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サントノーレ 作者:奈備 光

7章

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73 軽装備の友

 いったい……。
 マリーリの行動が特別不思議だったわけではない。
 脇門に押しかけている市民のだれもが、多かれ少なかれ目を血走らせていたからだ。
 時間を追うごとに、政府建物内に逃げ込もうとする人が増えていた。

 まずいかも……。
 これでは、アンドロが紛れていてもわからない。
 ただ、入っていく人ばかりで、出て来ようとする人は皆無だった。
 それでもチョットマは、絶対に見逃すまいと門を睨み続けた。

 朝の太陽はいつしか高く上がり、ギラギラした光が街を照らしていた。
 気温も異常なほど急騰し、六十度を超えている。
 いつものような朝の光景はなく、雪崩を打って市民が押しかけてくる。
 もはや猶予はない、とばかりに人々は自主的に避難を始めているのだ。


「チョットマ」と、呼びかけられた。
 声が遠い。
 スジーウォン?
 チョットマが辺りを見回すと、建物の陰に「ニニ!」

 人目を憚るように、手振りでこっちに来いという。
 持ち場を離れるわけにはいかないし、門から目を離すわけにもいかない。
「あなたこそ」と、チョットマは手招きを返した。


「会えてよかった」
 周囲を気にしながら近寄ってきたニニが思い切り笑顔を作った。
「門の見張り。だからここを離れられない」
 チョットマの言葉に頷いて、ニニが「ごめん」と舌を出した。
「私も職業柄、こんなところであまり人目に触れたくないから」
「SPだから?」

 アンドロでありレイチェルのSPである者が、大勢の市民や政府建物内から監視している者の前で、反政府軍の兵と歓談している状況は、見咎められて得なことは何もない。
「大きな声で言わないでよ」
「それにニニ、あなたその恰好」
 ニニは軽装備ではあるが、装甲を身に付けていた。

 装甲自体は普遍的なもので、一般市民でも所有している者がいるだろう。
 現に、今目の前で門に流れ込んでいる群衆の中にも散見された。
 その程度のものだった。
 しかし、ニニがなぜ……。

「この方が動きやすいから。それに、ほら」
 軽ヘッダーに取り付けられたゴーグルを落とすと、もう誰かわからなくなる。
「一応、私も隠密なので」
 くすりと笑ってから、ニニの声が改まった。
「どんな挨拶をすればいいのかわからないけど」
「なに?」
「お別れなのよ」
「えっ」


 ゆっくり話している時間はない、とニニは言う。
「私、アンドロ次元に向かうことにしたの」
「……」
 ニニはマリーリが脇門をくぐり抜けていったことを知っているだろうか。
 ニニも同じ理由で?

「レイチェルを探すサポートをしろって、ライラに頼まれているんだけど」
「そうね」
「私、決めたの」
「なにを?」

 チョットマとニニは並んで立っている。
 チョットマは正門や脇門から目が離せず、ニニもゴーグルを下ろしたままだ。
「顔を見せてよ」
「チョットマの方こそ」
 仕方ないね、状況が状況だからと、ニニがまた笑い声をあげた。


「レイチェルを探すことより、アンジェリナの救出の方が優先するかなって」
「えっ」
 ニニが早口でまくしたてた。
 アンジェリナの居場所の見当がついた。
 そこにセオジュンもいるかもしれない。
 彼らを助けに行くのだと。
 役に立てないかもしれないけど、もしまだ間に合うようなら。
「だって、レイチェルはヒカリやマリーリが探してくれるでしょ。アンジェリナやセオジュンは私が行ってあげなくちゃって」

「セオジュン?」
「チョットマ、もう忘れたの?」
「ううん。そういうことじゃなく」
「じゃ、なんなの? 今の反応」

 セオジュンとアンジェリナの失踪。
 そのことに心を痛めていたのは、つい数日前のこと。
 十日も経っていない。
 忘れはしない。
 いや、忘れていた。
 心の中から抜け落ちていた。


「どこにいるの!」
「チョットマ、慌てないで。あなたたちには行けないところ」
「アンドロの次元?」
「そう。正確に言うと、ちょっと違うらしいんだけど」

 私もよく知らないんだと言って、ニニが一歩前に出た。
「じゃ、そろそろ行くね。もう会えないと思う」
「待って」
「大げさな身振りは人目を引くからしないけど、本当はチョットマ、あなたを抱きしめたいくらい」
「ニニ、待ってよ」
「ありきたりな言い方だけど、チョットマ、あなたと出会えてよかったと思ってる」
「ニニ!」

 ニニがゴーグルをずり上げた。
 瞳が見えた。
 感情を殺して、無理やり厳しい目をしている。
 そんな瞳だとチョットマは感じた。
「ねえ、チョットマ、最後に聞きたいことがあるんだけど」
「なに?」

「マリーリも通っていった?」
 気が抜けた。
 別れにあたって、最後の質問がこれか。
「通って行ったよ」
 とだけ応えて、
「私も質問があるよ。なぜ、もう会えないなんて言うの?」と、投げ返した。


「えっと、それは聞きっこなし。というより、私の最後の質問の方が先。もう時間がないんだから」
 ニニの質問が胸に突き刺さった。
「私は死ぬんじゃないかなと思ってる」
「変なこと言わないで!」
「チョットマ、あなたは自分の役目をきっと果たすでしょう」
「だからそういうことじゃなくて!」

「もし生きて二人が再会できたなら、そしてもしチョットマがニューキーツでもどこでもいいから長官になるなら、私を特務要員として雇ってくれるかな」
「なっ」
「私はアンドロ。仕事がないのは困るから」
 そう言うなり、ニニは踵を返して走り去っていった。


「なんてこと……」
 チョットマは理由もわからず、奇妙な怒りが込み上げてきた。
 セオジュンのこと。
 アンジェリナのこと。
 ニニのこと。
 親しくなった友がみんないなくなる!

 レイチェルのクローンである自分に課された使命。
 ブロンバーグ市長はじめとするカイロス展開派の伝承。
 私はそれに従うことを決めた。
 でも。

 ああ、ンドペキは無事なの?

 今抱いた奇妙な怒りは孤独感だとチョットマは思った。
 ふと思い出した。
 ハクシュウとプリブを待って、バザールが開かれている広場のオベリスクの足元で座り込んでいた時のことを。
 あの時はパパが来てくれた。
 今頃、パパは……。
 スジーウォン! 早く来て!
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