枕元
ある子供は、何より優先する程勉強に打ち込んでいた。遊ぶこともせず、時間さえあればいつまでも勉強しているような子供だった。
ある年、その子供の祖母が急逝しした。交通事故だった。親族は急遽集まり葬儀を行うことになったが、子供は学校を優先し、参列しなかった。
その日の晩から、子供の枕元に気配が立った。その気配は人のような大きさをしていて、けれどひとではなかった。何をされるでもなく、何を言われるでもない。それでも、それが果たして何なのか子供は確信していた。
幽霊だ。
何故自分にと、何度目かの夜が続いたある日子供は寝たふりをしてみた。自分の枕元に立つ幽霊の顔を一目見てやろうと布団の中に鏡を隠し持って、幽霊が現れるその時を待った。
不意に、その場の空気が怪しく揺れた。生ぬるい風がどこからともなく吹いてきて、ゆらりと影が立ち上った。
子供はいよいよだと鏡を覗き込み、自分の枕元に立つ影を見た。
正体は、祖母だった。
なんで、どうして。自分が参列しなかったことを怒っているのか。
かたかたと体が震え出す。枕元に立つ祖母は、やはりいつものように何も言わない。ただただ、子供を見下ろしていた。
翌朝、子供は祖母の好きだった果物を毎日仏壇に供えた。あれほど執着していた勉強もやめて、かわりに仏壇を拝むようになった。
以来、祖母の霊を見ることはなかった。それでも子供は拝むことをやめなかった。
監視するかのように、毎晩生ぬるい風が吹き込んでくるから。