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サントノーレ 作者:奈備 光

8章

79/118

79 つむじ風の後に

 つむじ風と共に轟音が響き、一瞬にして戦闘は終了した。
「ハクシュウ!」
 チョットマは暗闇の中を突き進んだ。

「遅かったか」
 聞き慣れない声がした。
「ハクシュウ、すまなかった」
 えええっ!
 まさか!
 ハクシュウ!


 チョットマは何度も転び、むき出しの岩に顔や膝や手を打ち付けた。
 壁に激突し、手の甲や腕も激しく痛んだ。
 自分のふがいなさを呪った。
 ハクシュウ! いったい、どこ!
 涙がとめどなく流れていた。
 はぐ・じゅうっ!

 前方かなり離れた位置に、明かりが灯った。
 前かがみになって座っている者がひとり。
 駆け寄るチョットマの目に、見慣れない小さな体が横たわっているのが見えた。


 ハクシュウはもう虫の息だった。
 チョットマの方へ顔を向けると、ヘッダーをはずせというしぐさを見せた。
「いやだ!」
 ヘッダーも含め、装甲には簡易な生命維持機能が備わっている。
 負った傷がどの程度のものかわからないが、取り留めることのできる命を失うかもしれないではないか。

「もうだめだよ」
「だって!」
「最後に素顔を見せて、君と話したい」
 ローブの男から取り上げるようにして、ハクシュウの小さな体を抱いた。
 チョットマは息を呑んだ。
 硬い装甲の胸のあたりがえぐり取られ、そこから血が吹き出ていた。

 チョットマは体の震えを抑えきれなかった。
 こんな傷!
 救命キットさえあれば。
 ちきしょう!
 チョットマは震える指で、装甲に付いた傷口を撫でることしかできなかった。

 ローブの男が手を伸ばし、ハクシュウのヘッダーをはずした。
 ゴーグルやマスクもはずす。
「ハクシュウ……」
 現れた少年の顔に、チョットマは何度も口付けた。


 少年は微笑んでいた。
「チョットマ、最後に会えてうれしいよ」
「ハクシュウ……」

「思い出すよ」
「思い出なんて、話さないで!」
「君がハイスクールから出て来たあの日」
「だから……」
「ンドペキは君を隊に入れようと言った。正解だったよ。君の緑色の髪を見て、僕はこの人を守らなければ、と思った」
「……」
「僕の使命だったから」

「最後に君を守れて、よかった」
 それがハクシュウの最後の言葉だった。


 どれほど泣いていただろう。
 背後に人の気配を感じ、チョットマはハクシュウの体を床に寝かし、立ち上がった。
 ハクシュウに守られた私の命。
 やらなければいけないことがある。
 そう、自分に言い聞かせようとした。


「申し訳なかった。わしが来るのが遅かった」
 背後の声は、ペールグリと名乗った。
 ロア・サントノーレの長で、カイロスの刃を守ってきたという。
「ブロンバーグがあれほど性急に襲撃に移るとは、予想外だった」
 気づかれることのないよう、かなり後方からつけてきていたのだという。

「事情は歩きながらお話しするとして、まずは引き返しましょう」
 我に返って前方を見ると、人が倒れていた。
 纏ったローブの下から、白銀色の装甲が覗いていた。
 ブロンバーグ。
 おびただしい血が流れ出していて、すでに息がないことは明らかだった。

「この通路はハクシュウが爆破した。この先、落盤していて通れない」
 ハクシュウは退路を絶っていたのだ。
「瓦礫を取り除くより、街へ出た方が早いでしょう」

「は、い」
 チョットマは何とかして、しっかりした声を出そうとした。
「うむ」
 ペールグリという老人が、顔を覗きこんだ。
「お噂はかねがねお聞きしています。お会いできて光栄です」


 ペールグリは、かなりの高齢だった。
 この老人が、ブロンバーグを葬ったのだ。
 チョットマは再びブロンバーグの死体に目をやった。

 クシの刃から守ってくれたブロンバーグ。
 でも、今日の彼は、全く別人のようだった。
 いよいよの日が迫って、精神が歪んでしまったのだろうか。
 それとも、もともと凶人だったのだろうか。
 自分を救ってくれたのも、親切心などからではなく、最後に自分を利用する必要があったから……。

 チョットマは自分の心に問いかけてみた。
 ブロンバーグをどう思うかと。
 しかし、どうでもいい、という答えしか返ってこなかった。
 もちろん、ブロンバーグの死に悲しみはなかった。
 ハクシュウを殺した男……。


 チョットマが黙ってブロンバーグを見ていることを気にしたのか、ペールグリが口を開いた。
「ブロンバーグをわしがこの手で殺すことになるだろうとは、以前から薄々感じておりました。奴はカイロスの民として、大切なことを見失いかけていましたから」

 必要があれば、おいおいお話ししましょう、とペールグリは言い、懐から布に包まれたものを取り出した。
 そういえば、カイロスの刃は。
 ブロンバーグが持っているのでは。
 自分が取ってこなければいけないのではないか。

 そう言うと、ペールグリは首を横に振った。
「スジーウォンには申し訳ないが、あれは偽物です。ブロンバーグの手に渡すわけにはいかなかったので、すり替えておいたのです」
 布に包まれた短剣。
「これがそれです」

 なんの変哲もない短剣。
 光り輝いているわけでもなく、オーラを発しているわけでもない。
 ただ黒光りしているだけ。
「最初にしなければいけないこと。ブロンバーグが忘れていたこと。それを今、チョットマ、貴方にしてもらいます」
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