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サントノーレ 作者:奈備 光

5章

54/118

54 目に見えるもの

項の番号が飛んでいますが、「ミス」です。お話が飛んでいるわけではありません。すみません。
 イコマは全速力で、消えた隊を追った。
 彼らは他の隊の救出に向かっていった。
 不測の事態が起きたのだ。

 ここはバーチャルな装置の中。
 見聞きしたものは、必ずしも事実ではない。
 それをわかっていながらの行動なのだろう。
 しかし、危険を伴う。

 そもそもこの装置は……。
 通常、バーチャル空間は閉じた箱の中にある。
 コンフェッションボックスも、カイロスの刃を保管してあったあの部屋も。
 ンドペキが陥りかけたホトキンの罠も、アヤを操ったあの廊下もそうだ。
 しかし、ここは屋外……。

 いや、違うのか。
 この星空さえも幻影なのか。
 つまり、ブロンクス通りのビルに足を踏み入れたときから、装置に取り込まれていると考えるべきなのだろうか。


 バーチャルな体験は、マトやメルキトの脳内に仕込まれた通信装置を介して、脳に直接働きかけるのが一般的な手法だ。
 体験空間を生成する仕組みには、いくつかのパターンがあり、実体をどの程度伴うかによって異なる。
 また、他の空間と接合するかどうかによっても異なるし、虜にする人数によってもさまざまなタイプがある。

 いずれにしろ、実体を全く伴わず、脳内通信装置を介してのみ発動する偽装空間は、ほとんどの場合、フライングアイには通用しない。
 フライングアイの通信の仕組みが、マトやメルキトと異なっているからだ。

 イコマには、霧や光線は見えなかった。
 それに、他のチームの隊員と言葉を交わすことができた。
 ということは、今仰ぎ見ている城壁や星空は、実際にそこに存在するものと考えていいのだろうか。
 それとも、マトやメルキトとフライングアイでは、生成されたものの見え方が異なるということなのだろうか。

 ハクシュウの手裏剣は、光線によって燃え尽きた。
 光線は実体なのだろうか。それとも、そう見えただけで……。
 救出に向かった隊員たちが見たものも……。


 隊員たちが、倒れた隊員を担ぎ上げ、ビルに戻ろうとしていた。
 ざっと数えただけでも、十名以上。
 彼らはいずれも、下腹部が装甲ごと抉り取られ、すでに死んでいると思われた。

 事情は聞くまでもない。
 光線に焼かれたのだ。
 しかし、なぜそんな事態に。
 ルートを外れざる得なかったのだろうか……。

 政府建物への侵入を阻む緩衝地帯に張り巡らされた、バーチャルな罠。
 なにが実体で、なにを信じればいいのか。

 ふとイコマは弱気になりかけたが、フライングアイである自分が見聞きしたものは真実である、という確信があった。
 根拠はない。
 しかし、そのために自分はここに来たのではないか、と思い直したのである。


 生き残った隊員の声が、恐怖にわなないいていた。
 霧が晴れて、俺達はじっと立って、状況の変化を待っていたんだ。
 突然、霧が立ち込めたかと思うと、前の方にいた連中が倒れたんだ。
 俺ももう少しで死ぬところだった。
 わき腹を光線が掠っていたんだ。

 そんなことにさえ気づかなかったとは!
 イコマは自分の発想力のなさを責めた。
 門へと導くルートを示す光線は一定でも、その他の光線は、生成される都度、位置や方向が変わる仕組みだったのだ!
 チョットマが光線を切ったことで、新たに生成された光線の罠は、それまでとは違う編み目になったのだ。
 たまたまそこに立っていた隊員たちを貫通して。

 この防御装置を見くびっていた。
 霧を無事に抜けさえすれば、そこに門があり、何らかの手を打てると考えていたのだ。
 それはとんでもない間違いで、ビル群まで一目散に撤退ということになった。
 霧に突入するという作戦自体が、間違っていたのだ。
 作戦を立てたチョットマに、再考を促すべきだった。


 チョットマは無事だろうか。
 強烈な不安にかられる。
 あのビルに入ったが最後、この巨大なバーチャル装置に取り込まれ、二度と出ることはできないのではないか。
 ルートリストは、往復に通用するものだったのだろうか。
 帰路は別のルートだとしたら……。
 万一のとき、チョットマなら、この程度の高さのビルなら飛び越えることができるだろうが……。


 イコマは、もうひとつの隊がいるだろう地点に急いだ。
 霧が晴れているのは、その隊が光線を遮断しているからなのだろう。
 早く彼らをビルに戻らせねば。
 しかし、帰還する間、だれが光線を遮断しておけばいいのだろう。
 自分にできるだろうか。
 フライングアイなど、たちまち燃え尽きてしまうはず。
 どうすれば……。

 いや、既に霧は立ち込めているのかもしれない。
 こうして飛んでいる間にも、フライングアイは光線に焼かれるかもしれない。
 イコマにとっては見えない光線に。

 ようやく門にたどり着いたものの、そこには誰もいなかった。
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