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サントノーレ 作者:奈備 光

1章

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7 無口なロクモン

 ンドペキは、エリアREF内に設けた作戦室で、コリネルスとパキトポーク、そしてロクモンと話し合っていた。
「どうする?」
 もちろん、タールツーの使者を名乗った者達への対応についてである。
 タールツーの元へと出向くかどうか。

 しかし、その問いが一蹴されることは分かっていた。
 なにしろ、使者が去って一時間もしないうちに、新たな攻撃を仕掛けられたからである。
「ふざけた連中だ」
「戦時中の使者の意味も分かっていない。ルールってものがないんだな」

 やつらはアンドロだから。
 そんな言葉をンドペキは飲み込んだ。
 イコマの意識として、ハワードと知り合ったことによって、アンドロの新しい一面を目の当たりにしたばかりである。
 彼らも「心」を持ち、あるいは持とうとし、人として生きているのだということを知った。
「まあ、やつらも試行錯誤ってとこなんだろ」
 と、コリネルスやパキトポークの怒りを和らげるしかなかった。


「ところで、毎度の話だが、レイチェル騎士団が立てこもっているシェルタの見込みはどうだ?」
 毎夜、この話になる。
 依然として、その位置の手がかりさえ掴めないでいた。
「ヘスティアーに保護されし孤児、生贄を喰らう」
「ラーに焼かれし茫茫なる粒砂、時として笑う」
 シェルタの位置を表すと思われるこの言葉を、何度口にしたことだろう。
 ロクモンが教えてくれた言葉である。

「それにしても、騎士団の連中、まだそこに篭っているはずなんだろう?」
「ああ」
「一体、何をしているんだ? 土の中に篭って冬眠中か? のうのうと」
 ひやりとすることをパキトポークが言うが、ロクモンは反応しない。
「のうのうかどうかは知らんが、連中も打つ手がないんだろ。そう思うしかないさ」
 コリネルスがやんわりと諌めたが、パキトポークはヒートアップしている。
「お前は優しいな。俺はもうとっくに堪忍袋の緒が切れているぞ」
「まあまあ」
「レイチェル騎士団ともあろうものが、何の行動も起こさず、事態を見守っているだけというのは、どう説明できるんだ?」
 そんな言葉を吐きながらも、パキトポークは騎士団を侮辱しているわけではない。
 本心は頼りにしているのだ。
「レイチェルが、あんな……」
 という話に、落ち着いていく。
「それは言いっこなしだ」

 レイチェルがサリに殺されたことは、今もまだ禁句である。
 エリアREFの住民の中には薄々気づいている者もいるだろうが、ンドペキ隊としてはなんとしても隠しておきたいことであった。
 レイチェルを擁している、レイチェルの指揮下にある。そのことがンドペキ隊にとっての、大きな旗印であると思うからだった。
 街を奪還するにも、レイチェルの意思であることが大切なことだったからだ。
 もちろん、市民の心をひとつにするためにも。


「で、街政府内への侵攻はどうする?」
 この話題も、いつものことであるが、妙案があるわけではない。
「ハワードの話によれば、執務は落ち着きを取り戻しつつあるらしい」
「大きな人事異動はなかったということだな」
「タールツーが暫定長官になったが、じっくり足固めをするつもりらしい」
 続々と参集しつつあるレイチェルのシークレットサービス。
 つまりハワードの同僚達によって、政府内の今の状況が報告されている。
 SPの内、エリアREFに集まってきたのは、治安省職員ハワード、総務省職員アンジェリナとマリーリ、科学省職員ヒカリ、防衛軍事務員スーザクの5名である。
 食料省の幹部ヌヌロッチ、及びエネルギー省の幹部ユージンという男は、政府内にとどまり、情報を寄越してくる。

「タールツー軍の様子は分からないのか」
「見かけることは、ほとんどないらしい」
 政府内にも内戦中という雰囲気はなく、職員も平静を取り戻しているという。
「馬鹿にされたような気分だな」
 パキトポークが息巻くが、かといって、今、強硬に攻めてもうまくいくとは思えない。
「我々も行動を起こすべきときが来る」
 こういう時、コリネルスは慎重だ。
 政府内に攻め込むとなれば、一般職員に犠牲が出る。逆襲された場合には、市民にも迷惑がかかる。
「確実に勝てる見込みがつくまで、辛抱だ」


 大まかな戦術は練ってある。
 大前提は、レイチェル騎士団との合流。
 むしろ、騎士団が本隊で、政府建物内の状況に疎いンドペキ隊は別動隊となるだろう。
 騎士団にどれほどの人数が残っているのか分からないが、合わせれば百五十から二百ほどの軍になる。
 タールツー軍の人数も分からないが、あの荒野での戦闘によって、かなり削減できているはずだ。

 もうひとつの前提は、ターゲットであるタールツーの居場所が長官居住区にあること。
 幸い、タールツーはほとんど長官居住エリアから出ないようだという情報があった。
「どういうことなのか分からないが、タールツーは暫定長官を名乗ってから、一度もやつらの次元に帰った形跡はないらしい」
 万一、そこに逃げ込まれては始末に困る。
「寝に帰る必要がなくなったからなのか、離れられない理由があるのか」
「その両方だろう。まだ自分の軍さえ統率できていないようだから」

 タールツーが長官居住区から離れない件について、意見は分かれていた。
 統率力に疑問を持つ意見。つまりまだ、政府内はタールツーの思い通りには動いていないという意見。
 使者の一件に見るように、指示系統の混乱は、意図的にされているという意見。つまりンドペキ隊を油断させようとしていることだ。
 レイチェル騎士団の動きが読めないからではないか、という意見。なにしろ、騎士団が篭るシェルタは長官居住区に直結している。
 そして、そもそもタールツー軍は、統一された兵ではないのではないか、という意見。

「やつらは、もともとタールツー直属ではなかったとしても、治安省の内部にいた連中だろう?」
「タールツーは治安省長官だぞ。直属でない兵がいるのか?」
 結局、そんな疑問だけが残ってしまう。

「ヌヌロッチという男の情報を待つしかないな」
 レイチェルシークレットサービスのヌヌロッチという男。食料省の幹部だが、近々治安省へ配属になるという噂があった。
「その件も、どうも腑に落ちない」
「そうだな。今回の配置換えは、タイミングから見て明らかにタールツーの意図だ。治安省へ送るとなれば、タールツーの信任が厚いやつだということになる」
 しかし、レイチェルサークレットサービスの一員なのである。
「ハワードは信用してよい、と言っているが……」
 ただ、ハワード自身も、なぜタールツーがヌヌロッチを転籍させようとしているのか、分からないのだった。


「このマップを見る限り、政府建物群はかなり複雑だな」
 コリネルスは暇さえあれば、マップを眺め、頭に叩き込んでいる。
「何棟にも分かれているし、フロアによってもかなり違う」
「重要なことは、タールツーをどうやって長官居住区に押し込めておいて戦うかだ」
「うむ」
 長官居住区は政府建物群の中央部にあるが、比較的小さな五棟の建物で、小さな広場を取り囲んでいる。
 それらの建物は地下で繋がっており、他の建物とも繋がっている。
 タールツー軍がどこに集結しているのか分からないが、きっとその近辺にいるのだろう。
 最も重要な点は、タールツー自身がどの部屋で執務し、どの部屋で過ごしているのか、ということが分からないことだった。
 交戦しながら、どの部屋に突き進めばいいのか分からないのだった。
 下手をすればタールツーに逃げられてしまう。
 ンドペキ達はアンドロ達の住む次元、ベータディメンジョンまで追っていくことはできないのだ。

「タールツーがベータディメンジョンへ向かうとすれば、そのルートは幾通りも考えられる。かなり離れてはいるが」
 ベータディメンジョンへのゲートは、政府建物群の最奥部に集中している。長官居住区とそれらとの位置関係は、万一の場合を考えて定められたのであろう。
「ルートのすべてを押さえるのは難しい。遮断ラインも色々考えられるが、押さえるポイントの少ないパターンはこれだ」
 コリネルスがマップの上に引いたラインを説明した。
 作戦の大筋は軍を二隊に分けることになる。タールツーを捕捉する隊、長官居住区内で取り逃がした場合の隊だ。
 外側の網となる隊は、長官居住区に集結しているであろうタールツー軍をおびき出す役目も担うことになる。


 ンドペキはロクモンを見た。
 レイチェルの死後、ロクモンは人が変わったように、無口になった。
 政府建物に入ったこともないンドペキ達と違って、防衛軍将軍であったロクモンなら、何がしかの知識もあるだろうし、作戦のアイデアもあるだろう。
 しかし今日も、ロクモンは何も発言しようとはしなかった。

 レイチェルの信奉者、ロクモン。
 この元防衛軍将軍の心中を考えると、失態をしでかしたンドペキとしては、この男の関わりの薄さを責めるわけにもいかなかった。
 コリネルスやパキトポークも、同じ思いなのだろう。
 ロクモンはしばらくそっとしておく、という暗黙の了解でもあるようだった。

「しかし、この遮断ラインを引くとして、これらのポイントを押さえるための隊員を、どうやって効率的に到達させるのかが問題だ」
 もう何度も話し合ったことだが、コリネルスが繰り返し話す。
 そうしながら、ロクモンをちらりと見る。

 無数ともいえるセンサー域を通過しなくてはならない。セキュリティエリアも複数個所ある。
 まずは、それらを無効化することが必要なのだ。
 コリネルスの目は、このマップの情報は正しいのかどうか、と聞いている。
 ロクモンはマップを指でなぞってはいるが、心はどこか別のところにあるようで、やはり収支無言のまま。

 結局、ンドペキ隊にはその方法が分からなかった。
 それらの制御室がどこにあるのか、集中監視室のようなものがあるのか、あるいは分散されているのかも分からなかった。
 作戦の立てようがなかった。
 どうしても、レイチェル騎士団との合流が先決だということになって、議論は先に進まないのだった。
 シェルタの出入り口が長官居住区にあることは間違いないが、別の出入り口もあるという情報があった。
 それを知っているのも騎士団だったからである。
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