[ ♯9・光と影 ]
「何?離してくれない?」
そういっても槇原は私の腕を離さない
「俺と似てるんだよ。お前」
「私があなたと似てる?」
それから槇原は私の腕を離し、ゆっくりと確かめるように言った
「俺とお前はさ、影なんだよ。暗くて底なしの海底みたいなさ」
「才覚が暗くて、いつもふてくされた顔をしているところがかしら?」
さっきまでつかまれてた腕がまだ痛くて、思わず嫌味が入ってしまった
「俺のこと、良く分かってるみたいだね。でもそういうんじゃなくてさ、表に出ないとこがそっくりなんだ」
「………」
私は言っていることが理解できなくて、なんて言葉を返したら良いか分からなかった
それを察したのか、槇原から話し始めた
「初めて灰原見たとき思ったんだ、同じだな…って。俺達ってさ、持っている心の影の色が近いんだ」
「そんなの一目で分かるものかしら?」
「わかるよ。灰原だって俺を見て同類だって感じなかった?」
そう聞かれて考えてみる
確かに私達はどこか似通っている
でもそれを認めたくない
私の心が、彼を怖がっている
「今さ、心の中で思っているでしょ?こいつ、毎日クラスの誰とも話さないくせに、なんで急にお喋りになっているんだってさ」
「そんなこと……」
思っていないと言ったら、嘘だ
「言い訳すんなよ。分かるんだよ、影は影のことよく知ってる」
「私のこと、簡単に分かった口利かないでくれる?」
(私のことを一番よく知っているのは、あなたじゃない)
「そんな怖い顔すんなよ。せっかく美人なのにさ。そういえば……江戸川は灰原のどこら辺が好きなんだろうな?なぁどっちだと思う?」
槇原はいたずらをしている少年のような顔で私に問いかけてきた
この言い方だと、槇原は私と工藤君の関係に気付いてる感じだ
「そう。私のことなら何でも知っているのね」
「学校ってさ、すっごいヒマだろ?だから暇つぶしに人間観察するんだ。休み時間に耳を澄ましているだけで、クラスに馴染んでいなくても“情報収集”出来るんだ」
「あら、ただ単に休み時間を過ごしていた訳じゃないのね」
「まぁな。そして俺はすぐにピンときた、こいつら両想いになったに違いないって。もちろん俺はそうなる前からお互いの気持ちには気付いていたけどな」
「えっ!?」
「江戸川ってさ、灰原を見てるときの眼がさ、すごく優しいんだ。それが最近一段と増してきたから、もしかしたらそうかなって」
工藤君が私をどんな感じで見ているかなんて知りもしなかった
私は自分の気持ちを知られるのが怖くて、なるべく工藤君の顔を見ないようにしていたから
「灰原、影は光に憧れてしまう。それはごく自然なことなんだ。まだ話したことないけれど、江戸川は光の方だよ。それも普通よりすごいやつ」
「影は光に憧れるか……そうね、確かに一理あるわね。じゃあ、同じく影のあなたも憧れの光が存在するのかしら?」
「まぁな。出席番号6番真田麻紀。アイツが俺の光」
「真田さん?以外ね」
真田さんはクラスで一番人気のある、明るくて性格も良さそうなタイプの子だ
どこか彼女を……毛利さんを感じさせる雰囲気を持っている
きっと工藤君の理想だったタイプに近い女の子
「なぜ真田か不思議か?まっ、それはまた次話すよ。どう?俺に興味が沸いてきた?」
「別に、とんだロスタイムだったわ」
「そうだよな、玄関に江戸川待たせてるんだもんな。それ、知ってたけど、今灰原と話さないと後悔するって気がしたから引き止めちゃったんだ」
「後悔??」
「俺、強がっているだけで本当は弱いんだ。どこかで自分と同じような傷を持った仲間を求めてる。江戸川の力で、灰原の心の影がどんどん晴れていくと、俺ひとりぼっちになってしまう。そうなったらきっと耐えられないだろうから」
「どうして私なの?せっかっく……彼の前で素直になれて、幸せを感じ始めたばかりなのに。言っておくけど、私はあなたの想像上の世界に関わっているつもりないから」
「もう遅いよ。お前は俺の物語にピッタリな存在なんだ。名前が愛するあいじゃなくて哀しいほうのあい……そこも気に入った。」
(こいつ、イカれてる)
「どうでもいいわ。じゃ、私急いでいるから」
急いでカバンをとって教室を出て、階段を駆け下りる
『影は光に憧れる』
このフレーズが頭から離れない
上がる息と同じペースで、心の空洞がどんどん広がっていく
ふさがりかけていた心の傷が、また戻ってしまった
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