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サントノーレ 作者:奈備 光

7章

71/118

71 ごめんなさい!

 サキュバスの庭には、エリアREFの兵が数名陣取っていた。
 アギのパリサイドの動きを牽制しているのだ。
 その中に混じって、見知らぬ女性がひとり。
 兵ではない証拠に、武装もしていなければ、マスクさえつけていない。
 小柄な若い女性だった。

 案の定、ライラの部屋の扉は開かなかった。
 呼びかけに応えるものもいない。
 と、女性が声をかけてきた。
「あの、ライラがどこに行ったのか、ご存知ありませんか」

「さあ」
 とだけ応えて、アヤは元来た通路を戻り始めた。
「あっ、ライラ」
 ちょうどライラがサキュバスの庭に降りてきたところだった。

「よかった! ライラ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「じゃ、部屋で」
「ごめんなさい、時間がないの」
 アヤは、レイチェル捜索が進捗しているのかどうかと聞いた。
「年寄りに、立ったまま話せというのかい」
「ごめんなさい」
 ライラは疲れた様子だった。
 彼女なりに、精力的に活動しているのだろう。

 今や非常事態のエリアREF。
 一方でンドペキの隊を支援し、他方でアギのパリサイドを押さえ込んでいる。
 太陽フレアの避難所にもなるため、大量の物資が運び込まれている。
 REFはにわかに活気づき、エリアREFの住人だけでなく、街の人々が大勢、忙しく動き回っている。
 そんな中、ライラの役割はもしかすると市長に次いで大きいのかもしれない。
 それに加えて、追い討ちをかけるような暑さだ。


 ライラは額の汗を拭って、仕方のない連中だね、と毒づいた。
「フン。ヒカリはともかくも、あの二人にゃ、そんな気はないね」
 マリーリとニニのことを言っているのだ。
「そうなの?」
 なぜ、と問う前に、ライラが吐き捨てた。
「所詮は使用人さ」

 アヤは唸ってしまった。
 ライラの言うとおり、マリーリもニニもレイチェルに使われている身ではある。
 しかし……。
 確かに、自分とレイチェルは親友として付き合ってきたが、彼女達にとっては全く違う関係なのかもしれないが……。
「でも、彼女達、アンドロ……」

「アンドロだから命令には常に誠意を持って当たる、とでも言うのかい」
「命令というわけじゃないけど……」
 ンドペキは上司として、レイチェルの捜索を命じたわけではない。
 レイチェルが生存している可能性があるなら、探して欲しいと依頼しただけなのだ。


 あたしゃ、これでも呪術師。
 人の心が読めるのさ。
「ニニにはその気もあるようだけど、マリーリにはないね」
 ライラは、そう決めてかかっている。
 それでもアヤはまだ、半信半疑だった。
 マリーリにとって、レイチェルは上官であり、仕えるべき相手。
 生きている可能性があるのなら、何としてでも見つけ出したいと思わないのだろうか。

「一応、先導はしたけどね」
 ヒカリとマリーリ、そしてニニは、エリアREFの深部にまで足を伸ばしたという。
「でもね。どこを探せばいいというんだい」
 エリアREFの地中深くには、何層にもわたって大小さまざまな空間が蟻の巣のように広がっているという。
「小さな部屋までしらみつぶしに調べていくとなると、いくら時間があっても足らないよ」
 レイチェルのシェルタの直下だけのエリアをとっても、数百の部屋があるだろうという。

「行き方がわかったから後は自分達で、というから別れたけど、あれから行ってもないね」
「そうなんですか。ヒカリも?」
「さあね。探す気なんて、最初からないのさ」
「でも」
「それに、探そうたって探しようがないさ」

 思い出した。
 騎士団が持っていたジャイロセンサー。
 あれさえあれば。
「あたしもそれを言ったさ。借りて来いってね。でもさ、どうなったことやら」

 ライラが首をすくめ、ちらちらと自分の部屋の方に目をやった。
「アヤ、わかってると思うけど、街もここも、もう大変な状況なんだよ」
「ええ」
「この地下の空間は、まもなく開放される。市民が避難するために」
 その準備段階として、比較的浅いエリアは既にブロンバーグによってオープンにされている。
 ニューキーツ長官によって、避難エリアが解放されたらすぐに、物資を運び込む準備が進んでいるのだ。


「彼らがなぜ、レイチェルを探す気がないのか。それは、あたしにもわからないね」
 そういって、ライラが背を向けた。
 お別れだ。
「ねえ、ライラ」
 ライラの背中越しに声を掛けた。
「私も、政府建物に突入することになったの。だから……」
 アヤは迷った。
 どんな言葉で分かれの挨拶とすればいいのだろうか。

 自分も死ぬかもしれない、という実感はない。
 しかし、もう会えないかも、という気持ちもないとはいえない。
 またあのときの恐怖が甦ってくる。
 バーチャルな罠に絡め取られてしまう恐怖が。
「だから……、行ってきます!」


 ライラが振り返った。
「……そうかい。気をつけて行って来るんだよ」
「はい!」
「なんだって今更、もう……。いや、もう言うまい」

 ライラの言いたいことをアヤは気づいていた。
「もう、政府建物へ侵攻しても、意味はないと思うんだけどね」
 とでも言いたかったのだろう。
 そう思うのは、自分が兵士ではないからだろうか。

「じゃ、またね。何としてでも、政府は取り戻してくるから」
「ああ、頼んだよ。でも、一番大切なのは自分さ。それを忘れないでね」

 アヤはサキュバスの庭を出る階段に向かった。
 後ろから、さっきの女性の叫ぶような声が聞こえてきた。
「ごめんなさい! お母さん! 私! サブリナ!」
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