演劇部の暇な日常
この小説は伽砂杜ともみ様主催。ぱんぷきん祭参加作品です。
部室に近づくにつれて、言い争いをしている声が、扉の向こうから聞こえてくることに気付いた。
「またやってるのか」
泉谷完は、大きく溜息をついた。
完の所属する越智木漏れ日学園高等学校演劇部は、いわゆる弱小クラブで、部員もクラブ存続ぎりぎりの六名しかいない。扉の向こうから聞こえてくる声は二人分。完を除いて残りの三人は幽霊部員なので、部室で怒鳴り合っているのは、同級生の高宮と藤井だろう。
「うるせぇ! このカボチャ野郎が! てめぇが主役なんて百年早いってんだよ」
「よくも言いやがったな、つうかカボチャ野郎ってなんだ。このスマートでイケイケな俺様のどこがカボチャだっていうんだ馬鹿」
扉を開けると声が大きくなった。さすが、演劇部。腹式呼吸ばっちりの大声――というより怒鳴り声――を耳にして、完は苦笑いを口元に浮かべた。完の目の前で言い争いを続けているこの二人は、やはり高宮と藤井だった。暇を持て余しているせいか、よくこうやって怒鳴り合っている。最近はもう習慣になっているのではないだろうか。
部室に入ってきた完に気付いた藤井が、切れ長の目を向けてきた。
「完。ちょうどいいところに! 高宮の奴、次の劇は自分が主役やるとかぬかしてんだぜ。どう思うよ」
完は男にしては大きな目を少し見開いた。さっそく自分にきたか。タイミングが悪かった。半ばあきらめの境地で、藤井から自称スマートでイケイケの高宮に目を向ける。確かに、高宮は細い。イケイケかどうかは知らないが、カボチャ野郎はちょっと違う気がするなぁと思っていると、とうの高宮が何か言えというように、メガネの奥の目を細めて完の腕を少し小突いた。
また、巻き込まれてしまった。
完は溜息をつく。
「よく飽きないね。毎日毎日こんな事ばかりして」
完の言葉に、高宮と藤井は似たようにニヤリと笑った。
「ていうか、俺の質問に答えてねえし」
「知らないよ。次の劇とか言うけど、題材もいつやるのかも決まってないじゃないか」
完は持っていたカバンを部室の脇にある棚に突っ込みながら、淡々と答える。狭い部室は二人の言い争いのおかげか、外が寒いことを忘れそうなほど温かい。完は着ていたコートもついでに脱いで、棚に押し込んだ。
「完、完、かーん。それは言いっこなしだろう」
高宮は口の端をあげると、なぜか一度くるりと回って、完の顔の前に人差し指を一本立てて振った。ミュージカルか! とツッコみたくなるのをこらえる。高宮の顔がそれなりに整っているだけに、仕草が妙にキザに見えた。
「うわーヤダヤダ。高宮って、何でこう、仕草が大げさになるかね」
藤井が嫌なモノを見たというように顔を顰めている。
「根がナルシストなんだよ、高宮は」
「はっきり言うじゃないか。失敬だね君たち」
高宮が少しずれていた眼鏡を指で押し上げながら、冷たい目で完たちを見る。
「ちょっと何キャラだよそれ」
完がツッコむと藤井が思わずと言ったように、口元に手をやった。腕が震えているところを見ると笑いたいのをこらえているのだろう。
笑ったら負けだもんなぁ。
そう思って、完は冷めた目で、二人の仲間を見比べ、そろそろこの無意味な時間を終わらせようと思った。
思ったが、負けるのは嫌だ。それに上手くいけばこのまま終わる。
「冷静だな。完は相変わらず」
冷静と来たか。やるな高宮。
心の中で思わずうなってから、完は藤井を見た。藤井は、完の視線にうろたえたように、口元を押さえていた手を下す。少し考え込むような表情をしてから、口を開いた。
「ず? ず、ずりーよな。完は。いっつも俺達より喋んねぇしさあ」
「あ、それは俺も思ってた。そうか、分かった。完がいつも勝つのはそのせいか」
完が言うより先に高宮が声を上げた。矛先がこちらに向かってきた。藤井がどもったことに対してツッコむべきか考えていて、声を出すのが遅れた。二人が黙ってこちらを見ている。完は少し考えて、俯いた。もうそろそろ終わらせたい。
「勝手なこと言わないでよ。僕はいつも二人が始めたあとに来てるんだよ。何だよ、二人して僕の事責めてさ。酷いよ……」
完はゆっくりと顔を上げて、自分より背の高い二人を見上げた。
二人は息を飲んだ。
完の大きな目に涙が浮かんでいた。男にしておくにはもったいないと言われる可愛いい顔立ちが、こういう時だけは、役に立つ。完は言葉を続ける。
「……酷い」
ダメ押しとばかりに、瞼を閉じて目にためた涙を頬に流した。
「な、泣くなって。完」
藤井が慌てて声を上げた瞬間、高宮は、はっとしたように藤井に目を向ける。
頬に流れた涙と、目じりに残った涙をぬぐうと、完はにっこりと笑顔を作った。
「はい、藤井の負けー」
高宮と完がそろって、藤井を指さしながら宣言する。
藤井は瞬間、呆気にとられた顔をしたが、すぐに悔しそうに唇をゆがめる。
「がーっ! また完にやられた」
頭を抱えて、ひざをつく藤井。高宮を仕草が大きいと馬鹿にするが、藤井も大概だと完は思う。
「残念だったな。藤井。俺も危うく完にのせられるところだったけど」
高宮はニヤニヤと笑っている。
「泣くのは反則だろう」
床に膝をついた藤井から恨めしげな目を向けられ、完は肩をすくめた。
「何言ってんの。これは『演劇しりとり』何だから、演技しなきゃ意味ないだろ」
そう。完が部室に入った時から越智木漏れ日学園高等学校演劇部名物『演劇しりとり』――という名の暇つぶし――は、始まっていたのである。
『演劇しりとり』とは、即興演技をしながら、しりとりをするという、名前そのままの遊び。もとい、遊びを兼ねた演技の練習である。
相手が言った台詞の語尾を取って台詞をつなげる。
それがルール。
明らかに、おかしなつなげ方でなければ、問題なし。前の人が言った語尾に続けられなければ負け。もちろん、普通のしりとりと同じように語尾が『ん』になっても負けである。ちなみに、一分以上誰も言葉をつなぐことができなければ、最後に発言した人間が勝ちになる。
藤井は完の台詞の最後である『酷い』の『い』から続けなかったばかりか『完』と最後に『ん』で台詞を終わらせてしまったのである。
今回は藤井の完全なる敗北であった。
「よっしゃ、次は負けねぇぞ。さっきのテーマは喧嘩だったから、次は家族とかにすっか?」
しばらくして、藤井は立ち上がった。
立ち直りの早いのが藤井の良いところだ。
「いいねぇ」
高宮がパチンと指を鳴らした。意味の無い仕草である。高宮がやるとキザに見えるのは何故だろう。と、思いつつ完は呟く。
「どうせ僕が勝つのに二人とも懲りないよね」
藤井と高宮はキッと完に視線を向け、異口同音に声を上げた。
次は絶対勝ってやるからな。完!
あけまして、おめでとうございます。
2013年初の作品ということで、ぎりぎり1月なので、このご挨拶でいかせていただきます。
さて、今年初の小説(と、呼んでいいのかなんなのか)な作品となりました今作。いかがでしたでしょうか。
初めて、なろうに直接書いた作品になります。(いつもは、ワードで書いたモノを転記しているのだ)
そして、初めて、ダッシュを作品内で使いました。
何事も挑戦! と、いうのが、愛田が企画モノに参加するときのモットーです。
そう、今回は企画モノです。
そして、ずっと使ってみたかった、ネタをダダダっと勢いに任せて書きました。短いお話なので勢いだけで読んで下されば嬉しいなと思います。
今回は、仲良くさせていただいている作家仲間さんの伽砂杜ともみ様が主催されている『ぱんぷきん祭』用に書き下ろしたモノになります。
2013年1月31日までですが、後夜祭は2月末までとかですし、よろしかったら参加してみませんか?
企画参加の上での注意はこんな感じです。
文章内に、1度でも『かぼちゃ』または『パンプキン』の文字を入れてください。
食べても、通りすがりの畑でも。登場の仕方は、ご自由で構いません。
ご自身でお持ちの作品のキャラクターを出演させてもOK。
ただし、その作品単体でも読める作品でお願いします。
版権・ファンフィクションは、禁止いたします。
投稿されたイラストに小説を書く時にも、かぼちゃ・パンプキンの文字は必要になります。
と言った具合です。
イラストも募集されていますので、イラスト描きさんも一緒に参加しませんか?
ってことで、久しぶりに小説書きました。
楽しかった~♪
次は、長編が書きたいなぁ。(←願望)
ふざけた作品ではありますが、お楽しみいただけていれば幸いです。
ではまた。
お会いできることを願って。
愛田美月でした。