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サントノーレ 作者:奈備 光

5章

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51 濃霧の中を

 ライラから話されるよりは、とマリーリが話してくれるのではという思いは、空しい期待に終わった。
「尋問されているようで、不愉快です」
 と言われてしまっては、もう後が続かない。
「そう受け取られたのなら、お詫びします」
 マリーリの過去を暴くつもりではない。三人の行方を探るためだと言っても、一度与えてしまった不信感はそう簡単に拭えるものではない。

「僕は、彼らの親でも何でもありません。親代わりというつもりもありません。ただ、もし親ならどうするだろうかと」
 親なら、子供のことを一番に考えて、万一危険な目にあっているなら、自分の身に代えても救い出そうとする。
 昔、自分が住んでいた国では、子供をそれこそ大切にしました。自分の子も、他人の子も。
 そのお返しと言うのも変ですが、親が高齢になったとき、子供は親を大切にしました。
 いつしか、そのバランスは崩れ、子供は政府が成長を促すことになり、親と子の関係は薄れていきました。
 アギやマトやメルキトの制度が生まれた今や、親子の関係という概念さえ消え失せてしまった。

 イコマはそんな話をした。
「僕は二十世紀に生まれ、そのままこうして生きてきました。頭の固い昔人間なのです。だから僕は、彼らがどこにいるのか知りたいし、どうしているのかを知りたいのです。アギの自分にできることがあるかどうかは別にしても」
 説教されたとでも感じたのだろうか。
 マリーリの顔が、見る間に紅潮していた。
 それでも、マリーリの口から何かが語られる、ということはなかった。


「イコマさん。私も聞きたいことがあるんですけど・・・・・・」
 ニニが遠慮がちに言った。
「そうだったね。どんなこと?」
 ニニの質問は大方予想がついていた。 
 案の定、「ゲントウっていう人のことなんですけど・・・・・・」

 イコマはあらかじめ考えておいた答を与えた。
「ライラに聞いてごらん。彼女はゲントウのことをよく知っているよ。それに、マリーリもね」
 ニニの目がさっとマリーリに向いた。
「ごめんよ。もう時間がないんだ。チョットマが来るんでね」

 間合いを測っていたかのように、チョットマが顔を覗かせた。
「パパ! そろそろ行くよ!」
「よし!」
 フライングアイは浮かび上がった。
 ニニがぽんと立ち上がり、チョットマに抱きついた。
「頑張ってね!」
「うん!」


 集合地点に急ぐチョットマの肩に止まり、イコマは改めて決意した。
 どんなことがあっても、アヤとチョットマを守らなくては、と。


「各チーム! 手はずどおり、それぞれ出立してください! 傍受の恐れがあるので、今後、緊急時以外の連絡は控えてください!」
 そんな指令を飛ばして、チョットマはシルバックのチームに合流し、街へ走り出た。
 深夜、通りに人の姿はない。
 各チームが、それぞれのルート、いくつかの通りを疾駆していることだろう。

「アヤがね、街に変わったことはないって。ブロンクス通りにも誰もいないって」
 連絡をくれたのだという。
 向かう先はブロンクス通り。
 ニューキーツの街の最北端。
 東西に伸びる約五キロの細い道路だ。
 ここに、ブラインドエリアの玄関口となっているビルが立ち並んでいる。
 各チームは、それぞれの目的地である門への扉を、自分達の責任で開き、突入することになっている。

 アヤの報告どおり、ブロンクス通りには人っ子ひとりいない。
 通りから北に向かう道はない。
 五、六階といった程度の低層のビルが、隙間なく並んでいる。
 いずれにも古ぼけていて、照明の灯った窓はない。
 長く使われたことがないのだろう。汚れの浮き出たコンクリートが、あちこちで欠け落ちている。
 黒々とした表情を見せるビルが、星明りに照らし出され、通り全体を陰鬱な雰囲気で包んでいた。


 これだな。
 無言のうちに、シルバック率いるチームが、ひとつのビルの前に集結した。
 シルバックの合図で、隊員のエネルギー銃が火を噴いた。
 扉は周辺の壁を巻き込んで、跡形もなく消滅し、ぽっかりと黒い口を開けた。

 先頭になって飛び込んでいくシルバック。
 遅れまいと続く隊員達。
 長くエリアREFに住んでいた兵だが、心は失っていない。いずれも勇敢な者たちだった。

 チョットマに力が漲るのが感じられた。
 次の瞬間、イコマは真っ暗な闇に包まれていた。
 と思ったのも束の間、真っ白な空間に放り出されていた。

 シルバックが振り返った。
 全員揃っているのをすばやく確認すると、すぐさま走り出した。
 右前方六十度の方向に伸びる赤い光線に沿って。

 瞬時に反応する隊員達。
 一列になって、シルバックを追う。
 腰の付近を水平に飛んでいる光線に触れないように。
 真っ白な濃霧の中を。


 イコマの頭の中には、シルバックが向かう門への道程も、他のチームがとるルートも記録されている。
 計算上は、各チームが交差する地点がいくつかある。
 しかし、この濃霧の中で出会うことはまずないだろうし、そもそもこのバーチャルな仕掛けの中に、そんなイベントは用意されていないだろうと考えていた。
 三百十五メートル先を、シルバックは左に折れるはず。
 果たして、隊員たちの縦列は列を保ったまま、交差する光線を飛び越し、綺麗に左へ旋回した。
 そしてすぐさま、パスする光線を飛び越していった。

 先頭のシルバックからしんがりのチョットマまで、十八名。
 霧がもう少し濃ければ、最後尾から十八名を数えることはできなかったかもしれない。
 霧は流れるわけでもなく、ガラス瓶に無理やり押し込められたかのように、一定の密度で空間を覆い尽くしている。
 赤い光線は頼りないほど細いが、霧の中でもひときわ目立った。
 かつ、光線の交差部では小さいながらも、黄色い光がかなり強く光っていた。

 再び隊列が左旋回し、連続的にジャンプを繰り返している。
 まるで、何度も練習してきた団体演舞のように美しく。
 口を開くものはいない。
 緊張感がみなぎっている。
 そして、気持ちのいい高揚感があった。

 待ちに待った作戦行動の開始。
 いつこの濃霧が崩れ、何者かが襲ってくるかもしれないバーチャルな空間を、一糸乱れず疾駆している。
 ジャンプの後、降り立つ地面がないかもしれない白い闇を、自信を持って突き進んでいる。
 隊員達の心に、恐怖が忍び込まないとも限らないが、その隙を与えることなくシルバックは走り続けている。
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