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サントノーレ 作者:奈備 光

6章

63/118

63 オーロラと熱波

 唐突に、熱風が吹き抜けた。
「一刻の猶予もないようじゃの」
 風にあおられて、ロア・サントノーレの村から黒煙が吹き上がった。
「間に合えばよいが」

 熱風の第二陣が木立を騒がせていく。
「さらに激しい熱嵐が吹くようになる。この程度の風が涼しく思えるような風。それが間断なく吹くようになると、最終段階が近い」
「最終段階?」
「伝承によれば、いや、伝承ではなく科学的な予測じゃな。数時間以内に、すべてを焼き尽くす光線が地球を舐めていくことになる」


 極大化した太陽フレアの最遠部、濃密な粒子の帯すなわち高エネルギー荷電粒子流が、激しい熱とエックス線やガンマ線を放射しながら地球軌道にまで到達するというのだ。
 太陽フレアの実態部ではない。外炎部でさえない。
 いわばフレアから立ち上った煙の先端のようなものだ。
 それでも、地球にとっては致命的な脅威となる。

 その強度と規模は複雑にランク付けされているが、エックス七百レベルともなれば、地球のすべての電気的な機構を壊滅に追い込む激しい磁気嵐が襲う。
 それだけでなく、気温は百度にまでなるだろう。
 とても人類が生存できる地球ではなくなる。

 その前兆が、今起きている熱波である。
 レベルで言えば、エックス三百レベル程度。
 同時に磁気嵐も襲ってきてはいるが、このレベルの対策は、ここ数百年のうちに飛躍的に進んだ。
 オーロラが踊り狂う程度の磁気の乱れでは、送電網や電波流に大きなダメージを与えることはない。
 一時的に電流や通信が遮断されたとしても、それは致命的な危機を回避するための安全弁が働くためであって、通常はすぐに回復される。
 この熱波が激しさを増し、ある臨界点を超えた時、人類未経験の災いとなるのだ。

 地球誕生以来、四十六億年。
 このような危機は幾度となくあった。
 ただ、今回予測されるものは現文明に引導を渡し、無為な人類に鉄槌を打ち落とす規模になるだろう。


「それを回避するため、カイロスは開発された」
 気持ちは急くが、かといってスジーウォンにはすることがない。
 長老の話は長いが、聞いておいて損もない。
「同時に、各街は街ごと避難できるシェルタの建設を始めた。サントノーレにも巨大な地下の街があるじゃろう」
「エリアREF?」

「そう呼ばれておるのかのう。いや、違う」
 街の構造が違うらしい。
「あんたが言う地下の街。それがサントノーレの街じゃよ」
 地球上の街の多くと同じように、サントノーレは元々、地下に市域を拡大した。大気が毒性を帯び、殺人マシンが闊歩する地上から逃れるために。
「シェルタはその下、地下深度数百メートルほどに広がる大空間じゃ」

「そこにはどうやって」
「数多くの出入り口がある。普段は隠されておるがの」
 街中にあるコンフェッションボックスはその出入り口になる。
 広場の噴泉の下にも、城壁の装飾として描かれたダミーの門も。
 郊外の木陰の下に、岩の隅間に。

 政府建物の中には、さらに多くの入口が隠されている。
 通路にたくさん並んだ扉のコンマ五パーセント、つまり二百箇所に一つはそうだといわれている。
 それらすべての扉を開く許可を出し、錠を開放するのが長官の仕事だという。
 長老がまた空を見上げた。


 スジーウォンは気がついた。
「あなた方はどうするんです?」
 ロア・サントノーレにシェルタがあったとしても、あの炎の中、戻ることはできない。
 太陽フレア来襲時に、逃げ込む場所はないのだ。

 長老が大きな笑顔を作った。
「心配ご無用。我らの覚悟はできておる」
 パリサイドが助けてくれるとでもいうのだろうか。
 それとも……。

「ジュリエット?」
 カイラルーシ長官が救出隊を送ってくれるだろうか。
 掃討指令が出ていた矢先に?
「ブロンバーグを初めとするカイロス展開派の連中も同じ。我らはカイロスの民」
 激しい熱風がまた吹き抜けていった。
「己の命と引き換えにしてでもカイロスを発動させる。そのために、刃と珠を守ってきたのじゃ」

「くそう!」
 セカセッカスキの怒声が耳に届いた。
「回路が溶けてしまうぜ!」

 スジーウォンは空を見上げた。
 白みかけた空に、パリサイドの姿はない。
 ハクシュウはなかなか戻ってこなかった。
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