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サントノーレ 作者:奈備 光

9章

84/118

84 実況中継

 どういうことだ!
 おい!
 まずい!

 回廊にぎっしり詰まった人並みが、ぐらりと動いた。
「早く!」
「どこへ!」
「逃げろ!」
「こっちだ!」

 元々、熱波から避難してきた人々である。
 パニックになる素地は十分にあった。
「今すぐ、この場を離れてください!」
 アナウンスが繰り返している。
 大爆発が起きる恐れがあると言われて、回廊は大混乱に陥った。

 一斉に駆け出す人々の波に巻き込まれ、前へ進むどころか、後退を余儀なくされた。
「落ち着くんだ!」
 ンドペキは叫んでいたが、聞く耳を持つ人はない。
「走ったら危険だ! この先は階段だぞ!」
 回廊はこの先で右に折れ、反対側の回廊と合流する位置に階段がある。
 この人の群れが押し寄せて、無事であるはずがない。


「くそう! タールツーめ!」
 ンドペキは人の波に逆らい、なんとか前へ進もうともがきながら、思わず叫んでいた。
 この群集の向こう、広場の向こうの建物に中にタールツーがいるはず。
 この手があったか!
 市民を盾にすいるとは、なんと卑怯な!
 しかし、これで、タールツーがいることは確実だ!

「避難するのか!」
 パキトポークが叫んでいた。
「踏み止まれ!」
 と応えるしかないが、人波に逆らうのは難しい。

 しかし、ここにいて本当に大丈夫なのか。
 一体、どんな爆発が。

「一旦、退却するぞ! 無理だ!」
 パキトポークが叫び返してきた。
「うむう」
 パキトポークの隊もどの隊も、混乱に巻き込まれて立ってもいられないのだろう。
 隊としての集団を保つことさえ難しい。
 ンドペキの隊も、すでにかなり散り散りになっていた。


「押すな!」
「痛いでしょ!」
 人々が口々に叫んでいた。
「早く行け!」
「うるさい!」
「前が詰まってる!」
 人の流れが止まった。

 もはや立錐の余地もないどころか、身動きすることさえ難しかった。
 目の前には装甲に押し当てられた女の顔が、痛みに歪んでいた。
 ンドペキはアヤを含め、各隊員の位置を確認した。
 群集に押し込まれて姿は視認できないが、概ね二十メートル以内にはいる。
「状況が変化するまで、今の位置を維持しろ!」
 そう指示し、自分はじりじりと、広場が見える位置に進もうとした。
 すぐ後ろにいるスゥを促して。


「前進できる隊はあるか!」
「無理です!」
「だめだ!」
 八つの隊、そしてスジーウォンの隊も、いずれも身動きが取れないでいた。

「広場が見渡せる位置にいます!」
 と応えた隊があった。
「広場の状況を報告しろ!」
「了解!」

 広場は概ね五百メートル四方のきれいな正方形。
「こんな綺麗な芝生を見たのは初めてです! 中央に人がいます! 腰ほどの高さの金属製の柱が立っていて、その周りに集まっています!」
「カイロスか!」
「そんなこと、わかりません! でも、柱の上に黒い球体が載っています!」
「おお! きっと、それだ!」


 チョットマがいるのか、と聞こうとしたが、その前に隊員が叫んだ。
「チョットマがいます!」
「おお!」
 他の隊員達からも歓声が上がった。
「元気そうです!」
 隊員達から笑い声が起きた。

「その他に、老人がひとり、チョットマに付き従うように立っています! それから、女が二人。こちらはチョットマに話しかけているようです!」
「チョットマは武装しているのか!」
「いいえ。何も身に付けていません」
「なに!」
「あ、いえ、たまご色のシャツに黒いフレアスカート、サンダル履きです! 芝生の広場に似合っています!」

 気持ちが張り詰めているときに、この隊員ならではユーモアなのだろう。
 思わずンドペキの頬も緩んだ。
「それで?」
「声は届きません! ガラスで遮られているので!」
 ガラスと言ってはいるが、透明度の極めて高い樹脂製のパネルが使われることが普通だ。


 隊員の声がにわかに緊張した。
「パリサイドが!」
「えっ!」
「降りてきました! あっ、もうひとり!」
「パリサイドか?」
「はい! チョットマのすぐ横に! 話しかけています!」

「JP01か?」
「わかりません! 見分けがつかないので!」

 あっ、後から来たパリサイドがチョットマの装甲を!
 チョットマは手に取ろうとしません!
 そのパリサイドは、あっさり飛び立ちました!
 もうひとりのパリサイドは、チョットマにピタリと体を寄せています!


 緊迫した状況なのだろうか。
「おい。おまえ、武器は使える状況か?」
「はい……」
 隊員の歯切れが悪かったのは、ガラス越しだということと、周りの市民への危害を心配してのことだろう。
 樹脂製ガラスは、火砲などの物理的な攻撃にもびくともしないことが多い。
 政府建物で使われているとなれば、なお更だろう。

 しかしもし、チョットマに何かあれば、なんとか援護せよ。
 そう言ったつもりだったが、隊員の声は笑った。
「うわっ、チョットマがパリサイドに抱きつきました!」
 ンドペキの口から、思わずため息が漏れた。

 そのパリサイドがユウなのか、あるいは馴染みになったKC36632 やKW兄弟なのかわからないが、一安心というところだろう。
「女がまた話しかけました!」
「どんな女だ?」
 その女とは、まさしくタールツーではないのか。
 カイロスの前にいるということは。

「かなりな年寄りですが。あああっ!」
「どうした!」
「女がチョットマを平手で!」
「なに!」
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