第15話 少女と金魚《完結》
清矢郎はその白い肌から顔を上げると、裸の少女を見下ろした。そして……昔から、こいつはこーゆーヤツだったよ、と心の底から実感し嘆息していた。
もちろん、その黒い瞳に嘘はない。あさぎは絶対に嘘はつかない純粋な子であると彼は知っている。
清矢郎には無論、金魚は見えていない。だが、あさぎには「見えている」らしい。
それは金魚がこの空間に存在するしない、という議論ではなく、「それを見えていると思うあさぎ」は、事実そこに居るのだから、後はそう思う気持ちごと彼女を受け入れるか否か、彼女自身を信じるか否か、なのである。
とまあ色々と考えてはみるものの、正直、この先をするのが嫌になってそんなことを言い出したんじゃないのか、自分が何かマズいことしたのか等々、清矢郎も心の中では密かに思い悩みながら、その結果、やはりどのような表情を浮かべてよいのか分からず、あさぎを睨むように見つめることしか出来なかった。
そんな清矢郎の男心を知らないあさぎは、最も恥ずかしい部分に触れられて、己が狂い、正常な思考ができなくなってしまう前にちゃんと言っておこうと、真っ直ぐに彼を見て全てを打ち明けた。
「あの日、せいちゃんに、触られてから、見えるようになったの。最後に、おまつりでとってきたのと同じ金魚が……」
清矢郎はいつものように黙って、あさぎの不思議な話を聞いていた。
「それから、せいちゃんのこと、考えるたびに見えるようになったの。今も、また、見えてる……」
えっちな気持ちになると見えるの、などと言えるわけもなかったが、結局そういう時は清矢郎を愛しく思い、欲する時でもあったので、あさぎはそのように言い換えた。
それを口走ったのは、不安に思ったからでもあった。清矢郎は自分に眼を向けてくれた、今はもう、自分を大事にしてくれている。それなのに――、
「どうして、まだ、見えるんだろう……」
この金魚があさぎの性欲の現れだとすれば、最初に見た時は、近親者に襲われたというショックから逃避するため、憧れていたその相手を性の対象として欲するように思考回路が変更された――少女はそのように解釈していた。今となっては彼とこうしていることが幸せなので、それは哀しい過去だとは思わないが。
そしてその性的欲求は叶っている筈だった。その時金魚は消えるものだと、あさぎはずっと思っていた。
それなのに、あさぎに金魚はまだ見えている。
――もう、十分なのではないか?まだ彼と繋がっていないからか?まだ自分は彼を欲しているというのか?
これほど、幸せなのに、まだ――。
あさぎは己の欲望の底が見えなくなり、自分でも自分が恐ろしくなってしまっていた。
あさぎの不安げに揺れる瞳に、清矢郎も眉を寄せ、心配そうな顔をした。彼女の言っていることはよく分からないが、あさぎが哀しむようなことは嫌だと彼は思っていた。
そして彼女の言葉と、彼にそれを言うということから、清矢郎はひとつの結論を導き出した。
「どっちにしろ、俺の所為なんだろ、それも。……俺がお前を、そんな風にしたんだろ。あの日に」
また清矢郎は彼自身を責めるような表情をしていた。そういうつもりではなかったあさぎは慌てて言った。
「こ、こういうのも含めて、責任、とってくれる……の?」
「……って実質、責任っつーよりは約束だけど、……とるよ」
ガキの分際で責任なんて口にするのはおこがましいよなと思いながら、清矢郎はそのようにあさぎに誓った。
金魚が未だに見えることは不安ではあるが、この金魚たちと一緒に自分を受け入れてもらえることは分かり、あさぎはほっとした。そこで、もうひとつ尋ねた。
「私のこと、おかしいって思う……?」
まるで人形のように白く細い裸体を横たえ、対照的に黒くさらりとした髪をシーツの上に散らして尋ねる少女に向けて、少年はふっと苦笑した。
「今更。――あさぎらしい」
その瞬間、あさぎの視界の中に金魚が増えた。嬉しい、と思ったからだろう。
あさぎは微笑んで、少年の広い背中に再び手を回し、二人は抱き締め合った。
――好き、と少女は初めて囁いてみた。囁いたそれは、思った以上に気持ちいい言葉であった。
一秒ごとにその気持ちが、少女の中で増えて確実なものになっていく。
きっと、最初から歯車は狂っていた。狂ったまま、この恋愛感情に似た新しい気持ちが生まれてしまった。だからこの気持ち自体、狂っているのかもしれないが、もうそれでもいいとあさぎは思っていた。
自分を認められて、求められる。自分も相手を認めて、求める。
これ以上の幸せは、少女にはやはり見つからないのだ。
あさぎはまだ経験の浅い子供だが、まるで自分の世界が生まれ変わるくらいの喜びを感じられることなど、一生のうち、そうないことだろうと自信を持って言えると思っていた。
寧ろこの瞬間に勝るものがないと感じるかどうかは、ただ、この瞬間をただ無心に信じていればいい。それだけのことである。
金魚が次々に増え、泳ぐ。
彼が欲しい、彼が欲しい――少女は渇望する。
少女のもうひとつの告白が終わり、再び営みの続きは始まった。
甘い蜜で溢れかえった股の間に彼の顔があり、熱い舌で触れられる。その奥へと指を挿し入れられ、あさぎは初めての異物の侵入に、痛みを感じ清矢郎に訴えたが、それ以外は背筋がぞくぞくする快感に身震いしていた。
背を逸らし、黒い髪を乱して喘ぐ。身体はまだ未成熟でも、少女のその反応は妖艶な「女」そのものであり、少年を存分に満足させ、興奮させていた。
そして相手への信頼感と、彼女自身の性の経験から、たどたどしくあさぎが要求することで、彼は確実な場所と力加減を知ることができ、稀なことにも初めての交わりにあるにも関わらず少女は絶頂に達した。
愛しい男の腕の中で、身を震わせられる――恐怖と恥ずかしさはあっても、涙が出るほど嬉しいとあさぎは感じた。そんな彼女を抱く清矢郎もまた、同じ気持ちであっただろう。
そして最後の時が訪れる。
ようやく脱がれた彼のジャージであるが、それは彼自身見せることに抵抗があったのか、それともあさぎにショックを与えたくなかったのか……おそらく両方の理由だろう。
そのまま清矢郎も一糸纏わぬ姿になったものの、あさぎも流石にそちらにはじろじろとは眼を向けられなかった。
しかしそれでも少女が気になり、ちらりと見てみた「それ」――屹立した男性の象徴は、彼女の想像を絶する形状であり、大きさを考えてもあの狭いところに本当に入るのかと、あさぎは泣きたい気分になった。
それは彼も理解しているようで、最後まで心配はしていたし、初めからそれに無理矢理触れさせようなどとは思ってもいないらしい。あさぎはこの時自分が恐れるばかりで、そうした彼の優しさにまた気付いておらず、後ほどまた己の甘えに呆れることになるのであるが。
それでも実際に痛い思いをするのは少女の方である。だが、あさぎは後に引きたくなかった。痛くても恐くても、彼の全てを手に入れ、他人とは成し得ない関係を成立させたかった。
避妊具を装着した清矢郎があさぎに覆い被さる。しかしいくら覚悟を決めても、その瞬間は、痛みのみが少女の感覚を占めた。
「――痛……っ!!」
少女の悲鳴に少年は切ないような顔をするが、やめないでとあさぎは顔を顰めて首を振る。
奥まで進み入れられ、大きな異物が体内に押し込まれる痛みに少女はシーツを掴んでただ耐える。どうすると問われながらも、最後までして欲しいとあさぎは息も絶え絶えに要求する。
最奥までそれを進めた後、少年の腰はぎこちなく動かされたが、少女としてはいっそそうされた方が痛くないような気がしてきた。
初めてのそれは、非常に痛くて「好いもの」とは思えなかった。それでもあさぎは、彼を手に入れた、彼に手に入れられたというこの事実が欲しかった。
少女は涙を零しながら清矢郎の顔を見ようとしたが、眼を開けると、彼女の視界は真っ赤な金魚に覆われていた。
これは痛みによるものだろう。痛みから逃れるためと、快楽が伴っていないのでそれを求めて、あさぎの深層心理が具現化されているのだろう。
――やめて!私は彼を見たいのに。私と繋がっている時の、感じている彼の表情が見たいのに!!
最初に唇を交わした時とは、いつの間にか逆のことを思うようになっていたあさぎは、ぼろぼろと泣きながら首を振る。
――痛くてもいい、今は現実がいい。今は現実のあの人をもっと感じていたい。
あさぎはそう切望していた。
しかし彼と繋がっているはずなのに、どうして金魚が見えるのだろうか。
彼を手に入れ、彼と結ばれ、少女は満たされている筈だった。それなのに、どうして――。
気がつくとあさぎは接合したまま、彼に唇を塞がれていた。そして唇を軽く吸われた後、頬の涙を舐め取られた。清矢郎は涙を流すあさぎを、ただ切なげに、心配そうに見つめていた。
彼の顔が間近に見える。至近距離ならば、金魚に邪魔されることはなかった。あさぎは必死で裸の清矢郎に縋りついた。
――傍にいて、離れないで、と子供のように彼にせがんだ。
それを抱き返し、安心させるように彼はあさぎの頭を撫でてくる。
繋がったままの姿勢であるので少年の息は時にとても荒く、何か込み上がって来るものを堪えているようであったが、あさぎのことを想ってくれていることは伝わってきた。
寧ろ彼自身が、快感を得る代償にあさぎを苦しめていることに罪悪感を抱きつつも、身体はそれに反して想像以上の甘美な刺激に悶えているような、それをあさぎに必死に隠しているような、そんな風に思えた。
だから少女は耐えた。
自分が悦ばされたように、今度は彼にも悦んで欲しい、自分の身体が少しくらい傷ついても、自分の肉体で彼を絶頂に導きたい。心も一緒に求めてもらえるならば、己の身体を滅茶苦茶にされても構わない――あさぎはそう思っていた。
相手に一層激しく腰を振られ、その衝撃が少女の子宮に伝わり、痛みと金魚の群れが少女を襲う。その触覚や視覚の狭間からどうにか彼の表情を確かめながら、あさぎは様々な角度から清矢郎を受け入れ、蹂躙されていた。
それら全てが最高潮に高まる時、彼の低い呻き声が聞こえたと思うと、砕け散るように何かが己の中で脈打ち――、そして、初めての行為はようやく終わりを告げた。
清矢郎に身体を離され、疲れ切った様子でベッドに横たわったあさぎは、ぼんやりと未だ現れる金魚の群れを見ていた。
その身体の下には、まるで赤い金魚のような小さな染みが出来ていた。
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終わった後の清矢郎もまた、無口であるが優しいものであった。男性の中には事後に急に冷たくなる人もいると噂を聞き、それを恐れていたあさぎは、初めてを捧げたのが彼のような男でよかったと、心底思う。
シーツを汚したことはかなり恥ずかしいが、彼に後始末をお願いすることになってしまった。少女はそれを見ないようにしながら、少しばかり彼の腕の中で休んだ後、服や髪を整え、家に帰る準備をする。
互いに服を着て、交わったばかりの彼の部屋を出れば、そこはもう「日常」の始まりであった。本当にこれから、「約束」は守ってもらえるのかと疑問に思うほど、あっさりと元の空間に戻ろうとしている。
不安になったあさぎは玄関先で、また求めるように清矢郎のTシャツを引っ張ると、二人は軽く唇を重ねた。
また会いたい、またメールすると約束を交わし、駅まで送ろうとしてくれた彼を、周囲に知られてしまうからと断り、あさぎは清矢郎の家を出たのであった。
家に帰ったあさぎは、家族に知られることがとにかく恐ろしく、内心では冷や汗をかきながら懸命に、なんでもないように演技をしていた。
しかし浴室でひとりになり、少女が自らの状態を確認すれば――、脱いだ下着は粘液が固まった状態でこびりついており、それを見てはぞくりとし、彼に舐られ、痕をつけられた裸を見ては、処女喪失の現実に恥ずかしくなり、全てを忘れ、洗い流そうと湯船に入る。
だが表面的な汚れは洗い流せても、穢され、傷つけられた内部はもう元には戻せない。染みる陰部がそれをしっかりと証明している。
少女は今までの自分と何も変わらないのに、今までの自分には戻れないというのが、不思議な気がしていた。
風呂から上がり、あさぎは暗い部屋のベッドの上に倒れ込む。
遂にしちゃったんだ……、とドキドキと胸が高鳴り眠れないことを、熱帯夜の所為にする。
こんな暑い夜にも、赤い金魚は涼しげに闇を泳いでいる。それを見ながらあさぎはまた疑問に思う。
――彼とは結ばれたのに、私はまだ「何」が足りないと思っているのだろうか?
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夏休みが始まった。あさぎは受験生の清矢郎の邪魔をしたくないと思うものの、ついこちらからメールを送り、会う約束もしてしまう。
しかし彼曰く、会えなくて苛々しているのも精神衛生上よくないし、勉強に集中出来ないとのこと。いつの間にか、彼も自分を求め始めてくれたのかと思うと、あさぎはまた単純に嬉しくなる。
初めてのセックスの次に会った時は、前にあった出来事や乱れた自分を思い出して、少女は恥ずかしさに顔が熱くなった。少し気まずい空気もあった。
金魚がそんな二人の間を舞っていた。
まだ高校生であるし、毎回セックスをするような付き合いではなく、何処かへ遊びに行くくらいの時は、キスがせいぜいでそれ以上のことはしなかった。
あさぎとしては彼の家に入り浸る真似も、家族に知られてしまいそうで恐くて出来ない。
それでも、何回かに一回は、物陰で、少し抵抗があるけど公衆トイレで、時々は彼の家で――と、接合まではしなくても、局部を互いに弄り合い、覚えたての性を貪ってしまう。
少女は自分に被さる男のその背後に、赤い金魚を見ていた。
生理は順調に来ていたので、危険日には注意しながら、二人は夏休み中にもう一度最後まで結ばれた。
それはまだあさぎに痛みを感じさせるものの、前よりは痛くないと思えた。体位を変えれば少し「イイ」と思える瞬間もあった。
それでも、金魚はまだ見えた。
二人ははたから見れば仲のよい真面目な恋人同士に見えるだろう。
順序は逆だが、実際、彼との関係が始まった日々は、時々思い通りにいかずあさぎが拗ねることもあるが、とても楽しいと思えるものだった。
それなのに、何度結ばれても、何度絶頂に押し上げられても、拙い性の営みの際に、少女の視界に赤い金魚は現れ続ける――。
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九月になり新学期が始まって早々、あさぎの高校では文化祭が行われた。文化祭では文芸部は部誌を印刷所に発注し、売り物として販売するのが恒例である。その原稿の締め切りは、夏休み中にあった。
あさぎは夕映と二人で、当番の時間帯の販売に携わっていた。販売場所は中庭を割り当てられている。
部員たちも入稿の際に他人の原稿を少しは見ているが、やはり本になったものをしっかり読みたいと、今日初めて読んだという部員も大勢いた。
あさぎや夕映も暇つぶしもあり、その部誌を捲っていたが――、
「おっつかれさん!」
と美人文芸部長がやってくると、クラスの出し物だとかいう大きなかき氷を二人の前にひとつ、どん、と置いた。
「すみませんー、ありがとうございますー」
二本刺さっているストローのうちの一本を手に取ると、夕映がそう言って早速しゃくしゃくと食べ始める。
そして部長の彼女は、あ!と気付いたようにあさぎの方を見ると、その綺麗な指であさぎの手をぎゅっと握ると突然、こんなことを言った。
「今回の、山本さんのやつ、すっごいよかったよ! なんかすごい、伝わってくるものがあった!」
あさぎはぽかんとして、その美少女を見上げていた。
なんのことか分からなかったが、やがて今回の部誌に載せた詩のような文章のことであると分かり、あさぎは、かあっと顔を赤くした。
「そ、ですか……?」
「うん、気に入った! また頑張って書いてねー!」
あさぎが「ありがとうございます」と消え入りそうな声でお礼を言うと、賑やかな部長はぶんぶんとあさぎの手を振り、颯爽と消えていった。
「よかったじゃんー」
夕映はあさぎにかき氷を渡すとにやにやと笑っている。その含みのある言い方に、あさぎは少し頬を膨らませて彼女を睨んだ。彼女にはあの初めて結ばれた日の事を少し話したのだ。身体のことで、相談したいこともあったから。
その時の経験を言葉にした作品なのだと、事情を全て知っている人には読めば分かってしまうのかもしれなかった。
心が震えたこと、身体が感じたこと、人と想いを重ね合わせたこと――その想いを言葉にしてみた。
それは緋色の檸檬水に溺れた、一匹の金魚の話だった。
夕映が男友達に呼ばれて席を立ったので、あさぎがまたひとりで座っていると今度は、
「暇そうだなあ」
誰かにもらったのか、水ヨーヨーをぱしゃぱしゃと叩いている荒芝が現れた。
密かに清矢郎にメールでもしようかななどと思っていたあさぎは、「ええ暇です」と言いながら、携帯電話を隠すように閉じた。
「でも、よかったじゃねえか、お前さんの、好評で」
荒芝にも言われ、あさぎは驚いたように彼を見上げた。
「中村がえらく褒めてたぞー」
中村とは先程の部長のことである。確かに自分が憧れている人に褒められると、素直に嬉しい。
そして何よりも、自分の言葉が、想いが、人の心を少しでも動かしたというのは、なんの力も無いあさぎには初めての経験であった。
後から考えると、徐々にじわりじわりと嬉しくなってきて、ちっぽけな少女は少しだけ自分自身が好きになれそうな気がしていた。
こんな発見は、今までの自分にはなかった。こうして彼と、時を一緒に積み重ねていくことで、何気ないところから世界は広がっていくのだろうか。
こんな自分も変わっていけるだろうか――。そう思うと、あさぎの心が性欲とは全く別の心地よい期待に高まってくる。
「まあ、上手くやっとくれ。……でも、子供は作るなよー」
荒芝はそう言うと、また水ヨーヨーを叩きながら笑って立ち去っていった。
「……」
何の話よ!このセクハラ親父ー!!とあさぎは思わず叫びたくなり、机に手をついて立ち上がった。
自分が過去、悶々と悩んでいたことと、その相手が清矢郎であることを荒芝は知っているから、もしかしたら彼もまた、あさぎの文章から「何か」を察したのだろうか。
そこであさぎは、はあ、とため息をつく。
自分の想いはそんなに人に分かるほど溢れ出しているのだろうかと自分でも悩んでしまう。それこそ、幻影を見るほどに、強く、強く――。
どれほど彼と身体を重ねても、まだ金魚は見えるのは、何故だろうか。
それはもっと上の、それこそ失神できるくらいの極上の快楽が、その先にあるからだろうか。それを自分のこの淫らな身体は求めているのだろうか――と思わず想像し、あさぎはそんな自分に戦慄すら覚えそうになる。
自分が求めているものは、一体何なのか?こんな自分は、おかしいのだろうか?
こんなこと、やはり彼に言えるわけもない、とあさぎは切ない想いにひとりで首を振る。
――自分の秘めたる、激しく狂気的な情欲のことなど。
その時、メールの受信メロディが鳴った。携帯電話を開けてみると、珍しくこんな時間に清矢郎から届いていた。
脅迫のように告白して結ばれたという負い目や、大人っぽい彼への劣等感があさぎにはあるので、こうして彼から自分を気にしてくれるのは、今でもやはり嬉しい。
少女はメールを確認して顔を綻ばせ、水色の携帯電話を音を立てて閉じながら、秋の澄んだ色になった高い空を見上げた。
綺麗な青空の下に、赤い金魚が今日もぷかぷかと浮かんでいた。
それを見た少女の身体に、じんわりと熱い何かが灯った――。
〜END〜
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