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サントノーレ 作者:奈備 光

9章

81/118

81 俺は消えてなくなる

「アヤちゃん!」
 救援物資を届けてくれた一団に、アヤの姿があった。
 アヤはスジーウォンの先導をするはずだったが。
 コリネルスが気を利かせてくれたのかもしれない。
 確実にイコマと、そしてンドペキと会えるだろう救援隊に入れと。

 しかし、互いの無事を喜び合っている場合ではない。
 イコマはパキトポークを廊下に残して、ンドペキが消えたと思われる広間を隅々まで探索して回った。
 ただ、ンドペキ隊の姿はない。

 パキトポークが腰に手をやり不信感を表したが、「本当にこの部屋なのか」とは言わなかった。
 ヘッダーの中では、さぞかし仏頂面をしているのだろう。
 イコマに残っているンドペキの意識は、この部屋の中ほどまでだ。
 広間の中央に差し掛かった時点で、意識の共有が切れたのは確かだ。
 バーチャルに囚われたのなら、その状態の肉体が存在するはず。

「この部屋だと思うんだが……」 
 しかし、何らかの理由で、多少の転移が生じている可能性もある。
「ここで待っていてくれ」
 仮想装置を気にする必要のないフライングアイだけで行動するほうが身軽だ。
「この部屋の周囲を回ってくる」


 パキトポークの不信は無理もない。
 アギと記憶や思考を共有しているマトがいるなど、誰が考え付くだろう。
 もはや、実は、などと話してしまうべきときだろうか。
 いや、それはできない。
 パキトポークだけならまだしも、他の隊員達もいるのだ。
 それに、ンドペキの意識と同期していない今、自分の判断だけで話すことではない。


 廊下を飛び回りながら、イコマは奇妙な感覚に襲われた。
 なにか、おかしい。

 その感覚の原因はすぐにわかった。
 アンドロ兵の姿がないのだ。
 政府建物に突入した当初は、幾度かは遭遇した。
 ドトー率いるレイチェル騎士団は殲滅された。
 ということは、相手の戦力はまだ維持されていて、それに加えて自分達の現在位置は捕捉されていると思っていい。
 にも関わらず、敵からの攻撃がないのだ。

 ここに移動してくるまでの間、幾度かは離れた地点で戦闘が行われてはいた。
 そのときは、それがンドペキ隊ではないことから、その場を避けるようにして移動し、ここに到達したのだ。
 しかし、それならあれは、どの隊が交戦していたのだろう。
 当方はンドペキ隊とパキトポーク隊、そしてシェルタに撤退したドトー隊の三チームだけなのだ。


 アンドロ軍が内部分裂でもしているのだろうか。
 そういえば、エリアREFへのアンドロ軍の攻撃。散発的で、決して統制の取れたものではなかった。
 攻撃してきたかと思えば、タールツーの使者と称して来た連中もいる。

 あれは、降伏を勧めに来たのであろうが、タイミングとして奇妙だった。
 当時、こちらが劣勢に立っていたわけではない。
 それに、使者三名の装備は、攻撃してくる連中とはかなり違っていたように思う。
 まるで騎士団のように、白尽くめで整った装備……。

 まさか、タールツーに寝返った騎士団がいるとでもいうのだろうか。
 あるいは防衛軍だろうか。
 掌を返したロクモンの例もある。
 騎士団であれ、防衛軍であれ、アンドロ側への寝返りはありえないことではないが……。
 寝返りがあったとして、元からあるアンドロ軍と、新規加入の兵との交戦なのか……。

 そんな可能性があるだろうか。
 どの廊下も奇妙に静かで、人の姿はどこにもなかった。
 ただ、フライングアイの姿では部屋の扉は開けることができない。
 中にンドペキがいても、あるいはアンドロ兵が潜んでいてもわからない。
 やはりパキトポーク隊の誰かと回ればよかったか、と思い始めたときに、声が響いた。


「パキトポーク! 久しぶりだな!」
 高圧的な男の声だった。
「どうした! 俺を忘れたか!」

 イコマは元来た廊下を引き返した。
「お前は! オーエン!」
 怒鳴り返すパキトポークの声が聞こえてきた。
「あの時は世話になったな。どうだ、あの女性は元気になったか。たしか、バードとかいったな」


 イコマが帰り着くと、パキトポークが天井に銃を向けていた。
 オーエンの姿はない。
「相変わらず、声だけなんだな!」
「アギだからな!」
「フン! 何しに来た!」

「それはご挨拶!」
「ここはおまえのチューブじゃない! 手出しはできんだろ!」
「早まるな! 捕って食おうというわけじゃない!」
「なら、なんだ!」

 あのエーエージエスで起きたことは脳裏に新しい。
 おのれの個人的恨みから、罪のない百名以上もの兵を瞬殺した男、オーエン。
 おのれの目的を達成するために、アヤの命を危険に晒した男、オーエン。
 怒りという感情をほとんど忘れてしまったイコマにも、この男の声を聞いて、改めて憎しみが沸いてきた。


 その男の声がまた響く。
「いいことを教えてやろう!」
 初めて声を聞く隊員の幾人かが、天井に銃を向けた。
「まずは、警告!」
「なら、教えてもらおう!」

 パキトポークが銃を収めた。
 今自分たちが置かれた状況は、芳しくない。
 聞いて損はない、と判断したのだろう。
「この部屋に入るな! もう援けは来ないぞ! ぼんくらアギと共に消滅するだけだ!」

「フン! それから?」
「ンドペキは無事だぞ!」
「当たり前だ!」
「ただし、俺の指示通りにやればな!」
「なに!」


 ホトキンを連れて来いと言ったあのときのように、何らかの条件を突きつけたのだろうか。
「貴様! また、なにを!」
「ハッ! 何もしてないさ。ただ、助けてやろうとしただけのこと!」

 パキトポークが、信用できるか!という言葉を飲み込んだことがわかった。
 イコマの胸にも不安がよぎった。
 俺の指示通りとは、なにを意味するのだろう。


「お前達に付き合っている時間はない。いまやつらがどうなっているか、後で本人から聞け」
「ンドペキをどこへやった!」
「くどい! 俺は何もしていないぞ! やつらが勝手に迷い込んだだけ!」
「今、どこにいる!」
「そのうち、どこかその辺りの部屋に現れるだろう。通信を繋いでおくんだな!」

 そうせざるを得ないのだろう。
 オーエンという男、一筋縄でいく相手ではない。
 しかも、声が聞こえるということは、この廊下も、場合によってはこのエリア全体がオーエンの支配下にあることを否定できない。

「いいことを教えてやる!」
 時間はないと言っておきながら、オーエンはこのことを伝えに来たのだろう。
 改まった口調で話し始めた。
「人類が滅亡するのは、もう時間の問題だ。少なくと、俺は消えてなくなる」
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