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サントノーレ 作者:奈備 光

6章

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61 静まりかえった世界

 ンドペキは全神経を集中させていたが、発泡しても状況に変化の兆しは見られない。
 変化といえば、水面に少し青みが差してきたことだけ。
 夜明けが近いだけのことかもしれない。

 海から出れば!
 海面から顔を出せば、そこは!
 何とかなるのでは!

 もちろん、現実の世界であろうはずがない。
 たとえ、もしそこに陸地があるとしても、一億キロ以上もの距離を移動できないが。
 ただ、水面に出れば、事態打開の手がかりにはなるかもしれない。


「もっと説明が要るのかな」
 相変わらず、イルカの声が流れてくる。
 発砲に驚く様子もなく、落ち着き払って旋回を繰り返している。
 責めるつもりもないようだ。

 水面に出てみる前に、こいつから情報を仕入れなければ。
 イルカに説明を促すように、ンドペキは、ふぅと大きな溜息をつき、銃口を下げた。

「この世界は、どの地点をとってみても、出入り口からその距離があるんだ」
 太陽と地球の距離。
 実際にそれだけの距離があるかどうか、ということではない。そういうものなのだ、という。
「他人と会う確率はないに等しい。でも、会おうとすれば会える。そういう空間構成」

「その出入り口とは?」
 辿り着けたとしても、生身の人間として戻れるのか。

 イルカが幾分憮然とした声を出した。
「アギだけでなく、マトやメルキトも、アンドロもこの世界にいるって、話したよね」

 身体も記憶も失い、アギとなることができるゲート。
 彼らはそこを潜ってきたという。
「その逆は?」
「わからない」
 声が不機嫌になった。
「知りたいとも思わないし。どこにあるかも知らないよ」


 それでは、意味がない。
 帰ってくれと言いながら、出入り口は遥か彼方。
 新たにアギになった者たちが潜ってきたゲートは、双方向なのかどうかわからない。
 どこにあるかさえわからないのだ。


 いつの間にか、小魚の群れは見えなくなっていた。
 海面近くのサメも姿を消していた。
 足元の貝も砂に潜ってしまった。
 イルカが大きく弧を描いて宙返りした。
 まるで泳ぎ去っていこうとしているかのように。

 ンドペキは、もう言葉が見つからなかった。
 彼らとて、どんな方法も提示できないばかりか、本当はその気さえないのだ。
 用意された空間で、六百年間も無為に泳いでいるだけなのだ。
 何も知らなければ、どんな力もない。

 言外に、イルカはこの空間から逃れることはできないと言ったのだ。
 出口に辿り着くこともできなければ、破壊することもできない。

 イルカは相変わらず、挑発するかのように、くるくると旋回しながら遠ざかっていく。
 あはは、という声がした。
 笑っているのだ。
 ンドペキは再びエネルギー弾を放った。
 イルカに狙いをつけて。

 あはは。
 また声がしたが、イルカの姿はもう見えなかった。


 スゥが海面に向かって泳ぎだした。
 ンドペキは武器を収納し、援護してくれと隊員達に言い残してスゥを追った。

 浮き上がるという行為は、至難の業だった。
 ずっしりと装甲を身に纏っている。
 それでも何とか上昇できるのは、仮想空間だからこそ。

 何とか波間に頭を出したが、予想通り、そこには何もなかった。
 ただ清涼な大気が満ちているだけ。
 どこまでも夜明け前の空があるだけだった。
 風さえもない。見渡す限りのさざ波。
 大海原にさざ波というのが不自然な組み合わせだが、この造られた世界ではどうでもいいことなのだろう。


「オーロラが……」
 空に光の渦が踊っていた。
「ここは……」
「ニューキーツの空かも……」
「ふん! どうでもいい。どうせ、作られた空だ」

「妙なことになったわね」
「くそ!」
「でも、策はあるはず」
 ンドペキは空に向かって、エネルギー弾を前へ後ろへと放った。
 やはり歯が立たない。
 放ったエネルギーはたちまち吸い取られていく。

 再び海底に足をつける前に、今度は海底の砂めがけて撃った。
 砂は巻き上がったものの、たちまち静まりかえった世界に戻っていくだけ。
 数十の武器を合わせても、結果は同じだろう。


「無駄、無駄!」
 どこからともなく声がした。
 先ほどのイルカのアギとは違う声。
「どっか行け!」
「目障り!」
 いくつもの声がした。
「さっきのやつも言っただろ。この空間の位相は、おまえらが考えているものとは違う。今いる場所はその直前にいた場所とは違うのだ」
「集団行動には向いていないぜ。せいぜい注意するんだな」
「あはははは」
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