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ファンタジーが舞台の短編小説

転生ドラゴンさんは、今日も異世界を元気に過ごしております

作者:Aska



「竜王よ! 今日こそ、貴様を倒させてもらうぞっ!」
「えっ、また来たの。いい加減やめなよ。俺、人間の国に何もしていないじゃん。時々遊びに行くけど、迷惑にならない様に気を付けているし。なんで討伐されなくちゃいけないんだ」
「理由など簡単だ。お前を倒したら、有名になれるからだァッ!」
「すごい自己中心的な理由だった」

 俺は本心から溜息を吐きだし、目の前で隊列を組む人間の勇者たちを見据える。高級そうな防具に、切れ味の凄そうな武器。後ろには魔法使いが並び、すでに詠唱を始めているようだ。かなり詠唱が長いから、最上級の魔法かな。あぁーあ。そんな殺傷能力の高そうなものを持ってきても、俺には意味がないのに。溜息がまたこぼれてしまった。

 本当に、どうしてこうなったんだろう。俺は本当に平穏に生きたいのに。確かに転生はしたし、神様っぽいお方から他の生き物には決してない能力を一つ持たせてもらった。この能力のおかげで、俺は不本意ながらも竜王なんて呼ばれてしまう存在になってしまっている。転生する前は、こんなとんでもない力だなんて思っていなかったのだ。

 一番の誤算は、ドラゴンに生まれたことだろうけど。普通に人間で生まれると思っていたからなー。人生、いや竜生とはわからないものである。

「見ろ、この剣を! ドワーフ族の伝説の鍛冶師が打ち出し、数多の竜を切ったドラゴンスレイヤーの剣だ。貴様のその強靭な鱗を貫き、その心臓を確実に止めてやろう!」
「我ら魔法使いの神髄も見せよう。いかに貴様でも、地形を変えるほどの爆撃に、魔女の呪いや猛毒を受ければ死は免れないだろう!」
「あっ、うん。その物騒な物言いのおかげで、逆に安心したわ」
「クッ、相変わらずの傲慢な態度だな……! 人間など、脅威にならんと言いたいのかッ!?」
「俺別にそんなこと言ってないんだけど、……言葉って難しいな」

 むしろ、ひどい言葉を浴びせられているの俺だよな。殺害予告されるし、傲慢とか言われるし。怒らない俺って、本当に懐が深いよねー。……まぁ、怒ったって俺じゃこいつらの誰一人にも勝てないのだろうけど。

 余裕ぶっている俺だけど、ここにいる人間は誰もがトップに位置する能力を持っている。これだけの人数と実力を持つ人間に囲まれれば、竜の一匹などたちまち駆逐されるだろう。間違いなく、過剰戦力すぎる。いじめかっこ悪い。

 俺は竜の中ではそこそこ強いだろうが、世界のレベルから見ればはっきり言って弱い。どこにでもいる風竜から生まれた、これまたどこにでもいる風竜である。突然変異とかなく、大変平均的な能力を持ったオスなのだ。だから俺を倒しても、レアな素材は何も落とさない。俺がブレスを吐いても、こいつらの防具の防御力が高すぎて、煤けさせるぐらいの攻撃力しかないのである。今更だけど、俺が竜王って色々おかしい。

 竜は長生きなら千年以上生きる。俺は現在三百歳ぐらい。まだまだ竜の中では若輩だけど、それなりに生きているから大きさと貫録はあると思う。一般的な竜は、百歳超えるだけでも難しい。気性の荒さと弱肉強食の世界と外敵の存在の所為で。だから、俺はそこそこすごいのだ。でも、正直それだけだ。俺以上に年上のドラゴンはいるし、上には上がいる。

 そんな俺が、これまで生き残って来れたのは、竜王なんて呼ばれるのは、今まさに目の前で行われようとしている戦闘に余裕をかましていられるのは、ただ一つだけ。――俺が、転生ドラゴンだったからだ。



「――ちくしょうッ! 何故、何故勝てないんだァ……!」
「えーと、こればっかりは、相性の問題と言うか…。今度トランプとかじゃんけんとかで勝負する? それならたぶん、そっちが勝てるよ」
「お、俺たちを、馬鹿にしているのかァッ!?」
「いや、してない。本気で馬鹿にしてない。俺は本心で言っている。俺と命のやり取りをしても意味がないんだよ!」
「……竜王よ、それ以上の侮辱はやめてもらおう。此度も、我らの負けだ。だが、人間では貴様を越えられぬと断定される筋合いはない。貴様はまた攻撃もせず、命を取らないつもりらしいが、いずれその驕りが自ら滅びを呼び込むと思うがいい!」
「なんでお前ら、俺の言葉を全面皮肉として受け取るの。一度でもいいから、大らかな心で言葉通り受け止めろよ」

 俺の愚痴など無視して、あいつらさっさと帰っていきました。最後にブレスでも吐いてやろうか。ほとんど効かないだろうけど。

「あぁー、休憩場所がぐちゃぐちゃだ。というか、大地の原型留めていないし、クレーターだらけ。やっぱり『竜王』なんて名前、厄介事しか持ってこないじゃないか。他のドラゴンに押し付けられないかなー、戦闘以外で。じゃんけんとかで押し付けちゃ駄目かなぁ…」

 あの血の気の多いドラゴン共が、そんな俺の提案を聞いてくれるはずもないけど。上位種にいくほど、喧嘩っ早すぎる。俺はどこにでもいる普通スペックのドラゴンだから、その分上位種の方々のプライドも相まって即戦闘だ。かけっこ勝負でいいじゃん。それなら、ノーマルスペックの俺は絶対に負けるから。

「ふぁーあぁ、三日間もあいつらよく攻撃できたよ。リンチ(ノーダメージ)されている間、ちょっとうとうとしちゃったけど、うるさくて熟睡できてなかったしなぁ。仕方がない、ダチの所で休ませてもらうか」

 自分でも大きいと思う欠伸を一つし、ずっと座り続けていた場所から飛び立つために翼を広げた。三日前までひんやりとした気持ちのいい岩場だった場所は、その面影など一切感じられないほどの暴力的な力に消え去っている。さらに魔女の猛毒や魔力中毒になりそうな空間が俺の周りに広がっている。だけど、俺が移動すると、途端に俺に悪影響を与えそうなものは一瞬で掻き消えた。

 俺はもう慣れたその現象を見つめながら、はるか虚空へと飛び上がったのであった。



******



 『因果』という言葉の凄さを、俺は全然知らなかった。だから、あんな能力が欲しいと軽く言えたのだろう。この力を持ったことに後悔はないと思う。というか、この力がなかったら俺は百歳を超えることなく死んでいただろう。

 因果とは、原因と結果のことだ。こういう原因があるから、こういう結果になる。悪事を行えば、叱られる。良いことをすれば、褒められる。もちろん、必ずそうなるという訳ではないが、原因があるからこそ、結果があるのだ。別に難しいことじゃない。

 ただ、これがもし逆だったらどうなるだろう。原因から結果が生み出されるのではなく、結果がすでに決まっているからそうなるように原因が発生するのだ。例えば、何をしても褒められる結果になるとしよう。人助けをしたから、褒められる。これは問題ないだろう。だけど、八つ当たりで人を殴って、褒められる。これだと因果が繋がらない。それでも、もし無理やりにでも繋げたらどうなるだろうか。

 むしゃくしゃしたから殴った相手が、実は偶然凶悪犯罪者で、今まさに誰かを殺そうとしたところを殴って止めた、という原因にして、結果的に褒められることにするのだ。結果が決まっているが故に、あとは原因が改変されるしかない。……結果のために、原因がねじ曲がるということだ。

 改めて考えると、かなり恐ろしいことだと思う。それでも、当時の俺は名案だと感じたのだ。


「えっ、俺予定外で死んじゃったんですか?」
「えぇ、そうなんですよ。あっ、ほら。あのバスの事故で、あなたの隣に座っていた女性がいたでしょう。本当は彼女が亡くなるはずだったのですが、不意の衝撃で横に倒れたあなたの身体が、彼女を押しちゃったんですよ。それがよかったのか悪かったのか、結果的に彼女は生き残り、代わりにあなたが死んでしまったんですよね」

 コトンッ、と置かれた湯気の立つ湯呑にお礼を言い、俺は息を吹きながらゆっくり飲み干す。残念ながら味は感じないが、何か温かいものが流れ込んだような気分にはなった。それにホッと息がこぼれる。死んでも日本人の感覚は抜けないものらしい。

「結構落ち着いていますね」
「うーん、たぶんあの事故の時、『あっ、これ死んだ』って思って、実際にその通りだった訳ですからね。死ぬのが予定外、ってことには驚きましたけど。聞きますけど、なんでわざわざ教えて下さったんですか?」
「……今なら、その女性の運命とあなたの運命を入れ替えられるからです」
「なるほど…」

 死んでほやほやな俺なら、まだ現世に戻れるらしい。ただ一回死んだことに変わりはないから、身体に後遺症は残念ながら残るかもしれないとのこと。その代わり、軽傷だった彼女はショック死という形で死を迎えることになるそうだ。これはなんというか、かなりひどい選択肢じゃないか。

 もちろん、無断で勝手に行われるより、こうして問いかけてくれた方がよかっただろう。それでも、自分の命か他人の命のどちらがいいか、って突然聞かれても困る。それも、後遺症が残るかもしれない自分の身体と、軽傷でこれからの人生を歩める身体の他人。確かうろ覚えだけど、隣の子は俺よりも年下だったと思う。

 実家から出て一人暮らしをして、平凡なサラリーマンとして働き、日々を仕事をしながら過ごしてきた俺。俺がいなくなったら、家族は悲しむだろうし、会社も困るだろう。だけど、実家には兄妹がいるし、両親の下から離れて、ほとんど帰っていなくて疎遠だった。会社も代わりを探す時間はいるが、すぐに見つかるだろう。

 俺の人生に意味がないとは思わない。日々をぼんやり過ごす毎日だったが、それでいいと思っていた。まだ生きたいという気持ちもある。家族や友人を悲しませたい訳でもない。だけどそれと同時に、迷惑をかけたくないとも思った。事故後の俺は、仕事ができないだろう。日常生活を今まで通りに行えないだろう。後遺症の介護をしてくれる周りに、罪悪感と申し訳ない気持ちをきっと抱くだろう。……それでも、生きたいだろうか。

「結果的に俺が救ったことになった彼女は、これからどんな人生を歩むかわかりますか?」
「……そうですね。今回は偶発的なことだったので、あまり詳しくはわかりませんが。このまま何も起きずに生きていけば、死因は老衰のようですね。元気に寿命を全う出来るようです」
「そっか…」

 目の前でテキパキ話す相手が何者なのか、正直俺はよくわからない。神様なのか、死神なのか。死んだ世界で働いている中間管理職なのか。ただなんとなく、そこはあんまり重要じゃないと漠然と思うので、たぶんよくわからなくていいのだろう。神様っぽいお方より、問題は自分自身だ。

 それより、相手の話を聞いて思った。俺が助けたことで、老衰まで元気で過ごしてくれることに、心の中でホッとした自分がいる。なんとなく、それが答えなんじゃないかと思った。


「もし、俺がこのまま死ぬ方を選んだら、俺ってどうなるんですか? このままさよならですか。それとも、弟の漫画とかで読んだ……、『転生』みたいなことができたりするんですか?」
「『転生』……、失礼、少しあなたの知識を覗かせてもらいます。……なるほど、こちらも責任がありますから、できなくはありません。この場合、今の記憶を保持したまま、生まれ変わるということでいいでしょうか? 知識からは、何か不思議な力を身に着けたりして戦闘をしていますが」
「い、いやいや、記憶はあると嬉しいけど、戦闘とかはちょっと…。不思議な力は、……そういえば、俺が生まれる場所って地球じゃないんでしょうか?」
「詳しくはわからないとだけ。世界は数多くありますから。あなたの知識にある不思議な世界もあれば、あなたの元の世界と似た世界もある。どこに新しく生まれつくかは、流されるままです」

 それでいいのか、死後の世界。管理が大変なんです、と煤けながら言われたので追及はやめておいた。

「しかし、そうか。それだと危ない世界についちゃうかもしれないし、地球の日本みたいな安全な場所につくかもしれないと。不思議な力っていうのは、一応もらえるのか?」
「欲しいのであれば」

 軽いな。個人的には、地球と同じような世界がいいけど、昔やったゲームみたいな世界もありうる訳か。産まれる場所や環境によっては、すぐに死んでしまうだろう。だからといって、それでとんでもない力を持てば、それが災厄の種になる可能性もある。親に捨てられエンドとか、餓死とかはごめんこうむる。しかし、それだとどうするか。

 俺は今までなんとなく日々を過ごしてきた。だからもし新しく生きられるのなら、もうちょっとぐらい頑張ってみたいという気持ちはある。別に歴史に名を残すとか、王様になるとかそんなものはいらない。日常に、ちょっとした刺激がある楽しい日々を過ごしてみたいだけなのだ。年を取って、季節をめぐって、先ほど聞いた彼女のように元気に最後まで生きてみたい。

 現世に帰って、周りに迷惑をかけながら頑張っても、きっと最後まで生きる気力を持てるほど俺は強くないと思った。神様っぽいお方と話をして、彼女の方には俺の代わりに生きられたことを伝えない、そして俺の知り合い全員に、なんとなく俺のことは大丈夫って思ってもらえるようにしてほしいと頼んだ。

「それでは、どのような力が欲しいですか? あなたから頂いた知識からですと、色々種類があるようですが」
「えーと、力かぁ。……それってさ、俺の未来とかでもいいのか?」
「未来? 将来性と言うことでしょうか」
「そうじゃなくて、ほら、俺は今回事故で死んでしまっただろう。俺が助けた彼女も、『何も起きなかったら』老衰できるって言っていた。それが怖いなって。もし今回のような事故があったら、もし食料が少ないところで生まれて餓死したら、誰かに殺されたら、そんな死に方は嫌だなって思ったんだ」
「…………つまり、あなたが欲しいのは『死に方』ということでしょうか」
「……そうなるのかな」

 変なことを言っているという自覚はあるので、視線が少し明後日へ向く。でも、不思議な力なんかなくても、これならどこの世界に行っても生きていけると思ったんだ。

「俺の願いは、『死ぬときは寿命いっぱいまで満足に生きて、老衰して死にたい』ことです。あっ、でも病気で寝たきりとか今回の事故みたいな後遺症が残ったまま寿命を迎えるのは周りに迷惑をかけるか。じゃあ『死ぬときは寿命いっぱいまで満足に生きて、健全なまま老衰して死にたい』っていうのは、……駄目ですかね」

 長くなったが、死に方は大事だろう。死ぬのは怖いけど、でも死ねないというのも怖いと感じた。だったら、寿命いっぱいまで生きるならいいんじゃないかと考えたのだ。それに死に方が決まっているのだから、それ以外で死ぬことがない。殺されることも、餓死することも、病死することもない。死因は老衰のみ。それも寿命いっぱい、精一杯満足に生きて。

 身体は健全なんだから、どんな世界でも頑張ろうと思えば頑張れるはずだ。これなら、過剰な武器も戦闘スキルもいらない。生まれてから努力して、その世界に対応していけばいいんだから。あとは平穏に過ごしながら、のんびり頑張っていこう。

「それでは、あなたの死因の結果を確定させる。これが願いでよろしいでしょうか」
「えっ、本当に願いを叶えてくれるのか。大丈夫だったら、お願いします」
「わかりました。それにしても、なかなか難儀なものを選ばれましたね…」
「えっ、そうですか?」


 この時の俺は意味が分からなかったが、転生してから嫌と言いたくなるほど痛感した。俺は当たり前のように人間で生まれると思っていたが、結果はドラゴンだった。最初は号泣と理不尽を叫びまくって、ドラゴン(親)に煩いと巣から一回ぶっ飛ばされそうになったらしいが、毎度足を挫いてずっこけ続ける親は最後には諦めたらしい。知らない内に、さっそく転生機能が役目を果たしていたようだ。

 あとから、ドラゴンでまだマシだったじゃん。虫だったら悲惨じゃん。と自分に暗示しながら納得し、日々を過ごすことができた。寿命千年以上あるかもには、遠い目になったが。しかし、どうやら地球とは違う異世界らしく、ドラゴンなら世界中を見て回れる。そんな生き方も、まぁ悪くないかなと思ったのだ。というより、ドラゴンの世界は死亡フラグが多すぎて必死すぎたとも言う。死ぬことはなかったけど、心臓には悪い。度胸だけは鍛えられただろう。

 幼少期は大変だった。寝ぼけて巣から落っこちたけど、偶然クッションがあって無傷で助かること数十回。餌が見つからなくてフラフラしていたら、何故か餌を偶然見つけたり落ちていたりすること数百回。敵に襲われても、相手が自滅したり武器が壊れたり攻撃が外れたりで無傷で助かること数千回。親と兄妹から、歩く安全地帯扱いされること巣立つ日まで。

 死亡フラグが多すぎる日々のおかげで、俺の特出した生存能力が浮き彫りになったが、さすがは細かいことは考えないドラゴン。むしろ敵が現れたら、俺を囮にして逃げ、無傷で帰ってきたら普通に「あっ、おかえり。ご飯あるわよ」とサラッと言われるぐらいの大雑把さだった。あの時は、本気で横っ面を尻尾で引っぱたいてやった。

 それから三百年。一人立ちした俺は、世界を飛び回った。風竜は自由な気質らしく、世界を飛んで自分だけのお気に入りの巣をつくるらしい。兄妹たちも一応元気にやっているようだ。むしろ、人間だった頃の感覚と命の危機がない実戦経験の所為で、俺が兄妹の中で一番弱いだろう。戦闘しようにも、勝手に自滅していく相手にどうしろと。俺の攻撃は、自主練と疲れ果てて呆然としている相手をこんがりブレスで焼くだけである。そりゃあ、強くならんよな、これじゃあ。

 そんなわけで、俺の手による勝利回数は実はかなり少ない。襲ってきた相手が、自分が負けたと勝手に敗北宣言したり、逃げだしたりしていくのだ。おかげで、勝手に積み上がっていく無敗記録。俺の攻撃がしょぼいから戦わないだけなのに、「かの竜王が攻撃する時は、世界が終わる時」ってどんな時だよ。『俺が攻撃しない相手=力不足』という果てしなく迷惑な方程式まで、勝手に周りがつくっていった。俺、人前竜前で恥ずかしくてブレス吐けないです。

 こうして日々、挑戦者たちの俺強者説の誤解を解こうとしているのに、問答無用で襲ってきて、そして勝手に敗北宣言して帰っていく挑戦者に頭を抱えながら、俺は毎日を過ごしているのであった。



******



「でも、打撲とか小さな怪我とかは普通にするんだろ。前に、食いすぎて腹痛起こしていたし」
「まぁなー。別に俺、絶対防御がある訳でも、不死でもないから。致死攻撃は全部無効になるから、逆に安心なんだよね。俺そんなに強くないから、下手な攻撃が当たれば簡単に死ぬ。だからこそ、攻撃を無効にできる。打撲やちょっとの食い過ぎでは死なないから、ダメージを食らうんだよな」

 俺のダチは、深い森の中の小屋で暮らしている。世捨て人ってやつかもしれない。小屋の隣にはそこそこ広い場所があるため、ドラゴンの巨体が休めるぐらいのスペースがあるのだ。ここが、毎度の俺の定位置になっていた。

 それにしても、自分で考察して思ったが、弱いからこそ痛い思いをしないというのはなんとも微妙な気分になる。俺が何もしなくても自然治癒で全治する怪我なら、普通に俺だって怪我をするのだ。昔なら、兄妹とのじゃれ合いで小さな擦り傷ぐらいなら当たり前だったな。最近は竜王の名前もあり、みんな必殺の攻撃ばかりで、無傷が当たり前になってしまったが。ちなみに、今回の勇者たちとの戦いで、一番に俺が被害を受けたのは、土煙でゲホゲホしたことである。

「それって、死なない程度に痛めつけられたらやばくないか?」
「あぁ、それは大丈夫。何か一つでも死因に繋がるものがあれば、回避されるんだ。死なない程度の怪我でも、頭や内臓を傷つけるかもしれない。菌が入って悪化してしまうかもしれない。出血多量で死ぬかもしれない。精神を壊してしまうかもしれない。『健全な』状態で老衰を迎えることが条件だから、後遺症が残る傷や精神にならないようになっているんだろうな。ちなみに病気には、精神病も入っているから、幻覚系の魔法は一切効かないみたいなんだ」
「死因『健全な老衰』が強すぎる」

 うん。それは、俺も心底思う。

「……あっ、じゃあ禁術だけど、時空魔法なら? あれで君の時間を早めて、老衰させる方法なら倒せるんじゃないだろうか」
「うわっ、そんな魔法があるのか。ついに俺にも弱点が……、ってお前ってその魔法が使えるの?」
「まぁ、……ちょっとだけなら」
「マジか、すごいじゃん。よし、じゃあちょっとだけ使ってくれ。実験してみようぜ!」
「……そういうとこ、君も他のドラゴンに負けず劣らず、大雑把だと思うよ」

 ダチはこの世界で、最高峰の魔法使いらしい。人間とは違う異種族の血がちょっと流れていることもあって、だいたいどんな魔法でも使えるのだ。その所為で、人間たちや周りからは化け物扱いされて、こんな辺境で暮らすことになったと軽く教えてくれた。俺はドラゴンなので魔法は使えない。なので、色んな魔法が使えるダチは普通にすごいと思う。そう言ったら、「やっぱり、大雑把」と小さく笑われた。

 研究者気質で、初対面で空を飛んでいた俺に、新魔法の実験で魔法をぶっ放してきたのが始まりだった。無傷の俺に驚いて、ありとあらゆる魔法を俺で試し打ちした後、「……お前、何?」と言われたのだ。いきなり爆撃食らわされた、俺の方が聞きたかったよ。

 他のやつとは違い、俺の話をダチは最後まで聞いてくれた。それが嬉しくて、転生のことも全部話したのだ。ドラゴン家族は、「へぇー」で平気で済まされたからな。本当に大雑把すぎる。それから、俺とダチはなんだかんだで数十年ほど過ごすようになった。

「えーと、ちょっと待ってろよ。この前研究のために、隣国の王家の禁書庫からパクってきたこの本で試してみるから」
「……お前が周りから追放されたの、魔法のためなら常識捨てる性格もあると思うぞ」
「俺は実力がある。埃を被って誰からも忘れられるぐらいなら、俺が使った方がいいだろう」
「この世界、自己中なやつが多過ぎね?」

 駄弁りながら、ついに魔法陣が完成したらしい。別に死期を早めたい訳じゃないが、これから先不意打ちで食らう可能性があるかもしれない。それなら、安全の線引きはぜひ知っておきたいのだ。時空魔法は危ない、とわかれば俺も注意ができる。

「一応もう一度聞くが、本当に良いのか?」
「お前の研究魂は知っているからな。ほら、友達は助け合いだろ。俺のために研究だってしてくれているんだから、多少の実験には俺も付き合うさ」

 ちょっと気恥ずかしくなったが、持ちつ持たれずって感じだな。それに、そんなものか、とダチに肩を竦められた。呆れたように言うなや。

「……いくぞ。設定が細かいと制御がまだ不明瞭なところがあるから、きっちり一年に設定する」
「うーん、一年か。千年は生きるけど、一年消えちゃうかもしれないのか……」
「一応、逆行の魔法は開発中だ」
「あっ、じゃあ、問題ないな。お前なら、きっと完成させるだろうし。それなら成功したら、一年逆行させればいっかー」
「……お前、ドラゴン思考に実は染まっていないか。前世人間」

 えっ、それひどい。そんなこんなしながら、ダチは詠唱を唱えていく。魔法陣は完璧。失敗はしない、と彼は自信満々に言っていたので問題はないだろう。そして遂に、魔法を発動させようとダチが杖を振り上げた瞬間。


 ――ザザァッーーーー!!

「…………」
「……にわか雨だな。すごくいきなり、局地的に」
「……雨で、魔法陣が崩れた」
「あっ、晴れた。しかし、未だに雨雲が俺たちの頭上のみに発生中」
「……雨を防ぐ結界を張って、もう一回やってみよう」

 今度はとんでもない雷が落ちて、結界を直撃。雨で再び魔法陣が流されたのは、言うまでもない。

「……お前、本当に何?」
「生存率無敵なドラゴンです。しかし、時空魔法も無効化されるのか。経験上、いくらやっても成功しないだろうなぁ」
「『死ぬときは寿命いっぱいまで満足に生きて、健全なまま老衰して死にたい』か。もしかしたら、前半の『寿命いっぱいまで満足に生きて』が原因か。時空魔法で早めた寿命で生きるのは、満足に生きることに反していると受け取られた可能性がある」

 なるほど、やはりダチは頭がいい。そして、俺の死因が最強すぎる件。禁術を結果的に無効化しちゃったよ。他にも時空魔法には、時空間に閉じ込めるデジョン的な魔法や、別の世界へ追放させる古の魔法があるらしいが、それも結果的に無効化されるだろうとのこと。そんなことになったら、きっと寿命いっぱいまで俺の精神が正常に持たないからと推察された。俺の軟な精神力が、無効化を促す。泣いていいかな、俺。


「はぁー、相変わらず出鱈目なドラゴンだ」
「いや、俺も当初こんなことになるとは全く。しかし、ちょっと心配だな。ダチが頑張って開発してくれている『人化の魔法』が無効化されたら、俺的にショックなんだが…」
「……人とは違う種族を、人間の姿に変える魔法だろ。そんな魔法、本来この世界にはないんだ。一から作り上げなきゃならないからな。失敗もあるかもしれない」
「でも、お前なら作れそうじゃん。すごい魔法使いなんだし」
「……ふん、当然だ。面白い研究のテーマにもなったしな」

 まずショックを受けたのが、この世界のドラゴンは人の姿になれないことだった。弟の漫画では、異世界の生き物が人間に姿を変える場面があったが、この世界ではそんなことはありえないこと。人と竜は、交われないのだと気づかされた。

 それでも俺は、人間だった記憶が人を恋しがった。空を飛ぶのは楽しい。世界を見るのは楽しい。それでも、人の世界に入れないのがどこか寂しかった。そんな気持ちを忘れよう、と自由に空を飛んでいた時に出会ったのが、彼だったのだ。

 人化の魔法はない。最高峰の魔法使いに言われたその言葉に、落ち込んだ俺に向かって、ダチは「作ってやる」と言ってくれたのだ。研究者気質の彼にとって、自分が出来ない魔法など論外だからと当たり前のように。その言葉に、俺はどれだけ救われただろう。どれだけ、嬉しかっただろう。

 人化の魔法はできてほしい。それは心から思う。……だけど、例えできなかったとしても、それでもいいと思えるようになったのは友達のおかげだ。

 いつか、もし…、もし人化の魔法で人間の姿になれたら……、ダチと一緒に世界を見てみたい。出不精なやつだけど、人に絶望したままでいて欲しくない。小さな世界に閉じこもって終わって欲しくないのだ。俺の自慢のダチだって言ってやりたい。人にも、竜にも。

「勇者たちは撃退(仮)したし、人間の方はしばらく静かになるかなー。ドラゴンの方は、『竜王』を押し付けられるやつがいないか探そう。魔の方は、……最近何もアクションがないから、嵐の前の静けさじゃなければいいけど」
「あぁ、君を勧誘しに来たんだったか。従わないのなら、脅威だから消すとか言われたらしいな」
「物騒だし、理不尽だよな。俺、生存率無敵なだけで、害はないのに。ブレス吐いても、焼肉作るぐらいしかできないぞ」
「お前の存在の方が、向こうにとっては理不尽極まりないだろうけどな」

 失礼な。そんなことを話しながら、俺は友達と笑って過ごした。



******



「あいつから俺を呼ぶなんて、珍しいこともあるなー」

 いつもは俺が気分でぶらぶら訪れて、来訪するのが常だった。久しぶりに来た森を見据え、ダチがいるだろう場所に向かって飛んで行った。彼の小屋に行くまでに、実はすごい迎撃魔法や罠、幻覚の魔法があるらしいのだが、当然ながら俺は一度も知覚や遭遇したことがない。それに地味に落ち込まれたことがあるので、触れない様にはしている。

 勇者たちと戦った日から、数年たった。また遠征で人間たちの襲撃が来たけど、地団駄をして帰っていきました。ドラゴンスレイヤー君は、相変わらず熱血だった。魔法使い君は遠い目をしながら、『開発したて、実験したい魔法集』という本を片手に魔法を撃っていた。俺で実験するなや。研究バカは二人もいらないんだよ。

 人間の方は、どちらかというと落ち着いてきたかなと思う。遠征の資金も馬鹿にできないだろうし。俺は人間を襲ったり、攻撃しない(しても倒せない)ので、放置でいいじゃんな感じになったのだろう。ドラゴンスレイヤー君は、また来そうだけど。

 ドラゴンの方は、家の妹が結婚して子どもを産んでいた。ちびドラゴンは可愛かったです。そんで旦那さんに挨拶をしたら、めっちゃビクビクされながら平伏されました。ごめんね、俺『竜王』なんて名前付いていたの忘れていたよ。いきなり来たら、びっくりするよね。妹は「お兄ちゃん、おひさー」で済まされたから、そんなノリで済まされると思っちゃっていました。

 それから、古代竜みたいなお偉いさんに喧嘩売られました。結果は俺の勝利にされた。だから、かけっことかしりとり勝負しようと言ったじゃん。せめて、命を賭ける勝負以外にしようよ。俺の提案は全面却下され、むしろ怒りを倍増され、一方的に攻撃を浴びせて、最後には心折れて帰って行かれる。だいたいこんなループでした。

 そんな日々を過ごしていた俺に、ダチから魔法で連絡が来たのだ。実験したい魔法があるから、来てほしいと。ここ数年は忙しそうに研究していたみたいだから、あまり彼の小屋には行かない様にしていた。それなのに、急な呼び出しに首を傾げたが、まぁあのダチなので深く考えずに来た。人化の魔法かな、とも思ったが、それならそれで教えてくれると思う。なので言葉通り、実験したいだけだろう。


「やっほー、来たぞ。どんな魔法を実験するんだ?」
「……あぁ、来たのか。それじゃあ、この魔法陣の中に入ってくれ」
「いきなりだなぁー、まぁいいけど」

 ダチは俺の定位置の原っぱに魔法陣をすでに描き、準備万端に待っていた。どんだけ実験したかったんだよ。俺は呆れながら、ドスドスと魔法陣の中に入っていった。それに、何故か向こうの方が呆れたように溜息を吐かれた。なんだよ、とちょっと睨んでみたら、ようやく少しダチの様子がおかしいことに気づく。どこか、寂しそうな表情に見えたのだ。

「……どうしたんだ?」
「君ってさ、危機感低下しすぎじゃないか? 普通、まず最初になんの実験なのか聞くものだろう」
「あぁー、まぁ普通はそうだけどさ。お前は俺の能力っぽいの知っているし、これでも数年はダチとして過ごしているんだ。研究者気質で無茶苦茶なお前だけど、俺は結構信用しているんだぜ」
「……俺だからか。なら一応、警告だ。これからは、その能力があっても、ちょっとは危機感を忘れずに過ごせよ」
「なんだよ、それ――」

 訳が分からず、口を開いた俺の言葉は途切れた。魔法陣が突如光り輝き、目が眩んだからだ。これは、発動される。直感的に悟ったが、それはつまり俺に命の危機を齎すものではないということだ。一体何の魔法を俺に発動させる気なのか、胡乱気に俺は彼を見据えた。

「ここ最近、俺が忙しそうにしていたのは知っているよな」
「……あぁ」
「俺が混血で、魔族の血を引いているのも知っているだろう。たまたま、……本当にたまたま魔法の研究のために魔界に忍び込んだ時に、偶然知ってしまったんだ。魔族たちが、お前を殺すために計画を立てていることを」
「えっ?」

 ダチが魔族の血を引いているのは、知っていた。だから寿命が人間よりは長いけど、それでも二、三百年生きたらいい方だと話していた。彼が最高峰の魔法使いと呼ばれたのは、研究する時間が長かったこともあげられる。俺より寿命が短いことに辛い気持ちにもなったが、それでもあと百年近くは一緒にいられるはず。そう思っていた。

 ……魔族が、俺を殺す? それが無理なことは、彼がよくわかっているだろう。一番俺で実験していたのは、ダチだったのだから。それなのに、彼の表情は真剣で、俺の口を噤ませた。

「最初は俺も鼻でわらった。だけど、その計画を立てていた魔族は、お前の『因果』を知っていた。お前の話を真実だとわかった上で、計画を立てていたんだ。お前は常々、戦いに来た相手に『戦っても意味がない。老衰でしか死ねない』と言って逆上させていたけど、……そいつはそれを念頭に置いて、殺すための研究をしていたんだ」
「……なんで」
「さぁな。まぁ、そいつも俺みたいに研究バカみたいだから、『因果』に挑戦してみたいと思ったんじゃねぇの。ただ洒落にならなかったのは、そいつに実力があり、魔族たちも計画に賛同し、そしてなんとかできるかもしれない方法があったことだった」

 邪神召喚。多くの生贄を用意することで、一度だけその者の願いを叶える禁術。この世界を作った神の一柱を呼ぶのだ。もちろん、叶えられる範囲はあるらしいが、世界を壊さないのなら叶えられるらしい。そして、その神に彼は願った。因果を越える方法を。

「邪神召喚で、お前を殺すことを願うことはできない。お前が対象になれば、因果が捻じ曲がって、邪神召喚の準備段階で失敗し続けるだろう。だけど、お前自身と関係がない内容なら、お前の因果に影響されない。そうじゃなきゃ、ドラゴンスレイヤーなんてお前を殺すために作られた武器ができあがることはないからな。お前の因果は、お前自身に影響が起きるその瞬間の原因だけにしか効かないんだ」

 その因果の隙をつき、魔族は『因果』を壊す武器を願ったのだ。『因果の影響を受けない』という、俺だけにしか効かないような武器を。準備段階なら、俺の命は脅かされない。いくら殺意を持っても、実際に行動しなければ何も起こらないからだ。準備段階から、俺に影響があるものが排除されるなら、俺を倒すために作られた人間たちの武器も存在しないはずだから。

「もちろん、向こうも未だ半信半疑だ。成功するのか、わからない。お前は神……っぽいやつに力をもらったと話していた。だから生半可な力なら、捻じ曲げられるだろう。だけど、向こうも神の力を使った。武器を放てば、お前の因果が捻じ曲げようとする。だけど、その武器が因果を無視する効果ならどうなるか」

 まさに、矛と盾だ。矛盾同士の戦い。因果が強い方が勝つかもしれない。だけど、どっちが強いのかなんてわからない。俺にその武器が向けられた時にしか、わからない。生きられるのか、死んでしまうのか。

 怖い、そう思った。俺なんか殺してどうなるんだって、そう言いたい。利益なんてない、損しかない。だけど、俺の意思なんて、相手にはどうでもいいのだ。その魔族が、俺を殺そうと向かってきている。喉がカラカラに乾いた。

「俺、……死ぬかもしれない?」
「……そうならないための、この魔法だよ」
「えっ?」

 彼の言葉に、俺は初めて魔法陣を注意深く見た。……なんだよ、この魔法陣。魔法は全然使えない俺だけど、興味はあったし、ダチのおかげでそれなりに魔法に詳しくはあった。だから、俺の下に広がる魔法陣の異常性に今更ながら気づいた。こんな複雑な陣を、数年で研究できるわけがない。

「ここまで、全部偶然だったよ。でも、きっと必然だったんだろうね。魔族の研究を知って、なんとかできないかと俺は考えた。だけど、邪魔をするにも、俺の実力じゃ魔族すべてを相手にするのは無謀だ。そんな時、計画を知るためにたまたま忍び込んだ場所が禁書庫で、そこでたまたまどうにかなるかもしれない禁術を見つけた。その材料も準備も、何故かたまたま見つかり、作業工程も今までにないほどスムーズに進んだ。その結果が、この魔法陣だ。……やつらの計画の完成と同時に、完成した」
「そんな偶然、……まさか」

 因果を無視する武器。それを受けたら、もしかしたら俺は死ぬかもしれない。そうなったら、結果が変えられてしまう。その結果を回避するために、その原因を取り除くために、もし……、もし俺の力が別の原因を作り出したのだとしたら。彼らの計画を失敗させるための、布石を、原因を別の方向から作らせておいたのだとしたら。

 その原因に、友達()が利用されたのだとしたら……!


「待てッ、おいっ! この魔法なんだよッ! 何が起きるんだよ!?」
「……『時渡りの魔法』の禁術だ。俺は時空の魔法を研究していたから、適性があったために選ばれた魔法だろう。俺の実力で、発動できる最大の魔法だ。まぁ今の俺の実力じゃ、細かい制御がまだできなくてな。その所為で、百年後の世界にしかお前を送れないみたいなんだ」
「百……年…?」
「俺の実力で、因果の武器を破壊することはできない。だけど、邪神召喚は万能ではない。人為的に作られた効果は、年月が経つほど効力を失っていくらしい。当然、因果を無視する効力も。だから、百年ぐらい未来にお前が行けば、お前の因果の方が強いだろう。つまり、お前が死ぬことはないんだ」
「そうだとしても、……百年って」

 ドラゴンは長生きだ。百年後なら、家族は生きているだろう。竜王の家族ということで、手出しするドラゴンはいない。人質、いや竜質をとるような卑怯は、脳筋バトル思考のドラゴンはしない。外敵がいても、周りが守ってくれていることだろう。

 人間の知り合いにはもう会えないだろうけど、この三百年で見慣れてしまった。それに、名前を知っているほど、親しい相手はいなかった。ドラゴンスレイヤー君には申し訳ないが、古代竜さんあたりにさり気なく紹介はしておいたから大丈夫だろう。押しつけ的な動機だったんだけど、戦闘大好き同士、きっと頑張ってくれると思う。

 だけど、目の前にいるダチとは……? 彼は、もう百年以上生きている。彼の寿命は二、三百年ぐらいだと言っていた。彼自身も、たぶんあと百年近くなら生きられるかもしれないと話していた。……そう、百年。俺が未来に飛ばされる年月も、百年。

 それって下手したら、――もう会えなくなるかもしれないってことじゃないか。


「なぁ、この魔法止めろよ! 計画がわかったなら、俺が逃げ続ければいいんだ! 数十年ぐらい隠れ続ければ、邪神の因果だって弱まって効果がなくなるかもしれないだろっ!」
「多くの魔族が協力しているって言っただろう、いずれ居場所を気づかれるかもしれない。それに、お前が逃亡生活で元気に過ごせるような精神状態になれる訳がない。お前、貧弱だし。……だから、全部終わった後の未来に飛ぶのが最適だと、俺自身も判断したんだ」
「百年後に行ったって、元気に過ごせる精神状態に俺がなれる訳がないだろ!」
「それこそ、わからないだろ。それでも、このままここにいるのがまずいのは確かだ。お前の因果が、この魔法を拒まないのが証拠だしな。安心しろ、ちゃんと色々考えておく。……時間だな」
「――ッ!?」

 身体が動かなかった。光り続けていた魔法陣から出ようにも、いつの間にか陣に力が吸い取られていたみたいで、身体が重くて抜け出すことができない。彼とのおしゃべりは、魔法陣の時間を稼ぐためと、俺の力を奪うためだったのか。今更気づいても、本当に遅かった。

 必死に声をあげるが、意識が徐々に遠くなり、何も聞こえない。彼が何かを話しているが、それも聞くことができない。いつか別れが来るのはわかっていた。それでも、こんな唐突な別れになるだなんて思わなかった。それも、俺の因果が原因で。

 そして、――魔法は発動された。



******



「ゲフンッ…!」

 次に意識が戻った第一声が、くしゃみだった。ドラゴン故に、なかなか厳つい感じだ。なんだか鼻がむずむずして、またくしゃみが出そうになる。それに堪らず、俺はバッと顔を上げた。

「……なんで、こんなに草がぼうぼうなんだ」

 ここは俺のお気に入りの場所だったはずだ。だから、こんなにも草が生い茂るぐらい放置なんてするはずがない。まだはっきりしない頭の所為で、ぼんやりする。さっきのくしゃみは、乱雑な草の絨毯に鼻が刺激されたからだろう。確かこの場所は俺が快適に過ごすために、定期的に草刈りをして、程よい草の絨毯にしていたはずなのだ。

 なんで、こんなことに? ……あっ、もしかして。ダチのやつが魔法の研究か何かで、植物の促進魔法でも実験してやらかしちゃったのかな。あいつは、いっつも無茶苦茶やっているから、確かにやりかねない。これは文句の一つぐらい言ってやらないと。

 そう意気込んで、俺は彼が住んでいる小屋に目を向けた。

「……えっ?」

 なんで、あんなに木材の色が落ちているんだろうとまず思った。形はしっかり残っている。だけど、人が住んでいるように感じられなかった。寂れたような、長年誰の出入りもなかったような。そんな印象を、見慣れた小屋から感じられた。

 それを見たと同時に、――ようやく霞みがかった思考が働きだした。


「あっ、俺、あいつに呼ばれて、それで確か……百年後って」

 零れていたピースがはまっていくと同時に、慌てて周囲を見渡した。寂れた小屋、手入れのされていない庭、森の木も一回り大きくなり、自然がさらに広がっている。あの研究バカは、魔法以外は無頓着なやつだったから、俺がいっつも掃除をしろと発破をかけていた。言うだけじゃあれだから、庭は俺が掃除をして、小屋の外側は俺が拭いていた。

 だからもし、百年間何も手入れがされていなかったのなら、今俺が見ている風景になるのではないのか。ドスン、と俺はその場に呆然と座り込んでしまった。

「……そうだ、もしかしたら小屋の中に」

 でも、俺の巨体じゃ中には入れない。それでも、扉を開けて中を覗くぐらいならできるはず。自分でも重いと感じる身体に鞭を入れ、草花を踏みつけながら入口へと向かった。ちょっと力加減を間違えたら、壊れそうな扉をなんとか慎重に開け、恐る恐る中を見渡した。誰もいない、気配もなかった。

「あれ?」

 ふと、入口の傍にこの辺りの地図が置いてあるのに気づいた。随分風化しているので、何十年と放置されていたのがわかる。それでも、俺の目はそれに釘付けにされていた。そこには、ここから少し離れた場所にある洞窟に印がつけられている。確か、俺がぎりぎり入ることができた幅はあったはずだ。

 俺は深く考えることなく、そこに一直線に向かった。翼を広げて空を飛び、そして向かった先に洞窟はあった。ここには、何故か魔法の結界が張られていることに気づく。多様な幻術の魔法が使われているようだが、俺には効かない。まるで、俺には効果がないような魔法による最高峰の守り。俺はそれを潜り抜け、洞窟を崩さない様にゆっくりと中に入っていった。

 そして、洞窟の奥にあったのは、簡素な机と魔法の研究施設だった。片付け下手な彼らしい乱雑に置かれた本に、資料の数々。他にも材料になりそうなものが、保存されている。ダチがここで過ごしていただろうとわかる場所。だけど、小屋ほどではないが、何年も人が訪れていないような感じであった。

 きょろきょろと首を振っていると、一角だけ掃除された机が目に入った。その上には、日記のようなものと、変な腕輪がある。日記は何か手がかりがあるかもしれないが、ドラゴンの俺だと破いてしまうかもしれない。下手に触ることができず、苛立ちが生まれた。とりあえず、隣に置いてある腕輪なら大丈夫だろう、と爪に引っかけるような感じで持ち上げてみた。

 その瞬間、腕輪から魔法陣が展開された。


「――ハァッ!?」

 当然反応できるわけがなく、俺は一瞬で魔法陣に包み込まれた。命の危機ではないようだが、混乱に思わず目を閉じてしまう。それから暗闇が続き、俺はゆっくりと開けた視界に、一体なんだったのかと呆然としてしまった。本当に何が起きた。俺は周りを見渡し、すぐに気づいた。

 洞窟が広くなっている? いや、さっきまで小さかったものが全て大きくなっていることに気づいた。空間を巨大にする魔法なのかと思ったが、どちらかというと俺が縮んだと考える方が納得がいくと思い至った。原因はおそらく、先ほど触った腕輪。俺は改めて確認するために、視線を向けた。俺の肌色の五本の指で、しっかり握り締められている腕輪を。

「……待て。俺の指は五本もなかった。三本の前爪に、その後ろに後爪がある鶏のような足だっただろ。何より、ちょっと薄緑っぽい鱗に覆われていて、手の内側は白かった。こんな、……こんな人間のような手じゃなかったはずなのに」

 だんだんぼやけてきた視界と、ふるえだした声。口に出る声だって、喉を使って音が出ているとわかる。風竜のように空気を振動させて言葉を紡ぐのとは違う、もう記憶の彼方に消えそうになっていた懐かしい動作。腕輪を持っていない方の手で、頭や腹や足を順に触っていき、それも記憶にある姿の通りで、遂に俺の涙が決壊した。

 どこを触っても、鱗のない身体。柔らかい皮膚。鋭い爪はなくなり、角も尻尾もなくなっていた。ドラゴンにはなかった髪の毛が頭部に生え、牙は小さく均等に並んでいた。しかも今気づいたが、全裸だった。いつもはそれが当たり前だったはずなのに、急に羞恥心が生まれる。零れ続ける涙を、急いで腕で拭って、目に入った大きめの布で全身を包んだ。

 それと同時に、見つけたのは鏡だった。ところどころ錆びつき、割れているところもあるが、俺の全身を映し出すぐらいのことならできた。自分の目に映った光景に、さっきまで信じられなかった現象を、ようやく俺は受け止められたのだ。

「……ははっ、やっぱりすごい魔法使いだったじゃねぇか。こんなにも完璧に、今までなかった人化の魔法を、……完成させたんだから」

 止めたはずの涙が、ボロボロと再び流れる。今度は俺も、涙を止めることなく泣き続けた。驚いたのか、嬉しかったのか、悲しかったのか、理由はわからない。それでも、どうしようもないぐらいに泣いた。あぁ、百年経ったんだって。ようやく、俺は納得できたんだ。


 どれだけ泣いたか記憶があやふやだけど、どこかすっきりした俺は、次に腕輪の隣に置かれていた日記を手に取った。これはたぶん腕輪と同じように、俺に向けて残されていたものだろう。魔法で腐敗を保護されていたらしい椅子に座り、それほど分厚くない本を開いた。

「あの後、やっぱり人化の研究をしていたんだ」

 そこには、簡単に日々あったことが書かれていた。あいつは魔法以外は適当なやつだったから、書かれている月日は飛び飛びだ。思い出したら書く、みたいな形式だった。それが彼らしくて、俺は小さく噴き出した。

 魔族たちは、俺をどれだけ探しても見つけられなかったことで右往左往していたらしい。彼はそれを横目に研究をしながら、俺と交流があるやつらを煽りまくっていたようだ。本当に何をしているんだ。俺から話を聞いていたからか、まずは俺の家族の下を訪れ、魔族が禁術を用いた所為で俺が危なくなったと伝え、そこからドラゴンたちを煽らせたらしい。竜王に危機を抱かせたのが、魔族。ということに、プライドの高いドラゴンたちが八つ当たりで魔族に喧嘩を売ったのだ。

 人間たちにも、特にドラゴンスレイヤー君辺りを、竜王が魔族に云々で煽りまくり、竜王打倒に燃えていた人間もドラゴンと一緒に八つ当たりに参加。人間とドラゴンと魔族の三つ巴、なんてことだ。しかし、人間とドラゴンは争わなかったらしい。その理由が、なんとドラゴン代表の古代竜さんと、人間代表のドラゴンスレイヤー君が俺の誘導の結果、好敵手ライバルとして認め合っちゃっていたことで、同じ八つ当たりということで連携してしまったのだ。そもそもの原因は魔族だったけど、これはちょっと同情しかけた。

 そんな「竜王は俺がやるはずだったのに、何やってくれんじゃァッーー!」なひどい八つ当たり決戦の間に、なんとダチは手薄な魔族のありとあらゆる禁書庫、魔法具、技術を火事場泥棒していた。漁夫の利どころじゃない、魔族にとって泣きっ面に蜂だ。しかもその時に、邪神召喚の魔法陣や技術を徹底的に消滅させ、この世から消し去ったのだ。

 因果を無効化する武器を壊す実力は彼にはない。だったら未来で、二度とその武器がつくられない様に手を打ったのだ。未来に移動した俺が、二度と同じ危機に陥らない様に。それに、また涙が流れた。


『魔族の技術をもらいまくったおかげで、人化の魔法に目途が立った。あいつも喜ぶはずだ。勝手に未来に飛ばしたことを怒っているだろう。これで、機嫌が直ればいいと思う』

 何が機嫌が直ればだ。未だに俺はもやもやしているぞ、馬鹿野郎。俺を殺そうとした魔族に、仕返ししてくれたり、人化させてくれたり、邪神召喚を消してくれたり、心の底から感謝だってしている。それでも、どうしても素直に喜ぶことができなかった。

 これじゃあ、俺のダチは俺の因果のために利用されただけじゃないか。俺だけが、何もしていないのに、利益ばっかりもらってしまった。そもそもの原因は俺なのに、俺の結果のために、彼は動かされたのだ。俺に時空魔法を使うことを、邪神召喚を無くさせることを。彼の人生を、俺の結果のために巻き込ませてしまった。

 これから先、俺が友人を作ったら、こんな風に利用されてしまうのか。俺の結果のために、友人としての気持ちを利用することで、原因を捻じ曲げさせて俺はそいつに助けられ続けるのか?

 それに、手が震えた。俺にそんなつもりはなくても、結果的にそうさせてしまう。……それならいっそのこと、友達なんて作らない方がいい。友達なんて作りたくない。こんな風に、俺だけが取り残されるぐらいなら、危なくても一緒に過ごしていきたかった。

『腕輪は完成した。ここの地図を、小屋の入り口に置いておいたから、たぶんあいつは来るだろう。腕輪は、とりあえず触ったら効果があるようにしておいた。説明するより、この方がわかりやすいはずだろう。周囲の魔力を吸って、人間になることができる。ただ長期に使うと、魔力残量が減っていくので、ずっとは人間になれない。そこは注意だ。さて、研究道具も保存が終わったし、やることはやった。……俺も、そろそろいこうと思う』

 最後の一文を読んで、手に持っていた本を強く握り締めてしまった。そろそろいく。それって、もう寿命が来てしまったということだろうか。百年後だったら、もしかしたらまだあいつは生きているかもしれない。そう、思っていたのに…。

『あいつと過ごすのは、悪くなかった。煩いし、元人間だし、訳がわからないドラゴンだったが、いつも面白いアイデアをくれた。半魔だとか、化け物だとか、研究や魔法しかできない俺なのに、そんなことを全然気にしない能天気さ。今でも思うが、本当にあいつは馬鹿だった』
「……おい、ひどすぎるだろ」
『それでも、そんな日々が悪くなかったと思うのだから、俺も馬鹿だったのだろう。だから、この結果に――後悔はない』

 そう締めくくられた日記を、俺は唇を噛み締めながら閉じて、自分の胸に押し付けた。後悔がないって、俺は後悔しているのに。それでも、俺と出会えてよかった、とそう言われているようで悔しかった。嬉しかった。

 あいつの言うとおりだ。俺が飛ばされる前に、『安心しろ、ちゃんと色々考えておく』と言っていた。準備万端すぎるだろ、ちくしょう。ここまでやってくれた友人に恩を返すには、俺が元気に寿命を迎えなきゃ、割に合わないじゃないか。そうじゃなきゃ、俺が死んだ後に絶対に怒られる。

「……俺も、お前との時間は楽しかった。俺にとって、最高の友達だった」

 再び溢れ出した涙と嗚咽に、俺はあいつに届くように言葉を紡いだ。



「そうか、それはよかった」
「…………は?」

 ぐずぐずしていた俺の後ろから、突然声をかけられた。平坦な調子の男の声。というか、ほんの少し前、未来に飛ばされる前に聞いていたような声が耳に入ったことに、驚きで固まる。涙も止まる。あっ、鼻水垂れた。

「ふむ、保存の魔法はかけていたが、少しばかり劣化があるな。これは研究のやり直しか。あとこの材料は、また今度取りに行かないと駄目だな」
「…………」
「そうだ、腕輪の調子はどうだ。何分実験対象がいなかったから、ぶっつけ本番だったんだ。できるだけ人間と同じような動作になるように神経を使ったんだが、何か不都合はあるか? あったら言え、俺は自分の研究は完璧を目指す主義なんだ」
「……お、まえ、ここに来て、この状態の俺に言う、言葉がそれか?」
「なんだ? なんでそんな面白い顔面になっているんだ、お前」

 やつに向けて、日記を剛速球でブン投げた俺は、絶対に悪くないと思った。


「……つまりなんだ。俺を未来に送って、魔族に被害を被らせて、魔法関係を強奪して、邪神召喚を潰して、人化の技術を完成させて、やることは全部やったから、俺に使った『時渡りの魔法』を今度は自分に使って、同じように未来へ来ましたと。日記の最後に書いていた『そろそろいく』や『後悔はしない』っていうのは、お前が未来に飛ぶのに後悔はないという意味で」
「あぁ、お前に使った魔法はあれから研究と改良をし続けてな。年数をある程度制御できるようになったから、丁度お前から見て百年後に着くように向かったんだ。時間のズレがあるかもしれないから、それならここに向かって来るように指示しておけば、入れ違いになることもない。日記も置いておいたから、百年の間の説明もしなくて済むしな」
「俺の、……俺の純粋な思いと涙を返せ。この無茶苦茶野郎!」
「なんで俺が、罵倒されなくちゃならないんだ」

 未来に飛ばす最後らへんで、一応「あとから行くから」的なことは言っていたらしい。聞こえていなかったよ、そこのところの重要な箇所。きっちり事前説明してから、魔法を発動しやがれ。能天気に言われるまま、魔法陣に入った俺が言うのもなんだけど!

 なんとこの人化技術と時渡りの魔法。十年以内に完成させちゃったらしい。日記を読んで、一生かけて作ってくれたのかと思っていたけど、こいつが新魔法とはいえ、一つの魔法にそんな年数をかける訳がなかった。これだから、本当に実力があるやつは。見た目があんまり変わっていないはずだよ。

「今回の研究は、なかなかいい成果だった。時渡りの魔法や、魔族からかっぱらった時空関係の魔法のおかげで、そのあたりの魔法はものにできたからな。これで、時間の猶予に問題はなくなった」
「……おい、時間の猶予ってまさか」
「なんだ? 俺の寿命である二、三百年じゃ、魔法の神髄を研究し尽くせないのはわかっていたからな。時空魔法はぜひとも習得したかったんだ。お前のおかげで、スムーズに魔族から奪うことができて、前の俺の一生の研究テーマが完成した。感謝しているぞ」

 本気でさっきまでの、友達を利用してしまったかもしれない俺の罪悪感と、お前への感謝の気持ちをちょっと返せ。これどちらかというと、俺の方がいい様に使われただけじゃねぇか。お互いに利益があったのならよかったけど、何この釈然としない気持ち。こういうやつなのは、俺が一番よくわかっていたはずなのに。

「……正直俺、もう友達を作れないと思ったんだぞ。俺のために、利用してしまうかもしれなくて」
「何を言っている。お前に死なれるのは、俺がつまらないと思ったから行動したんだ。それが、たまたまお前の結果に繋がっただけ。確かにお膳立てはされたが、それを選んだのは俺で、俺の意思だ。……お前が前に言っていただろう、友達は助け合うと。それだけのことだ」
「……そっか。利用じゃなくて、助け合うか」

 しこりのように残っていたものが、ストンと俺の中に落ちた。こいつがなんでもないように、当たり前のように言ってくれたからこそ、俺は馬鹿みたいに納得してしまった。確かにこれで納得してしまう俺って、能天気なのかもしれない。それでも、ただただ嬉しかった。笑顔に、なってしまった。


「よーし、新生ドラゴン兼人間として、色々過ごしてみますか! まずは、百年後の世界を見て回らないと。あと、家族にも顔を見せないとな」
「俺も、数十年後の世界の魔法に興味があるな。時間は十分にあるし」
「……じゃあさ、一緒にぶらぶら歩いてみるのってどうだ? 俺も新魔法に興味があるしな。現ドラゴンで前世人間の俺が、年上の先輩として世界のことを色々教えてやるぜっ!」
「……ハッ」
「おい、今なんで鼻で笑った。俺の方が、一応百歳以上は年上なんだけどッ!?」
「はいはい。……やっぱり、うるさいやつだ」

 肩を竦めながら、小さく笑われた。とりあえず、俺の次の目標は、こいつを一回は泣かせてやることだな。いつか、鼻水を垂らさせてやる。唐辛子みたいな辛いものでも、今度食事に混ぜて試してやろう。

「ほら、薄暗い洞窟から早く出ようぜ。世界が俺たちを待っているっ!」
「はいはい」
「……おいダチよ、若さ故の純粋さが足りないぞ」
「……おいドラゴン、年上故の威厳が足りないぞ」

 結局洞窟を出るまでにドタバタ(喧嘩)してしまったが、普段からこんなものだろう。これからも、騒がしく、楽しく、時にちょっとピンチになりながらも潜り抜け、この世界を俺は精一杯に過ごしていきたい。この命が枯れる、その時まで。


 俺こと、転生ドラゴンは、今日も異世界を元気に過ごしております。きっと、最後のその時まで、……ずっと。


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