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サントノーレ 作者:奈備 光

6章

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65 アリーナ

 イコマはパキトポークのすぐ後ろに浮かんでいた。
 分厚い体躯の先には、轟然と燃え盛る灼熱の炎が見えていた。
「ちっ」と舌打ちして、パキトポークが振り返った。
 ここか、というようにイコマを見た。

 レイチェルのシェルタから侵攻を開始してから、六時間ほど経過している。
 数十人のタールツー軍を蹴散らし、仮想空間生成装置を幾度か破壊してきた。
 しかし今、パキトポーク率いる隊は元来た道を引き返し、ンドペキの隊が進んだと思える経路を辿ってきたのだった。

「なんともいえない」
 イコマはそう応えた。
 ここがンドペキ達が消えたところだろうか。

 イコマはンドペキと意識を共有しながら、互いに相手の位置を確認しながら政府建物内を進んできたが、突如としてンドペキの意識が消えたのだった。
 そのことを伝えるべきかと迷ったが、パキトポークの方からこう言ってきたのだった。
 ンドペキ隊の様子がおかしい。通信が繋がらない。
 非常事態が起きているのではないか。

 既に、ドトー率いる騎士団は壊滅状態に陥り、生き残った者はシェルタに逃げ帰っている。
 ドトーから救援要請は届かなかったし、パキトポークも自分の隊員を応援に向かわせようとはしなかった。
 しかし、ンドペキ隊なら話は別だ。見殺しにはできない、と言ったのだった。


 疲労が蓄積していた。
 隊員の動きは緩慢になっている。
 表情は見えないが、REFの兵の中には、武器を構えるのも辛そうな者がいる。
「行けるか」
 パキトポークが声をかけた。
 この炎の中を進むことのできない隊員はいないか、というのだ。

 疲れてはいても、ここで休息を取ろうという気持ちはパキトポークにはない。
 ンドペキ隊と無事に合流するまで、休んでいる暇はない、と隊員達には伝えてある。
 しかも、ンドペキ達が消息を絶ったと思われる地点の目と鼻の先まで、ようやく到達したのだ。


 ここぞとばかり吹き飛ばした壁の向こうには、灼熱の空間が広がっていた。
 これまで破壊してきたバーチャル室は、無機的な小さな空間だったが、ここは違う。
 何らかの薬品か火薬に引火したのか、あるいは凝縮されたエネルギーを解放してしまったのか、火の海に大小の爆発を繰り返している。

 東部方面攻撃隊の隊員なら問題はないが、エリアREFの兵の中には、装甲の不十分なものがいる。
「迂回路を探して追いかけていく」
 数人の隊員が手を挙げた。

 パキトポークは何も言わず、鮮烈な光を放っている部屋を見た。
 ンドペキが飛び込んでいったのはこの部屋なのだろうか、と迷っているのだ。
 イコマの意識が手繰り寄せた、ンドペキが見た光景の中に、このような空間はなかった。
「違うと思う」
 そう声をかけたが、依然としてパキトポークは炎を凝視している。
 そして、振り返った。
 なぜ、違うと言えるのかというように。

 見えはしないが、パキトポークの巨眼に睨まれているような気がした。
「ンドペキの隊員の中にも、ここを通過できない者がいるだろう」
「フム」
「今壁を破壊したことで、この部屋が燃えているのではなさそうだ」
 壁を破壊し、視界が広がったその瞬間から、既に目の前は地獄絵だったのだ。


 確かに、ンドペキが消えた位置はこの先にある。
 左前方百メートルばかりのところにまで近づいているはずだ。
「それなら、別ルートを探そう」
 パキトポークは言うが早いか、左横の壁を吹き飛ばすべく、エネルギー銃を構えた。
「下がってろ!」

 隊員やフライングアイが離隔距離をとるやいなや、パキトポークは引き金を引いた。
「ム!」
 今までの壁は、パキトポークの一撃に脆くも崩れ去ったが、今回ばかりは様子が違った。
「くそたれめ!」
 第二弾を放ったが、まだびくともしない。


 イコマは、この先に違いないという確信を持った。
 ンドペキの隊も、苦労して壁を壊し、ようやく人の通れる大きさの穴を開けたのだ。
 ただ、それがどの廊下の突き当たりだったのかまでは、特定できなかった。
 どの廊下も全く同じ造りで、見分けがつかなかったのだ。
 やむなくパキトポークの隊は、ンドペキが消えた座標に向かって突き進むしかなかった。

 何度かチャレンジを繰り返し、パキトポークもようやく通路を開いた。
「よし!」
「待て!」

 イコマは飛び込んでいこうとするパキトポークに向かって叫んだ。
 これまでは、進んでいこうとする先が仮想空間なのかどうかを、フライングアイであるイコマが判断してきた。
 どんなに普通の部屋や廊下に見えようとも、イコマは常に前方を注視し、自分にはどう見えているかを伝えてきた。
 自分の見ているものと一致する場合に限って、パキトポークは進んでいく。
 自分の判断だけで、新たな空間に飛び込んでいくというようなことはなかった。
 パキトポークも焦っているのだ。
「確認してからだ!」
「なら、早く来い!」


 壁に穿たれた穴の向こうには、数万人規模の演舞でもできそうな巨大な空間が広がっていた。
「巨大なアリーナだ。客席やステージらしきものはない。がらんどうだ」
 天井の様子、床の様子、明るさなどに始まって、見えるものをすべて口にしていく。
 床には幾何学的な模様が描かれている。
 出入り口らしきものは見当たらないし、窓もない。
 仄かに明るいが、その光がどこから来るのか……。
「もう、間違いない!」
 足を踏み入れようとするパキトポークの前に浮かんで、イコマはまた制した。

「ここは見覚えがある!」
「ん?」


 イコマは覚悟を決めた。
「ンドペキもこの場所に入った」

 パキトポークの目が問うていた。
 なぜ、わかる。

「このアリーナを横切ろうとした。しかし、中央部まで進んだとき……」
「攻撃されたのか」
「いや違う。バーチャル空間に飲み込まれたんだ、……と思う」

 このアリーナを走ったンドペキの記憶はイコマの中にもある。
 しかし、その先がない。

「……と、思うか……」
 パキトポークが迷っていた。
 進むべきかどうか、ではない。
 フライングアイの言葉を信用するべきかどうかを。

「となれば」
 と、パキトポークが銃を構えた。
「装置を破壊するまで」
「待て!」

 イコマはフライングアイの体を、銃口に押し付けた。
「待て! ンドペキ達の姿がない!」

 言葉の意味をパキトポークはすぐに理解して、引き金に掛けた指を抜き、そして安全装置まで掛けた。
「ふう! まさかってことがあるな」
「ああ。バーチャルに囚われたのなら、囚われた状態の肉体があるはず」
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