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サントノーレ 作者:奈備 光

9章

83/118

83 開演間近

 オーエンに言われたとおり、ンドペキは自分の体が柔らかい引力によって動いていくに任せていた。
 やがて真っ暗だった空間に光が差してきた。
 と、思ったのも束の間、小さな部屋に立っていた。

「お帰りなさい」
 隊員達の声が聞こえてきた。
「状況を報告します!」
「ああ」


 あの奇妙なアギの海から一列になって出てきた。
 ンドペキはその殿しんがりを努めたのだった。
「パキトポーク隊はすぐ近くにいます。こちらに向かっています!」
「了解」
「スジーウォン隊は政府建物に入っていますが、侵攻は進んでいません」
「敵が?」
「いえ、市民が多くて、思い通りに進めないようです」

「市民?」
 ンドペキはそう聞きながらも、同期したイコマの心情に圧倒されていた。
 まさか、ユウがアンドロ次元に!

 スゥ!
 どこにいる!
 部屋は狭い。
 部屋の隅にいたスゥは隊員達の後ろに隠れるように立っていた。
 もちろん表情は見えない。

 ユウはどうした!
 まさか!
 そんなメッセージを送ったが、何も返してこなかった。


「多くの市民が避難してきているようです」
「そうなのか……」
 気を取り直さねば。
 ンドペキは隊員の報告になんとか応え、質問を繰り返した。
 どこに。どれくらいの人数が。問題があるなら、それは何だ。

「どうも、長官から避難命令が出たようで」
「政府建物へ?」
「はい。まずはここへと。暑さもしのげますし……」

 そんなはずはない。
 空調が効いているから、というような呑気な避難ではないはず。
 それに、取り決めではエリアREFの地下へ避難するのではなかったのか。
 一旦、ここに集め、政府建物内にある避難口を利用しようというのか。
 まあ、いい。
 われわれはタールツーを倒す。まずは、これに集中だ。


 ンドペキはスジーウォン、パキトポーク、そしてコリネルスと通信を繋いだ。
 短い会話を終え、チョットマを呼び出したが、繋がらなかった。
 パキトポーク隊が来れば、救援物資を分配し、体勢を立て直す。
 長官執務室へ向けて、侵攻を再開することになる。

 ユウが気がかりだったが、ここで自分がアンドロ次元のゲートへ向かうわけにはいかなかった。
 少なくとも、スゥがここにいる限り。

「よし、外へ出よう」
 パキトポーク隊がもうすぐそこまで来ていた。
「了解!」
 スゥがすぐ横に来たが、それでも何も言わなかった。


 扉の外は相変わらず、無機的な白い廊下が続いていた。
 パキトポーク隊が近づいてくるのが見えた。
「よう! 散々だったな!」
「まあな、そっちも無事で何よりだ!」

 廊下を右手に取れば長官執務室のある建物に向かうことになる。
 すぐ行き止まりになっていて、両開きの大きな扉が行く手を阻んでいた。
 救援隊が物資を手渡して回っている。
 あやちゃん。また会えてうれしいよ、とンドペキは心の中で言った。
 スゥがアヤに近寄り、声を掛けた。


「ここで隊を八つに分けようと思う」
 ンドペキはそう提案し、てきぱきとメンバーを決めた。
 もちろん、スゥとアヤは自分の隊へ。
「長官室は近い。マップでは、その手前に大きな広場があるはず。長官室のある建物はその広場の向こう側だ」
「うむ」
「広場はほぼ五百メートル四方の正方形」
「うむ」
「周りには回廊。左右それぞれ、四階建てのはずだ。各チーム分散して長官室に向かう」
 各チームがどのルートを取るのか、それもすぐに決めた。
 ンドペキのチームは、右側三階の回廊。

「ここは何階だ」
「一階だ」
「よし。じゃ、もう一度、長官室の位置を確実に頭に入れてくれ」
「もう入っている」
「それじゃ行こうか。心して掛かれよ。久しくアンドロ軍とまみえていない。長官室周辺に集結している可能性が高い」
「おう!」
「市民は傷つけるな! 俺達の大儀を失くすなよ!」


 廊下の突き当たりの扉は難なく開いた。
 しかし、「うむぅ」
 ンドペキの口からもパキトポークの口からも、思わずため息が漏れた。
「こいつはまずいぞ」

 装甲を身につけている者もいるが、明らかに市民だと思える人々が所在無げにたむろしていた。
 無関心な者もいるが、東部方面攻撃隊と知って、軽く拍手を送ってくる者もいる。
 何かをしてくれる、非常用物資でも持ってきてくれたのかと勘違いしているのだ。

 広場に近づいて、ンドペキ隊は予定通り、八つに分かれた。
 回廊に差し掛かると、市民の数は大幅に増えた。
「ちょっと」
 人の間を縫って歩くような有様だ。
「押さないでよ!」
 そんな罵声が、そこここから聞こえてきた。


「まずい」
「どうする」
「とにかく進むしかない」
「アンドロ軍が来ても、これじゃ手も足も出せんぞ」
「泣き言を言っても始まらん」


 悔しさがこみ上げてきた。
 自分たちの苦労は何だったのだ。
 時を待てば、普通の市民が難なく入ってくることのできる場所だったではないか。
 そこに到達するため、レイチェルのシェルタを探し続けたあの日々は何だったのだ。
 おそろしい仮想空間の罠をかいくぐってきたのは、何だったのだ。


「身動きが取れんぞ」
「こっちもだ」
 各チームから、同じような言葉が発せられていた。
 ンドペキのチームも、回廊を中ほどまでも進まないうちに、群集に飲み込まれてしまっていた。

「いったい、なにをしているんだ。こいつらは」
「さあな」
 市民は一様に広場に目を向けていた。
 何かを観賞するかのように。


「カイロスだそうだ」
「なに!」
 ひとりの隊員が市民に聞いたという。
「今から始まるらしい」
「えっ!」

 カイロスとやらの儀式はこの広場で行われるというのか!
「どういういうことだ!」
「わかりません。そういうことのようです」
「くそぅ!」


 ンドペキは急いで、広場が見渡せる場所に移動しようとした。
 人々が鈴なりになって、広場を見下ろしていた。
 まもなく開演するショーを、今か今かと待つように。
「あんた! 押すなよ!」
 なんと言われようが、この目で確かめなければ!
 チョットマの雄姿を!
「すまんが、前に行かせてくれ」


「これじゃ、タールツーが紛れていても、わからないな」
 パキトポークが呟いた。
「どっちにしても、もう進めないが」
「一旦、さっきの場所まで引き返した方がいいんじゃないか」

 そんなことを隊員たちが話し合っていた。
 そのときである。
 回廊にアナウンスが流れた。
「市民の皆さん! ここは危険です!」
 市民のざわつきが一瞬で収まり、回廊は静まり返った。
「大きな爆発が起きる可能性があります! 今すぐ、この場を離れてください! 政府建物のさらに奥のエリアを開放します! 直ちにそちらへ移動してください!」
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