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サントノーレ 作者:奈備 光

6章

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64 平和な光景

 チョットマは、正門前に陣取って、固く閉ざされた門を睨みつけていた。
 脇扉から、荷物を積んだ運搬車両がひっきりなしに出てくる。
 街で消費される物資を満載している。
 夜のうちに、できれば市民の目につかないうちに、ありとあらゆる物資は街中に配り届けられる。

 この光景を見ると、市民と呼ばれる人々が、いかに政府によって生かされているだけの存在であるか実感できる。
 今身に着けている装甲や武器、これまで口にした食料品。そして日常のすべての品々は政府から配給されたもの。
 ハクシュウを待って広場で買ったあのショールも、リンゴも、すべてそうなのだ。
 それを使って、まるでゲームを演じるかのように、商売というものを楽しんでいるだけなのだ。

 アヤから聞いたことのある政府建物の内部を思い描いた。
 街の中枢はそこにある。
 政治中枢どころか、生産拠点もサービスの拠点も、街を営むすべての機能はそこにある。
 生産の拠点は、アンドロ次元にもあるというが、そこではどんなものが生産されているのだろう。
 アンドロの住む次元。どんなところなのだろう。


 チョットマはそんなことを思った。
 そうやって、落ち込んでしまう己と戦っていた。
 なんとか冷静さを保とうとしていた。

 リーダーである自分の判断ミスによって、十名もの隊員の命を奪ってしまった。
 その隠れようのない事実から逃れようとは思わない。
 罪を購う方法があるなら、進んで選ぶ。
 しかし、今は任務を遂行すること。
 それが私に課された使命……。

 光が荒れ狂う空。
 ようやく白んでいる。
 これが熱波なのか。
 先ほどから幾度となく襲ってくる熱風。
 装甲を身に着けたチョットマにとって、痛くも痒くもない。
 太陽フレアって、たいしたことじゃないのかな。


 ただ、熱風の温度は摂氏七二度を記録した。
 装甲で防御されていない市民なら、数分間でも熱風に身を晒していれば、火傷くらいはするだろう。
 もちろん、街路に市民の姿はない。

 そういえば、先ほどの爆発音にも、市民は姿を見せなかった。
 ブロンクス通りのビル群の一角を爆破したのである。
 あの忌まわしい白い霧の仮想空間。その生成装置を破壊し、緩衝地帯を解放するために。

 すべてのビルを破壊することも辞さなかったが、結果的に破壊したビルは一棟だけ。
 全隊員の消息が把握できたからである。
 最後の一隊が出てくるのを待っていたとき。
 もたらされた連絡は、チョットマを愕然とさせたのだった。


 ビルから一人の隊員が駆け出してきた。
「報告します!」
 隊員が口早に伝えたところによれば、他の隊員は全員、政府建物に突入していったという。

「門に到達したとき、ヒカリが待っていまして」
「SPの?」
「はい。バーチャル装置の基幹部分を突き止めたというのです。その所在地を」
 停止させる方法は知らないが、破壊できるのではないか。
 そうすれば、この魔の緩衝地帯を手中に収めることができると。


「引き返す危険と、突入する危険を測って、ヒカリについていくことにしました」
 判断を仰ごうとしたが、通信が繋がらなかったという。
 隊員は口には出さなかったが、突入していった隊員の覚悟が伝わってきた。
 責めることはできなかった。

 あれから結局、白い霧は生成されていない。
 ビルの破壊が功を奏したのか、突入していった隊員が成功したのか、わからなかったが。
 願うのは、隊員たちが意気揚々と帰還してくることだが、今のところその情報はない。
 チョットマには祈ることしかできなかった。


 もう一つ、心を揉んでいることがあった。
 先ほど訪れたブロンバーグの使者。
 いよいよその時期が来たようだ。心積もりをしておいて欲しい。
 その時が来れば、迎えが来る。
 それだけ伝えると、使者は引き返していった。

 と同時に、パパもシェルタへ向かっていった。
 パキトポークを支援するために。
 あれから四時間ばかり。
 ンドペキがシェルタを出てから、三時間は経っている。


 みんな、無事でいて欲しい。
 情報がないことが辛かった。
 もし、政府建物内で乱闘になっているのなら、正門からも人が逃れてくるだろう。
 逃げ出てくる人波に紛れて、アンドロ兵を街に出してはいけない。

 警戒しなくてはと思いながらも、物資輸送車両が行き来するだけという、あまりに平和な光景。
 注意力はつい薄れ、気持が遊び始めてしまうのだった。
「チョットマ!」
 はっ!
 突然呼びかけられて、思わずチョットマは武器を構え直した。

「僕だ」
 コリネルスだった。
 ふうぅと細く息を吐き出すと、一気に汗が噴き出した。
 と同時に、目が潤んできた。
「すみません! 隊員が!」

 すでに連絡係を通して、状況は伝えてある。
 死なせてしまった隊員名。
 突入していった隊員名。
「私の判断ミスです!」


「これは戦争だ」
 コリネルスは、それだけ言うと、一枚の紙切れを取り出した。
 今はベストを尽くせ、ということなのだろうと、チョットマは判断した。

 紙切れには、こう記されてあった。
 早ければ今日の午前中には、スジーウォンが戻ってくる。
 コリネルスの隊員ならびにチョットマの隊員から選抜した新たな隊を編成し、それを率いてスジーウォンが正門から突入する。 
 その後も、チョットマの任務は継続。
 まずは、スジーウォンが戻ってくるまで、正門を死守せよ。
 以上。

 そして、下段には、
 シャルタから突入した部隊は、張り巡らされた仮想空間に阻まれ、苦戦を強いられている。
 正門から突入する新たな部隊の投入によって、事態の好転を図るものとする。
 と、記されてあった。
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