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サントノーレ 作者:奈備 光

10章

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96 フライングアイの足

 会談の場所は、サキュバスの庭ということだった。
 ライラの部屋の向かいに、普段は使われない部屋があるという。

 アヤは急いだ。
 聞き耳頭巾を取りに戻り、その後、サキュバスの庭に向かう。

 エリアREFの避難所には、いくつもの出入り口があった。
 サキュバスの庭から、ごみ焼却場の下から、そして市長が門番をしていた付近から。
 いつもはバーチャルな仕掛けによって閉じられているが、今はすべて開放されているという。

「おじさん、レイチェルは生きていたんだね」
「うん」
「本物だと思う?」
「うーん」

 レイチェルは禁を破って、チョットマ、サリという二人のクローンを作っていた。
 それ以上には作っていなかったという保証はない。
「本物かどうか、会えばわかるかな」
 見極める方法はあるだろうか。
 チョットマとサリは、どこかレイチェルと似ている、という程度の近似性だった。
 瓜二つ、だとすればどうすればいいのだろう。

「本物かどうかなんて、どうでもいいことかもしれないけど」
 レイチェルはサリに刺され、そのまま地下水系に姿を消したのだ。
 水の流れは速く、しかも地下を流れていく。
 水面に顔を出す場所は限られている。
 命はないとみるのが普通だ。

「騎士団のスコープ。信用してた?」
 あれはレイチェルの存在を指し示していた。
「そういや、騎士団、来るんだろうな」
 騎士団は壊滅したが、生き残りはいる。
「だれか、知らせたのかな」

 そもそも、今回の会談の立役者は誰だろう。
「市長は死んだのかな」
 避難所にはそんな噂も飛び交っていた。
「殺されたみたいだけど」

 もしブロンバーグが殺されたのなら、どんな理由で?
 避難所の指揮権を奪うため?
 そんな酔狂な者がいるだろうか。

「どうでもいいことだけど」
 避難している市民の間でも、そんな気分があった。
 一部の市民を除いて、ブロンバーグ市長の死を悼むほど、気持ちの余裕のある者は少なかった。


 アヤはフライングアイを肩に乗せ、ごみ焼却場の下辺りに差し掛かっていた。
 イコマの口数は少ない。
 アヤが話しかけ、イコマが短く応える、という応酬が続いていた。
「ねえ、おじさん」
「うん?」
「パリサイドの代表者って、ユウお姉さんだと思う?」
「そうだといいね」

 とは言いながら、そうでない方が家族としてはいいことかもしれなかった。
 ユウの負担が多ければ大きいほど、自由な行動は制約されるだろう。
 相談したいことはたくさんあるのに。

 イコマが無口なのは、いろんな心配事を抱えているからだろう。
 アヤはそう思おうとした。
 それほど、イコマの口数は少なかった。

「きっとパリサイドは、提案するんだと思う。ここにいても未来はないから、自分達の船に来いって」
 パリサイドの誘いに乗って、すでに船に避難した市民も相当数いると聞く。
「パリサイドの体はなくても、包んでもらって、水中を移動することができるみたい」
 パリサイドの腕の翼に巻かれると、いわば生体カプセルのようになるらしい。
 水は通さないし、有害な光線からも、あるいは高温からも遮断され、しかも普通に呼吸はできる。
「噂だけどね。実際、そうしてもらった人の」


 イコマは返事をしなかった。
「おじさん」
 アヤは少し心配になってきた。
 もしや……。
 イコマの思考体はパリサイドの技術によって、他のアギとは違うシステムで動かされているはずだが。
 二十四時間稼働で、エネルギー供給も太陽フレアによるリスクを受けず安定しているはず。

「おじさん」
 ただ、パリサイドのシステムとはいえ、既存のシステムに依存している部分もある。
 その部分がダウンしたら……。
 あるいはフライングアイの機構としての部分に障害が出たとすれば。

「おじさん! 返事して!」
 ん!
 肩に止まっているフライングアイの足が離れたように感じた。
「あっ!」

「うわあっ!」
 フライングアイが床に落ちた。
「おじさん!」
 あわててフライングアイを拾い上げたものの、様子がおかしい。
「大丈夫なの!」


 フライングアイは稼働していなかった。
 話そうとはしなかったし、羽を動かそうともしなかった。
「おじさん!」

 もうコンフェッションボックスは使えない。
 どうすれば……。
 いや……。
 まさか……。
 システムごとダウンしたのなら……。
 アヤは体の震えを抑えることができなかった。
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