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サントノーレ 作者:奈備 光

10章

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93 イダーデ

 スミソとチョットマ、ニニ、そしてライラとホトキンの五人と別れ、ンドペキは市民の前に戻った。
 アンドロの救援隊であるヌヌロッチの登場は拍手で迎えられるかと思ったが、そうでもなかった。
 市民はすでに不安で一杯だったのだ。

 ここに来て本当によかったのかと。
 助かるのかと。
 生きていけるのかと。
 新たに出現する人はもういなかった。
 ゲートが閉じたのか、来ようとする人がもういないのか。
 いずれにしろ、三万五千人。
 わずかこれだけの人数で、新しい社会をこの灰色の空間で築いていくことになる。
 そのことが身に染みて、おののいていたといえる。

 前長官キャリーの姿はなかった。
 目に見えるほどヌヌロッチは落胆していた。
 しかし、ニューキーツ治安省長官として、アンドロの代表として、市民の前に立った。
 そしてこの次元の成り立や現状の説明を始めた。
 市民にとりあえず入ってもらうスペースは十分にある。
 食料や水なども、手配はかけてあるので、おいおい供給されるだろう、と。


「注意して欲しいことがあります」
 ヌヌロッチが街の構造について説明した。
 全員に声は届かない。
 各グループから隊員他、数十人が集まって話を聞くことになった。

 東西に長い街路が二本、真っ直ぐ走っている。延長は概ね二十キロほど。
 そもそも方位などないが、便宜的にそう決めてあるという。
「中心部といえるのは、せいぜい五キロほどです。その範囲外には行かないでください」

 その理由は、時間がないからと、ヌヌロッチは説明しなかった。
「南北にはいくつもの街路があります。長さ一キロほどです。こちらには門があります。それ以上は足を踏み入れないように」
 危険だから、とだけ言って、次の説明に移っていった。


「最も大切な点、地球と最も異なる点について説明します。それは時間の概念です」
 この次元では、時間は一定に流れているというわけではない。
 場所によって異なるという。
「街を東に行けば行くほど、時間の流れは遅く、西に行けば行くほど時間は早く流れています」
 市民がどよめいた。
 つまり、街の東の方で長い間滞在して、西に向かえば浦島太郎状態になるというわけだ。

「しかも、その変化さえ一定ではありません」
 時計は意味を成さない。
 東の街では、時計の針はゆっくりと回り、西では急いで回る。
 しかしそれは、平均の地点と比べてという意味であって、その場では物質の動きに合致しているため、違和感はない。
「感触で慣れてもらうしかないと思います」


 ヌヌロッチは「街」という言葉を連発していたが、どこに「街」といえるものがあるのか。
 ただ灰色の世界が広がっているだけではないのか。
 市民もンドペキの思いと同じだったようで、醒めた目をして話を聞いていた。

「では次に、この次元を満たしているエネルギーについて」
 本来、この次元のエネルギーは莫大で、常時渦巻いているという。
「いわば、太陽のコア部分と思えばいいでしょう」
 市民のどよめきがいっそう高くなった。

「それを遮断するため、コンテナが作られています」
 そういって、ヌヌロッチは上空を指差した。
「ここは、コンテナの中です。この次元にしかない物質によって、コンテナは作られています」
 数百年の間、コンテナが破損した例はないという。
「安全です。完璧に管理されています。ただ、それはアンドロにとっては、という意味です。生身の人間にとっては過酷過ぎて、一瞬たりとも存在できないでしょう」


 おい。
 それは話す必要があるのか。
 市民の不安を煽るだけではないのか。
 ンドペキはそう思ったが、自分が聞いておきたいという気持ちが勝った。
「コンテナのバリアは、この次元に渦巻くすべてのエネルギーを遮断するようにはできていません。ここで使うエネルギーを得る必要もありますし、コンテナやバリア自体を保持するエネルギーも必要ですから」
 太陽コアほどではないにしろ、かなりのエネルギーがコンテナ内に流れ込んでくるという。

「ほとんどのエネルギーは重力に転換されます。なので、エネルギー量が多いときには、相当の重力がかかることになります」
 立っていられないどころか、呼吸や脈動にも支障が出るという。
 ひどいときには、人体組織の細胞が崩れ始めるという。
「人の形を維持することさえできないのです」


 あ、ニニのあの姿はそれだったのだ。
「これから、街で石ころを見かけることがあるでしょう、それは人です。眠っているのです。いつ何時、どんな重力に見舞われようとも大丈夫なように、姿を変えているのです」
 ヌヌロッチは、ただ、と声を張り上げた。
「今、この次元は人が住む環境に生まれ変わりました! コンテナのバリアの強度が増したのです! 完璧にコントロールされています! 安心していいのです!」
 そして、満面の笑みを作った。
「ここイダーデに皆さんをお迎えすることができて、よかったと思っています!」

 アンドロは自分達の街をイダーデと呼んでいるという。
「まだまだたくさんお話しすることがありますが、落ち着かれてから、ということで」
 そういって話を締めくくった。
 ンドペキはヌヌロッチが安心していい、と言い切ったことに違和感を持ったが、詮索することでもない。

 市民の大移動が始まった。
 ンドペキとスゥは、ヌヌロッチとともに、行列の最後尾を歩き始めた。
 歩きながらさまざまなことを話し合った。
 もちろん、大部分はこれからの市民生活のこと。
 そして前長官キャリーのこと。
 この次元の環境をコントロールする装置のこと。


 歩くこと十五分。
 ンドペキは目を疑った。
「これは!」
 ひとつの門を通った時だった。
 目の前に広がった光景は!
「うわ!」
 スゥが驚きの声を上げた。
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