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サントノーレ 作者:奈備 光

7章

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75 避難するのか

 作戦室の外に、ライラが待っていた。
「歩きながら話すよ」
 と、案内人を先に行かせ、ピッタリと体を寄せてきた。
「まずは、うれしい話」
 サブリナという娘が帰ってきたという。
「ええっ! よかったですね!」

「うん。よかったよ。じゃ、次の話」
 ライラはさっと表情を変えると、
「おまえには知っておいて欲しいからね」と、早口で話し始めた。


 カイロスが発動する否やに関わらず、この状況では、全市民の避難はやむをえない。
 避難命令は長官名で発令されるものだが、レイチェルが死に、暫定長官がアンドロのタールツーとなれば、その命令は誰が出すのが正統なのか。
「正しいかどうかなんて、もうどうでもいいさ。誰が出してもいい。ブロンバーグは市長として命令を出すつもりさ」
 ブロンバーグはすでにタールツーに要請文を送ってあるという。
「そろそろ向こうの手元に届くはずだけど、まだ何の動きもないね」

 ライラでさえ、珍しく軽装甲を身に付けていた。
 いよいよそのときがやってきたのだ。

「ブロンバーグはおまえにもメッセージを発信して欲しいと思っているよ。レイチェルの代理としてね」
 自分にそんな大それたことができるだろうか。
 チョットマは一瞬そうは思ったが、不安を口にしたりはしなかった。
 それが与えられた使命なら、喜んで果たすだけのこと。


「さて、ここからが本題だよ」
 ライラが顔を覗きこんできた。
 頷き返すチョットマに安心したように、言葉を続けた。
「問題は避難先だよ」
「避難先?」

「そうさ。エリアREFの地下深くには、古の時代に作られた巨大な空間が広がっている。知っているね?」
「はい」
「ブロンバーグはそこに物資を運び込んでいる。彼が出す指示も、そこへ避難せよだ。ところが」
 タールツーはそうするだろうかという不安があるという。

「タールツーはアンドロ。実はアンドロ次元にも避難先が用意されているらしい。ゲントウによって。以前、話したことがあるけど、覚えているかい?」
 チョットマは頷いた。
「そこには容易なことでは近づけない。アンドロ次元自体が、生身の人間が活動できる場所じゃないからね」
 膨大なエネルギーが渦巻いている空間。そんな話を聞いた記憶がある。


 前を行く案内人に聞こえないように、ライラが顔を寄せてきた。
「あたしゃね、そこに行こうと」
「えっ! ライラが!」
「大きな声で言うもんじゃないよ」
「はい……」
「あたしにも夫がいる。ろくでもない男だが、今、その道筋を作ろうとしている。オーエンと一緒になってね」
「えっ、あっ、そうなんですか」
「オーエンはその時期が近づいたことを知って、ホトキンを手に入れたかったのさ。アンドロ次元へ至る新しいゲートを開くための作業員としてね」

 今通じているアンドロ次元へのゲートは、使えなくなる可能性があるという。
 ゲートを維持するエネルギーが、こちらの次元から供給されているからだ。
 オーエンとホトキンが作ろうとしているのは、その逆。アンドロ次元の無尽蔵なエネルギーによってゲートは維持される。
「なんとか間に合いそうだというのさ」
 ライラはフッと溜息をついた。
「夫が作ったゲートを潜らなくて、女房とは言えないだろ。うだつのあがらない男だけどね」


「でも……」
「ん? アンドロ時限のこと、心配かい?」
「うん……」
「その空間を人が暮らしていく、少なくとも移動くらいはできる状態にするのも、ゲントウが作ったもうひとつの装置なのさ」
 その装置は、実際にはアンドロ次元に新しい位相を作り出し、その中で人々は暮らしていけるという。

「実は、今ここにも位相の異なる空間は存在するんだよ」
「そうなんですか」
「いくつもあるらしい。くだらないアギどもが余生を送る場所さ」
「へえ」
「しかし、そんなものは太陽フレアの一撃で、ペシャンコさ」
 そうなのか。
 まさか、ンドペキはそこに落ち込んだのではないのか。

 ライラがチョットマの不安に気づかないはずはないが、話の先を急ぐのだろう。
 あっさり話題を変えてきた。
「ところで、マリーリとニニが政府建物へ向かっただろ」
「うん」
「彼女たちはアンドロ次元へ戻るつもりなのさ。きっと、何らかの使命感を持ってね」
 マリーリとニニが考えていることは、薄々とはわかる気がする、とライラは言った。
「きっとアンジェリナのことさ」

 チョットマは、先ほどのニニとの会話をライラに聞かせた。
「そんなことだろうと思ったよ」
「マリーリもあんじぇりなを?」
「そんなとこだろうよ」
 ライラは得心がいったように首を二度ほど振ると、きっぱりした声で言った。
「で、チョットマ、お前はどうする気だい?」


「えっ、私……」
 考えてみたことがなかった。
「おまえが例の役割を果たした後のことだよ」
 どこに避難するのか、と問うているのだ。

「もうひとつの選択肢もある。聞いているだろ。アギのパリサイドが勧めている避難先」
「はい……」
「パリサイドの母船のようだね。ニューキーツに近い海上、あるいは海中に停泊しているらしい」
 そこへの避難者も、予想外にそれなりの人数はいるらしい。
「半ば誘拐じみた行動で誘っているようだがね。で、お前は?」
「まだ何も……」
 考えてはいない。


「おまえのパパはどうなんだい。もう、パリサイドになったのかい?」
「ライラ、まるで私を、そこに行けと言ってるみたい」
「ちっ」
 ライラが舌打ちをした。
「お前は相変わらず、分かっちゃいないね」

 そうなのだろう。
 自分はどこに避難するべきかなど、今まで考えたこともなかったのだから。
「だって」
「そうだろうね。考えてなかったと言うんだろ。でもね、もう考えなくちゃ。自分の生きる道を」

 確かにそうかもしれない。
 でも、ンドペキやコリネルスは、避難することなど考えているだろうか。
 考えていないようなら、私もまだ考えずにいよう。
 最後は一緒に行動するつもりだから。

「ああ、もう時間切れだね。市長の部屋だ」
「ライラ、色々ありがとう」
「ばかだね。そういうことを言うもんじゃないよ!」
「でも」
「最後に言っておくことがあるよ。おまえの装甲は、サブリナに持っていかせる」
「でも、私の部屋、鍵が」
「ほんとにばかだね! パリサイドだよ! 爆破するのさ!」
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