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無駄毛
作:いえやす


 むだ毛を処理する方法は人それぞれ。
 テープを使う人もいるし、クリームなどの薬剤を使う人もいる。
 わたしは毛抜き派だ。愛用の毛抜きで一本一本抜いていく。
 その夜も風呂上り、足のむだ毛を処理していたら電話が鳴った。

 「もしもし、あたし。今大丈夫? 」

 会社の同僚からだった。
 彼女はわたしがOKを出す前に話を始めた。

 「それでさあ、やっぱり死んでたって、ゴリ江のヤツ」

 「フーン」

 わたしはむだ毛の処理を継続しつつ上の空で答えた。
 もはや興味の無い話題だった。

 「ふーんて……。恐くない?
 本当に死んでたんだよ。
 実家の裏山で首吊ってたって」

 ゴリ江というのは会社の先輩だった人だ。
 もちろんあだ名で、本名はなんといっただろうか。

 「それが丁度2ヶ月前だったって。
 やっぱり紀子のことはゴリ江の呪いなのかな? 」

 紀子は2ヶ月前から入院していた。
 あのときのゴリ江のように全身の皮膚が赤くはれ上がって。
 原因は不明だそうだ。

 「紀子はまあ調子に乗ってたからね。
 いくらゴリ江がおとなしいからって。やりすぎだよ」

 細かい作業に没頭するあまり、われながら心がこもってない声がでた。

 「冷たいヤツ……。
 先に言い出したのあんたじゃなかったっけ?
 『ゴリ江先輩、もっと美容に気を使った方がいいですよ』とか
 『ゴリ江先輩、背中も毛深いんですね』とかさ」

 「そうだったっけ?
 でもあんな風になったの本人のせいじゃん。
 どうせ安い、ろくでもないエステに行ったんでしょ?」

 「うーん。体質もあったんじゃない?
 でも毛の処理に失敗しただけであんな風になるもんなんだね。
 全身の皮が剥けたみたいに真っ赤っ赤になってさ。
 あんなエステ訴えてやればよかったのに」

 馬鹿なゴリ江は赤くなった肌をなんとかしようとそのエステに貯金を全部つぎ込み、借金して、あげくに会社の金に手を付け、首になった。
 半年も前の話だ。

 「それで、どうする?」

 彼女は探るように聞いてきた。

 「どうするって?」

 「お墓参りに決まってんじゃん。
 紀子みたいになるのはごめんだしさ。
 一度くらい行っとこうよ」

 どうやら一緒にゴリ江の墓参りに行って欲しくて電話をしてきたらしい。

 「……一人でいってくれば?」
 
 わたしは毛抜きの先にふっと息を吹きかけ、くっついた毛を落とした。
 冷たいヤツ、と捨て台詞を残して彼女の電話は切れた。
 あいかわらず自分勝手なわりには気の小さい。
 わたしはまた毛抜きに集中しはじめた。
 一本一本丁寧に抜いては横の新聞紙の上に落としていく。
 すっかり慣れてもう痛みを感じることもない。

 「お墓参りなんて、なんの役にも立ちゃしないのに」

 そう独り言をつぶやき、ちらりと横を見た。
 今日の分だけですでにむだ毛の山ができて新聞紙から溢れそうになっている。
 ゴリ江が死んでから毎日毎日、時間がいくらあっても足りない。
 終わらないむだ毛処理に、小さくため息がでた。














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