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サントノーレ 作者:奈備 光

1章

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8 ライラの伝言

「なあ、ンドペキ、いまさらなんだが、市長ってやつの言葉は信じられるのか?」
 パキトポークが話題を変えた。
「おい、いまさら何を言う」
「いや、お前を信じていないわけじゃないし、スジーウォン達は立派に任務を果たして帰ってくる。ただ……」
「ただ、なんだ」
「なんというか、あの宗教じみた言い伝えが、俺にはどうも……」
「受け入れがたいって言うんだな」
「まあ、そういうことだ」

 市長。
 そんな人物がこの街にいるというのは初耳だった。
 数日前、ライラが訪ねて来たのである。自分はメッセンジャーだと言いながら。
 ライラの話は奇妙な話だったし、迷惑な話でもあった。
「ブロンバーグという男がいる。この街の市長なのさ」
 ライラはこう、話を切り出した。
「あんた達、カイロスってのを知っているかい」

 カイロスというのは、エリアREFを治めている大蛇を崇めている団体らしい。
「あたしゃ、宗教なんて信じないよ。カイロスってのは、本当はある使命を帯びた連中。宗教団体めいた雰囲気は、カムフラージュなのさ」
 ある使命とは。
 地球滅亡を阻止すること。
「ふざけたことを言うな、って顔だね。そりゃそうだろうさ。でもねえ」
 ライラは真顔で言った。
「あたしゃ、あながち嘘でもないと思うんだよ」


 ライラの夫ホトキンが、なぜ地球滅亡の日が近いのかを話してくれたという。
 かなり以前から、その指摘はされていた。で、ある種の装置が秘密裏に作られたって言うんだよ。
 地球滅亡を回避するための装置がね。
 ゲントウという男によってね。
 ゲントウっていうのは、オーエンの昔の右腕さ。

 しかし、時が経ち、その装置が持つ本質の解釈に、違いが生じた。
 カイロスという団体は二つの派閥に分かれたのさ。百年ほど昔に。
 ひとつはここニューキーツ。もうひとつはロア・サントノーレという街に。
 その装置を発動させまいとする一派が、ニューキーツからロア・サントノーレに逃れたというのが実態らしい。


「でさ、市長の頼みはこうさ」
 いよいよその時が近い。いつ何時、装置を発動させるべき日が来るやもしれない。
「市長はカイロスなんだよ。で、言い伝えを信じている」
 言い伝えにはこうある。
 若草色の髪を持つ女が、カイロスの珠を開くであろう。

「カイロスの珠を開く道具、たぶん何らかの剣みたいなものなんだろう。それを取り返して欲しいと言うのさ」
 それがロア・サントノーレにあるというのだ。
 地球を救うため、ゲントウの装置を発動させるアイテムを揃えておきたいというのだった。
「市長は焦っているのさ。地球を救うのは、ここニューキーツ。自分が何とかしなくちゃ、とね」
 ライラは、何度も言い伝えを繰り返し口にした。
 若草色の髪を持つ女が、カイロスの珠を開くであろう。
「つまりは、カイロスの珠を開くことによって、何かが作動し、放出されるエネルギーによって地球は救われるというのさ」

 そして、ライラはンドペキをじっと見つめたのだった。
「でさ、ンドペキ」
 言われなくても分かっていた。
 緑色の髪を持つ女性が現れたことによって、その日が近いと市長は考えたというのだった。
「若草色の髪を持つ女。そりゃ、説明しないでも分かるだろ」
 さすがにライラは、それがチョットマだとは言わなかった。だが、
「クシっていう男も、見かけるしね」と口にしたのだった。


 そんな話だけなら、ンドペキは一笑に付しただろう。
 しかし、市長はこうも言ったという。
 実は、その剣とやらを取り戻す依頼は、ハクシュウにしてあるという。
 ただ、今回の騒動が起き、ハクシュウは死んだ。
 きっと再生時にはロアサントノーレに向かうはずだ。そういう約束になっているから、という。
 しかし、念のためにンドペキ隊からも、ということらしい。

「あたしゃね、アンドロとの対決も大切なことだと思うよ。でもさ、地球そのものが滅びてしまうんだったら、と思うとね」
 ライラは、まるで世間話をするように言う。
「きっと市長も同じ気持ちだと思うのさ」
 あえて、頼むとは言わない。彼女なりの、伝言の仕方なのだろう。

「何度も言うけど、あたしゃ宗教なんてものには興味はないよ」
 装置の存在を隠すために、宗教じみた言い伝えとして残されたのだという。
「あくまでこれは科学の話さ」
 ライラは、再びオーエンとホトキン、そしてゲントウという名を出した。
「カイロスってのも、本当はどうでもいいことなのさ。百年二百年も経てば、言い伝えはおどろおどろしくなるもんさ」
 ライラは、市長の話はこれで終わりだ。ちゃんと伝えたよ、と言って席を立とうとした。


「ライラ、ちょっと待ってくれ」
「うん?」
「伝言はわかった。しかし、その市長さんとやらに会わせてくれないか」
「……」
「あんたを信用していないわけじゃないさ。もう少し話を聞きたい」
「それがね」
 市長には、まだ会わせられないという。
「でも、あんたは何度も顔を合わせているよ。それどころか、何度も話しているよ」
 いずれ、名乗るだろうということだった。


 ンドペキはためらった。
 ライラを信用している。
 しかし、この茫洋とした話は……。
 アンドロ軍と対峙している自分達にとって、あまりに現実離れしていて……。
 地球を滅亡から救うため……、なんて。
 どうかしてるんじゃないか……。
 いかれた宗教に振り回されるほど、落ちぶれてはいないが……。

 幸いに、ライラはこの話は他の誰にもしていないという。
 ンドペキは、まず、スゥにどう思うかと聞いた。
 驚いたことにスゥは、あるいはユウであるJP01は、地球滅亡の日が近いという点に関しては、その通りだといった。

 では、何らかの手を打つべきなのか。
 これについてはスゥやユウは明言をしなかった。ンドペキの専任事項だからなのだろう。

 誰かをロア・サントノーレという街に向かわせるべきなのだろうか。
 ライラの話では、市長は今すぐにでも、ということだった。
 ハクシュウに依頼し、改めて自分達に依頼をしてきたということは、軍事的な要素があるということだ。
 ロア・サントノーレでは、力ずくで手に入れる必要があるということなのだろう。

 チョットマの耳には入れたくない。
 そんな重荷を背負わせたくはない。
 彼女が緑色の髪を持つ女性だからといって。

 隊員たちには話さず、スジーウォンとコリネルスとパキトポークとロクモンだけに図った。
 結果、スジーウォンとスミソが向かうことになった。
 その剣を持ち帰り、あわよくばハクシュウと再会し、ここに戻ってきてもらうために。


「俺には、地球滅亡なんて、実感がないんだけどな」
 パキトポークが呟くように言うが、それはンドペキ自身も同じことだった。
「市長と会ってからとは思ったが、案外、スジーウォンが……」
 話を聞いてすぐ、スジーウォンが名乗り出たのだった。
 今すぐ、私が向かいますと。

 ンドペキはあれ以来、何度も考えてみる。
 ハクシュウとの合流が意図されていなければ、スジーウォンもそんな気持ちにはならなかったのだろうか。
 スジーウォンとハクシュウ……。俺はそんな目で二人を見たことはなかったが……。


 コリネルスやロクモンは無表情だったが、パキトポークは天井を睨んで考え込んでいる。
 その瞳には、明らかに苛立ちの色があった。
 そして、パキトポークの口から漏れた言葉、くそう。
 その言葉をンドペキは聞き逃さなかった。

 ふわりと忍び寄ってくるさまざまな記憶。
 ンドペキは、心の中に小波が立つのを感じた。
 もしや。
 スジーウォンはハクシュウに、パキトポークはスジーウォンに……。
 それぞれの想いを……。

 これまでの平凡な日常の中では、そんな想いは煮詰まることもなかっただろう。
 投げかけることもなかっただろう。
 マトやメルキトにとって、人を愛することなど、もうとうの昔に忘れてしまった感情だったのだから。

 しかし今、死ぬかもしれない、再生されない死が目の前にある、という状況になって、そんな感情が頭をもたげてきたとしても不思議ではない。
 そして、ンドペキ自身がスゥに対して感じたように、人を愛することの切なさと心地よさを思い出したとしても。
 まさにンドペキとスゥは、今、誰はばかることなく、愛する者同士として隊員達の前にいるのだ。
 それが、スジーウォンやパキトポークになんの影響も与えていないはずがなかった。

「敵襲! GTZN!」
「ちっ。また来やがったか!」
 パキトポークが、はじけた様に立ち上がった。
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