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サントノーレ 作者:奈備 光

10章

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98 史上初の恋

「ごめんなさい」
 チョットマは心の中で何度呟いたことだろう。
 スミソの腕に包まれて、涙が枯れることはなかった。

 スミソは、チョットマは眠っていると言ってくれた。
 その心遣いがうれしかった。
 口を開けば、投げやりな言葉しか出てこない。
 しかも、泣きじゃくった声で。

 ンドペキ、ライラ、ニニ……。
 私の大切な人が揃っていてくれた。
 こんなにいい人に囲まれているのに、私……。


 ライラ、ありがとう。
 スミソのお腹をつついて掛けてくれた言葉。
「ほんとにあんたは馬鹿だね。どこかの誰かさんが自分を想ってくれていることも気づかないなんて」
 ちゃんと聞こえていたよ。
 聞こえるように言ってくれたんだね。
 私が眠ってなどいないことは、ライラならお見通しだろうから。

 どこかの誰かさん。
 それは、ライラ自身のこと?
 もしかすると、スミソのことも。
 プリブのことも。
 そしてンドペキのことも、指しているのかもしれない。

 さっきの私、みっともなかった。
 自分の出来の悪さは身に染みて分かっているけど、ンドペキに向かってあんな言葉を吐くなんて。
 ごめんなさい。
 許して。

 恥ずかしい。
 情けなさすぎる……。
 ンドペキなんか、嫌いだなんて。
 やっぱり私は出来そこない。

 今度こそ、見放されただろうな。
 身から出た錆。
 自業自得。
 本当に、ごめんなさい……。


 ニニがライラに話しかけている。
 彼女も、ごめんなさいって。

 ライラ怒ってるでしょ。
 さっきから口もきいてくれないし。
 挨拶もせずに、こっちへ来てしまって、ごめんなさい。
 断りもせずに、自分だけ逃げてきたんじゃないのよ。
 マリーリを追って……。

「怒っちゃいないさ。でも、ニニ、急いでおくれ」
「はい」
 ライラの娘サブリナが入って来たと思える次元のゲート。
「もうすぐよ」

 みんなでサブリナという人を探しにいくことになった。
 どんなところを歩いているのかわからない。
 パリサイドの翼にくるまれているから。
 でも、私、出て行きようがない。
 どんな顔して出て行けばいいのか、わからない。


 ニニがまたライラに話しかけた。
「サブリナって、ひとりで? 次元を確認しに来たパリサイド、二人って聞いたけど」
 ホトキンが応えた。
「オーエンの奥さん、サーヤ」
「えっ、そうなの」

 サブリナとサーヤ。
 ライラの娘と、オーエンの妻。
 二人とも神の国巡礼教団に従った女。
 その罪滅ぼしに……。
 チョットマはそんなことを思って、益々心が塞いだ。

 みんな、大きなものを背負っているんだ……。
 この二人も、ハクシュウも。
 ブロンバーグもクシも。
 ライラも。
 そしてアンジェリナも。

 私が背負ったもの……。
 私のしでかした失敗は……。
 小さくはない。
 でも、自分だけが特別に不幸なんだと思うこと自体が間違っているんだ……。


 話題が重すぎると感じたのだろう。
 ニニがあっさり話題を変えた。
「ねえ、セオジュンなんだけど、なんて言うのかな、アンジェリナを、んーと、本気で愛してるんじゃないかな。私、聞いたんだ。誰にも言ってないんだけど」
 アンジェリナに、告白したのだという。
 僕は君といつも一緒にいる。
 これからもずっと身近なところで。
 たとえ姿は見えなくなっても。

 どこかで聴いたような台詞だった。
 そういや、ハワードがそんなことを言ってたなあ。
 久しぶりに彼のことを思い出した。
 同じような言葉。
 でもあれは、愛というようなことじゃなかったような気がする……。


 ニニの笑い声が聞こえた。
「そんな言い方するのって、普通のこと?」
「どういう意味だい?」
「だってアンドロじゃ、普通は愛って感情はないし、もしあったとしても言葉にするのに慣れていないと思うから」
「誰だって慣れっこないさ」
「そうなの?」
「そうさ。たやすく口にすることじゃない」
「ふーん」

「ニニ、セオジュンはアンドロさ。とびきり感情の豊かな」
「やっぱり!」
 ニニも、セオジュンがメルキトではなく、アンドロっぽいと感じていたという。
「だって、感情がストレートなのね。アンドロの私が言うのもなんだけど、セオジュンは最もアンドロらしいなって」
「アンジェリナもアンドロさ」
「そうよね! そうか、アンドロ同士の恋って……」

 ニニが言葉を探していた。
 思いつめた挙句、極端な結果が。
 そんな言葉が候補に挙がったかもしれない。
 しかしニニは、「成就すれば史上初ってことになるね」と、笑った。


 チョットマにニニとライラの表情は見えなかった。
 にこやかに話題を繋いでいるのだが、それもサブリナを見つけるまで。
 もしかすると、悲劇的な事態が待ち受けているかもしれない。
 それまでに心の準備をしておくための話題。

 その証拠に、それきり二人は黙り込んでしまった。
「この門の向こうに。いるとすれば、だけど……」
 という言葉を残して。
 チョットマは、スミソの懐から出て行く機会を逸したことを知った。
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