあろうかと思える巨体から繰り出される一撃は、体からは想像もつかないほど俊足で、いくらキラートスを圧倒する少女でも回避は無理だと思われた。
だが、少女の行動はメントスの想像を超えていた。

「ひっ!きっあああああああああああ!」

悲鳴を上げる少女の高速連打の拳がキラートスを襲う。
早すぎて見えないが、何発、いや何十発もの正拳がキラートスを襲う。
しかもその一打一打が重い音を響かせ、攻撃の強さを伝える。

「いいやぁぁぁ〜!こないで〜!!」
「ぶごおおおおおお!」

強烈右手アッパーがキラートスの顎を捉えて、何百キロはあろうかと言う巨体が宙に浮いた。
それから、どおぉんと音がしてキラートスが地に落ちる。
もうもうと土煙が舞う中、右手を振り上げて泣く少女の立ち姿だけがそこにあった。

「ふえぇぇぇ〜ん。こわかったよぉぉぉ〜。」

(あの人ってなにもの?!)

「おお〜い!メントス!」

唖然としていると、声が聞こえた。
後ろを振り向くと、カールたちが追いついてくるのが見えた。
だが、その声に反応したのはメントスだけではなかった。

「あっ!人がいる!」
「え?わっ!」

突然泣いていた少女がメントスめがけて飛びついてきた。

「助けて〜!キラートスが襲ってきたの!」
「え?え?」

腰の辺りにまとわりつかれ、混乱する。
キラートスを襲っていたの間違いでは?とは思うが、口に出せるほど冷静ではない。

「…なにしてますの?一体。」

サシャの冷ややかな声が飛ぶ。

「え?あ、これは!」

慌てて弁解しようとするが、何を弁解すればよいのかわからない。
考えている間にも誤解は深まっていく。

「突然飛び出して言ったかと思えばぁ〜、知らない女の子をお連れでよい雰囲気ぃ〜。」

後で追いついてきたマーブルも白い目を向ける。

「メントス!見損ないましたわ!女にだらしないのはカールだけだと思っていたのですけど、貴方もだったなんて!」
「…だらしないって。」

カールの引きつった突っ込みは完全に無視される。

「ふええええ〜〜ん。怖かったよ〜〜。」
「…しかも、泣かしてる。」

アポロが無表情につぶやく。

「俺のせいじゃねえ!」
「まあ!男らしくない!ちゃんと責任を取りなさい!」
「なんの責任だよ!?なんの!」

騒がしく下らない言い合いをする同級生にカールが控えめに声を掛けた。

「ええっと、いいかな?ともかくそこのお嬢さんに話を聞けば、いろいろわかるんじゃないか?ついでに森の抜け方も。」

その言葉にはたっと罵り合いが止まる。

「それもそうですわね。」
「そうだね。漸く森から出られるかな?おなかすいたぁ〜!」
「まだ、決まったわけじゃないけどね。だけどまあ、」

カールは苦笑しながら、メントスの腰に抱きついたままの少女に声を掛けた。

「お嬢さん?ちょっと話を聞かせてもらえるかな?」
「ふにゅ?」

涙を貯めた黒い大きな瞳が不思議そうにこちらを見た。







メントス、あほですな。
英雄の登場シーンとか。
書いていてあほ子だな〜とちょっといとおしくなりました。
さてさて物語はいろいろ謎が増えてきたのかいないのか。
謎の少女の正体は一体なんなのか!?
以降次回!
特設頁

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