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サントノーレ 作者:奈備 光

10章

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99 髪の毛一筋でも

 この辺りにいるはず、という場所にはサブリナはいなかった。
 オーエンの妻、サーヤの姿も。
 それどころか、誰の姿もなかった。
 先ほどの空間と同じように、灰色の世界が広がっているだけ。

 チョットマはスミソの懐からそろりと顔を出した。
 ニニは抱きついてきたが、ライラはちらりと目線を送って来ただけ。
 しかし、その目には優しさが込められていた。

 チョットマは、ごめんなさい、とだけ言った。
 心から、ごめんなさい……。


 ライラは明らかに落胆していた。
「ほんとに親不孝な娘だよ」と、何度も呟いて。
 そんなライラにかける言葉はない。
 ニニにもチョットマにも。

「ニニ」
「はい」
「あんた達の街に入ったってこと、考えられるかい?」
「サブリナとサーヤが? そうねえ……」

 もし、二人がこの次元に来たとき、現在のような状況だったとすれば、すぐさま帰ってオーエンやホトキンに報告しただろうか。
 大丈夫みたいだと。

 あるいは、もう少し様子を見るために、街の方へ行ってみただろうか。
 どちらに進めばいいのかわからない中を?
 いや、その時点では周りにアンドロがたくさんいただろう。
 きっと周りのアンドロにいろいろと聞いてみたはずだ。

「可能性はあると思うけど……」
 自分の目で、自分の体で確かめなくとも、二人はホームディメンジョンを戻ったのではないだろうか。
 事態が切迫していたことはサブリナもサーヤも知っていたはず。
 現に、オーエンは見切り発車という賭けをしている。

 サブリナとサーヤが、街の様子まで見に行ったとは考えにくいのではないか。
 とは思うが、では他にどんな可能性が。
 その答えは、軽々しく口にできることではない。


 しかしニニは、アンドロ。
「もし、ここが元のままだったら、かなり厳しかったでしょうね。それとも、パリサイドの体だと大丈夫だったのかしら」
「うー」
 ライラが唸り声をあげた。

「ニニ!」
「はい」
「じゃ、サブリナはどうなったっていうんだい!」
「んーと、パリサイドじゃないからよくわからないけど、重力に押し潰されても、何らかの痕跡はあるはずなんだけど」
 サブリナの肉体の痕跡とまでは言わなかったが、平穏では済まなかったということだ。
「跡形もないというのは変だと思うんだけど……」


 確かに、そこら中探しまわっても、灰色の空間には石ころひとつ落ちていなかった。
「この辺りにあると思うんだけど。ニューキーツへのゲートの位置、ここだから」
 この灰色の空間に、六十七の街それぞれへのゲートが並んでいるのだという。
「もう、消えてしまっているけど」

「帰ろうとしたとき、違うゲートを選んでしまったとしたら?」
「違う街に出ちゃうよ。でも、間違わないと思うけど」
「どうしてだい」
「それぞれかなり離れているから」
「なにか、目印でもあるのかい。ニューキーツ用とか書いてあるとか」
「そんなものはないよ」

 チョットマは恐ろしい考えが浮かんだ。
 それをまたニニが口にする。
「もし、ゲートが閉じるタイミングで……」


「あんた! ゲートが閉じるちょうどその時、なんてことになったらどうなるんだい!」
 ホトキンの解説は重苦しいものだった。
「我々の住むホームディメンジョンとこのベータディメンジョンの間には、緩衝地帯といえる次元がある。そこにさえ辿り着けば、安心なんだが」
「どういうことなんだい」
「重力に体を慣らす次元さ。次元というより、ホームディメンジョン側になる装置の中なんだがな」
「その次元まで戻っていれば、問題なくニューキーツに戻れるということなんだな」
「そういうことになる。もし、その次元まで行きつけなかったとすれば」

 ホトキンが言葉を飲み込んだ
「ちょうどその時、ゲートが閉じたら……。わからんな」
「おい!」


 ふっと、ホトキンの顔が綻んだ。
「ありえないな。ふたり同時にってのは」
「ん? ちゃんと説明しな!」
「ゲートでの次元移行は瞬時に行われる。光が一枚の紙を通り抜けるほどの時間だ。体のどの部分でもゲートにかかれば、瞬時に体全体がその先の次元に移行する。髪の毛一筋でもゲートにかかればな。だから、ふたり同時にとは考えられない」

「街に戻ろう」
 ライラを先頭に街へ向かいながら、ホトキンがゲートの仕組みを話し始めた。
 チョットマの頭には一向に入ってこなかった。
 心に浮かんだのはむしろ、そもそも二人がこの次元に移行してきた証拠もないではないかと思いたい、ということだった。

 街に入る門のすぐ外に、一人のアンドロが蹲っていた。
 溶岩の姿をして。
「ちょっとあんた。教えておくれ」
 ライラが躊躇なく声をかけた。
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