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サントノーレ 作者:奈備 光

7章

70/118

70 小さな灯り

 アヤは居ても立ってもいられなかった。
 ンドペキ隊が消息を絶って、かれこれ二時間ほどにもなる。
 ドトー率いるレイチェル騎士団は、ほうほうの態でシェルタに逃げ帰ってきた。
 その数わずかに十名。

 タールツー軍は侮れない。そんな思いが、ンドペキ隊を覆っていた。
 政府建物内の罠が、これほどまでに入念に準備され、幾重にも張り巡らされていたとは。
 アヤにはその恐怖の実感がある。
 ほんの数ヶ月前、エーエージーエスに放り込まれる前、あの単調な廊下で味わった恐怖。
 身のすくむ思いは、今でも容易に思い出すことができる。

 バーチャル空間に惑わされることのないフライングアイ。
 イコマはパキトポークと行動を共にしているが、彼とて、政府建物内の構造を把握しているわけではない。
 どんな仕掛けもフライングアイには通用しない、と言い切れるのだろうか。

 そこで働いていた自分なら……。
 隅々まで熟知しているわけではない。
 しかし、見知ったエリアもある。
 少しは役に立てるのではないか。
 しかし、自分には与えられた任務が。


 思いあぐねて、アヤはコリネルスの元を訪ねた。
 アヤの顔を見るなり、コリネルスが言った。
「パキトポークの隊は、疲弊しているそうだな」
「はい。そのような連絡が届いています。武器弾薬の類は足りているが、エネルギーパッドの補給と万一の場合の医薬品類を要請してきています」
「うむ」

 メモから顔をあげたコリネルスは、眉間に皺を寄せていた。
「部隊の再編成に取り掛かっている」
「ええ」
「スジーウォンが帰ってきたら、そこに同行させる通信要員を選んでくれ」
「はい。もう決めています」
「それから、パキトポーク隊に応援を送る」
「はい」


「その応援隊の通信要員は、君自身があたってくれ」
「あっ、はい!」
「応援隊は四十名ほどで構成する。救護班を厚めに付けるつもりだ」
 ほとんどがエリアREFの兵で、前線には向かないという。
「攻撃力のある兵は、スジーウォンに付けてやりたい」
「ええ」

 コリネルスはわかってくれていたのだろうか。
 自分とンドペキの特殊な関係は知るはずもないが、少なくとも自分の今の心情を。
「ありがとうございます」
 素直にアヤは礼を言った。
「ん? どういうことだ?」
「いえ、私もそう考えていましたので」


 コリネルスが向き直った。
「応援隊の隊長はネーロ。もう話してある。準備を始めているはずだ。彼と打ち合わせてくれ。出立時刻は四十五分後」
「了解です」
 コリネルスがさらに厳しい表情になった。
「もうひとつ、君にやって欲しいことがある」
「なんでしょう」

 ヒカリとマリーリ、そしてニニの動向を把握すること。
 二人は隊員ではない。従って、報告を寄越してくる義理はないが、少なくともヒカリとマリーリはレイチェルSPとして協力関係にある。
 ところが、何の連絡もないという。
 ライラの協力を得て、エリアREFの地下深くの探索を開始しているはずだが。
「彼らの動向をチェックしたい、という意味ではないんだ」

 コリネルスが表情を緩め、どう思うかと問う顔つきになった。
「あのジャイロセンサー。騎士団の。どうも気になる」
 騎士団がシェルタに篭り続けていたのには、それなりの理由があるのではないか。
「もしや、レイチェルが本当に生きているのなら……。先ほど、市長が訪ねてきて……」


 コリネルスが大きく息をついて立ち上がった。
「いや、話している時間の余裕はないな。早速、取り掛かってくれ!」
「了解しました!」
 アヤは作戦室を飛び出した。
 まずは、ネーロと会わなければ。
 資材庫にメンバーを集めているはずだ。

 それにしても、レイチェルが生きている?
 コリネルスまでもがその可能性を感じているのなら、もしやということもありえる。
 騎士団のジャイロセンサーを、コリネルス自身が再確認したのだろうか。

 レイチェル……、私の親友。
 エーエージーエスで死の淵にあった自分を励ましてくれたレイチェル。
 あれほどの怪我をしてでも、脱出口を探し続けたレイチェル。
 彼女が生きているのなら……。
 重苦しかったアヤの心に、小さな明かりが灯った。


 ネーロとの打ち合わせをものの数分で終え、アヤはライラの部屋へと向かった。
 ヒカリらと同行しているのなら不在だろうが、確認はしておきたい。
 ヒカリやマリーリの部屋、ニニの部屋、そしてチョットマの部屋には、予備要員としてある通信員二名を向かわせている。
 応援隊の出立まで、残された時間は少ない。
 コリネルスから言い付かった任務はメンバーに任せるとしても、ライラにだけは自分で会っておきたかった。
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