[ ♯7・幸福の朝 ]
夏休みが終わって、今日から学校が始まる
あのキャンプの夜からもう半月経ったと思うと、不思議な感じがする
彼と想いが通じた日……
人生で一番幸せを感じた日
ずっと片想いだと思っていたから、嬉しくて、そして怖かった
急に関係が変わって、ぎくしゃくしてしまったらどうしよう
私の好きな工藤君のままでいてくれるのか
そして私は工藤君が好きと言ったままの私でいれるだろうか
こんな事ばかり考えていた
けれどその心配をよそに、夏休みの間、彼は今までと変わらないで私に接した
普通に博士の家に来て、私の研究室に顔出して
一緒にコーヒー飲んだり、最近の事件について話したり
今までとまったく同じ
手も……あれから繋いでいない
別に変化が欲しいわけじゃなかった
想いが通じれば、それだけで良いと思ってた
でも、私は贅沢だから
もっと多くを望んでしまっている
駄目ね……これじゃぁ
私、また弱くなったんだ
ピンポーン
「灰原いるか〜早く学校行こうぜ」
「ちょっと待っていてくれる?」
「んじゃぁ中に入れてくれ」
「えぇ……」
玄関のドアを開けると、学生服姿の工藤君が立っていた
いかにも“新学期が楽しみでたまらない”といった顔で
「ごめんなさい、考え事してたら準備するの忘れてて…まだ制服になってないのよ」
「いいよ、時間あるし。待つから」
「時間あるって、あなた朝練の時間ギリギリじゃない?私は後で行くから、先に学校行って」
「じゃぁ、朝練出なきゃイイだけじゃん」
「!?」
「ってのは冗談で……サボるのは良くねぇし、一足先に学校行くよ。たださ、俺、お前と一緒に初日の学校行きたかっただけ。一番に制服姿のお前を見たかっただけだから」
「工藤君……」
それから工藤君は、真面目な顔つきでこう言った
「俺、灰原のこと好きだよ。だから一緒に学校行きたいし、手ぇ繋ぎたいし、それに……だきしめたりしたいよ。でも、俺が急に変わったら、お前が離れて行っちゃうかもって怖かったから、夏休みの間我慢してたんだ。でも気付いた、我慢してる俺って本当の俺じゃないってさ」
自分が変わったら、離れていってしまうかもしれない
工藤君も同じこと考えていたんだ
悩んでいるのは私だけじゃなかったんだ
「ってことで灰原、今日から今まで通りに接するのは無理だ。お前はその…俺の彼女で、俺はお前の彼氏なわけで、だから……そういう雰囲気になっていっても良いか?」
「……そういう雰囲気って何かしら?」
彼の言いたかったことは全部分かったけれど、聞いてみた
顔を赤くして私に想いを伝えようとしてくれている彼が、愛しかったから
ちょっと意地悪したくなった
それから私はいつもより早く着替えて、彼と手を繋いで学校へ行った
もちろん朝練に間に合うように走って……
走るのが大嫌いだったはずなのに、今日はなんだか気持ちが良い
きっとそれは、繋いだ手から溢れているあなたの優しさのおかげね……
毎日がこんな朝になれば良いのにと思った
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