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サントノーレ 作者:奈備 光

10章

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91 出来損ないの人形

「スミソ」
 パリサイドが頷いた。
 その目が、何としてでもチョットマを守り抜きます、と言っているようだった。
「頼む」
「はい。チョットマは眠ったようです」

 スミソが言うには、チョットマはこれからセオジュンとアンジェリナを探しに行くつもりだという。
 そのために、この次元へ来たのだと。
「元々はそうじゃなかったんですけどね。元はといえば、あの緑色の髪の女、カイロスを起動させた女を逃がすまいと」
「そうなのか」
「追いついて、どうするつもりだったのか、わかりませんけどね」


 芝生広場の階段を降り、その階からここへ移行して来たという。
 スミソが、どうしたものかというように小首を傾げた。
 きっと、今のようにチョットマはスミソを手こずらせたのだろう。
「さっき、ここがアンドロの次元だと聞きました。いろいろ大変だとは思いますが、私はチョットマと共にいたいと思います」
「ああ」
「勝手を言いますが、しばらく自由行動をとらせてもらえないでしょうか」

 それは構わない。
 それで、チョットマが気を取り直してくれるなら。
「ありがとうございます。では、このまま、セオジュンとアンジェリナを探しに行ってきます」
「んー、でも、どこへ?」
「さあ。わかりません。この世界のアンドロに聞けば、なにか手がかりはあるでしょう」

 ヌヌロッチへ向けた言葉だったが、ヌヌロッチは我関せずという風で、市民のいる方向を眺めていた。
「どうです? なにか、手がかりとなるようなことは?」
 これにもヌヌロッチはぶっきらぼうに応えただけだった。
「知りません」
「そうですか。そこにおられる方々はいかがです?」
 しかし、誰も進んで声を上げようとする者はいなかった。


 ヌヌロッチが溜息をついた。
「そもそも、こういうことになるとは……」
 眉間に寄せた皺から、困惑の色が浮き出ていた。

「こういうこととは?」
「この次元も様変わりしてしまいました。だいたい、こういう、なんていいますか、気候のいいところではないのです」
「気候?」
「ここは、とてつもないエネルギーが充満し、暴れまわっている次元です。いつもなら」
「ああ」
「こんなに平穏な状態は初めてです」
「そうなのか……。いつから?」
「先ほどからですよ。あなた方が入ってくる少し前から。いつまで続く」
 のかわからないが、とヌヌロッチは言いかけて、「きっと何らかの作用が働いたのでしょう」と言い直した。

「大丈夫か、二人だけで」
 元々、このベータディメンジョンは生身の人間が生存できる場所ではないと聞いている。
 地球上の街のように、お上りさんよろしく歩き回れるところではないはず。
 ゲントウが作った装置といえども、どの程度の効果が見込めるのか、まだ実証はできていない。
 ヌヌロッチによれば、起動したばかりなのだ。
 今は確かに、少々体が重く感じられはするものの、行動に支障はないし、生存が危ぶまれる環境でもないが。

 ゲントウがこの次元に作った装置。
 人が住める環境にするための装置。
 数百年前に、アンドロ達に作らせた装置。
 ヌヌロッチは語ろうとしないが、どこかにあるはず。
 そして何らかの方法で起動させたはず。
 なにか隠しているのではないか、ンドペキはそんな気がした。


 背後に気配を感じた。
「ん!」
 生きた溶岩に変化が起きようとしていた。

 背丈がぐんと伸びたかと思うと、手足らしきものが出現し始めた。
「ぐっ」
 恐怖を感じたが、ヌヌロッチが動じないことを見て、武器に伸ばしかけた手を止めた。

 岩は見る間に人の形に変わっていく。
 黒々とした岩肌の色が抜けていき、ごつごつした表面が滑らかなものに変わっていく。
 人肌色に変わり、頭部に目や鼻が姿を現す。
 髪が生え、指が分かれ、乳房が盛り上がった。


 全裸だった。
 女……。
 若い。

 目を瞑っている。
 まだ、出来損ないの人形のように表情はない。

 が、どこかで見たような……。


「うぐっ」
 腹が割れた。
「ぬ!」
 割れ目から、布が出てきて、たちまち全身を覆っていく。
 衣服だ!
 それとともに、出来損ないの人形から、美しい女に変わっていった。

 ついに、女が目を開け、口を開いた。
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