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サントノーレ 作者:奈備 光

8章

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77 背後の狂気

 市長室の奥、小人の通路のような小さなハッチ。
 ブロンバーグが、先に入れという。
「私、逃げたりしないわ」
 ブロンバーグは扉を押さえたままだ。そのすぐ前を通って、チョットマはハッチを潜った。

 鼻腔に忍び込んできたのは、あの臭い。
 初めてこのエリアに足を踏み入れたとき、門番の部屋に充満していた臭い。
「どこへ?」
 部屋の隅に置かれた棺おけのような形をしたカビだらけの皮製トランク。
 ブロンバーグがそれを押しのけると、ますます小さなハッチが表れた。

「レイチェルのシェルタ?」
 この先はシェルタに通じている。
 昨日ここを潜って、ブロンバーグらと共にシェルタに向かい、ンドペキらと合流したのだった。

 こ強烈な臭いが何を意味するのかもすでに知っていた。
 不正な侵入者を欺くため。
 市長の身分を。そして、秘密の通路を隠すため。
 実際に臭うのではない。
 バーチャルの一種で、脳神経に臭いと思わせる微弱な電流が空間を満たしている。
 同時に、侵入者を感知する電流だ。


 チョットマの問いにブランバーグは無言だった。
 真っ暗な通路を進んでいく。
 細く、岩肌がむき出しの通路。
 しばらく行けば、シェルタに至る急な下り坂。
 足音もなく、ブロンバーグはすぐ後ろをついてくる。

「カイロスの珠に刃を当てる。その場所へ!」
 ようやく、ブロンバーグが口を開いた。
 その声は明らかに上ずっていた。
「我々が地球を救うのだ!」

 チョットマは背に狂気を感じた。
 地球を救うといいながら、実際に起きるのはどんなことだろう。
 小さいものでも目の前で爆発が起きれば、命はない。
 地球を救うほどの装置だ。
 何が起きるか知れないが、無事ではすまない。

 そんな疑問も浮かんでは来るが、問うたところでブロンバーグからまともな回答は得られはしないだろう。
「おおっ! カイロスの神よ!」
 ブロンバーグはそんな言葉を繰り返していた。


 どんな儀式が待ち受けているのか。
 パパは科学的なものだろうと言っていた。
 おぞましいものではないはず。 
 でも、どんなことであろうと、すでに覚悟はできている。

 みんなにあの歌を聞かせてあげる機会、とうとうなかったなあ。
 色々な人の顔や声が心に浮かんできた。
 そういえば、平穏な日常が様変わりしたのは、サリが失踪してからだった。
 いつも遠いところから見守ってくれていたハクシュウ。
 プリブやシルバック。今も仲間だよね。
 ライラにぶたれたことは今はいい思い出。
 隊員以外に初めてできた友達、セオジュン。

 そしてもちろん、ンドペキやパパ。


 もう、誰とも会えないのかも。
 せめて声を聞きたい。
 ゴーグルさえつけていれば……。

 シェルタに誰かいるだろうか。
 そうだ。
 シェルタに行けば、チャンスが生まれるかも。
 なんのチャンスが?
 ブロンバーグから逃れるチャンス?

 チョットマは、課せられた役割から逃れたいと思い始めていることに気がついた。
 ブロンバーグは今や狂人ではないか。
 存在しない神などというものに、祈りの言葉を吐いている、頭のいかれた男なのだ。
 しかも、カイロスはゲントウという科学者が作り出した装置。
 神などという妄想から生まれた代物ではない。

 ライラの言葉が思い出された。
 自分の命を第一に大切にしなさい。
 生き延びること。
 しかし、どうすれば……。

 
 あっ。
 チョットマは小さな声を上げた。
「先へ進め!」
 チョットマはさらに狭い通路の前に立っていた。
 レイチェルのシェルタに至る坂道の脇に、穿たれたばかりの横穴が黒い口を開けていたのだ。

「塞いであったものを、取り除いたのだ」
 向かう先はシェルタではないらしい。
 シェルタで誰かに会う希望は絶たれたが、半ば予想していたことだ。
 ブロンバーグに促され、チョットマは横穴を潜り、同じような通路を進んだ。
「急ぐのだ!」
 相変わらず、すぐ後ろにはブロンバーグの狂気。
「神のおわします麗しき庭へ!」


 と、チョットマはブロンバーグの背に突き当たりそうになった。
 目の前にブロンバーグがいた。
 回り込めるほど通路は広くはないが、一瞬にして気づかないうちに先を越されていたのだ。
 クシを瞬時にして葬ったこの男のことだ。
 それくらいのことはなんでもないことなのだ。
 この男から逃れるすべはない。

 ブロンバーグは前を向いて立ち止まっている。
 着いたのか、と思ったがそうではなかった。
「ここで会うとは」
 と、ブロンバーグが呟いたからだった。

 通路は狭く、暗い。
 ブロンバーグの向こうにいるものが誰か、チョットマには見えなかった。
「ここでなにをしている!」
 通路のかなり前方から、聞き慣れない声が聞こえてきた。
「耄碌したね」
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