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サントノーレ 作者:奈備 光

1章

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5 少年に見透かされて

 黄色い光に満たされた建物に囲まれて、スジーウォンはためらった。
「道に迷っているんだろ」
 少年は、アピタットと名乗った。
「ん……」
 答えようがない。だが、迷っていることは事実だ。
 飛空艇を探すどころか、カイラルーシの街の全容が一向に掴めないでいる。

「そんなところを歩き回っても、どうしようもないよ」
 少年が、ついて来いというように、親指を立てた。
「こっちだよ」
「むぅ」
 少年がニヤリと笑った。

 空は満天の星。
 気温は低下を続けている。すでに氷点下四十度以下。
 氷混じりの強い風が吹き始めていた。
「ん……、では、案内を頼もうか」
「そうこなくちゃ」


 シリンダーの中は想像以上に狭かった。
 黄色い光は、シリンダー内部から発せられていると見えたが、そうではなかった。
 厚さ二メートルはあろうかという壁自体が、光を発していたのだ。
 部屋はがらんどう。中央に、暗い階段が地下に続いていた。
 少年がまたほのかに笑って、降りていく。
 スジーウォンとスミソは、
「行くか」「だな」と、ラバーモードで言葉を交わしてから、少年の後ろに続いた。

 降りきったところに、頑丈そうな扉があった。
 扉の左右に緑のボタンが二つ。
 また、少年がにこりと笑いかけ、両手を広げて扉横のボタンを二個同時に押した。
「む!」
 扉が開いていく。
「簡単な仕掛けだよ。これでも、頭の悪いマシンにはできっこないことなのさ」


「おおっ」
 扉の向こうには、眩しい光が満ちていた。
「ここが……」
 夜とは思えないほどの明るさだった。
「そう。ここがカイラルーシの街さ」
 喧騒が満ちていた。
 スジーウォンは、すごい!という言葉をかろうじて飲み込んだ。
 けたたましい音を立てて、三人を掠めるように、一人乗りの乗り物が次々と走り抜けていった。

 溢れかえった黄色い光に、けばけばしいネオンサインが派手な色を点滅させていた。
 さまざまな色のレーザー光線が天井を舐めていく。
「兵隊さんたちは、街の天井の上を歩き回っていたのさ」
 スジーウォンは思わず、ポカンと口を開けて街の天井を見上げた。
 天井は高い。
 さまざまなものが取り付けられていた。監視カメラもその中のあるのだろう。


 洗練された地下街である。
 多くの人が行きかっている。
 子供もいるし老人もいる。ショッピングバッグを膨らませた婦人達もいる。
 雑踏の中を兵士が駆け抜けていくが、誰も気に留める様子もない。

「あっ」
 黒い獣が駆けていった。
「犬だよ。誰かが飼っているのさ」
 スジーウォンはようやく声を出せた。
「あれもか?」
「だろうね」
 牛が悠然と通りを横切っていった。
 なんだ?
 けたたましい音楽を聞こえてきたかと思うと、瞬く間に巨大な乗り物が通り過ぎていった。


「屋根の上が街だと思っていたんだろ」
「うむ」
「この街には空がないだろ。だから時々、街の人は屋上に出て太陽の光を浴びたり、夜は星を眺めたりするのさ」
 そうか、だからやたらとゆっくり歩きながら上を見ていたのだ。
「マシンが攻撃してこないときだけね」
「そうか……」
「街はこの下にも広がっているよ。ここは最上階」

 アビタットが、両手を腰に当てて、自慢のポーズをとってみせた。
「さあてと、どこを案内する? 飛空艇?」
「ん……」
 この少年も、飛空艇を探していることを知っていた。
 まあ、それは仕方のないことなのだろう。
 秘密にしていたわけでもない。
 ただ、先回りされるのは癪に障る。
 この街では完全におのぼりさんもいいところだったが。


 スジーウォンは、ラバーモードでスミソに話しかけた。
「こいつに飛空艇屋に案内してもらおうか」
「君に任せるよ」
 表情は見えないが、スミソもさぞかし目を丸くしていることだろう。

 また少年がニコリと笑った。
「ねえ、ひそひそ話はやめてよ。僕を信用してくれないと」
 ラバーモードで話していることさえ、見透かされている。
 スジーウォンは心を決めた。
 どうせ、この小年の案内無しでは、結局はこの街のどこかで野宿ということになるだろう。
「それとも、食事? あるいは今晩泊まるところ?」
「全部だ」
 少年は、よしっ、というようにまた親指を立てて見せた。
「頼もう」
「了解だ!」
 少年はゆっくりとした足取りで歩き始めた。

「案内は無料じゃないよ」
「くっ。いくらだ?」
「お金は要らないよ。でも、お願いがある」
「なんだ」
「飛空艇に乗せて欲しい」
「はあ?」
「行き先はロア・サントノーレだろ」
「えっ」

 行き先まで知られていたか。
「むう」
「隠さなくてもいいよ」
「……」
 少年が今度は小さく言った。
「どうする? 非公式の飛空艇乗りを知っているよ」
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