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サントノーレ 作者:奈備 光

7章

74/118

74 頼んだぞ

「やあ。交替だ」
 そんな言葉でスジーウォンはやってきた。
「チョットマ、市長とやらの伝言を伝える。コリネルスも同席の上で決まったことだから、安心していい」

 大至急、武装を解いて平服に着替え、コリネルスが指揮を執っている作戦室に向かえ。そこに案内人を待機させてあるから、その男の指示に従うように。
 武器は必要ない。
 行先は市長の部屋。
 そこでカイロスの刃を持ち、珠のあるところに移動する。
 詳しくは、市長室にて。

「ということだ」
「わかりました」
「チョットマ。あんたともっと話したかったんだけど、一刻も早くということだった。急いで行ってくれ」
「はい」

 スジーウォンの声には優しさがなかった。
 この状況下だ。感じ取れなかっただけのことかもしれない。
 チョットマはそうは思ったが、悲しいことには違いはなかった。
 かつての東部方面攻撃隊はどんな時でも、優しさが溢れていたのに……。
 少なくとも、スゥの洞窟に籠るようになってからは。

「でも、ここの現状だけは説明を」
「必要ない! 早く!」
「……はい」
「あなたの気持ちは私の気持ち。一緒なんだから。だから早く行って」
 ヘッダーをつけていなければ、涙が眼尻から吹き飛び、道行く群衆が振り返ったかもしれない。
 チョットマはエリアREFに向かって街を駆け抜けた。


「ただ今、戻りました!」
 長い緑色の髪を無造作に束ね、たまご色のシャツに黒いフレアスカート。
 ビニルのサンダルが安っぽい印象だが、これしか持っていない。
 しゃれたポーチの代わりに兵士用の軽量バックパックに水と少々の食料を詰めて、チョットマは作戦室のドアを開けた。

 コリネルスが立ち上がった。
「おっ、早いな。さすが、チョットマ」
「スジーウィンからここに来るようにと」
「うん。君を今手放すのは惜しいが、街を救い、地球を救うためだと言われれば、断るわけにもいかない。そっちの任務を早いとこやっつけて、戻ってきてくれ」
「えっ、まさか」
「ん?」
「隊員資格はく奪なんですか?」
「そんなはずないだろ!」

 チョットマは無理やり微笑んだ。
 こんなつまらない冗談も言えないような東部方面攻撃隊ではないはず。
 コリネルスも笑った。
「そういや、ンドペキから言付かっているんだが、君の歌は俺たちが全員合流するまでお預けだぞ、って」
「はい!」


 コリネルスは、市長の案内人に断って、少しだけ時間を取ってくれた。
「アヤの救援隊は無事にパキトポーク隊に合流したようだ」
 しかし、ンドペキの隊と合流できたという報はまだ入って来ていない。
 パキトポーク隊の位置、ンドペキ隊の位置は近接しているはずなんだが。
 そう言って顔を曇らせた。
「スジーウォンにその地点を伝えてあるから、救出が必要なら両面から向かうことになる」

 案内人を気遣って、コリネルスは要点のみを早口で伝える。
「ハクシュウのことなんだが。彼は戻ってこなかった」
「えっ、ハクシュウ!」
「ンドペキがロア・サントノーレでの出来事を見聞きしたとき、ハクシュウを名乗る少年がいたようだ」
「少年……」
「なにしろ幻影装置で見聞きしたことだ。スジーウォンが帰ってきてから話があるだろうということで、皆にはまだ言わないでおこうと決めたんだ」
「それで?」
「スジーウォンが戻ってきた飛空艇に、姿を現さなかったということだ」
 スジーウォンによれば、あれは確かにハクシュウだったということらしいが。


「地下のアギのパリサイドが地上に出てきた」
 市長の指示によって、パリサイドを解放したという。
「連中は、以前のように手に負えない連中ではなくなったようだ。なにやら、市民をどこかに避難させようとしているようだ」
「へえ。そうなんですか? エリアREFの地下以外に?」
「そのようだが、詳しいことは知らない」

 チョットマは、政府の建物に市民が避難してきていることを話した。
「ふむ。エリアREFの地下にも市民が押し寄せて来ているぞ」
 避難場所は三箇所か。
 まるで民族大移動だな、とコリネルスが小さく笑った。


 タールツーを失脚させる作戦。そんなことをしている場合ではないのでは。
 チョットマにもそういう気持ちが芽生えていたが、口にはしなかった。
 コリネルスも分かってはいるのかもしれない。
 しかし、そうだとしても作戦中のンドペキやパキトポーク、そしてスジーウォンをそのままにして後方支援部隊が浮き足立ってよいはずがない。
 さあ、と言ってコリネルスが立ち上がり、肩に手を置いた。
 装甲を着けたコリネルスの腕は重たく、その重さの中に暖かさを感じた。
「チョットマ、頼んだぞ。カイロスとやらでこのふざけた暑さを吹き飛ばしてきてくれ」
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