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サントノーレ 作者:奈備 光

7章

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69 ゲントウの理論

 ゲントウが遺したもうひとつの装置。
 それは今や、脆弱な肉体しか持たない人間が行くことのできないアンドロ次元にある。
「あいつは、先を読んでいたのだ」

 アンドロ次元にはもともと、とてつもないエネルギーが存在している。
 それは次元が形作られてから、存在し続けているエネルギー。
 ものを動かしたり、燃やしたりするような低レベルのエネルギー、すなわち地球上で目にするエネルギーではない。
 背中のパッドに収まっているような代物ではないのだ。

 アンドロ次元に渦巻いているエネルギーは、空間構成を律するエネルギー。
 いわば、人類の住む次元が四次元であり続けるのは、このエネルギーが律しているからだ。
 ひとたびこのエネルギーが身動きすれば、空間の三方向は、例えば十二方向、三百二十方向とめまぐるしく移り変わることだろう。
 時間軸でさえ、未来へ過去へと捻じ曲がっていく。
 一方向とさえ言えなくなるのだ。


 人類は、自分達の次元構成に比較的近い次元を発見した。
 そして、そこにアンドロという人型ロボットを送り込んだものの、その次元がどう変化していくのかということまでは予測できなかった。
 わずか数百年という時間で、大切な生産施設であるアンドロ次元が変質し始めることとは思いもしなかったのだ。
 次元に変化が生じ始めたとき、オーエンとゲントウという二人の科学者だけは、そのことに気づいていた。

 そしてゲントウだけが、その変化に対抗する装置を開発しようとしたのだった。
 もちろん、人類の棲む次元でそのような装置は開発できない。
 ましてや、地球や太陽系といったエネルギー密度の決定的に低い環境では、その装置のネジ一本でさえ作ることはできなかった。

 ゲントウは、アンドロ次元でその装置を開発した。
 数千人もの優秀なアンドロを使って、開発したのである。
「しかし、彼の装置は陽の目を見ることはなかった」
 オーエンが、苦しげな声を出した。
「当時の環境が、それを許さなかった……」


 ゲントウは、当時の科学界では異端視されていた。
 彼の頭脳は、当時の科学常識から、あまりにかけ離れた理論を生み出していた。
 その一端でも理解できるのは、オーエンのみ。
「しかも、俺たちは仲が悪かった。そんな時期だった。あいつは、人類という枠組みでさえ、壊そうとしていたのだ」

 ゲントウが宇宙という言葉を口にするとき、人類が見ることのできる宇宙空間を指すのではなかった。
 地球という塵以下の星を含む宇宙空間ではなく、また、それらの宇宙が無限数ある多元宇宙でさえなかった。
 ゲントウの頭脳にある宇宙は、それらすべての物質的な構成空間ではなく、粒子レベルから多元宇宙にまで至るその構成法則そのものを指しているのだった。
 しかもその法則は、瞬時に変化し、枝分かれしているのだという。

 ゲントウの意識に照らせば、肉体を持つ人類とアンドロとの差など、全宇宙の質量と海岸の砂粒の質量との差ほどもないということになる。
 光の速度を一万倍高めても、木の葉を揺らす風のスピードとどれほどの差もない、ということになる。
 当時の人類が受け入れるはずもない。
 ましてや、真正の人類であると自負しているホメムが許すはずもなかった。
「俺は、こう考えたのだ。自分自身が住むために、ゲントウはアンドロ次元のエネルギーを制御しようとしたのではないかと」

 ゲントウが開発した装置。
「アンドロ次元を発見してから、最初のアンドロが入植するまでに二百年。ゲントウの装置が完成するのはその二百年後」
 今から二百年ほど前のことになる。
「ゲントウは、あの次元を発見した瞬間から、人類が移り住むことを前提にした研究をスタートさせていたのだと思う」
 オーエンの声は、ゲントウの置き土産はまだアンドロ次元にあり、起動を待っているのではないかと言った。


「人類が地球を捨てざるを得なくなったとき、移り住む場所になるのではないかと」
 そういって、オーエンは話を締めくくった。
「さて、最後の話に移ろう。お前達のことだ」
 よく聴け。
 もう、そこを一歩も動くな。
 目の前に、ホトキンがゲートを開いてくれるだろう。
 ひとりずつ、そうだな、三秒ほどの間をおいて、ひとりづつ潜るんだ。

 ゲートの向こう、なにもない空間に出るはず。
 むやみに動こうとせず、体にかかる圧力に身を任せよ。
 自動的に、こちらの次元に戻るゲートに向かうはずだ。
 もし、無理に動こうとして、ふたつ目のゲートに行き着かなければ、万事休す。
 永遠に次元の隙間に閉じ込められることになると思え。


「そのとき……」
 オーエンの声が言い淀んだ。
「他の者が、つまりそこにいる魚どもが来たなら、切って捨ててもよい。通してやってもいいが」

 オーエンの声はその魚どもには届いていないのだろうか。
 ンドペキはふと思ったが、こちらが心配することでもない。
「お前たちが全員通り抜けるまでに、十五分とかからないだろう。制限時間だ。できれば十分以内に通り抜けてくれ」
 ゲートを開く、つまり時空を捻じ曲げるために、その次元にある莫大なエネルギーを投じることになる。
 空間構成が変化することも予測される。
「魚どもの海は消滅するだろう」
 そして、オーエンの声が付け加えた。
「ゲントウの意識もろとも」

 ンドペキは息を呑んだ。
 極悪犯罪人として、ゲントウはこの海に放り込まれているのだ。
 ンドペキは確信した。
 この声の主はオーエンそのもの。
 もう間違いない。

 そして、オーエンが口にした言葉に、再び驚かされた。
「またぞろ、厄介な連中が絶望のピラミッドに入ってきたぞ」
「ん?」
「パキトポーク。こいつが先頭だ。イコマというフライングアイもいるな」
「えっ」
「心配するな。せいぜい脅かして、追い返しておく」
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