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サントノーレ 作者:奈備 光

1章

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6 少年の姿はしているが

「わかった。しかし、お前、乗りたいって、ロア・サントノーレに行きたいのか?」
「そういうこと。子供だけでは乗せてくれないっていうんだよ。お金は払うと言っても、だめなんだ」
「なるほど」
「ねえ、オマエ、っていう呼び方はやめてくれないかな」
「うっ」
「名前は、アビタット」
「そうだな」

 少年の言うとおりである。
 少年の姿をしているからといって、少年のような言葉遣いをしているからといって、ホメムでない限り、十歳そこそこの子供であるとはいえない。
 これまで生きてきた経験や知能は、蓄積されている。
 再生のミスは、少なくなったとはいえ、依然としてあるのだ。
 スジーウォン自身も経験している。
 指定しておいた年齢よりかなり若く、少女として再生されたことがある。

「すまなかった」
「うん。いいんだよ」
 そういって、アビタットはニコリと笑った。
「じゃ、まず、ロア・サントノーレまで運んでくれる飛空艇乗りに会いに行こうか?」
「ああ、頼む」
 スジーウォンは、この少年がなぜロア・サントノーレに行きたいのか、聞かなかった。
 アビタットも、自分たちがロア・サントノーレにどんな用があるのかを聞いてこなかった。
 もしかすると、それさえも知っているのかもしれなかったが。


「でも、もし了解を取り付けても、今晩中に出発はできないかもしれないよ。そのときは泊まるところにご案内だね」
「ということになるだろうな」
「ロア・サントノーレに僕も連れて行く約束は忘れないでよ」
 そういうが早いか、アビタットは歩き出した。

「この街も、監視カメラやマイクはいたるところにあるよ。でも、チェックの頻度は高くないみたい」
「長官の名前なんかは、口にしないほうがいいみたい」
「物資は豊富にあって、パリサイドとの戦争が近いことの実感はないみたい。普通の市民はね」
「兵士の募集が始まっているんだよ」
「今いるところが最上階。街は地下深くに何層にも広がっていて、この最上階が一番狭いんだよ」
 などと話しながら、アビタットは何度も街路を曲がりながら歩いていく。
 時に小走りになったり、不自然なほど狭い路地に入り込んだりする。
「ほら、ここは下の階へ降りていく階段さ。気をつけていれば、街中に見つかるよ」


 ロア・サントノーレ。
 カイラルーシの街の一部だということになっている。
 しかし、五百キロほど北方に離れた飛び地で、大森林地帯の只中にある数百人ほどの小さな街だ。
 徒歩で行けなくもないが、途中に大きな湖があり、かなり迂回しなくてはならない。しかも、活発な活動をしている火山帯を抜けていくことになる。
 大森林地帯で、移動スピードも落ちざるをえない。しかも殺傷マシンが巣食っている。
 おのずと、移動手段は飛空艇頼りということになる。

 スジーウォンもスミソも、その街の名を、今回の任務が与えられるまで、知りもしなかった。
 そもそも、世界中にある六十三ある街の中で、飛び市街地を持っている街があることさえ知らなかった。
 世界を救うため、という大層な言葉に送られてここまで来たのだが、状況を飲み込めているわけでもなかった。
 早く任務を終え、大変な状況に陥っているニューキーツに一刻も早く戻る、という気持ちだけがあった。


「カイラルーシの街は無防備みたいに見えるだろ」
「まあな。あの屋根があるといっても、そこにマシンがたむろしているとしたら、ぞっとしないな」
「うん。でも、そんな心配は要らないんだ。街の周辺にいくつもの駐屯基地があるし、自動化された要塞も幾重にも張り巡らされている」
「ほう」
「マシンは、めったなことでは街に近づけもしないんだよ」
「なるほど。で、この街の兵力はどれくらいあるんだ?」
「ああ、その話は禁句にしておこうね」
「……そうか」

 アビタットというこの少年は、何者なのだろう。
 この世界の常識どおり、ひとりで生きているのだろうか。
 マトかメルキトだろうから、幾度も死に、そして再生されているのだろう。
 コートを開いて見せてくれたとき見たもの。
 完全武装といってもよいあの装備は、何を意味するのだろう。
「君のそう装備は?」
「もうすぐ戦争だろ」
 とかわされたが、とはいえ、この少年が兵士であるというのもちぐはぐな印象だ。
 あるいは一オールド前は兵士であり、その名残、あるいは思い出の品といったものだろうか。

 ロア・サントノーレに行きたい理由を聞くわけにはいかない。
 聞けば、こちらの理由も話さなくてはいけなくなる。
 つい、「まだ遠いのか」と、言わなくてもいい言葉が出てしまった。

 アビタットは、フフンと、
「尾行しているやつを巻きながら、だからね」と鼻で笑った。
「なっ」
 サブリナと名乗った女だろうか。
「あの人が、なぜ飛空艇に乗りたいのか知らないけど、足手まといはごめんだろ」
 もちろんである。

「で、巻けたのか?」
「それが、敵もさるもの。巻いたつもりが、またついてくる」
「うむう」
「特殊な能力を持っているのかもね」
「厄介だな」
「どうする? きりがないみたいだ。諦めて、飛空艇乗りの店に行く?」

 スジーウォンは迷った。
 乗客が増えて飛空艇屋は喜ぶかもしれないが、定員ってものもあるだろう。
「もう夜も遅い。夜間の外出禁止令なんて出ていないよな」
「それはないよ。ただ、どんな店も零時には閉まるから、人通りはなくなるよ」
「そうか、今、十時。あまり時間の余裕はないな」
「うん」
「じゃ、飛空艇屋に直行しよう。女が来れば、それはそのときだ」
「了解!」
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