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輪廻

作者: ことは

『輪廻』


 突然だが、俺の話を聞いてくれ。

 俺は山田。苗字も顔も平凡な高校生。

 だが今日の俺は昨日までの俺とは違う。


 どこが違うって?

 ふふん。聞いて驚いてくれ。


 なんと俺は前世の記憶を取り戻したんだ!


 どうだ。驚いたか。俺は驚いたぞ。

 だって朝起きたら記憶が鮮明にあるんだもん。

 これは夢なんかじゃないってなんか分かっちゃったんだもん。

 違和感なくスーって受け入れられちゃったんだもん。

 スーってさ。わかる? うまく説明できないけどそういう感覚。わかるだろ。


 でさ、俺の前世がさ、またすごいんだよ!

 なんだと思う?

 はい、シンキングタイムスタート!

 ブー! 時間切れ!


 正解はエルフでした~!


 エルフ知ってる?

 耳が尖って背中には羽が生えてて飛べるの!


 すごいだろ!

 空を飛べるんだぜ!

 ただ本気で飛ぼうとする時は

 羽をどっこらせと大きくしないといけないんだよ。

 エルフつってもサイズは人間と同じだから、その体重を支えるにはそれ相応の羽が必要なわけで。

 飛ぶ時の姿はスラッとした蝶ってより、ボテっとした蛾って感じだな。

 今、想像して引いたヤツ。正直に手をあげろ。


 言っとくがな! 飛ぶ時はアレだけど、普段はコンパクトで可愛い羽なんだからな!


 容姿の話をすると、エルフだった時の俺の髪は青色で、目は赤色。

 かっこい~。てか、周りにいたエルフも同族なのか、みんな似たような色ばっかりだったけど。なんか細かいことはよく覚えてない。

 でもでも! 青と赤なんて鮮やかだろー!

 今の世界じゃそんな人間が歩いてたら好奇な目で見られちゃうよね。


 ほんと生きにくい世界だよ。

 あ。そういえば今日は頭髪検査だった。

 短髪黒髪の俺には関係ないけど。


 なんかさ、記憶を取り戻すと、

 ちょっと心が大きくなったっていうか、

 こう、自分がでかくなった気になっちゃうだよね。


 平凡な俺が実はエルフの生まれ変わりだったなんて!


 なんかこれからの未来、俺何かでかいことができちゃいそうじゃない?

 だって元エルフだよ! エルフ!


 見えるだよ!

 いつも日陰でひっそりと生きていた俺が表舞台で華々しく生きている姿が!


 そう! 

 例えば今、俺の前を歩いている男、クラスメイトの二階堂(にかいどう)よりも!


 二階堂。


 苗字が格好いいのが気に入らない二階堂。

 首席で入学したのが気に入らない二階堂。

 男前で女子に大人気なのが気に入らない二階堂。

 ついで男子にも人気なのが気に入らない二階堂。


 容姿端麗頭脳明晰のこいつを、俺はとにかく気に入らない!

 ひがみじゃない! 断じてそういうんじゃない!


 だが、そんなひがみ………もとい、反発ももう終わりだ。

 なんせ俺はただの人間じゃないんだ。

 エルフの生まれ変わりだ!

 おまえとは違うんだ!


「二階堂、おはよう」


 俺は初めて自分から声をかけた。

 二階堂が振り返る。くそ! マジ男前だな!


「山田か、おはよう」


 いつもなら絶対に近づくことのない二階堂の隣に並び一緒に歩く。

 我ながら大胆だ。しかし、今の俺に恐いものはない。

 俺とコイツでは格が違うのだ。


「おまえ、いつもと雰囲気が違うな」


 二階堂の言葉に俺の心が弾む。

 わかるか? 二階堂! その通りだぜ!

 おまえ見る目あるな! 褒めてやるぜ!


「そうか? なんかさ、変な夢をみてさー」

「夢?」

「自分の前世っぽいの」


 俺はぼんやりと濁しながら答える。


「それなら俺も見た。夢にしては妙にリアルだったけど」


 ん? なんだと? コイツ今なんて言った?


「まぁ、どうせただの夢だろうけど」


 さして興味なさそうに言う二階堂に、俺は内心ニヤリと笑う。

 どんな偶然かは分からないが、コイツも夢ではなく前世の記憶を取り戻したことを自覚したんだな。

 だが、たいした前世でなくてがっかりした、といったところだろうか。気の毒に。


「二階堂の前世ってなんだったんだ?」


 俺は意地悪に聞く。おまえだとせいぜいどこかの外国のモデルとかだろ。

 俺は青髪赤目のエルフだぜ!

 さあ、言え! おまえの前世を!!


 二階堂は俺の質問に、さっきと変わらず興味なさげに答えた。


「魔王」


 ――――くそ! どこまでも抗えない格差社会が!!


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― 新着の感想 ―
[良い点] 「山田……不憫なヤツだなぁ……」 というのが読み終わって最初の感想でした。 前世の記憶がすとんと腑に落ちて、これでちょっと憎いあんちくしょうを見返してやれる! と思ったのに……ねぇ? と、…
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