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サントノーレ 作者:奈備 光

7章

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66 ダンスの練習

 浅い海の底で、ンドペキは迷っていた。
 行き詰っていたと言ってよい。
 この海から抜け出す方法は、ただひとつ。
 マトやアンドロが入ってくるというゲートを探し出すことのみ。
 ただ、自らをアギだと名乗る者たちの言うことが正しいとすれば。

 彼らとて、アギかどうか、わかりはしない。
 人口頭脳が作り出した仮想の人物が語った、偽りの情報かもしれない。
 あらかじめ想定されたいくつものシナリオに沿って、迷い込んだ、あるいは侵入した者達を誤った方向に導いていくための情報。
 むしろ、そうだと考える方が自然だ。

 しかし、どうしてもこの装置を破壊することはできなかった。
 幾度、エネルギー弾の集中砲火を浴びせようとも、海は何事もなかったように、緩やかな潮流で砂を巻き上げるだけ。

 しかも、ンドペキ達はそこから移動することもできなかった。
 この空間の特殊な位相構造。
 今いる場所はその直前にいた場所とは違う。
 集団行動には向いていない。
 その言葉がンドペキ達を縛っていた。

 足を踏み出せば、異なる位相に移動することもありえる。
 同時に仲間とはぐれしまう。
 そうなれば、ここにいる全員が、それぞれ孤立することになる。


 突っ立ったまま、かれこれ二時間ほどになる。
 ブーツが砂に埋もれかけている。
 もう、行動を起こすときなのだろうか。
 ンドペキは自分の愚かさを呪った。
 やすやすと罠に絡め取られてしまったことを。

 いつから、この罠に嵌ったのだろう。
 暗闇の空間に足を踏み入れたときか。
 あるいは、暗闇の中で装置のスイッチを踏んでしまったのだろうか。
 はたまた、あの廊下の突き当りに無理やり穴を開けようとしていたとき既に、仮想空間に入り込んでいたのだろうか。

 ンドペキは隊員達に図った。
 どうするべきかを。
 しかし、打開策を口にできる者は誰一人いなかった。
 唯一、スゥが、全員手を繋いで、言ったことだけ。
 今、全員が武器を収納し、手を繋ぎあっている。


「行こうか」
 ンドペキは無理に元気な声を張り上げた。
「おう!」
 何人かが応え、まずは一歩を踏み出した。

 と、そのとき、声が聞こえた。
「厄介なところに入り込んだものだな!」
 男の声だった。


 ンドペキは、沸騰する怒りを押さえ込んで、言葉を返した。
 無視しても、事態が好転するはずもない。
 それなら、何としてでも会話を続け、突破口のヒントでも得たい。
「あんたらは、俺たちがなにをしようとしているのか、興味がないんだよな」
 できるだけ穏やかな口調で。

 ニューキーツをアンドロの手から取り戻す。
 このことが、世を捨てたアギにどう響くだろう。
 共感を得られることはまずないだろうが、藁にもすがる気持ちだ。
 しかし、返答はない。
 太陽フレアの襲来に備える。
 これは響くだろうか。

「フム」
 という声が返って来た。
「で、ンドペキ、あんたはなにをしようと?」
「うちの女性隊員が、緑色の髪を持っていて。で、別の隊員がカイロスの刃を取り戻しに」
「ほう」

 男の声が笑った。
「で、ンドペキ、あんたは?」
 ンドペキは詰まってしまった。
 自分達の作戦は太陽フレアと何の関係もない。


「ん?」
 この声、ンドペキという名を知っている!
 名乗った覚えはない。
 スゥや隊員が口にしただろうか……。

「俺たちはその、儀式のようなものを正式に行えるように。そして、市民を避難させるために」
 思い付きを口にしながら、この男の声が自分の名を呼んだことの意味を考えた。
「なるほど、それなりのことは知っているようだな」
 それに、男の声に聞き覚えがあった。
「詳しいことは知らんさ。アンドロが街を掌握していたら、色々と不都合があるだろう、ということだ」

 男の声が黙り込んだ。
 ンドペキ達は再び、慎重な足取りで歩を進めた。
 砂が舞い上がった。
 生き物の姿はどこにもない。
 魚はおろか、貝も甲虫の類も、海草さえない。
 砂と小石と、そこここに散らばる岩だけの世界。
 ただ、何らかの意識に見張られているという感触だけがあった。


 再び男の声が聞こえたのは、百メートルほど進んだときだった。
「手を繋いで、どこへ行くつもりだ。それとも、流行のダンスの練習かい」
 嫌味なことを言いやがる。
「あまり楽しそうには見えないぞ」
「諦めてはいないんでね。外に出るのさ」
「ふっ」

 笑いたいなら笑えばいい。
 中途半端な気持ちのお前達と違って、俺たちは本当に、真剣に生きているんでね。
 嫌味を返しそうになったが、ンドペキは別のことを言った。
 同じく嫌味だったが。
「俺達の監視、楽しいかい?」

「ハハハ!」
 男がはじかれたように笑った。
「ンドペキ! まだ気がついていなかったのか」
「なにをだ!」
 ンドペキは辺りを見回した。
 なにか、見落としたのもがあったのか、と。
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