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サントノーレ 作者:奈備 光

9章

85/118

85 どんな感じの女だ?

 イコマは回廊中を飛び回っていたが、広場に出ることのできるところは見つからなかった。
 広場に直接出ることのできる窓や扉が見つからなくても、一旦、建物の外に出さえすれば、上空から広場のチョットマのそばに行けるのに。

 隊員の実況中継は続いていた。
「やり返せ!」と叫んでいる。
「おい! 相手は年寄りだろ!」
「んなこと、関係あるか! 公衆の面前で、張り倒されてるんだぞ!」
「えっ、倒れたのか?」
「いや、我らがチョットマ、そんなことで倒れるか!」
 隊員達がやりあっていた。

「どうも、何かを要求しているようだ!」
 カイロスの刃だ!
 イコマは、そう思った。
「老人が割って入った!」
「ブロンバーグか?」
「いや、違う」


「で、その女、どんな感じの女だ?」
 タールツー。
 顔はおろか、姿さえも見たことはない。
「かなり高齢だな。白いワンピースを着ていて、裸足にサンダル履きだ」
 以前、公式行事の時にはレイチェルがそうしていたように。

「どんな感じで話しているんだ。居丈高な感じか?」
「うーむ。そんな感じはないな。自信たっぷりだが、穏やかな面もあるような」
「なんだ、それ」
「チョットマの緑色の髪を見ているから、そう思うのかな」

「なんだと!」
 ンドペキが食って掛かった。
「緑色の髪だと!」
「あ、言いませんでしたっけ」
「聞いていない!」
「チョットマと同じような色をしています。もう少し長いけど」

 タールツーが緑色の髪!
 そんなばかな!
 カイロスを起動させるのは、アンドロだったというのか!


 そんなとき、イコマのメインブレインに訪問客があった。
 取り込み中だと断ることもできたが、客の言葉が気にかかった。
「これが最後の報告になるだろう」
 いつもの探偵だった。

「最初に謝っておこう。調査は芳しく進んでいない」
「ん」
「どうした。興味のなさそうな返事だな」
 調査を依頼したことを忘れていたわけではない。
 しかし、今、目の前でカイロスが起動されようとしている。
 しかも、チョットマにタールツー。
 トラブルが起きている。

 しかしイコマは、探偵に報告を、と促がした。
「そうか。ではまず、カイロスについて。この話をする前に断っておく」
「なんだ」
「カイロスが発動されれば、俺達アギは消滅するだろう。記憶は海の藻屑となって消え去ることになる。いつなんどき起動されてもおかしくない状況だ。どの街もすでに避難を開始しているからな」


 探偵によれば、カイロスとは極大化した太陽フレアから地球を守るため、強力な電磁波で地球を包むものらしい。
「起動されても電力は維持されるだろうが、精密な機械や通信網は使い物にならなくなるだろう。そうなれば、アギはおしまいだ」
「次の報告は?」

「ん? せっかちだな」
「今、目の前でカイロスが起動されようとしている」
「ほう! そうなのか!」
 探偵はそれほど驚きはしなかった。
「そうか。いよいよか。六百年続いた俺の命も風前の灯ってわけだ」
「先を話せ。時間がない」
「うむ」
 探偵は既に死を覚悟しているのか、カイロスを目の前にしているこちらの状況を聞いてこようとはしなかった。


 次の報告は、アンドロ次元にあるという装置の件。
「こいつは、ほとんど情報がない。なにしろ名前さえもついていない。秘密の機械だからな」
 いくつかの噂があるという。
 アンドロを滅亡させるものだという説。
 逆に、アンドロを次の人類として作り変える、つまり人が持つ複雑な心を与え、また社会を営んでいくためのさまざまな知識を与えるものだという説。
「そんな説は間違いだ」
「ほう! イコマ、案外知っているみたいだな」

 すでにオーエンから聞いている。
「まあいい。俺もそう思う。最もあり得そうな説は、これだ」
 アンドロ次元のコントロールし、ホメムをはじめ人類が住める環境に変えるという説。
 問題は、それがどこにあり、どのように起動されるかだ。
 そして、その生まれ変わった環境をどうやって確かめるか。

 調査の成果は乏しいと言いながら、探偵はそれなりに仕事をしていた。
「装置はアンドロ次元の奥深くにあるらしい。もちろん人類は辿り着けないし、こちらの次元から操作することもできないという」
 オーエンの話と符合する。
 かつて、オーエンの右腕、ゲントウという科学者がアンドロを使って作り出した装置。


「起動させることのできる者がひとり」
「ああ。誰だ」
「ゲントウという男の娘」
「なに!」
 マトの子、それはメルキトではないか。
 アンドロ次元に足を踏み入れることはできないはず。

「言いたいことはわかる」
「なぜ娘が……」
「ゲントウはマトだった」
「ゲントウの説明は不要。知っている。娘のことを教えてくれ」
「うむ」

 探偵は、「俺も、信じられないのだが」と前置きした。
「アンドロの女との間に生まれた子だというんだ」
「なんだと!」
 まさか!
 タールツー!
 彼女は人の心を持ち、愛という感情を持ち、子を産んだという。
 ゲントウとタールツーが!
「本当か!」


「俺は信じちゃいないよ。もしアンドロとの間に娘がいて、そいつがアンドロの体を持っていたとしても、そういうことになっている、ということだと思う」
「ううむ」
「娘だと宣言することによって、特別な立場を与えられたということなのだろう」
「むう。つまり?」
「ゲントウは自分が開発した装置のことを、世界の中枢を担っていた当時のホメムには話したことだろう。そうしなければ、開発した意味がない。そうしておいて、そのアンドロを手元に置き、彼女の体に何らかの細工を」
 起動させるための何らかの細工をしたのでは、というのだ。
 ただ、その方法は。

「もういい! そんな娘がいたとしよう! 重要なのは、それが誰なのか、ということだ!」
 イコマはもう、気が気ではなかった。
 フライングアイはまだ、広場に出る方法を探して飛び回っていた。
 広場の中央では、タールツーと老人の話し合いが続いていた。
 緊迫した状況なのだ。
 いつ、事態が動きだすともわからないのだ。

 しかし、探偵の解説はがっかりさせられるものだった。
「それがわかれば、もっと早く、伝えに来たさ。唯一言えることは、その娘アンドロはニューキーツにいたらしいということだけ。ただ、娘と言っているが、年齢はわからないぞ。当時は娘だったということだし、今、どこにいる

かもわからない。なにしろ何百年も前のことだからな」
「そんなことはわかっている! 分からないなら、それでいい! 次の話をしてくれ!」


「では、最後の話だ。レイチェルのこと」
 レイチェルがニューキーツに来た経緯の調査。
 かなり以前に頼んでいた件だ。
「ああ。早く話してくれ!」
 広場では、タールツーと老人の話し合いに決着がついたようで、老人がチョットマに話しかけていた。
 チョットマが、懐から布に包まれた刃を取り出していた。
「時間がない!」


 探偵の話は簡潔だった。
 レイチェルがニューキーツに来た時の記録は残っていない。
 ただ、そのときの状況はわかった。
 二年程前、年嵩の女性と二人、ニューキーツの正門を訪れたらしい。

「そもそも、レイチェルが誰の子か。これは謎だ。ホメムの中に該当する女性がいないのだ。子を産める年齢の女性がいるにはいるが、妊娠した記録がない。生まれはカイロニア、昔のオセアニア大陸ということになってはいるが


「ふむ」
「レイチェルと同行してきたもう一人の女性。こちらも身元不明だ。いずれにしろ、長官となるレイチェルは供を一人だけ連れてやってきた。そして、正門の衛兵に案内を乞うた」
 レイチェルと供の女性は、何の荷物も持たず、軽装だったという。
 レイチェルは白いワンピースをラフに着ただけの姿で、街を散歩して来たというような風情だったという。
「うーむ。それで?」
「正門で応対したのは、ヌヌロッチという男だという」
「な! ヌヌロッチ!」

「知っているのか?」
「ああ。レイチェルのSP!」
 SPの名を挙げるのは普段はまずいだろうが、もはや問題とはならないだろう。
「アンドロだ!」
「ほう!」
 探偵の驚きの声の中には、長官となるホメムを迎えたのが、たった一人のアンドロだった、という驚きだろう。


「あっ!」
 広場では、チョットマがカイロスの刃を女に手渡していた。
「どうした」
「カイロスが起動される!」
 緑色の髪をした女が、刃を頭上に振りかざした。

 パリサイドがチョットマの体を包み込んだ。
 刃がゆっくりと振り下ろされ、台座に置かれた珠に突き刺さった。
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