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サントノーレ 作者:奈備 光

10章

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97 サントノーレの未来

 膝の上の聞き耳頭巾の布に、動かなくなったフライングアイを載せて、アヤは会談を聞いていた。
 ようやく体の震えは収まったが、イコマのことを考えると、気が気ではない。

 想像していたより広い部屋で、立派な装飾まである壁や天井が、地下とは思えないほど明るく照らし出されていた。
 聞けば、元サントノーレ市の公会堂を移設したものだという。

 中央に急ごしらえのステージが設えられ、壇上にレイチェルとJP01が腰かけていた。
 そして座る人のない椅子がもう一脚。

 ステージ脇には、レイチェル側として、ヒカリ、ユージン、スーザクの三名。
 いずれもレイチェルのSPだ。
 パリサイド側には、KW兄弟、そして、相変わらずサリの顔を借りているKC36632。

 冒頭に、司会役の男から、ブロンバーグ市長が何者かに殺されたことが報告された。
 そして、言うまでもないことだがと断って、いかなる状況に置かれようとも、市民の代表はニューキーツ長官レイチェルであることが再確認された。

 その間、レイチェルもJP01も時々目を交わすだけで、口を開かず、集まった人々に目をやっていた。
 レイチェル騎士団の姿はなかった。
 これについて説明しようとする司会役の男を遮って、レイチェルが口を開いた。
「話を急ぎましょう」
 久しぶりに聞くレイチェルの声だった。
「事態は急を要するので」


 レイチェルがJP01に向き直った。
「お久しぶりですね」
「ええ、あのシリー川の会談以来かしら」

 実際は、あの洞窟で何度も顔を合わせている。
 しかし、そのことは伏せておきたいということだ。
「返答は差し上げないままになってしまいましたね。本当にすみませんでした」
 あのとき、パリサイド側は地球での居住権を認めてくれるよう、申し入れていたのだった。
「もう、済んだことです」
「そうですね。では、ご提案の内容をお聞きしましょう」

 やはり、会談の目的は、ニューキーツ沖に停泊したパリサイドの宇宙船に避難してはどうか、というものだった。
「この方法がとれる街は多くありません。世界中でここだけです」
 パリサイドを同じ人類として受け入れる素地があり、街の中心部が水系によって海と結ばれているという地形条件を満たさねばならない。
 しかも、その水系はある程度の水量があり、かつ熱波の影響を受けない場所にあることが必要である。
「その点、ニューキーツ、もうサントノーレといった方が的確なのかしら、は好条件が揃っています」

 JP01は、単刀直入に申し上げます、と断って、きっぱりと言った。
「もはや時間の余裕はない。この避難所はカイロスという装置が完全な状態でその役割を果たした場合に成り立つものだと聞いています。でも、カイロスは失敗した。この避難所は人類が生き延びていくには脆弱すぎます。私たちの宇宙船へお越しください」


 固唾を飲んで見守る人々。
 パリサイドの船に取り込んでしまわれれば、いったい何をされるか知れたものではない。
 元はと言えば、狂信者集団、神の国巡礼教団。
 洗脳され、資産を奪われ、肉体的にも思想的にも奴隷にされるだけならまだしも、もっと恐ろしいことが行われるかもしれない。
 そんな恐怖が、市民にはまだ根強い。
 だからこそ、パリサイドに居住権を与えることに拒否を示した街は多く、明確な態度をとらなかった街は二か所だけだったのだ。

「人類が、その種を未来にも紡いでいくために、長官、ご決断ください」
 JP01が迫った。
 ただ、自分達も、人類だとはことさらに言わなかった。
 レイチェルの心情は分かっている。市民に向けた言葉なのだろう。


 ユウお姉さん……。
 頑張って……。
 アヤはこの様子をイコマにも見せてやりたいと思った。
 おじさんなら、この会談の様子をどんな気持ちで見るだろう。

 壇上にいるレイチェルが偽物かもしれない、レイチェルが作ったクローンかもしれない、という疑問はもう意味をなさなかった。
 本物のレイチェル。
 アヤはそう信じたし、もしそうでなくても、ここは誰かが決断を下さなくてはならない。
 たとえそれが、レイチェルのクローンだとしても。
 いっそ、チョットマだったらよかったのに。
 アヤはそんなことを思いながら、壇上の二人を見ていた。


「何度も申し上げますが、私たちはあの教団とは無関係です。過去も未来も。そういうご不安もあろうかと存じますが、全く、ご安心くださって結構です」
 JP01が説いている。
 本当はレイチェルは決断しているはずだ。
 パリサイドに対する嫌悪感は元々ないのだから。
 結論を与えず、JP01に話させているのは、市民に聞かせようと考えてのことだろう。

 しかし、ようやくレイチェルは立ち上がった。
 足がもつれた。
 すかさず駆け寄ったヒカリとスーザクに支えられ、JP01に近寄った。
 JP01も立ち上がる。

「よろしくお願いします」
「こちらこそ」
 ニューキーツ市民、原則全員、パリサイドの宇宙船への避難が決まった。

 アヤは壇上に駆け寄った。
「レイチェル!」
「アヤちゃん!」
 JP01とレイチェルが同時に叫んで、ステージから飛び降りてきた。
 そして、JP01がフライングアイを手にした。
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