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サントノーレ 作者:奈備 光

6章

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55 我慢のしどころ

「あんた、レイチェルの命を受けてこの作戦に参加してるんじゃないのか!」
 顔を紅潮させたパキトポークが、ドトーに掴みかからんばかりの勢いで立ち上がった。
「勝手な行動をするなら、邪魔なだけだ!」

 ンドペキは、ドトーを説得することを諦めていた。
 作戦開始まで、もう一時間もない。
 協力的な態度をみせず、あくまで自分達のやりたいようにやるという騎士団長ドトー。

「そのパークトレーとやらを、二個貸せと言ってるだけだろ!」
 ンドペキは、ふと笑みがこぼれてきそうになった。
 パキトポークがこれほど粘り強い男だったとは。
 殴りかかってもよさそうだが、自分の気持ちを必死で押さえつけながら仁王立ちしている。


 ドトーはシェルタに設えられた大テーブルの向こう側に、平然と座っている。
 ヘッダーを取ろうとしないので、どんな顔にどんな表情を浮かべているのかわからないが、落ち着き払っていることだけは声で分かる。
「レイチェルを守るのが我々の仕事だ」
「は! だから、この作戦に!」
「タールツーがレイチェルに危害を加えた。だから排除する。それが目的だ」
「同じ目的じゃないか!」
「違うな。あんた方の作戦とやらに付き合うつもりはないし、ましてや指示を受けるつもりはない」

 もう、その理屈は聞き飽きた。
 確かに、チョットマはレイチェルの指示として、ドトーがンドペキ達を政府建物に導き、そして援護すること、と言った。
 それにを受けて、東部方面攻撃隊と騎士団は共闘の約束を結んだ。
 ドトーにしてみれば、ンドペキの指示に従う筋合いはないというわけだ。


 作戦会議は最初から、噛み合わなかった。
 それぞれが独自の筋書きを持って、政府建物に突入するようなものだった。
 レイチェルのことを話し、同志であることを理解してもらおうとも試みた。
 しかしそれは逆効果だったようで、どこの馬の骨か分からぬ者が軽々しく閣下の名を呼ぶな、と言わんばかりの拒絶にあっただけだった。
 東部方面攻撃隊の恒例となった、作戦会議ではヘッダーをはずす、という誘いにも乗ってこようとはしなかった。

「パークトレーってのは…」
「もういいじゃないか」
 パキトポークがこれ以上拘れば、こちらの立場を弱くする。
 ンドペキはそう思って、話題を変えた。
「では、最後にこれだけは決めておこう。互いの連絡方法だ」


 パークトレーという装置が手元にあれば、どれほど心強いことか。
 むしろ、これがなければ作戦の成功はおぼつかないといってもよかった。
 力づくで奪ってでも欲しい品物である。
 しかし、それは今ではない。
 タールツーを亡き者にし、不良なアンドロを排除するのが自分達ではなく、騎士団が成してもいいことなのだから。

 工兵。
 これに最も近い隊員は、コリネルスの部隊に所属している。
 急遽、居残り部隊から数人の隊員を引き抜き、部隊構成に修正を加えたが、残念ながら、誰もその装置を所有していなかった。
 そればかりか、そんな装置があることさえ知らなかったのだった。
 攻撃隊の今までの活動には、無縁のものだったのだ。

 現前に広がる光景がバーチャルなのか、現実に存在するものなのかを見分ける装置。
 リモコンのような小さな板状で、スイッチを押せば、特殊な微粒子が飛び散る。
 一定以上の質量を持った物質に当たれば、微粒子は緑色の光を放ち、バーチャルな光景を作り出す電荷を帯びた微粒子に当たればオレンジ色に光る。
 現実の空間形状が緑色に浮かび上がり、仮想で見せられているものはオレンジ色に浮かび上がるというわけだ。


 イコマがチョットマと行動を共にし、ブラインドされた城壁の前で見たもの。
 そんな光景が、あるいは全く違う種類の光景だろうが、バーチャルな罠が仕掛けられていると考えたほうがいい。
 シェルタを出た瞬間から、その罠に突入していくことになるのは間違いない。

 騎士団がここに篭っていることは知られているだろう。
 タールツー軍は攻め入っては来ないが、騎士団が出て来れないように、罠を仕掛ける時間はたっぷりとあったのだ。
 ンドペキ達は、ドトーと分かれるや否や、一歩も進めない状況に陥ることになるだろう。


 それでもンドペキは、楽観していた。
 こちらに向かっているイコマと、まもなく合流することができるだろう。
 フライングアイの目には、仮想的に造られたものは見えないということが分かったからである。

 フライングアイはパキトポークに持たせるつもりだ。
 パキトポークは固辞するだろうが、その方が圧倒的に都合がいい。
 政府建物内で、イコマとンドペキの意識が同期しないということはないだろう。
 互いに、状況を把握できる。
 フライングアイが同道すれば、パキトポークの隊は何とかなる。

 自分が率いる隊は、前方の光景すべてを破壊しながら進めばいい。
 現実のものか、仮想景だろうが、構う必要はない。
 バーチャルな光景は、機械的な仕掛けによって造られているのだから、その生成装置ごと吹き飛ばしてしまえばいいのだ。
 このシェルタにパキトポークが来れたのも、そうやってあの階段室ごと爆破してきたのだから。

 ただ、難問もある。
 そこに、人がいた場合だ。
 それが実存の人間か、仮想の人間か、見分けがつかない。
 もしそれがタールツーだとすれば、どうすればいいだろうか。
 時と場合による。今、考えていても仕方がない。
 きっと、肉片さえも残らない攻撃をお見舞いすることになるだろうとは思いながら。
 その問題を分かっていて、パキトポークは、執拗にパークトレー装置に拘っているのだった。


 タールツーの容姿は頭に叩き込んである。
 かなり古いものだったが、騎士団が持っているデータベースにそれがあったのだ。
 中肉中背で肌は黄色く赤みがかっている。髪は黒髪で刈り上げ。
 黒い大きな瞳が魅力的で小顔。
 顔の造りはかなり美人の部類に入るが、かといってアンドロらしく、特徴がないことが特徴だともいえる。

 また、今もその姿をしているとは限らない。
 自分達マトやメルキトがそうであるように、再生を繰り返すうちにアンドロも容姿は変化していくからだ。
 タールツーは、職員の前にさえ姿を見せないことで知られている。
 ドトーもこの目で見たことはないという。
 今、どんな顔をしているのか、誰にも分からなかった。

 どうやって本人確認をすればいいのか。
 この問題に対してパキトポークは、怪しいと思ったやつは全部殺せばいいんだろ、と笑った。
 実際、それしか方法はないのだろう、とンドペキも思う。
 死体を鑑定できる程度に頼むぞ、というしかなかった。


「これで解散する。時刻きっかりにここを一緒に出発する。いいですね」
 ンドペキはドトーに、押さなくてもよい念を押した。
 勝手に作戦行動に移られては困る。
「あなた方を政府建物に導くのが、我々がレイチェル閣下から受けた指示です。そして可能な限り、援護もさせていただきます」
 ドトーが、またレイチェルの、つまりチョットマのでまかせの言葉を引き合いに出した。

 作戦会議に出ていた各隊の幹部が、一斉に立ち上がった。
 出立までにするべきことがたくさんある。
 特に、攻撃隊の隊員達にとっては、スゥのあの洞窟に篭って以来、念願の作戦である。
 プリブが、やってやるぞというように、腕を振り回した。

 ドトーが立ち上がった。
 そして驚いたことに、握手を求めてきた。
「先ほどは失礼した。では、貴下の成功を祈ります」

 もうパキトポークは無言だったし、ンドペキも何も言わなかった。
 ドトーの、あくまで別行動だという言い方に一矢報いるため、不自然だと伝わる程度に強く握り返しながら。
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